君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#43 いつの時代もモテる女は辛いものだな

 ヴィラン連合の襲撃を受けた僕らが病院へ運び込まれた次の日の夜。

 

 僕、かっちゃん、轟くんの3人は新幹線に揺られながらとある目的地を目指していた。

 

 目指すべき場所はそう、愛生くんが連れていかれた神奈川県横浜市神野区だ。

 

 あの日…僕の病室に現れたプロヒーロー、レディ・ナガンは言っていた。ヴィラン連合の狙いは愛生くんの個性だということを。その力が悪の手に渡れば、過去に起きた災厄が再び訪れるかもしれないということを。

 

 ──他でもない君らだから言うんだ。あの子と一緒に歩んできて、同じ時間を過ごしてきた。彼を救うためにヒーローが動く。3人の力も必要になる時がきっとくる。

 

「で、肝心の奴は来ねーのかよ」

 

 駅弁を食べながらかっちゃんが悪態をついた。僕も正直同行するものだと思っていたけど、どうやらレディ・ナガンは公安の方でまた別の動きをするらしい。

 

「でも公安でも動いてるんだな、愛生の捜索の件で。いま思えば、職場体験──体育祭の時から目ぇ付けられてたってことか」

 

 口をモグモグさせる轟くん。愛生くんは職場体験の時、直接公安の方から指名を貰っていた。つまり、指名に繋がる体育祭の時には既にマークされていたということになる。

 

「にしても、結局公安はどうやって愛生の居場所を掴んだんだ?」

 

 ゴックンと食べ物を飲み込みながら、かっちゃんは言った。

 

「…ナガンにも聞いたけど、なんか誤魔化されたね」

 

「闇を感じるな」

 

 横にいる轟くんも、僕と同じ考えを持っているようだった。社会の闇ともいえるのか、その場では深く詮索はしなかった…否出来なかった。僕たちも僕たちで「そういうもんなんだろう」という形で自己完結することにしておいた。

 

「まぁとにかく、今は愛生くんを救い出すことに集中しよう。友達が困って僕らが動く理由はそれだけあれは充分だ」

 

「おう」

 

「なに仕切っとんだデクてめぇコラ」

 

 普段と変わらない2人に逆に安心する。僕らがこれからやろうとしていることが正しいことだなんて、終わってみなければ分からない。だからこそ、過程の段階で自分たちだけでも正しいと思えなければ、何も成すことは出来ないだろう。

 

 愛生くん、待っていてね。

 

 友人を助ける為に僕らは、その決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 まるで宇宙にいるようだった。

 

 いや、正確には宇宙なんて行ったことは無いけど、無重力空間ってのはこういうことをいうんだろうなって思った。

 

 フワフワと体が浮き沈みしている。オマケに頭がぼや〜っとしていた。寝起きみたいな感覚だ。

 

(あれ?さっきまで何してたんだっけ?)

 

 頭の中でそう思う。口に出して発した気はするけど、上手く声が出せない。夢の中にいるのだろうか。

 

 ふと、視線の先に誰かが見える。長い黒髪をたなびかせながら、徐々に俺の方へと近づいてきていた。見たところ女の人っぽいけど。

 

(なんで裸なんだろう?)

 

 その人に抱いた最初の感想はそれだった。そしてよく見たら俺も裸だった。恥ずかしい。

 

 黒髪の女性が至近距離にまで迫ってきた。目と鼻の先にその人の顔がある。このままキスでもするのかってくらいの距離だ。

 

 そっと、両頬に手を当てられる。俺は彼女の吸い込まれそうな赤い瞳に目を奪われていた。

 

 ゆっくりと頬から手が離れる。端麗な顔立ちをしているその女性はほくそ笑むと次の瞬間、俺の体の中にぬるりと入り込んできた。

 

(が…合体しちゃったよ…!?)

