君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#37 完全復活!パーフェクト愛生様だぜ!

 ──拳藤、今日の夜なんだけどさ。

 

 今日の午前中に、千晴の奴にそう言われた。

 

 何か大事な話をしたそうな顔だった。けれど、その詳しい内容を聞くことすら出来ないまま時刻は既に夕方過ぎに。カラスが鳴きながらオレンジの空を飛んでいた。

 

「詰めが甘いッ!傷ついた市民を背に、凶悪ヴィランを目の前にした時に、貴様は同じことをするのかッ!?」

 

「しませんッ!!」

 

「それを姿で示せバカタレがァ!!!」

 

 プッシーキャッツの虎によるトレーニングは、まだ続いていた。最初は嫌々やっていた千晴も、今では──。

 

「隊長!こんな感じでありますか!」

 

「うむ、だいぶ形になってきたな。その調子だ!」

 

「サー、イエッサー!」

 

 このように、完全に染まりきっていた。昔っから熱しやすいタイプで、口では否定しながらもやっていくうちにどハマりする奴だった。今もそう。いくつになっても何も変わりやしない。

 

 ま、そういうところが可愛いんだけども。これは内緒だ。

 

 あれから千晴と緑谷を含めた3人で、ずっと虎さんによる肉体トレーニングを続けている。単純な膂力の増強や、肉弾戦のコツ。個性を活かしつつ個性に頼りすぎない戦い方も学ばせてもらっている。行き着く先は殴り合い、それが虎さんの考えらしい。一理ある。

 

 緑谷は体からバチバチと光を発しながら飛んだり跳ねたりしている。聞くと、身体を鍛えれば鍛えるほど強化幅が増えていくらしい。増強系のシンプルで強力な個性だ。身体をイジめつつ、固まりきる前に様々なバトルスタイルを模索していくらしい。私も似たような内容でトレーニングを行っている。

 

 そんな私たちとは違い、千晴はより具体的な指導を受けていた。千晴の個性的に、そこまで肉弾戦を強化する必要は無いと皆が思っていた。しかし、虎さんはそのメンタルが気に入らないとのこと。

 

 もし、超能力が通用しない相手が出てきたら。

 もし、脳のキャパを超えて個性が使えなくなってしまったら。

 

 考えうる最悪を対処できるようになることが、己をより高みへと導くとのこと。そうすればきっと、誰にも負けないヒーローにだってなれる。そう言って笑う虎さんはやけに眩しかった。

 

「そうだ、いいぞッ!拳速も確実に速くなってきている。思っていた以上に飲み込みが早いな!」

 

 っていう感じで、千晴はひたすら虎さんと拳を交えている。虎さんいわく筋が良いらしく、格闘戦も千晴の大きな武器になるとのこと。今までは個性で物や人を浮かしたりと、中〜遠距離での戦い方が主だった。けど、今の千晴の動きを見ていると近距離での戦いも選択肢に入れられそうだった。思わぬ才能、もしかしたら埋もれていたかもしれない原石を見つけられたのは大きいだろう。

 

 珍しく真剣な表情でひたむきに拳を出し続ける千晴。そんな姿に思わず見惚れてしまう。普段はふざけてばかりでどうしようも無いやつだけど、真面目な時だってあるんだ。そのギャップにドキドキするというか、いつもと違う一面が見れて嬉しいというか。

 

「…さん。拳藤さーん」

 

「へっ!?あ、ああ…緑谷か」

 

 いけない、千晴を見すぎて緑谷の声に気が付かなかった。何とか誤魔化そうと、何事も無かったかのように振る舞うことにする。

 

「大丈夫?心ここに在らずって感じだったけど。もしかして愛生くんのこと見てた?」

 

「えっ?そ、そんなことないって!ただ、虎さんがどんな動きをしてるのか観察してただけだよ!」

 

 くっ、なかなか鋭いなこいつ。確か緑谷って、クラスメイトの個性や行動を観察してノートにまとめてるんだっけ?それ故に、鍛えられた観察眼で私のことも見ていたのかもしれないな。

 

「そうなんだ…。てっきり、愛生くんに見とれてるのかと思ってたよ」

 

「みっ…!見とれてなんか!何で私があいつなんかに!」

 

「じょ、冗談だよ!」

 

 緑谷め、意外とそういうこと言うタイプだったのか?

