君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#38 お母さん、警察の人たちにはお話通しておくから

 ──正直、あの時の事はよく覚えていない。

 

 ただ、どうしようも無い程の怒りと絶望が腹の底から湧き上がってきて。

 

 大切な人を傷つけた奴を殺してやらなきゃ、と。

 

 それだけの感情で敵を、ヴィランを。

 

 目に映るもの全てを。

 

 壊していった。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

「結構雰囲気あるな」

 

「ですわね…慎重に進みましょう」

 

 くじ引きで出発の順番が決められ、俺と八百万は3番目にスタート。薄暗い森の中を、懐中電灯片手に2人でテクテク歩く。

 

 周囲が暗い中、隣には同い年のクラスの女の子。しかも体と体の距離がいつもより近いと来た。

 

 俺の心臓の鼓動は、それはもう爆裂に鳴り響いている。ほっといたらそのうち爆発でもしちゃうんじゃないかと思うくらいに。

 

 それに、距離感が近いゆえの肩がちょくちょく当たるやつ!あるよね!これが尚更俺の感情を激しくさせるんだ!

 

 八百万は美人だから、男の俺にドキドキするなと言う方が難しいんだ。

 

 森の中を2人でひた歩く。道中、何を話したら良いのかもよく分からない。あれ?俺ってこんなに女子と話すの下手くそだったっけ?冗談の1つすら出てこないんだけど。

 

 八百万も八百万でなに考えてるか分かんねえ。いつものように凛としてるかと思いきや、どこか不安そうな表情で辺りをキョロキョロ見渡してる。ふむ、そんな八百万もそそるぜこれは…。

 

「あの、愛生さん。お願いがあるのですが」

 

 声をかけてきた八百万の方を見る。

 

「やっぱりどうも不安で…。もし愛生さんがよろしければなのですが、腕…掴んでてもいいですか…?」

 

「う…で…?」

 

 何だこの可愛い生き物はーッ!!!

 

 これはアレか?ギャップってやつか!?普段はしっかり者でキリッとしている八百万だが、そんな彼女が見せる女子な一面。こんなの…クリティカルヒットなんてレベルじゃねーぞ!男なら誰でもイチコロだねこんなことされちゃあ。

 

「だめ…ですか?」

 

 なんだその表情はーッ!?お前そんな顔できたのか!?いつの間にそんなの覚えてきたんだ!ちくしょう、断る理由が思いつかん。

 

「ああ、うん。こんなので良ければ全然貸すよ」

 

「ホントですか?ありがとうございます…」

 

 そうして、そっと俺の左腕に八百万が腕を回す。近かった距離がより一層近くに。いやこれほぼゼロ距離だ。あ、シャンプーのいい香り…。じゃなくて!

 

 この状況…色々とまずいんじゃないか…?今はレクリエーションの肝試し中。驚かす側にはB組の皆さんが。そいつにが今の俺たちの状況を見られたら。

 

 俺と八百万が付き合っているという噂が学校中に広まってしまう──!

 

「うう…何だか悪寒がしてきましたわ…」

 

 ギュッと掴まれている腕に、更に力が入った。何これ、最早カップルだわ。夏のイベントで急接近して、そのまま付き合い始めたよくあるパターンだわ。そして胸が当たっとる。

 

 しばらく歩いただろうか、もうコース的にも折り返し位までは来ているはず。なのに、スタートしてからB組からのアクションが何も無い。

 

「…もしかしてアイツらサボってる?」

 

「えぇ…流石にそのような事は無いかと…。気付かない間にルートを外れていたのでしょうか?」

 

 八百万も言いつつ首を傾げていた。ルートを間違えたか、一理あるな。何故なら事前に渡された道順の書かれた紙なんてロクに見てないし、真横にいる八百万の事で頭がいっぱいで正直肝試しどころじゃなかったからだ。

 

「どうしましょう、このまま皆さんの居る場所に戻ることが出来なくなったら。明るくなるまで2人このまま…なんてことも…」

 

 何か今日の八百万、乙女力高くない?もしかしてこれアタックされてる?え、つまりそういうこと?それならそれで、俺も何だかそういう気持ちになってきちゃったよ?

