君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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シリアスが…もう少しだけ…続くんじゃよ…。


#42 ポン酢ならここに。湯掻いた白菜にはこれが一番です

「このガキ…!」

 

 目の前には、腸が煮えくり返ってそうな顔の荼毘とかいうヴィラン。いきなり俺の顔を殴ってきたコイツには、近くのテーブルをプレゼントしてやることにする。

 

「おいおい…あんまり物を壊さないでくれよ〜…」

 

 仮面の男がやれやれと言うように呟く。やけにアダルトな反応だ。

 

「これは荼毘が悪い。動けない高校生を殴るのは良くない」

 

「テメーどっちの味方だスピナー!」

 

 あの喋るトカゲ、スピナーっていうんだ。スピナーは腕を組んでうんうんと頷いている。特に手出しをしてくる気配は無さそうだ。

 

「ウソだろ…俺は大っ嫌いなコイツのアドバイスを真に受けていたのか…?」

 

 死柄木はまだショックを受けていた。まあ半分おもちゃにしてたけど。もう少しそのままでいてもらえると助かる。

 

 テーブルに続いて近くに置いてあった椅子も、荼毘に向かって放り投げる。それに対し、荼毘は身体から蒼い炎を出して反撃を繰り出そうとしていた。

 

「炎は駄目だ、火事になる!全部燃やしちまえ!」

 

「チッ!やりずれぇな!」

 

 見たところ、荼毘以外の面々は手を出してくる気配は無さそうだった。俺のことをどこか丁重に扱っているような、そんな雰囲気もある。まぁわざわざ攫ってくるということは、何かそうせざるを得ない理由があるんだと思うけど。

 

「やられっぱなしって訳にはいかねぇからな」

 

 このままこの場所から脱出する。実際問題ここがどこなのか見当もつかないけど、とりあえず外に出て近くの駅とかに行けば何とかなるだろ。大丈夫、不安は無い。いざとなれば大きい声を出してやる。いや〜んってな。我ながら完璧な作戦だ。

 

 椅子に乗ったまま荼毘の方へ突撃。椅子の脚の部分でおもっくそどついてやった。そのまま拘束されていた部屋から抜け出し、照明が等間隔で設置されている通路を超え、扉を開く。右側に灯りが見えるな、とりあえずそっちに行ってみよう。

 

「何だこのかび臭い部屋は」

 

 ヴィラン達の基地内のとある一画。やけに分厚いパイプや薄型モニターが、至る所に設置されている。いかにもという部屋だが、ここは一体なんの部屋だろう。

 

 椅子に乗ったまま低空飛行で、ゆっくり少しずつ中へと進んで行く。足元にもパイプやら機械のコードやらが張り巡らされているから、歩きづらそうな場所だな。

 

 ふと、俺の目の前を小さな何かが横切った。かなり小さい、俺の膝下にも及ばないサイズだが。目を凝らしてその何かをじっと見つめる。

 

「…なんだ、お堂の鬼か」

 

 その正体はなんてことの無い、顔から両手を生やしたお堂の鬼だった。それなら特に気にする必要は無さそうだな。悪の組織の秘密基地だから少し身構えちゃったよ。後で悪鬼滅殺を志とする人たちに、討伐を依頼しておこう。

 

 そこからまた少し奥に進む。正直こっちが出口なのか怪しくなってきたけど、興味本位でここまで来てしまった。せっかくだから何か重要な情報でも掴んでおこう。

 

「誰かいる…」

 

 ひときわ大きなモニターの下、キャスター付きの椅子に1人の人物が背をこちらに向けて座っていた。俺は静かに地面に降り立つ。依然手足は繋がれたままだけど、心は臨戦態勢を取っておく。

 

「ここまで辿り着いてしまったか、"厄災の器"よ」

 

「…?白菜…?」

 

 この人いま白菜の器って言った?白菜の器…なんだろう?白菜を食べようとしたらお皿がなくて、それを他の人に頼んで待ってる時に俺が来たから勘違いしてるのかな?