 

「でもさ、戻るといいね。愛生くんの記憶」

 

 夕焼け空を眺めながら、緑谷は続ける。

 

「実は僕さ、個人的に愛生くんの記憶を戻せる方法がないか調べてるんだ」

 

「え?」

 

 緑谷のその発言に、思わず目を丸くする。

 

「主に個性でどうにか出来ないかって観点だけどね。ほら、状況的に愛生くんの記憶が無くなったのって誰かの個性の影響じゃない?個性で失ったのなら、個性で復元させればいい。微力かもだけど、僕にできることがあるなら力になりたいんだ」

 

「緑谷…」

 

 小さく笑いながら、緑谷は言った。

 

「記憶を失う前の愛生くんは、それはもう楽しそうな顔でいつもいたんだ。それは紛れもなく、拳藤さんへの想いがあったからだと思う。そんな大切な感情を失くしたままにするなんて、そんなのきっと良くない…」

 

 じーっと緑谷の横顔を見つめる。そんな私の視線に気づいたのか、慌てるような表情を緑谷はしてみせた。

 

「あ…!なんかゴメンね、ベラベラよく分かんないこと言っちゃって!」

 

 そんな緑谷の仕草が面白可笑しくて、思わず吹き出してしまう。

 

「ははっ、別にそんなことないさ。嬉しい、ありがと」

 

「…どういたしまして」

 

 緑谷の言葉にどこか救われた自分がいた。

 

 実際、千晴の様子が記憶を失う前後で大きく変わったかというと、私以外の子からしたらそうでもない。だから、私だけなのかと思ってた。千晴の記憶を取り戻そうとしていたのは。

 

 だけどそれは違った。こんな近くに、千晴のことを想っていてくれている人がいたんだ。それが私にとってどれだけ心強いことか。

 

「ぐっはぁ!」

 

 そんなことを考えていると、突如として千晴がこちらに転がってきた。ドロドロのボロボロ…相当しごかれたんだなと思う。

 

「うう…ここはどこ…?ワッチャネイム…」

 

「今日の特訓はここまでだッ!各自寮に戻って飯でも食らってこい!」

 

 そうか、もうそんな時間か。林間合宿が始まってから、時間が経つのが早い。

 

「千晴、動けるか?」

 

「むり…俺はこのまま土に還る…」

 

「バカなこと言ってないで、早く戻るよ。肩貸してあげるから」

 

 地面に横たわったまま起き上がらない千晴を強引に立たせ、引きずるように寮へと運んでいく。重みのある、男子の体って感じがした。そして、久々に千晴と近づけた(物理的に)ことで胸がドキドキする。

 

 ──つくづく恋愛脳だな、と自分でも思う。

 

 何でこんな風になってしまったのか。原因となる張本人は知る由もないんだろう。

 

 宿泊施設へたどり着くと、他の子らも続々と集まってきていた。皆ドロドロだ。かなりしんどい訓練をしてきたのだろう。玄関をくぐると、私と千晴の姿を見つけた八百万が走って寄ってきた。

 

「拳藤さん!愛生さん…どうされたのですか?」

 

 八百万はヘトヘトの千晴を見て、心配そうに声をかける。

 

 …ピクリと、無意識のうちに私の眉がつり動いた。

 

「なに、ただトレーニングで虎さんにしごかれてただけだよ。見ての通りだから部屋まで運んでやろうかなって」

 

 まあ…と八百万が口に手を当てる。

 

「それなら、私がお運びしますわ。拳藤さんも訓練上がりで疲れていらっしゃることでしょう。シャワーでも浴びてきてはいかがですか?」

 

「あ、いや…別に私は…」

 

 言い切る前に、八百万に千晴を奪われる。この時点で、私の中では何かが沸々としていた。

 

「この後はお夕食がございますからね。拳藤さんも着替えて食堂に集まってください。さぁ愛生さん、お部屋まで行きますわよ」

 

「うん…?八百万…?相変わらず優しいなぁ…」

 

「ふふ、クラスメイトとして当然ですわ」

 

 ──前にも見た、八百万のこの表情。

 

 女にしか分からない、男を見る時の女の顔だ。

 

 私の知らない間に千晴と距離を詰め、事ある毎に出しゃばってくる。

 

 やめろ、触れるな、千晴に。

 

 私のだぞ。記憶さえ戻れば、またいつものように。

 

 私の方を見てくれるはず──。

 

「おーい、一佳ぁ。そんなとこで突っ立ってないで部屋行こうよ〜」

 

 クラスメイトの呼び声でハッとする。

 

「…うん、いま行く」

 

 千晴と八百万が歩いていく光景から目を背けるように、私は皆の元へ向かった。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

「完全復活!パーフェクト愛生様だぜ!」

 

 あれから八百万に部屋まで連れて行ってもらい、シャワーを浴び、夕食をかきこんだ。するとどうだろう、不思議なことに体は全回復。虎さんに痛めつけられたダメージも物の見事にどこかへ消え去った。なんだ?今日の夕食はリカバリーガールが作ったのか?