 

「そんときゃ2人で朝まで一緒だな。俺、女の子とそういう風になるのはじ…め…て…?」

 

「愛生さん?」

 

 来た。また頭痛だ。最近多いんだよな。とくにこの林間合宿が始まってからは。

 

 何なんだろう、この現象は。頭の中に流れている誰かの視点の映像。俺…なのかな?そして必ずと言っていいほど出てくる1人の女の子。橙色の髪の女の子。誰かに似ている。これは、その子と過ごした時間の映像なのか?

 

 ふと、視線の先に何かを見つける。暗くてよく見えないが、じっと目を凝らしてその場所を凝視する。何だろう…地面の色が…赤い…?

 

「──ッ!?アレは!?」

 

 横にいた八百万が甲高い声を出した。八百万も俺の見つけたものに気付いたようだ。茶色の地面の1箇所が、赤く濡れている。あれは間違いなく…。

 

「誰かの血じゃねぇか…?」

 

「一体…どういう…」

 

 その瞬間だった。

 

 俺は背後に誰かの気配を感じ取った。

 

 バッと振り返った先には、薄い緑色の皮膚を持った、見覚えのある頭をした奴が。

 

 そいつが、まだ存在に気付いていない八百万に丸太のような腕を振り下ろそうとしていた。

 

「八百万ッ!!」

 

「──え?」

 

 叫ぶと同時に念動力で八百万をこちらに引き寄せる。が、少し間に合わなかったか、鈍い音が周囲に響き渡った。薄緑の男の腕が、八百万の頭部を打った。

 

「八百万!おい、八百万!しっかりしろ!」

 

 手元に持ってきた時にはもう、八百万は気絶していた。いくら呼びかけても返事は無い。頭から血を流してはいるが、脈は感じ取れる。生きてる。

 

「ネホヒャンッ!」

 

「くそ、一体どうなってんだ。何でこんな所に脳無がいるんだよ」

 

 間違いない。目の前の男は確実に脳無。忘れもしないUSJでの出来事。あの時とは皮膚の色や体型が若干違う。けど、いま目の前にいる脳無は武装をしている。背部から生えている複数腕のそれぞれに刀やドリル、チェンソーといった凶器が埋め込まれている。

 

 そしてその凶器の先から、鮮血がポタポタと滴り落ちていた。

 

 脳無がいるってことは…まさかこの場所にアイツらが来てるってことか…?

 

「ヴィラン連合…!またちょっかいかけてきやがったのかよ」

 

「しゅいいいん!」

 

 脳無に埋め込まれたドリルやチェンソーが、物凄い勢いで稼働し始めた。あんなのカスリでもしたらひとたまりもないだろう。一撃たりとも喰らっちゃダメだ。

 

 八百万の体を木を背にさせて地面に降ろす。どうする?動けない八百万を守りながら脳無と戦えるのか。

 

 USJの時の脳無は、俺の攻撃は一切通用しなかった。どれだけ攻撃しても、ケロッとした顔で反撃してくる。もしそれと同様のスペックを与えられているとしたら。

 

 勝って救けるか…救けて勝つか…。

 

「考えるまでもないな、こりゃ」

 

 俺は目を閉じている八百万にそっと声をかける。

 

「俺がこの場を離れたら、他の皆が危なくなっちまう。だからあの脳無は──」

 

 再び脳無の方へ視線を向ける。

 

 敵は強大、味方は無し。

 

 それでも勝たなきゃいけない。

 

 勝たなきゃ誰も…八百万1人すら守れない。

 

 だから──。

 

「俺がここで倒すよ」

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 今、俺の目の前には1人の男がいる。

 

 水色の瞳に無造作な黒髪、体格は細めで耳にピアス。極めつけは口の下側から服から出ている首の部分まで、焼け爛れたような色をした皮膚が繋ぎ合わされている。

 

 不気味──その言葉がよく似合う外見をしていた。

 

「クックック…まさかもう出会えるとは。俺はツイてるなぁ…横に要らない奴はいるけども…」

 