 

 椅子に腰かけていた人物はこちらにくるりと向き直り、ゆっくりと立ち上がる。低身長で少し丸みのある、ヒゲとメガネが特徴的なおじいちゃんだ。白衣を纏っているから医者にも見える。この人が、白菜の器を求めし者…。

 

「君が来るのを心から待っていたよ。それはもう待ちきれなくて、ヨダレが出てしまう程にね」

 

「そ、そんなに白菜が好きなのか…」

 

「ふっふっふ…君は計画のメインディッシュともいえる存在だからね…」

 

 メインディッシュ…!白菜の器を持ってきた俺が…メインディッシュ…!相当心待ちにしていたんだな、白菜を。めちゃくちゃ勘違いしとるけど。

 

「ポン酢ならここに。湯掻いた白菜にはこれが一番です」

 

「…ポン酢、じゃと?」

 

「ポン酢…です」

 

 スっと懐からポン酢を取り出して見せると、おじいちゃんは目を大きく見開いた。近寄ってポン酢を渡してあげると、それをまじまじと見つめる。

 

「紛うことなきポン酢じゃな。それに賞味期限が切れている」

 

 …まぁ、ずっと懐に入れていたからね。今までよく容器も割れずに済んでたもんだ。

 

「じゃがそれでいい。今日の夜ご飯に使うとしよう」

 

 いいんかい。腹壊すぞじーさん。

 

「ははは、ユーモアに溢れていていいね」

 

 また新しい声が聞こえてきた。ここからじゃ暗くて見えない闇の奥。そこからやけに耳に響く男の声がする。

 

 続いてその人物であろう足音が、コツコツと鳴り響いてきた。

 

「愛生千晴くん…君のことをずうっと待っていたよ」

 

 暗がりから現れたその男に、俺はギョッとする。顔が無い…いや、正確には口から上のパーツが潰されている。加えて、喉元にチューブが2本程刺さっていた。余りの痛々しさに目を背けたくなるほどだ。

 

 それになんだ…この言いようの無い存在感は…。この人が近くにいると心がザワつく…。

 

「…俺たち、どこかで会ったことあるっけ?」

 

「おっと、これは失敬。君とは初対面だったね。私の名前はAFO(オール・フォー・ワン)。君と"再会"出来ることを楽しみにしていたんだ」

 

 再会…?何を言ってるんだこの人は。ヴィラン連合にいる人らは揃いも揃って頭キテレツなのか?一応目の前のこの人は、スーツで身だしなみを整えているけども。

 

「さて、時間が惜しいから早速始めようか。ドクター」

 

 オール・フォー・ワンが言うと、ヒゲのドクターはシャッと椅子に腰を下ろし、カタカタと忙しそうにキーボードを叩き始める。それと同時に、部屋の中にある複数のモニターの画面に謎の記号が映し出され始めた。

 

「なんか物騒なことでも始める気?」

 

「そんなことは無い。これは必要な事さ」

 

 顔は無いけど笑っていることは分かる。嫌な予感がするな。それに、あまりこの人の傍には居たくない。

 

「愛生千晴くん。僕らのこれから為すべきことに、君は不可欠な存在なんだ」

 

「不可欠…?俺が?」

 

「これから君に記憶の移植を行う」

 

 は…?記憶の、移植…?目の前のオール・フォー・ワンとやらが言っていることに、疑問符が浮かび上がってくる。

 

 オール・フォー・ワンは続けた。

 

「僕には、それはそれは親しかった友人がいてね。まぁ、直接会って話せたのは数回だけだったんだけど。その友人にもう一度会いたいと、常々思っていたんだ」

 

 言いながら、オール・フォー・ワンは近くの机の上に置いてあった謎の試験管を愛おしそうに眺める。

 

「だけど、友人もただの人間。いつかは老いくたびれていく。そこで私は思ったんだ。こんな素晴らしい人間が、時の流れに流されていくのなんて勿体ない!ってね」

 

 オール・フォー・ワンはその試験管を手に取り、明るみへ俺に見せつけるように示してきた。謎の液体の中に、これまた謎の物体が浮かんでいる。

 

「だから私は、友人を未来へ連れていくことにしたんだ。これがその証拠。友人の記憶が刻まれた当人の細胞さ」

 

「その細胞を俺に植え付けるってことか?」

 

「ご名答。君が思っているのとは若干ニュアンスが違うかもしれないけどね」

 

 ククク、とオール・フォー・ワンは小さく笑う。記憶の移植…あの試験管の中の細胞を、俺の中に埋め込む…のか?ニュアンスが違うとか言ったけど、イメージ的にはそんな感じだろう。

 

「んじゃなんだ。これから手術室に入ってカラダかっ開いて、その友達の細胞を入れ込むってことか。聞いてるだけで気色悪いな」

 

「そんな大掛かりなことじゃないさ。移植なんてすぐに終わる」

 

「なんで俺なの?」

 

「君が友人と同じ奇跡(個性)を宿しているから」

 

 個性か。それで役者的にはピッタリって訳ね。こんな悪党と関係があったってことは、その友人とやらも相当な悪人だったのかな。ていうか、記憶植え付けられて人格とかどうなるんだ?