 

 てな感じで、今からどうやら肝試しをするみたいだ。場所は合宿所周辺の森の中。鬱蒼と生い茂る木々が、何かそれっぽい雰囲気を作り出している。雰囲気ありすぎて、もはや心霊スポットなんじゃないかと疑い始めている程だ。プッシーキャッツの皆様、もしかして告知事項付きでも安いからこの土地買ったとかじゃないよね?ガチで出るとかやめてよね。

 

 肝試しのルールは簡単、決められたペアで決められたルートを通って決められた物を決められた場所から取ってきて決められたルートで帰ってくるだけ。ガチガチに固められたルールに沿って行うのがレクリエーションなのだ。だよな?飯田。お前さっきそんなこと言ってたよな。暗いから足元に気をつけようって言ってた傍から、道端の石でつまづいてたよな?行先が不安だぜ。

 

 最初はA組が回る側でB組が驚かす側のようだ。でも驚かすっていってもどうやんだろ?特にこれのために準備をしてきてる訳もないし。まあ何か上手くやってくれんだろ、知らんけど。

 

 そういえば切島たちを含めた数人の姿が見えない。…え?期末試験で赤点を取ったやつは補習地獄?今この瞬間にも勉強を強いられている?ははは、ざまぁないぜ。一方的に勉強を教えられる、痛さと怖さを教えられるといいさ。ま、俺だったら病欠とか言ってサボるけど。物は考えようだ。

 

「愛生さん、ペアの方よろしくお願いしますわ」

 

「おう」

 

 そして今回の肝試しは、クラスメイト同士でペアを組んで行うようだ。

 

 俺は八百万とペア。峰田が変わってくれと懇願してきたが、八百万が嫌そうな顔をしていたから丁重にお断り。すまんな峰田、お前は青山と肝を試してこい。もしかしたらそういう展開が待っているかもしれんぞ。

 

「愛生さんは、怖いのはお得意ですか?」

 

「おう」

 

「頼もしいですわ。私は正直苦手で…ホラー映画やお化け屋敷などの経験も乏しく…」

 

「…おう」

 

「もしかしたら、ビックリして愛生さんにしがみついてしまうかもしれません。…なんて」

 

「おう!!!」

 

 べ、別に昂ってなんかないんだからね!八百万が驚いて俺の腕とかに飛びついてきた時のことなんて、これっぽっちも想像してなんかないんだからね!

 

「ふしゅ〜…!おーし、気合い入れてくか…!」

 

「なんか愛生だけ方向性を間違えてねえか?」

 

「よーしみんなぁ!早速肝試しを始めるにゃー!」

 

 そんなこんなで始まった肝試し。

 

 だがしかし、その裏で密かに蠢いていた計画に俺たちはまだ気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつだよ先生。憎きヒーロー気取りのクソガキは」

 

「やっと見つけたよ。愛生千晴…いや、厄災の器を」

 

 闇に潜む巨悪が、すぐそこまで迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 ──記録。雄英高校1年生、夏の林間合宿。

 

 毎年行われる学校行事の1つであるその合宿は、例外なく今年も執り行われた。

 

 目的は生徒達の大幅なレベルアップ。今年は相澤消太ことイレイザーヘッドがプロヒーローチーム・プッシーキャッツに協力を要請。

 

 プログラム通りに進むかと思われていたその合宿だが、2日目の夜に事態は急変。

 

 ヴィラン連合の襲来により、生徒複数人が意識不明の重体。

 

 くわえて、プッシーキャッツの所有する土地が災害にでもあったかのような凄惨な状況に。

 

 さらに。

 雄英高校1年A組、愛生千晴がヴィラン連合により拉致。

 

 現在プロヒーロー、警察が主導になって行方を捜索している。

 

 

 

 

 

 

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