ビッグ3の方々からインターンについて説明を受けた次の日。かっちゃんも謹慎から解けたのもあり、相澤先生は改めてインターンについて話をしてくれた。
「──とまぁ…昨日もあんなこと言ったしやったが、協議の結果今年の1年はインターン参加は"やめとけ"という意見が多かった」
「「「「「えええええ!!!!!?????」
凄い、いま雄英が揺れたぞ。
けどまあ、気持ちは分からんでもない。昨日の先輩との戦闘は、インターンでの実戦経験が、これから俺たちがもっと強くなる為に必要不可欠だよって事を思い知る為に行われたんだ。皆の気持ちも、インターンに対して前のめりになっていても何らおかしくは無い。
「ハッハッハァ!!ざまぁ!!」
端の方でかっちゃんが吠えていた。どうやら昨日1人だけ参加出来なかったことを悔いており、皆が足踏みしかけている状況が嬉しいようだ。性格が悪いな相変わらず、流石ドブを下水で煮込んだような男。
しかし、あくまで意向は"やめとけ"だ。インターンだめ、絶対という訳では無い。どうやら過去にもインターン生の受け入れ実績がある事務所ならば、今回は参加しても良いとのこと。となると、大手のプロヒーロー事務所がメインになってくる訳だ。
ブーとスマホのバイブ機能が作動する。誰かからメッセージが届いたようだ。朝のHR中だが少しくらいなら良いだろう。俺はポケットからスマホを取り出し、画面をチラリと見やる。
「全く、気が早いことやら」
○
週末、とある人物からお呼びがかかった俺は、これまたとある場所に赴いていた。相変わらずの薄暗い通路を、ひたひたと歩き続ける。
『ふぁ〜あ…。おい小僧、こんな朝早くからどこに向かってるんだ?』
俺の頭上で大きなあくびをしながら、アンナチュラルが聞いてくる。どうやら昨日は夜更かしをしていたらしい。夜遅くまでTVに齧りついていたな。ていうか、今のこの人に眠いとかの感覚があるのか。記憶を移植されただけの存在の筈だろうに。
「前に学校で話してたろ?インターンのこと。俺を受け入れてくれるありがた〜い話が来たんだ。そこでビシバシ鍛えてもらうって寸法よ」
『ふ〜ん、物好きな奴も居たもんだな』
「おい」
仮にもあなたの宿主でしょうに。それに、最近は特訓にもたくさん付き合ってもらってる。曲がりなりにも、己の弟子にそんな言い方しなくても。
『…私さえ居たらそれでいいだろ』
「え?なんか言った?」
『べっつに〜。ほら、さっさと行かないと遅刻するぞ』
「なんなんだよ…今日は一段とツンツンしてんな…」
どうやら今日はツン全開なアンナチュラルさんのようだ。そんな彼女にやれやれしながら、自動ドアをくぐり抜ける。
「お、来たな」
そこは公安の会議室。並べられたデスクと、目の前の巨大なモニターが懐かしい。そして、俺を呼び出した張本人は、俺が入ってきたのを見つけると手でこっちだと合図した。
「うす。久しぶり、ナガン」
「だな。ちょっとデカくなったか?」
「かもね。ナガンを抜かす日も近いかもよ?」
ナマイキ言うんじゃねぇ、とナガンに頭をくしゃくしゃとされる。
そう、今回俺をインターンに呼んでくれたのはこのレディ・ナガンだ。彼女には職場体験の時にもお世話になっている。職場体験からのパイプでインターンに参加するのはよくある話らしいが、まさにそういうことだ。
「でもありがとね、インターンに呼んでくれて。なんか学校側じゃ、控えるようにみたいな意見もあるらしくって」
「まぁ、近頃の事情も考えたら妥当な考えだな。全寮制にもなったんだろ?あんまり生徒を外に出したくないんだろうよ」
「かもな〜。でもさ、なんでまた俺を呼んだんだ?。もしかして俺に会いたくなったとか?」
少し意地悪な笑みを浮かべてそう聞くと、ナガンにデコピンされた。