 

 何だこの展開は。一体誰がこんなこと予想できる。状況理解が出来ずにただただ困惑する俺の頭に、1つの声が響き渡った。

 

 ──そう驚かなくていい。

 

 それが体内からの声だと気づくのに、そこまで時間はかからなかった。

 

 ──私はお前、お前は私。2人で1つになったんだ。

 

 2人で1つ…?一体どうなってるんだ…?

 

 ──直に目が覚める。けどその時、私とお前どちらの人格がより濃く出てくるかは分からない。せいぜい頑張れ、少年。

 

 私に塗り潰されないように──。

 

 脳みそが追いつかない。ちんぷんかんぷんなまま、視界が白く染ってくる。

 

 抗うことも拒むことも出来ず、俺はただ流れに身を任せることにした。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

「…あ、知らない空だ」

 

 ゆっくりと開かれた瞼の先に、薄暗い夜の空が広がっていた。ここがどこで今が何時くらいなのか、今の状況を理解するのに少しだけ時間がかかった。

 

「そうだそうだ思い出したぞ。ヴィラン連合のアジトで捕まってたんだった」

 

 目を閉じる前の光景が徐々に思い起こされてくる。確かオール・フォー・ワンとかいう変な頭した男と喋ってて、変な薬でも盛られたか知らんけど意識を失ったんだった。…冷静に考えたらやばい状況だな。

 

「とにかく…周りに連合の奴らの姿は見えなさそうだし、今のうちにトンズラこくか。えーとスマホはっと…画面割れてる…」

 

 マップアプリと電車アプリで家に帰ろうとしたけど、スマホの画面はバキバキ、ついでに電源もつかないようだ。嘘だろ、最近機種変したばっかだってのに。最近のスマホって高いんだぞ。内蔵カメラの性能とかなんやらで。これもそれも全部オール・フォー・ワンのせい。後でアイツ殴ったろ。

 

 どうやってオール・フォー・ワンに吠えずらかかせてやるか考えている時、突風が巻き起こった。目も開けていられない程の旋風が吹いた後、地響きのような震動が地面を揺らす。どっかに怪獣でもいるのか?

 

「…待て、何だよここ…?」

 

 周囲の状況の凄惨さに気付いたのは、その後だった。建物と大地が割れ、まるで災害にでもあったかのような酷い有り様だ。それに、離れた所から聞こえてくる声…。

 

「誰かーッ!誰か助けてッ!!」

 

「痛い痛い痛い!」

 

「クソ…なんでこうなる…!」

 

 それらは市民の助けを求める声だった。倒壊した瓦礫に挟まれ身動きが取れない人。血に濡れた腕を抑えながら逃げ惑う人。ひたすらに泣き叫ぶ小さな子どもまで。

 

 数は決して多くない。だけど、この被害状況じゃ…。

 

「お前がやったんだよ」

 

 背後からの声に思わず振り向く。そこには死柄木弔が立っていた。

 

「俺が…?」

 

 そうさ、と目を細めながら死柄木は続けた。

 

「記憶の移植の影響なのか知らんがコトが済んだその瞬間、お前を中心にボカン!って感じで辺りをめちゃくちゃにしたのさ。なんだ?覚えてないのか?」

 

 死柄木の背後からゾロゾロと連合のメンツが這い出てくる。衝撃に巻き込まれたのか、奴らは皆砂ぼこりにまみれていた。

 

「俺が…これをやったのか…?」

 

 周囲からは劈くような叫び声。舞い上がる火の手。倒壊するビル群。これを全部…俺が…。

 

 頭が…理解が追いつかない…。いや、認めたくないという想いが心のどこかにあるのだろう。人々を危険な目に遭わせて、街をめちゃくちゃにして。望んでやってないにしろ、本当にこの状況を俺自身が作り出したというのなら。

 

「素晴らしい力だったよ」

 

 今度は頭上から、脳内を嬲られるような声がした。それがオール・フォー・ワンだということはすぐに理解できてしまう。奴は拍手をしながらゆっくりと俺の前に降り立った。

 