 

「クールだね君は。こんな状況に反して」

 

「顔に出さないようにしてるだけさ。もひとつ質問。記憶の移植ってどうやるの?」

 

「個性でやるよ。おあつらえ向きの個性が手に入ったんだ」

 

 なるほど、それなら色々と合点がいくな。他人の細胞を直接体内に入れ込んで記憶が引き継がれるとは思えないし。この時代だ、個性でそういうことが出来ても何ら不思議では無い。便利な時代になったもんだ。…いやこれ便利って言っていいのか?

 

「手に入ったっていうのは?元々のアンタの個性でやるとか、そういうんじゃないの?」

 

「旺盛だね。まあいい、この際だ。君にも見てもらおうか」

 

 オール・フォー・ワンが懐から1つのリモコンを取り出し、ピッと電源ボタンを押す。すると、頭上から1つのモニターがゆっくりおりてきた。そのモニターがパッと点灯し、映像が映し出される。

 

 そこに映っていた人物に、俺は目を見開いた。

 

「おい…一体どうなってる…!」

 

「僕には友達が多いんだ。必要な個性を持っている子がどこにいるかなんて、すぐに分かる」

 

 俺と同じように手足を縛られ、身動きが取れない状態にさせられているその人物。俺もよく知っている子だった。

 

「てめぇ…!黒雪に何しやがった!!」

 

 姫乃黒雪が、その画面に映し出されていた。眠っているのか気を失っているのか分からないが、目を閉じてぐったりしている。

 

 激昂する俺に対し、オール・フォー・ワンは冷静に言葉を並べ続けた。

 

「まだ何もしてないさ。これから彼女の個性を奪い、その力で君に友人の記憶を流し込む。たったそれだけの簡単な行為だよ」

 

 記憶の操作…確かに黒雪にはその力がある。けど個性を奪う?そんなことが本当に出来るのか?それがオール・フォー・ワンの個性ってことか?

 

 ──いや、ゴチャゴチャ考えるのは後だ。ハッキリさせた。今から俺がやらなきゃいけないことを。

 

 全身に力を込め、体の内側から発散させるイメージ。全身から衝撃波を発生させ、俺は拘束具を吹き飛ばしてみせた。これで自由に動ける。これで黒雪を助けに行ける。

 

「アンタの計画は理解した。俺に悪人の記憶を埋め込んで、そいつと一緒に世界を脅かそうって訳だろ?そんな勝手させるかよ」

 

 こいつは…オール・フォー・ワンは悪の親玉だ。ヴィラン連合のボス。絶対に外に出しちゃいけない人間なんだ。それを確信した。

 

 俺がこの場で出来ることは少ないのかもしれない。だけど俺の意志で、行動で、皆や友達(黒雪)を守ることが出来るなら。

 

「かっこいいね、流石は雄英で育てられているだけはある。けど──」

 

 個性を発動させる為に脳を回した時、突如として強烈なめまいが襲ってきた。ぐわんと揺れる視界。目の前のオール・フォー・ワンや風景が歪んで見えてくる。立っていられなくて思わず地面に膝を着く。

 

「残念。先手は打ってあるんだ」

 

「な…んだ?これ…」

 

 心臓がバクバクする。変な汗が止まらない。なんだ、なにをした?体が変だ。上手く動かせない。まぶたが重くなってきた。

 

「おやすみ、愛生千晴くん」

 

 オール・フォー・ワンの声が耳にこびりつく。全身に力が入らなくなってきた。膝を着いていた状態からドサッと地面に倒れ込む。駄目だ、目の前が真っ白に…。

 

「もうすぐ会えるね、楽しみだよ」

 

 

 

 

 アンナチュラル──。

 

 

 

 

 アン…ナチュラル…?誰だ…そいつ…。

 

 黒雪…助けに行かなきゃ…。

 

 段々と頭の中もぼんやりしてきて、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 




愛生千晴
・白菜の器。
・キムチ鍋が好き。

ドクター
・微妙に声が聞き取りづらい。
・豆乳鍋が好き。

オール・フォー・ワン
・ ヴィラン連合の親玉。
・友達の細胞を試験管に入れて眺めて遊ぶ変態。
・鶏白湯鍋が好き。

アンナチュラル
・知らない間に細胞を取られて保管されてた。
・鍋なんて食べたことない。
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