「ガキがませたこと言うんじゃないよ。呼ばなくても、どうせお前の方から声掛けてくるだろうに」
「間違いない、よく分かってるじゃん。それに、そろそろナガンに会いたくなってきたところだしね」
『は?』
「ばーか、滅多なこと言うんじゃねえよ」
ん?なんかいま一瞬凍りつくような声がしたんだけど。気のせいか?気のせいだな、そういうことにしておこう。背後の空気が少し重くなったのも、なにかの偶然だろうな。
ナガンと他愛ない話をしていると、俺たちの元へ向かってくる人影が1つ。その人物を視界に捉えると、俺は思わず声を上げてしまった。
「あー、黒雪じゃないか!無事に退院出来たんだな!」
「はい、おかげさまで。相変わらず元気そうでなによりです」
現れたのは黒雪だった。前にあった時は病院で、その時はえらく落ち込んでいたんだよな。だが今は、ニコリと優しく微笑みを咲かせている。うんうん、今そうやって笑えてるなら万事OKだ。女性は笑顔が1番って言うからね。
「公安で頑張ってるみたいだな」
「個性は失いましたが、今は事務員として籍を置かせて頂いております。今回の千晴さんのインターンにも、お力添えをさせて頂く予定です」
言って黒雪は俺の目の前まで近づき、右手をギュッと握ってきた。
「力の限りサポートさせて頂きますわ。困ったことがあれば、何でも仰ってください。勿論、お仕事以外のことでも」
『何だこの小娘は』
「おぉー、そいつは頼もしいな。ま、仲良くやろうぜ」
ニコッと黒雪が笑う。もう落ち込んだりはしていないようだ。そのことに安心しつつ、ナガンが話を進めたそうにしていたのでそちらに意識を切り替える。
「さてと、だ。今回お前を呼んだのは他でもない。ある仕事を手伝って欲しいからだ」
「困ってる人は助けてやんよ。俺やってやんよ」
「頼もしいな…。けど、今回ばっかりはそんな軽い気持ちで臨まれちゃ困る。そんだけの案件が舞い込んできたんだ」
ナガンの一言で空気が張り付いた気がした。そうだ、ここからはプロの仕事。学生気分でやれる領域の話じゃない。公安も俺を戦力の1つに数えているということか…。実力を認められて嬉しいような、緊張するような。
黒雪がリモコンを操作すると、モニターにとある男の写真が映し出される。短髪に切り揃えられた、口元のマスクが特徴的な男の写真。なんだっけこれ、ペストマスクって名前だったような。うーむ、なんか引っかかるな。どっかで見たことあるような。
「──職場体験の時のヴィラン!確か…フットワークって名前だったっけ!」
コクリとナガンが頷く。モニターにもう1つの写真が出てくる。そこには過去に俺とナガンで退治したヴィラン──フットワークが映し出されていた。そうそう、確かこんな奴だった。異常に強い蹴りが特徴だった奴だ。
「そう、このフットワークは既に逮捕済み。今回私たち公安が目を光らせているのは、こっちの男。名を
フットワークの顔写真が消され、モニターには治崎廻と呼ばれる男の写真のみが残る。フットワークと似たマスクを付けたその男の目つきは、鋭く冷たい。
「今度はコイツが悪さしてるんだな?そんで俺たちで懲らしめてやろうと」
「正確にはまだ目立った悪行はされてない。ただ、怪しい動きをしているのは確かだ。今は様子見状態…だが、それも時間の問題だろう」
ピッと黒雪がリモコンのボタンを押す。また新しい写真が出てきた。そこには、治崎廻と一緒に歩くもう1人の男が映っている。この特徴的な頭部…覆面で顔全体を覆っているのは…。
「ヴィラン連合…!?コイツらグルだったのか!新メンバーとか集めてたんだな」
「正式に手を組んだかどうかは分かりません。ただ、ヴィラン連合と治崎廻が若頭を務める
次いで出てきたのはどこかの倉庫のような場所の写真。倒壊した倉庫と、その周りを警察とパトカーが囲んでいる。なるほど、ヴィラン連合と死穢八斎會がここで会って、お話してたんだな。けどこの惨状を見る限り、喧嘩して終わったみたいだ。
