ちゅんちゅんと鳥のさえずりが聞こえてくる朝。
眩しい朝の光が部屋の中に降り注ぎ、その明るさによって思わず目を覚ます。
なんて心地の良い寝覚めなんだ、今日はきっといい日になるに違いない。そう思いながら、徐々に覚醒していく頭と感覚を取り戻していく体。
鮮明になっていく脳みそが、段々と俺の今の状況を教えてくれる。
誰かに抱きしめられている感覚…おかしいな、誰かと一緒に寝た覚えは無いのだが…?背中に腕を回され、太ももは絡まされ、まるで抱き枕のようになっていた。
極めつけは顔に感じる柔らかな感触…これは…一体なんだろう…?何だか妙に安心する心地良さだ…。ずっとここに居たいような、誰かに守られているような…。俺は幼き日の、母親に抱きしめられている時のことを思い出していた。
少しずつハッキリとしていく視界。目の前には黒い景色が広がっている。恐らく、俺を抱いている人物のパジャマだろうか…?呼吸音に合わせてゆっくりと体が上下していた。漆黒の髪の毛が朝日に照らされている。
誰だ…?俺のベッドに潜り込んできている人は…。この暖かくも柔らかな感触…悪くない…。このままここで過ごしていたいが、今日も今日とてやることがある。
「むー、むー」
何とかホールドから抜け出そうとしたが、俺を掴んでいる腕や足にやけに力が入っている。なんだこれ、絞め技でもかけられてるのか?動いても動いてもビクともしないんですけど。ちょっと苦しくなってきた。
「うー!むぅー!」
「…うん?なんだ…もう少し寝かせてくれ…」
その声を聞いてハッとした。そして、俺を抱きしめる力はさらに強くなる。もう無理だ、これじゃこの目の前の人物が起きるまでここから出られそうにない。俺は確信していた。
「まだ…あと少し…あと5分だけ…」
力を取り戻してすっかり元の姿に戻ったアンナチュラルが、布団の中で俺を抱き枕にしていた。
○
夏休みが明けてからの雄英高校は、やけに慌ただしかった。
まず大きな変化としてあったのが、全寮制の導入である。
USJでのヴィラン襲撃や林間合宿から連なる神野区決戦。これらのヴィランの脅威から俺たち生徒を守る為に、雄英は生徒たちの全寮制を導入することに決めた。目的こそ生徒たちをヴィランから守る為であるが、同じクラスの子たちとずっと一緒に居られるのは、俺たちからしたら嬉しいことこの上ない。 学校も始まって何日か経つが、やっぱり皆での共同生活は楽しい。ただ、ある一点だけを除いては。
「相澤先生ーッ!!何故俺の荷物がここにあるんですかッ!?入居した時にバレないよう一佳の部屋に持っていってたのに!!俺と一佳の夢の二人暮しのプランが!!」
「アホ抜かせ、そんなことが許されると思ったか。それ以上程度の低いこと言うなら、俺と同室にするぞ」
雄英の生徒全員が同じ敷地内にある建物に住み始めたということは、一佳もすぐ近くに寝泊まりしているということになる。目と鼻の先に一佳がいる。そんな夢のような状況、この俺が見過ごす筈も無い。
さも当たり前かのように、一佳の部屋に俺の荷物を配送依頼。予定では今頃同室で楽しく荷解きをしている予定だったが、それは教師側にNGを食らったようだ。ちくしょうが。
仕方ない、それなら毎日B組の寮に遊びに行くとするか。それなら問題は無いだろう。夜ご飯やその後の自由時間は向こうで過ごすことにしよう、いいぞ楽しくなってきた。え?夜間に寮の外に出ることは禁止?絶対いま作ったでしょそのルール!
「っていうか、俺いつも一佳に起こしてもらってたんだった。どうしよう、1人じゃ起きられない」
「ホントに高校生かコイツ」
恥も外聞もかき捨てた俺に死角はない。でも仕方ない、こうなったら超高性能目覚まし時計でも買うとするか。そんなことを考えていると、八百万が近くに寄ってきた。
「愛生さん、よろしければ私が起こして差し上げましょうか?」
物凄く柔和な笑顔でそう言ってきた。そうだな、真面目な八百万なら毎朝きっちり決まった時間に起こしに来てくれそうだ。何ならその後の身の回りのお世話もしてくれそうな雰囲気すらある。これは…アリなんじゃないのか…?
