君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#52 うるさい!!俺はお兄ちゃんだぞ!!

 さぁ始まりました、雄英高校秋のインターンシップ。

 

 今回の内容はこちら、死穢八斎會というヤクザ達の悪行のシッポを掴み、悪いことをされて危機に陥る前に叩き潰してしまおうという訳だ。

 

 死穢八斎會のボス、治崎廻は特徴的なペストマスクを常に装備している。センスの欠けらも無い一品だが、どうやら彼は街中を歩いている時でもそれを装着しているらしい。めちゃくちゃ目立つだろうな。

 

 それゆえ、今日俺が命じられたお仕事は街のパトロール。死穢八斎會の支部があるエリアをうろちょろして、あわよくば構成員の動向を探るのさ。

 

『千晴さん、聞こえますか?』

 

「OKOK、ちゃんと聞こえてるよ黒雪の声が」

 

 出てく時に渡されたのは1つの通信機。超小型サイズで耳にはめ込んで使うようだ。正直小さすぎて耳の奥の方にまで入っていきそうだが、そうなったらそうなっただ。そいつから黒雪の声が聞こえてくるため、基本指示などはそれを介して行われる。

 

『レディナガンも言っていましたが、基本は市街のパトロールを装ってください。装うと言ってもちゃんとそっちもして欲しいですが、あくまで本当の目的は死穢八斎會の足取りを掴むこと。仮に構成員に遭遇したとしても、一旦は変に詮索せず上手くやり過ごしてください。その後の指示は随時こちらからします』

 

 何だか様になってるね、黒雪ちゃん。その可愛い声がダイレクトに鼓膜に響くから耳が幸せ。なんて言ったら恐らくあいつ照れて仕事が手につかなくなりそうだから、心の奥にしまっておくことにしよう。

 

「死穢八斎會のメンツに、なんか特徴とかあるの?やっぱみんなマスクしてるとか?」

 

『恐らくそのハズです…。しかし、末端の者までそうしてるかどうかはちょっと…。情報が不十分で申し訳ないです』

 

「気にすんな。俺はこうしてお前と仕事出来るだけで嬉しいからさ」

 

『…私もです』

 

 さてと、いつまでもおしゃべりをしている訳にゃいかんぞ。やることはきっちりやらんとな。今は高いビルから街を一望しているが、なかなかに住みやすそうな街だ。人が行き交う繁華街から、なんだか危ない人たちがたむろしてそうな薄暗い路地裏まで何でもござれ。普通に生活する分にも問題ないし、悪いこともやろうと思えば出来そうなエリア。ヤクザが普段なにしてんのかは分からんが、どうせ暗い所でコソコソやってんでしょうに。そういう所にも、目を光らせておこう。

 

「とりあえず下に降りるか。よっと!」

 

 ビルから飛び降りて地面に華麗に着地。拍手をしてくれた通りすがりのおばちゃん達に手を振りつつ、パトロールを開始する。と言ってもやることは事件や事故が起きていないかのチェックや、市民の皆様のお困りごとの解決といった地道なこと。

 

 職場体験を経た麗日も言っていたな。こういう小さな積み重ねが、支持されるヒーローへの近道なのだと。爆豪とか出来なさそうだけどな。あいつがお年寄りの荷物持ってあげてる姿とか想像できん。身の丈に合わねぇモン持つな!とか言ってきそう。ほとほとヒーローには不向きな性格をしておられる。

 

 常に警戒心を保ちつつ、一般の方々には弾けるような笑顔を振りまく。体育祭で顔は割れてるからな、俺のことを知ってくれている人もちらほらいた。中には一緒に写真を撮ってくれと言ってきた人もいた。しかも女子!インカムの向こうで黒雪が面白くなさそうな反応をしていたが、これもヒーローの仕事。ファンサってやつだな。なんだか有名人になった気分。

 

 適当に昼食を済ませて午後の部開始。そう意気込んでいた時、出来事が起こった。

 

「きゃっ」

 

「おっと、ごめんよお嬢ちゃん。俺のズボンがアイスクリームを食っちまったらしい」

 

 ドンと小さな女の子が俺の足にぶつかる。跳ね返って地面に転がってしまったその子を、優しく抱き抱えて服に着いた砂埃を払ってあげる。

 

「あ…あの…」

 

「なーに、気にすんな。ほら、このお金でもっと立派なアイスを──」

 

「私…アイスなんて持ってない…」

 

 目の前のいたいけな少女は、小さな声で呟いた。5〜6歳くらいの年齢だろうか?ボロボロの布切れみたいな服に、腕や足に巻かれた包帯。極めつけは、頭に生えている小さな角に白い髪の毛。

