「林間合宿の始まりだーッ!!!」
待ちに待った林間合宿の日がやってきた。
はしゃぎにはしゃぎまくってテンションがバグっている俺たちは、意気揚々とバスに乗りこむ。
席順とか確か飯田が決めてたけど、そんなのお構い無し。皆それぞれ好きな場所に座り始めていく。バスの入口の方で飯田が慟哭していた。飯田、お前には相澤先生の横という特等席を譲ってやろう。
「合宿!合宿!合宿!合宿!」
「ウィーラブ合宿!!!」
このように、芦戸や上鳴を始めとしたクラスの皆が大いに盛り上がっている。そりゃそうだ、クラスの皆で遠くへ泊まり込みなんだ。テンション上がらない方がおかしい。合宿の悪魔に乗っ取られるのもよくあることだ。おい爆豪、お前なに仏頂面で1人座ってんだ。テンション上げてけよ。
「喧しいッ!たかが合宿程度で浮かれんなや!ぶっ飛ばすぞ!」
「あぁ!?かかってこいや!俺のナックルパンチが火を吹くぞ☆」
「パイロキネシスってやつか」
うん、そういうことだけどそういうことじゃないぞ轟くん。何を口にくわえてるの?え?酢昆布?お姉さんが持たせてくれた?それ多分エンデヴァー用じゃないかな?
「カラオケだ!カラオケ大会をするぞ!」
「いよーっし!1番手は俺だぁ!」
それから車内は大盛り上がりだった。
歌いたい奴が曲を入れてのカラオケ大会。上鳴や切島の根明組が率先して歌い、踊り狂った。流石に程度が過ぎると相澤先生に睨みを効きかされたりもしたが、説教されたりというのは無かった。いや分からん、今頃うるさい奴らを排除する為の除籍リストとか作っとるかもしれん。ん?いま俺の方をチラっと見たな。俺は先生が俺を見たのを見たぞ。その後ふいっとまた前を向く。なんか怖いんだけど、また変なこと企んでる?
「どうした愛生、先生の方をじっと見て」
隣の轟がそう聞いてきた。こいつまだ酢昆布咥えてやがった。
「いや、何か先生の方から熱い視線を感じてだな」
「そうか、気の所為じゃねえか?視線と言えば、オレも最近知らない女子にジロジロ見られたりするんだ。そんでオレがその子の方を見ると、みんな顔を隠して逃げ出すんだ。オレ、そんな変な奴に見えるのかな?」
「ぶん殴られたいならそう言えよ」
○
約1時間後、バスが停車したのを確認して俺たちは外へ出た。久々のシャバの空気は美味いぜ。カラオケで潰れた喉も、外の新鮮な空気で回復するってもんだ。
「愛生くんめちゃ歌っとったね」
「ま゛あ゛ね゛。た゛の゛し゛ま゛な゛き゛ゃ゛そ゛ん゛た゛ろ゛」
「ガラガラやん。のど飴あげる」
麗日やさしい。貰ったのど飴をひょいと口に入れてコロコロと転がす。うん、麗日のように優しい味がするね。
「治った!」
「回復力えぐっ!フツーに薬局に売ってた飴ちゃんやったんやけど」
「まだまだ若いからね。それに合宿はこれからじゃん」
「なんかよく分からんけど、とりあえず良かった」
そんな麗日にズイっと顔を近づけ、小さな声で俺は語りかける。
「そんでお茶子はん。アンタ最近デクくんとはどないなっとん?」
「きょ!?」
変な音を出した麗日。人間から聞いたことの無い音がしたな。もしかしたらそういう才能があるのかもしれない。
"デク"、そう聞いただけであたふたし始めた麗日に、俺は続けざまに言葉を連ねた。
「風の噂で聞いたぜ〜。合宿に必要な物を2人で買いに行ったって〜。あくまで風の噂だからな〜ホントかどうかは知らねえけどな〜」
「ぺ…ぺぺぺ…!」
なにこれ面白い。およそ女子がしちゃいけない顔してるけど。このネタでしばらくはいけるな。
「この合宿がチャンスなんじゃないの〜。なんだったら俺、協力するぜ〜。この恋愛講師ちはるくんに任せときゃ、場のセッティングなんてちょちょいのちょいだからよ〜」
「はわわ…!そ、そそそそんな私は…!デクくんとは何にも…!」
「え?僕のこと呼んだ?」
「ちがーう!!!」
「ぷべらッ!!う、うららかさ──」
唐突に現れたデクが、ビックリした麗日にはたかれた!そのまま彼は崖の下へ転落。ごしゃっ!と鈍い音が下から聞こえた。
…てか、俺たちのいるこの場所はどこだ?てっきりサービスエリアにでも停まったのかと思ってたけど、よく見たら周りには何も無くて眼下には森が広がっている。ほえ〜雄大な景色だな〜。
「煌めく眼でロックオン!猫の手手助けやって来る!どこからともなくやって来る!キュートにキャットにスティンガー!」
「なあかっちゃん。こっから字を書いた石を投げて、同じ物を先に持ってきた方が勝ちのゲームやるって言ったらやるか?」
「ワイルドワイルドぉ」
「ダァホ。んな暇じゃねーわ」
「プッシーキャッツ!!!」
「ははは、だよな〜」
「聞けよッ!!!」
背後から強烈なツッコミが飛んできた。なんだなんだと見てみたら、そこには奇天烈な格好をした女の人達が揃っていた。いや…よく見たら1人ムキムキのイカついのがおる…。
「度胸のある奴らだな」
ずっと白目なんですけどこの人。見るからに男なのに、女性物の服着とる。相当レベルが高いぞ。
「今回の合宿でお世話になる、プッシーキャッツの皆さんだ。挨拶しなさい」
「よろんしゅくおねあんしゃーす」
「相当クセのある子が入ってきたね、イレイザー」
「…矯正してやってください」
なにそれ俺のこと?
