君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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インターンの巻
#47 合いすぎてほら、パンイチになっちまった


 

 OK、みんな!事の顛末を説明するぜ!

 

 ヴィラン連合に攫われた俺──愛生千晴は、オール・フォー・ワンとかいう悪の親玉的な奴にアンナチュラルっていう昔に悪さしてた奴の記憶を移植されちまった!

 

 そのままヴィラン連合に引き入れられそうになったけど、持ち前の天才的な頭脳を持ってヴィラン連合の1人、死柄木弔をKO!

 

 そして俺を助けに来てくれたオールマイトも、過去の因縁があったらしいオール・フォー・ワンをぶん殴ってKO!オール・フォー・ワンはタルタロスっていう監獄にぶち込まれたって訳さ。ま、オールマイトは引退しちゃったんだけどね。

 

 そして俺は、突如として空から降ってきた最愛の嫁──拳藤一佳とお月さんのもと幸せなキスをして終了…。

 

 とまあ、簡潔にまとめるとこんな感じ。え?キスなんてしてないだろって?こまけーことはいんだよ、こまけーことは。大事なのは今、無事で病院のベッドの上に居れているってことなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壮絶な戦いだった…」

 

 雄英近くの病院に搬送された俺は、朝日を全身に浴びながら呟いた。全身は傷だらけの包帯ぐるぐるかっぱ巻き。念の為の点滴も受けており絶好調という訳ではなかったが、俺は割とピンピンしていた。

 

 今朝のニュースや新聞は、オールマイトの引退でもちきりだった。オール・フォー・ワンという巨悪を打ち倒したオールマイト…どうやら彼は力を使い果たしてしまったとのこと。普段の筋骨隆々な姿からは想像もできない細身で弱々しい格好を世間に示し、現役から退くことを決めた。デクとか凄いショック受けてそう。

 

 命の恩人だった──。オールマイトがいなかったら、まず間違いなくいま俺はここにいない。最悪、命を落としていた可能性だってある。たくさんのありがとうを伝えたけど、それでもまだ足りない。俺の傷が治ったら、また改めてオールマイトの元を訪れようと思う。

 

 オール・フォー・ワン、思い出すだけでも鳥肌が立つ。あの邪悪で歪んだ空気は常人が出せるものではない。オールマイトがとっ捕まえてくれたとはいえ、まだ生きてこの世界にいる。何故だろうか、また何か企んで世界に邪悪を振りまいてくるような気がしてならない。

 

「愛生さーん、朝食ですよー」

 

 カチャカチャと食器音を立てながら、可愛い系の看護婦さんが朝食を運んできてくれた。食パンにイチゴジャム、ゆで卵にヨーグルトも付いてきた。高校生は食べ盛りだからね、何でもモリモリ食べるのさ。

 

 朝食を食べながら思うのはヴィラン連合の行方。戦いの後警察やヒーローたちが血眼になって周囲を探したらしいけど、誰1人見つかっていないそうだ。これに対し黒霧のワープゲートでどこかへトンズラこいたというのが主な見立てだ。

 

 死柄木の個性…かなり強くなっていた。このまま放置しておくと、いちばんマズイのはアイツなんじゃないかと思うほどだ。初めはなんてことのないただのチンピラだったが、今は風景にしてはおけないレベルにまで成長している。

 

 オール・フォー・ワンと死柄木弔、この2人は世界にとって無視できない存在。そのことを胸に留めておくことにする。

 

『で?これからどうするんだ?』

 

 ポンと湧いて出てきた声の方を見る。そこには件のアンナチュラルが、窓際でチルっていた。○ットちゃんかおめーは。

 

 そんなアンナチュラルからの質問をよそに、俺は彼女の姿に指摘を入れる。

 

「なんか幼くなってねーか?前は年上のお姉さんくらいだったのに、今日は女子小学生くらいになってっぞ。服装も変わってるし」

 

 その言葉にアンナチュラルは「ん?」と目をパッチリ開かせた。ぴょんと窓際から飛び降りて黒いキャミソールがヒラリと揺れる。

 