「OK助かる。俺の部屋の鍵渡しとくわ。お礼は都度考える。とりあえず今週は一緒にどっか出かけよう」
「はい!よろしくお願いしますわ!」
「それでいいのかお前たちは…」
いい!朝授業に遅刻しない体制が整ったらそれでいい!なんだ峰田、そんな恨めしそうな顔をして。悔しかったらヘアスタイル変えてセ○ビックでもガブ飲みしてるんだな。
という訳で次にあったのは仮免試験。ヒーローになるには避けて通れない試験で、皆でバスで遠い所まで行って受験してきました。
1次選考では、自分の体に付けられたターゲットを守りながら、他人のターゲットに渡されたボールを当てる的当てみたいなものだった。これまたイージーな内容で、俺にめがけて飛んできたボールたちは超能力でせき止め、逆に俺のボールは超能力で操作し相手の的にぶち当てる。これだけの話だ。雄英潰しとかいう陰湿で姑息な手を使ってきたヤツらもいたが、もちろん全員返り討ちにしてやった。一昨日来やがれってんだ。
続く2次選考、災害現場を模したフィールドでの救助活動演習。怪我や逃げ遅れた市民に、如何に適当な対応をして救助が出来るかを見定める内容だった。こちらも相澤先生達に習ったやり方で順調にこなしていき、ヴィラン役のギャング・オルカと交戦しながら何とか試験は終了。なんか轟が他校のよく分からん奴と乳くりあってたけど、それ以外は特に問題も無さそうな雰囲気だった。
結果は合格!晴れてヒーローの仮免許証を取得することが出来たんだ。と言っても喜びは程々にしておいた。理由は、轟と爆豪が不合格という結果になってしまったからだ。どうやら2次選考の際の動きが良くなかったらしい。そんな2人と他校の試験に受からなかった人達には、特別補習があるらしい。頑張ってくれぃ!
からのその日の夜中にデクと爆豪が大喧嘩!敷地内でかなり派手にやってたみたいだ。俺はぐっすり寝てたから全く気付かなかったけど!朝起きたら2人とも包帯巻いててビックリした。そして数日間の謹慎を食らい、ようやく昨日デクが戻って来た。なんか数日で皆と開いてしまった差を埋める為に、鼻息を荒くしてたな。ちなみに、爆豪はまだハウスで大人しくしている。
続けて舞い込んで来たのは"インターン"の話。こちらは言ってしまえば前に行った職場体験の本格Ver.とのことで、学校の許可を得て任意で行う校外活動のことだ。勿論、プロヒーローの管理の下で行われる。雄英と提携を結んでいるヒーロー事務所の元へ向かう人もいれば、職場体験で得たコネクションを使って参加する人もいるとのこと。俺で言うとレディ・ナガンということになるな。
そして、その詳しい話をしてくれるという事で、俺達の教室にとある3人組がやって来ていた。
前髪を上げた金髪のガタイのいい男の人と、黒髪の鋭い目付きと尖った耳をした人、先端がねじれた水色のロングヘアの女子生徒。聞けば3年の先輩方とのこと。デクが後ろの方で「昨日の…!」とか呟いてた。なんだお前、既に面識あるのか。
「今日来てもらったのは、雄英高校"ビッグ3"の3人だ」
「び…?」
「ビッグ3…だと…?」
俺達はどよめいた。それと同時に思考を巡らせる。
ビッグ…ビッグ3だと?一体何がビッグだと言うのか、まずはそこからだ。外見…金髪の人は確かにビッグなボディをしている。
水色の先輩は…そうだな…確かに色々とビッグなポイントが見られる。どことは言わないが、なかなか立派なものをお持ちのようだ。
黒髪の先輩は…確かに身長はスラッとしていて大きく見えるが、彼よりビッグな人間は他にもいる。なら一体何がビッグなのだろうか?見えない所…?隠されている所か…。まさかジュニア…!下腹部に秘められし男のシンボルが、まさかビッグなのではないだろうか?パッと見そんな風には見えないが、意外とそういう人の方がっていうのもある。いやそれだと金髪の人の方なんてまさにじゃないか。あの派手な外見なら中身も派手なんじゃないか?派手に生え散らかしているのかもしれない。もう派手派手だぁ。
「おい愛生、何ボサっとしてる。もうみんな訓練場に移動したぞ」
「はっ、いつの間に…!」
気付けば教室には俺と相澤先生しか居なかった。しまった、インターンの話なんにも聞いてなかった。
○