「肉体と精神の合致は上手くいったかな?今の君は愛生千晴でもあり、同時にアンナチュラルでもある。さて──これからの君は」

 

 瞬間、頭に割れるような痛みが走る。鈍器で思いっきり殴られたような、そんな痛み。同時に心臓の鼓動も早くなってくる。

 

「ぐっ…!くそ、もう何が何だか…!」

 

 声がする。記憶の片隅にうっすらと残っている誰かの声が。

 

「ははは、戦ってるね。いいよ僕は、どんな君でも受け入れる。強いて言うなら、彼女の方を欲しているけどね」

 

 クックックと笑うオール・フォー・ワン。きっとその黒いマスクの下は歪んだ笑みを浮かべているのだろう。

 

 そんなオール・フォー・ワンが、ゆっくりと手を差し伸べてきた。救いの手を差し伸べるかのように。

 

「さぁ再会の時だ。共に世界を担う存在になろう。"アンナチュラル"!」

 

 ドクンと心臓が跳ねた。

 

 あんなに激しかった頭痛が引いていく。むしろ段々と澄み渡ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる。

 

 周囲には知らない人間が複数、目の前には凶悪そうな仮面を纏った男。

 

 この男の雰囲気には憶えがある。

 

 確か…名前はなんて言ってたか。

 

 そうだ、思い出したぞ。

 

「オール・フォー・ワン。寝起きに見る顔じゃあないな」

 

「憶えていてくれたんだね、光栄だよ。──その黒髪に赤色の眼。精神が肉体に影響を及ぼすほどの君の生命力の証さ」

 

「お前の声はずっと聞こえていたぞ。何を言っているかは分からなかったがな。そういうところは昔から変わってないようだな」

 

 右手をゆっくり開き、そして閉じる。鼻から深く空気を吸い込むと、嫌な感じがした。目の前にカビ臭い男がいるからだろうな。

 

「で、一体どんなカラクリでこうなった?私はもうこの世から消えた存在のハズだが?」

 

「積もる話は後にしよう。今ちょっと面倒な奴に絡まれててね」

 

「面倒なヤツ?」

 

「ああ、国宝級さ」

 

 ズドンと何かが墜落した音がする。なんだ、隕石でも降ってきたのか?

 

 立ち昇った砂煙が強引に払われると、中から筋骨隆々で金髪を坂立たせた男が現れた。

 

「随分遠くまで飛ばしてくれたな」

 

「やけに遅かったじゃないか、オールマイト。やはりパワーが落ちているのかな?」

 

 知ってる男が知らない男と会話を始めた。オールマイト?知らない名前だな。鋭い眼光でオール・フォー・ワンを睨みつけているが、私を見つけるとほんの一瞬だけその瞳の中に優しさを滲ませた。

 

「愛生少年、無事だったか!私が来たからもう大丈夫!近くで隠れていなさい!」

 

「は?誰が少年だ、ガタが来ているのは肉体だけじゃないみたいだな」

 

「え?」

 

 隣にいたオール・フォー・ワンが高らかに笑った。なんだ?何か可笑しなことでも言ったか?

 

「これは傑作だなオールマイト。君が求めている少年はもういない。ここにいるのは彼の時代、暴挙を奮った女性だよ」

 

「おい言い方」

 

「女性…?貴様、さては寝ぼけているな?」

 

なんだコイツらめちゃくちゃ失礼な男共だな。レディの扱いを知らないようだ、困るね。

 

 構えを取るオールマイトとやら。標的はオール・フォー・ワンのようだ。それに対しオール・フォー・ワンは、余裕綽々というように腕を大きく広げている。

 

「愛生少年は返してもらうぞ!」

 

「傲慢だな、いつから君の物になったんだい?」

 

「やれやれ…いつの時代もモテる女は辛いものだな」

 

 激突へのカウントダウンが始まっていた。

 

 

 

 

 

 

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