『なんだ?前の姿の方が好みだったか?まぁ前の方が女らしい体つきではあったが…』

 

 言いつつベッドによじ登ってきた。膝付近にちょこんと座り、カラカラと笑うアンナチュラル。

 

『単純に力を使いすぎただけのようだ。直に元の姿に戻る。して、私の質問を無視するな』

 

 足のつま先で脇腹をつつかれる。なんだっけ…これからどうするかとか言ってたな…。

 

「これからか…どうもこうも、普通に学校生活を送るしかなくね?」

 

『ふむ、それしか無さそうだ』

 

 じゃあなんで聞いたんだよ…なんて言うと後が怖いのでグッと心に押し込む。今度は俺の腹の上で足先を遊ばせながら、アンナチュラルは言葉を続けた。

 

『だが、今のままでは次同じことが起きた時に無事で済む保証はないッ!』

 

 声を張り上げベッドの上で立ち上がるアンナチュラル。周りの人に迷惑だろ、と言いかけたが、彼女の姿は俺にしか見えていないんだった。

 

『いいか小僧、お前は弱い!私からしたら赤子と同レベル!よわよわの弱虫だ!』

 

「すっげ〜言うじゃ〜ん…」

 

 けど、否定できないのが事実だ。実際俺が林間合宿で脳無に負け、一佳が危険な目にあった。その後連合に連れ去られ、結果としてオールマイトを引退に追い込んでしまったんだ。そんな自分を誰が強いと言えよう。アンナチュラルの言うよわよわの弱虫というのがピッタリだ。

 

『オール・フォー・ワンはしつこい男だ。そんな奴にお前は狙われた。奴はあの手この手で仕掛けてくるぞ』

 

 腕を組み、まるで自分が経験したことのあるような口振りでアンナチュラルは言った。

 

「言われなくても分かってるさ、強くなんなきゃいけないってことは。そのための方法も、これから考えていかなくちゃ──」

 

『アホ、何を考えるんだ私がいるだろ』

 

「え?」

 

『私がお前を鍛える。それが一番手っ取り早い』

 

 とりあえず目をぱちくりさせた後、冷静になって考えてみると、結局それが一番の近道だと認識する。俺と同じ個性を持つ、俺より個性の扱いに長けた人物に道を照らしてもらう。こんなに分かりやすいことはない。

 

 アンナチュラルの力は絶大だ。体感して分かった、あの強さは俺のいる次元とは違うところにあるものだ。それに少しでも近づくことが出来るなら…。

 

『どうせお前から離れることは出来ないんだ。寝ても覚めてもお前が音を上げても稽古をつけてやる。そうすれば今より幾分かはマシになるだろう』

 

 ソワソワし始める自分がいた。強くなった未来の自分のイメージが、ぼんやりとだが出来始めてくる。もちろん血のにじむような努力は必要になるだろう。それでも、強くなりたい理由がある。

 

「温い特訓なんてお断りだぜ」

 

 フッと不敵に笑うアンナチュラル。この日から、新しい師弟関係が生まれた。師匠は元死人で、俺の記憶に宿る過去の人間。奇妙な関係性だが、それ故に出来ることもありそうだ。

 

 グッと自分の拳に力が入るのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

「じゃ、あんま無理すんなよ」

 

「おー、みんなありがとー」

 

 A組の皆が部屋から出ていくと、さっきまで騒がしかった病室が一気に寂しくなる。あいつら、人の部屋でどんちゃん騒ぎしやがって。楽しかった分あとが辛くなるだろ。やれやれ、俺はいつからこんなに皆のことが好きになったんだろうな。そんなことを思いながら、ちょっとだけ汚れてしまった部屋を片付ける。

 

 そんな時、コンコンと病室の扉を叩く音がした。

 

「どうぞー」

 

「失礼しますわ、愛生さん」

 

「八百万じゃないか」

 

 音の正体は八百万だった。手にはフルーツのバスケットを大事そうに抱えている。そういや、さっきみんなで来た中に八百万はいなかったか。個別で来てくれたんだ。

 