「現状、奴らがどこまで関係を深めているかは不明。だが私たちはこの事態を危機と捉え、既に多くのプロヒーロー事務所に情報を共有…全国区で捜査を開始している」
ふぅと息をつき、モニターを見ていたナガンは俺へと視線を注ぐ。
「ハッキリと分かっていない部分が多くてすまない。しかし、放っておけないのも事実。プロヒーロー達が全力で捜査を行っているが、数は多い方がいい。それに今後のことも考えると愛生、お前の力も必要だと私は考えた」
ナガンが俺の元へ寄ってくる。視線は外さず真っ直ぐに。そして右手を差し出してきた。
「頼む、私たちに力を貸してくれないか?今度は学生じゃない、1人のヒーローとして」
本気の目をしていた。本気でこの人は俺の力を必要としている。職場体験の時のような、学生ヒーローを見るような目じゃない。俺を1人のヒーローとして認め、協力を要請している。
「千晴さん、私からもお願いします。一緒に奴らの悪巧みを阻止してください」
横にいた黒雪が頭を下げた。彼女も本気だ。個性が無くとも、自分に出来ることを精一杯やろうとしているんだ。それが黒雪の選んだ償いの道。
──こんなの、初めから答えなんか決まっている。
俺はナガンの手を力強く握り返した。
「了解ナガン。一緒に日本の平和を守り抜こう」
ナガンが薄く微笑む。まるで俺がそう言うと分かっていたように。
かくして、俺のインターン活動が始まった。
○
【Side:???】
薄暗い部屋。
私に用意された、1人用のお部屋。
そこにはベッドと小さな机という、必要最低限な物しか置いていない。
質素で、空虚で、何も無い部屋。
私はその部屋のベッドで、小さく纏まっていた。
体を縮こまらせ布団にくるまれば、少しだけ守られているような気になるから。
けど、それがただの思い込みに過ぎないことは理解している。
ただのお布団が私を守ってくれることは無い。
縋るものが無い怖さを、私は知っている。
パチンと音が鳴り、部屋がパッと明るくなる。誰かが電気を付けたのだろう。急な部屋の明るさの変化に、私は目を細める。
あの人が来たんだ。
「お寝坊さんは誰かな?」
低いながらもどこか優しさを含ませた声色。けどそれが、私を油断させるものだということは最近知った。
他人は信用しちゃいけない、期待してはいけない。
幼い私にも分かる、この世界のルール。
「ダメじゃないか壊理、ちゃんと起きないと。せっかく作った朝ごはんが冷めてしまう」
スタスタと私に近づいてくる足音がする。嫌だ、来ないで。近づかないで。そう思っても声に出すことは出来ず、ただただ体を震わすことしか出来ない。
「さあ、早くベッドから出て。今朝は壊理の好きな目玉焼きを作ったんだ。皆も待ってる。早く食卓へ行こう」
みんな…。あの変なマスクをして顔を隠している人たちのことだ。あの人たちが、私が食卓に並ぶのを待っている。
シーツを剥ぎ取られ、体をゆっくり起こされる。やけに動作が丁寧なのには理由があるのだろうか。
「お腹空いてるだろう?沢山作ったから、温かいうちに食べようか」
私には分からないことが多すぎる。なぜこんな場所にいるのか。なぜ目の前の男の人が優しく微笑みかけてくるのか。なぜこの人が若頭と呼ばれているのか。
なぜこの人が、白く綺麗な割烹着を身に纏っているのか。
「さぁ壊理。オバホママの手料理をたんと召し上がれ」
私には、分からない。
いったい何が正しくて、何が間違っているのか。
ただひとつ、私の中で確立している想いがある。それは──。
誰か、誰か助けに来て──!!
この環境にずっと居てはいけないと、私はそれだけ理解している。
なお、若頭の頭はおかしくなっております。