「ここら一帯は私らの所有地になってるんだ。そして、アンタらの宿泊施設はあそこ」
そう言って茶髪の女性──マンダレイは、はるか遠くにポツンと見える建物を指さした。正直この距離じゃ犬小屋にしか見えん。相当遠いけど尚更なんでここで降ろした?
「今は午前9時30分だから…早くても12時前後かな?」
マンダレイが悪そうにほくそ笑む。一瞬何を言ってるんだこのレディは…と思ったが、そんな俺に、俺たちに天啓が舞い降りる。その瞬間には、俺はバスの方へ走り出していた。
「お、おいみんな…バスに戻ろうぜ…!」
瀬呂の不安そうな声に、皆がジリジリとバスの方へ後ずさりをし始める。
一足先にバスに乗りこんでいた俺は、モタモタしている皆に向かって声を荒らげた。
「おいお前ら!死にたくなかったら早く乗れ!間に合わなくなっても知らんぞーッ!!運転は俺がするッ!!」
「愛生!お前大型2種免許は!?」
「無いッ!!!」
運転席に座って訳も分からず適当にレバーやら何やらをガチャガチャしていたら、相澤先生に布で外に引っ張り出された。雄英から犯罪者を出す訳にはいかない?ごもっともです。
次の瞬間、地面が怪しげにうごめき始めた。金髪の女性──ピクシーボブが地面に手を当て何かをしているのが見える。あの人の仕業か。
「センセー、現地で突発的な地震が!今すぐ合宿を中止にするべきでは!?」
「続行」
ですよねッ!地面のうごめきがだんだん激しくなり、まるで土砂災害のように土の波が発生する。それに巻き込まれた俺たちA組の面々は、ガードレールを超えてその先へ放り出された。待って、これ普通に死ぬやつ。
「えっ、なにこれ?みんなどういうこと?」
つい先程崖から落ちていったデクは、なんと自力で戻ろうとしていた。しかし、土と共に上から流れてきた俺たちと再度崖下へ落とされてしまう。さっきから散々だなこいつ。今のところ1番可哀想なのは間違いなくデク。
30m程はあっただろう。その高さから墜落した俺は、頭からお腹辺りまで地面に突き刺さる。どうやら他の皆は土砂がクッションになって無事だったようだ。気づいた障子が大根のように引っこ抜いてくれた。口の中がジャリジャリする。
「そこは"魔獣の森"。生きて合宿所に着きたかったら、死ぬ気で乗り越えなさい。美味しいご飯作って待ってるから」
魔獣…常闇くんの好きそうなワードが出てきたな。案の定、常闇くんは暗い森の方を見てソワソワし始めていた。分かりやすい男め、先陣はお前が切れ。
──と思ったら、意外な男が俺たちの輪から離れ森の方へ駆け出して行った。それはクラスでも臆病な峰田だった。まさかあいつにそんな勇気があったとは。下腹部を抑えているのは何故だろうか?ションベンか?
そんな峰田の行方を遮るように、1つの巨大な影が俺たちの前に姿を現す。全長5mはありそうな、四足歩行のバケモノ。まるでゲームに出てきそうな"魔獣"とやらが、小さな峰田を見下ろしていた。その目はまさに、獲物を狩る肉食獣の目。明らかに格上のオーラを醸し出していた。あ、峰田あいつ絶対漏らした。
──とまあ、ここまでお膳立てされたら馬鹿でも分かるわな。要するに、みんなで協力してこのバケモノ達が潜む森を抜け、宿泊施設まで向かってこい。それがこの合宿のスタートだって。先生め、"合宿のしおり"にはそんなこと書いてなかっただろ。初日は移動だけで、後は自由時間だと勝手にワクワクしてたじゃないか。
とにかく、今の俺がやるべきことは──。
右手の人差し指と中指を敵に向け、親指をピンと立てて銃の形を模す。ターゲットは前方の魔獣。そいつ目掛けて、指の先端から質量を持った衝撃波を放つ。
頭部にクリーンヒットした魔獣がよろめく。そこに追撃を加える為に、3人のクラスメイトが飛び出した。デク、爆豪、轟がそれぞれ個性を駆使し、魔獣を粉々に粉砕してみせた。土でできているのか、ボロボロとその場所に崩れ落ちる。
「おーし、峰田のパンツの仇は取れたな」
「トドメ刺したのはオレだかんな」
「オレが氷で動き止めてたからだ」
「まあまあ…仲良くいこうよ」
これも合宿の一環、手抜きは許されない。
パパっと攻略して、ササッと風呂に入って、お泊まりの時に定番のアレに全力を尽くすのだ。その為に俺はここにいる。
「行くぞみんな!!女子は恋バナ!男は枕投げ!俺たちの林間合宿はこれからだ!!!」
「「「「「おおっ!!!!!」」」」」
一致団結した俺たちA組は、勇猛果敢に魔獣の森の中へ突き進んで行った。
しかし、これはまだ始まりに過ぎない。
この合宿がやがて世間を揺るがす大事件の序章になるのだと、この時の俺はまだ知るはずも無かった。