「お身体の方はいかがですか?」

 

 持ってきてくれたフルーツをベッド横の机に置き、八百万は全身に包帯を巻かれた俺の姿を見る。その瞳には申し訳ないという感情が宿っているように感じられた。そんな八百万を見かねて、俺は平気だということをアピールすることにした。

 

「ああもう全ッ然平気よ。今すぐここから抜け出して、盗んだバイクで走り出したいくらいだぜ」

 

「そ、そんなに!?でも泥棒はいけませんわ!」

 

 平気なのを証明する為に腕とかぶんぶん回して逆立ちも披露してみせると、八百万も驚いた様子でいた。そしてしっかり泥棒のことも指摘。うん、いつも通りの規律的な彼女だね。

 

 一旦落ち着いてから、持ってきてくれたバスケットに手を伸ばす。何だかやけにお腹が空く今日この頃。適当に取ったリンゴにガジガジとかぶりつく。その瞬間、俺の病院服が一気に弾け飛んだ。

 

 な…何だこのリンゴは…!今まで食べたことの無い程の旨味が、この中に詰まっている。溢れ出る果汁、噛めば噛むほど甘みが増幅する果肉。まさにパーフェクトなリンゴだ。そりゃ服も吹き飛ぶ訳さ。

 

「あ、お口に合いますか…?」

 

「合いすぎてほら、パンイチになっちまった」

 

「きゃっ!もう、しょうがない人ですね。すぐに新しい物を持ってきますから」

 

 そう言うと八百万は、近くにいた看護師さんを掴まえて新しい病院服を用意してくれた。それよか着替えている最中に、八百万からの視線を感じたのは気のせいだろうな。うん、気のせいか。気のせいだな。

 

「「それで…」」

 

 服も着替えて本題に入ろうとしたら、声が重なる。微妙に気まずい空気が流れて、2人目を合わせた。

 

「…どうぞ」

 

「お、おう」

 

 八百万に先を譲られた。コホンと気を取り直して、俺はずっと気になっていたことを口に出した。

 

「体の怪我はもう大丈夫なのか?その…脳無にやられた所とか」

 

 林間合宿の肝試しの時、俺と一緒にペアを組んでいた八百万は脳無に危害を加えられている。頭を鈍器で叩かれた八百万は、血を流して気絶してしまった。今は元気そうで何よりだが、打ち所が打ち所だ。まだ痛みとかあったら、なんて考えると非常に申し訳なくなる。

 

 それもこれも全部、俺が弱かったから。

 

「お気になさらず、もうすっかり平気ですわ。それよりも、私はあなたのお体の方が心配でしたわ…」

 

 まぁ今の見た目はほぼミイラだからね。

 

「私…私ずっと心配で…」

 

 八百万の声が上ずって聞こえた。見ると、八百万は瞳に涙を貯めている。そこから頬に一筋の涙が流れた。

 

「気を失って次に目を覚ましたら…周りがひどい有様で…。何とかクラスの皆さんと合流して、点呼と状況の確認をしました…。そうしたら…愛生さんの姿が見当たらないって…」

 

 口元を手で抑えながら、八百万は思いの丈をぶちまけるように続ける。

 

「ヴィラン達の言葉から、愛生さんが標的として狙われていて、ボロボロの状態で戦っていたって…轟さんが…!それを聞いた時、すぐに思ってしまいましたの…。私のせいだって…。早々にお荷物になってしまった私を守りながら、あなたは戦った…敵に連れ去られてしまった…。それもこれも全部、私が何も出来なかったからだって…!」

 

 せき止めていた涙が一気に溢れ出す。それは八百万の気持ちだった。八百万の気持ちはよく分かる。けどそれ以上に、俺は彼女に対して申し訳なさを感じていた。クラスメイトに、女の子にこんな顔をさせるなんて、あってはならないと…。八百万にそんな気持ちを抱かせてしまった自分が、ただただ憎い。

 