ジャージに着替えていざ推参。場所は訓練場に移る。俺たちA組の面々の見据える先では、金髪の先輩がえっちらおっちらとストレッチをしていた。名を通形ミリオと言うらしい。黒髪の人が天喰環、水色の人が波動ねじれ先輩だ。
どうやら今からインターンの有用性を示す為に、通形先輩が俺たちと組手をしてくれるらしい。よく分からんが、インターンに行けばこんなことが出来るようになるよってことを伝えたいのかな。にしても爆豪と轟を除いたクラス全員に対して、通形先輩1人で勝負になるのだろうか。舐めている訳じゃないが、戦いは基本数だ。人数に勝るものは無い。それなのに、通形先輩のつぶらな瞳は依然輝きを放っていた。って言うかあの人ちょっとタ○タ○に似てるよな。
戦うということであれば、もちろん全開で行かせてもらう。先輩と拳を交える事が出来る機会なんてそうそう無い。ここいらでぎゃふんと言わせて、1人でかかってきたことを後悔させてやろう。そうしよう。
A組の塊の最後尾で準備運動をしていたら、トコトコと近寄ってくる人影が。
「ねぇねぇねぇ愛生くん!なんで遅れたの?私たちが話してる時、ずっと何かを考えていたような気がしたんだけど。いったい何を考えていたの?」
「おっふ、波動さん。考え事…?いや、そんなのしてないっすけど…?」
「えぇ〜ほんとぉ?凄く真剣な表情で私たちの方見てたんだけどなぁ」
「ははは、やだなぁ先輩。ご覧の通り僕アホなんで、頭ん中カラッポなんですよ。ま、その方が夢詰め込めるって言いますけどね」
言えるかぁ!ビッグ3の御三方を見て何がビッグなのかを考えてたなんて死んでも言えるかぁ!
「あははは!それなんか聞いたことある!愛生くんおもしろ〜い!てかさてかさ、なんで今日あの子いないの?ほら、頭ツンツンの目付きがヤバい子!」
「爆豪のことっすね。奴は深夜徘徊で寮に監禁されてます」
「へぇそうなんだ!それと私気になってたんだけどね、超能力って人とか浮かせられるんでしょ?私のこと浮かせてみてほしいなぁ」
「お安い御用ですよ!」
凄いなこの人!無限に話し続けるじゃん。てか話題コロコロ変わりすぎだろ!好奇心旺盛って言うのかな、常に目が純粋な色をしている。
「おい波動、お喋りはその辺にしておけ。通形、やるなら早くしろ。時間も限られてる」
「怒られちゃった」
そう言いながら、波動先輩は端っこの方へ。俺は通形先輩の方へ改めて向き直る。
「OKイレイザー。そろそろ始めようか!」
「いい機会だ。お前ら、しっかり揉んでもらえよ」
それじゃあ──と、通形先輩が地面を強く踏みしめた。それ見るや否や、A組の和から緑色の閃光が飛び出した。赤いコスチュームシューズを履いたデクが、通形先輩に向かって最近練習しているとかいう蹴りを浴びせに行く。
まずは様子見…先輩の個性や出方を伺う。皆には悪いけど、先輩の力量を計る為に利用させてもらうとしよう。
先陣を切って飛び出したデクの攻撃が、通形先輩の顔面を捉えようとした──その瞬間だった。
「消えた」
ひゅるりと通形先輩が地面に吸い込まれた。無論デクの蹴りは空を切る結果になる。目を丸くさせながらデクは、周囲をキョロキョロと見渡していた。
「まずは…意外と分析派なキミからかな!」
突如、俺の背後からそのような声が聞こえてくる。振り返ると、そこには何故か裸の先輩が拳を握りしめて飛びかかって来ていた。
俺は空間を操作し、見えざる壁を作ってそれを通形先輩の拳と激突させる。「ほう」と先輩は小さく呟くと、バック宙で俺から距離を取った。
「君の個性、"超能力"だったよね?聞いてた通り色んなことが出来そうだ」
「でも次には対策してくるんスよね?」
「もっちろん、既に策は整えた!」
瞬間、再び地面に飲み込まれる先輩。後ろでクラスの皆がどよめく中、俺はエネルギーを両手に集約させ、皆に呼びかける。
「離れてろ!!」
言った瞬間、地面に手のひらをぶつけた。集めた力を地面に流し込み、爆発させる。すると地面は砕かれ、瓦礫と共に通形先輩が飛び出してくる。
「やるね」
「まだまだこっからっスよ」
雄英高校ビッグ3、言わばこの学校の頂点なんだろう?
テッペンと今の俺との距離、それがどれほどなのか。
それを知るいい機会だ。