「あ?俺のことか?」

 

 黒髪の男は嬉しそうな声色ではしゃぐように言う。その言葉にペアだった爆豪は噛み付いた。

 

「そうだよ悪役ヅラ、お前になんて興味は無い。俺が喋りたいのは横の轟焦凍くん…お前なんだからさ」

 

 言って俺を指さす。二ヘと不気味な笑みを浮かべながら。

 

「初対面の奴をお前なんて呼ぶもんじゃねぇ。まずは名前から名乗るもんだ」

 

「そうか、そうだったな。俺たちは"はじめまして"だったな。クックック…親の教育がしっかりされているようで…」

 

 チッと小さく舌打ちが聞こえたような気がした。

 

「名を名乗るんだったな。俺の名は荼毘、よろしくどうぞ」

 

「ああ、俺は轟焦凍…ってもう知ってんのか」

 

「お前ボケてんのか半分野郎。脳みそまで半分になっちまってんのか、あ?」

 

「えっ?」

 

「喧嘩はよくないぞ、轟焦凍」

 

「だな…」

 

「誰かのバカがうつっちまってんな」

 

 ハイハイそこまで、と荼毘という男が手をパンパンと叩く。俺と爆豪は、目の前のそいつをキッと睨みつけた。

 

 今回の林間合宿の場所は、関係者以外には知らされていないはず。目の前のこの男が関係者だとは思えない。何故かそれだけはハッキリと分かる。

 

「何モンだテメェ」

 

「俺が何者か…。そうだなぁ、一言で表すなら…。轟焦凍、俺はお前の」

 

 荼毘の視線がこれでもかと言うくらいに注がれる。何だこの熱視線は。親父みたいに目から熱ビームでも出せるのか。

 

「ファンだ」

 

「ふぁ…」

 

「ん…?」

 

 空気が固まる。ヒューと夜風が吹き込んできた。何だ…この微妙な空間は…。

 

「テレビの向こう側で活躍するアイドルに会う為に!綿密な計画を立てて!握手会に行くような!俺はいまそんな気持ちでここに居るんだぜ、轟焦凍ォ!」

 

 やべぇ奴だ。それと同時に、俺は親父とお母さんのとある言葉を思い出していた。

 

『いいか焦凍、あやしい人がいたら絶対に口を聞いちゃいけないぞ。いくら話しかけられても無視をしろ。間違ってもついて行くなんてことはしちゃダメだからな』

 

『流石に限度が過ぎるなって思ったら、迷わず凍らせちゃいなさい。お母さん、警察の人たちにはお話通しておくから』

 

 あいつは…確実にあやしい人だよな?だったら話もしちゃいけないし、ついて行っちゃダメなパターンだ。親父の教えが役に立った、ありがとうエンデヴァー。

 

「爆豪」

 

「なんだ」

 

「あいつ凍らせてもいいか?」

 

「やってやれ」

 

 爆豪の許可も下りた。これで大丈夫。あいつのヤバさは限度を超えているから、凍らせてもOKだ。

 

「何だか不穏な会話が聞こえてきたな。おにいちゃ…じゃない。俺はどうなるのかな?」

 

 クルクル踊りながら、荼毘は楽しそうにしていた。うん、こいつは早くとっちめて警察の人に引き渡そう。それが日本の未来の為かもしれない。

 

「いくぞ爆豪、アイツをかき氷にする。置いてかれんなよ」

 

「誰にモノ言ってんだァ!?俺ァコーラ味しか食わねえぞ!」

 

「一緒に写真を撮ってホーム画面にする。それが俺の望みさ!」

 

 ──ファンはファンでも、厄介ファンには気を付けるんだぞ。

 

 いつの日か、愛生から言われた言葉の意味が分かった気がした。

 

 

 

 

 

 




愛生千晴
・記憶が戻ったらややこしい事になりそう

八百万百
・無意識の確信犯

轟焦凍
・現在進行形で厄介ファンがいちばん多い

爆豪勝己
・最近のスイーツと化したかき氷が気に入らない

荼毘
・要するにただのブラコン
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