「それは違うぞ、八百万」

 

「違いありません!だって、私がもっとお役に立てていればあなたが傷つく必要も無かった…!全部…全部私の責任です…!」

 

 感情的になる八百万。彼女に申し訳ないなんて思って欲しくない。自分が全部悪かったなんて思って欲しくない。俺の中で渦巻いている感情は、そればかりだった。

 

 そんな自分ばかり責めないであげて欲しい。そう伝えてあげなくちゃいけない。だって、そんなことをしても苦しいのは八百万だけだから。そんな想いを引きずったままなんて、これから辛いだけだ。

 

 俺は泣きじゃくる八百万の頭に、ポンと手のひらを置いた。

 

「今回のことは、全部俺の弱さが招いたことなんだ。だから八百万、そうやって自分から辛い思いをする必要なんて無いんだ。俺なんかの為に、苦しい思いなんてしないでくれよ」

 

「でも…でも…!」

 

 小さな子をあやすように、そっと八百万の頭を撫でる。

 

「八百万が無事だった。俺もちゃんと帰ってきた。今はそれでいいじゃん。だからさ、もう泣くのもやめようぜ。俺は笑ってる八百万の方が見たいんだから」

 

「愛生…さん…!」

 

 顔をくしゃくしゃにしながら、八百万はおもむろに俺の胸に飛び込んできた。いつもの凛とした様相とは真逆に、色々な感情でぐちゃぐちゃになった彼女の背中をポンポンと叩く。

 

「ごめんなさい…わたし…なんにも…!こんな傷だらけにさせてしまって…!」

 

「気にすんな。俺は八百万が元気でいてくれたことがいちばん嬉しいよ」

 

 それから八百万は泣いた。子供のようにわんわんと。彼女が泣き止むまで傍にいて、目と頬を真っ赤にさせた姿がおかしくて2人で笑った。

 

「すみません長居してしまって。それにお恥ずかしい姿も」

 

「なーに、新鮮で可愛かったよ。また泣きたくなったらいつでも胸貸すぜ」

 

「ちゃ、茶化さないでくださいまし!」

 

 そうして八百万は病室を後にした。時刻は夕暮れ。オレンジ色の空が俺の部屋を照らしている。

 

 スゥーっと、俺の中から幽霊のようにアンナチュラルが這い出てきた。八百万が去った後の扉をじーっと見つめている。

 

「どうした?」

 

『別に…。にしても小僧、おまえ本命がいるんじゃないのか?それともアレか?ぷれいぼーいというやつなのか?』

 

 どこで覚えたそんな言葉。そう思いながら、ふよふよ浮かぶアンナチュラルに目を向ける。

 

「そんなんじゃないさ。ただ大切なだけだよ。八百万やデク、爆豪と轟、クラスのみんなも」

 

 守っていかなくちゃいけないと思った。奪われたくないと思い始めた。それくらい皆が俺の中で大きな存在になっていたことに気づく。

 

 その時、脳裏を掠めたのはスーパーヴィランであるオール・フォー・ワン。それと敵連合の面々、それに死柄木弔。

 

「なぁ、オール・フォー・ワンってこのまま大人しくしてると思うか?」

 

「100%何か仕掛けてくると思うぞ。直接的にしろ、間接的にしろ」

 

 間を空けずにアンナチュラルは答えた。それだけ確証を得ているんだろう。オール・フォー・ワンは、ただ牢屋で大人しくしてくれるほど楽な奴ではないと。

 

 ──強くならなきゃ。

 

 じゃなきゃ、大切な人を守れない。

 

 ──強く在らなきゃ。

 

 じゃなきゃ、いつ奪われるか分からない。

 

 平和の象徴はもういない。大黒柱を失ったこの国で皆が笑って暮らせるようにする為には、ヒーローが必要だ。ただのヒーローじゃない。オールマイトのような、圧倒的な強さを持つヒーローが。

 

「最高のヒーローか…」

 

 俺の胸の中で、1つの灯火が宿った。

 

 

 

 

 

 

 

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