 

 何故だろう、どこか見覚えのある様相をしている。俺はこの子のことを知っているような気がする。

 

「君、俺とどこかで会ったことはある?」

 

 いやナンパか。一瞬自分でもそう思ったが今はいい。何故こうもこの子に既視感を覚えるのだろうか。

 

「いや…無いと…思います…」

 

 風に揺られる白髪と、ルビーのような赤い瞳。その時、俺の中で呼び起こされた記憶があった。

 

 あれはそう、職場体験の時だ。フットワークの自宅を漁っていた時。女児用のおもちゃが転がっていたあの部屋で見た、1枚の写真。

 

 写真の女の子と目の前にいる子が同一人物だということに気づくのに、そう時間はかからなかった。

 

 フットワーク、死穢八斎會、写真の女の子。あらゆる点と点が線で結ばれていく。

 

「何をしているんだ、壊理」

 

 そこに近づいてくる1つの足音。その主が誰かなんて、俺はとっくに予想がついていた。

 

 前にナガンに見せられた写真の男。死穢八斎會の若頭。ペストマスクが特徴的な、短髪で鋭い目つきの男。

 

「人様にぶつかったのか?ちゃんとごめんなさいをしなさい」

 

 治崎廻が、俺の目の前に現れた。

 

 しかも──。

 

「割烹着…だと…?」

 

 ご丁寧に三角巾まで添えて──!

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

【Side:壊理】

 

 

 

 

 目の前のお兄さんは、私の背後にいる人を見て目を見開いていた。

 

 驚いているような、内心少しの恐れも抱いているような目だった。

 

「壊理、いつも言ってるじゃないか。何かしてもらったらありがとう…。悪いことをしてしまったらごめんなさい…だ。ほら、ちゃんと口に出して言って」

 

「お母さん属性も…だと…?」

 

 お兄さんが声を震わせていた。おかあさんぞくせい…?一体それはどういう意味なのだろう。この人のことを指して言っているのは、何となく分かる。

 

「あ…あ…」

 

 葛藤。私の中にあるのはその想いだけだった。

 

 TVっていう小さな箱から流れる映像で、前に見たことがある。ヒーロー…悪い人たちから皆を守ってくれる人のこと。

 

 初めて会う人だったけど、目の前のお兄さんがそういう人なんだっていうことは雰囲気で理解できた。

 

 助けてもらえる──そう思うと同時に、もう1つの懸念が頭をよぎる。

 

 私にしてきた酷いことを、この人にもするんじゃないかという不安が。

 

「想定外の格好で出てきたな…。そうか、そういう可能性もあったな…。俺もまだまだだった…」

 

「ああ、この格好のことですか。気にしないでください、これはただの趣味です」

 

「素敵な趣味をお持ちのようで」

 

 どうしよう…どうした良い…分からない…なにが正解なのか…私には…。

 

 感情がただ渦巻くだけで、行動に移せない。いつもの私と同じ。不安で押し潰されそうになった時、私の体が優しく包まれた。

 

「──で、この子に何してるんです?」

 

 ギュッと私を抱きしめる腕に力が入ったのを感じる。

 

 何故だろう…凄く安心する…。初めて会った人にこんな気持ちを抱くなんて。

 

 気付けば、私もお兄さんにギュッとしがみついていた。

 

 この人なら私のことを助けてくれる。

 

 確証のない確信が、私の中に芽生え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 

 ──おっと、まさかいきなりエンカウントするなんて誰も教えちゃくれなかったな。

 

『千晴さん、その人です!死穢八斎會の現若頭の──』

 

 インカムからの黒雪の声が焦りを含んでいた。彼女にとっても想定外だったんだろう、無理もない。こんなの誰が予想できるってんだ。

 

『──治崎廻です!!』

 

 治崎廻…死穢八斎會の今のボス。まだ若いながらもヤクザ組織をまとめあげてるとなると、相当のカリスマ性があるんだろう。現に、目の前のこの人からはなんとも言えない凄みを感じる。絵空事や机上の空論すら実現してしまいそうな、そんな凄みが。

 

 だが、何故だろう。雰囲気はあるのに…せっかく人をまとめあげられそうなカリスマ性を感じるのに…。

 

 割烹着なんて変な格好をしているのは…!

 

 いや?別に割烹着が変っていう訳じゃないよ?ただ、男の人がそれを着ているのに違和感というか。着ちゃいけないなんてルールや法律なんて無いのは知ってるけど、物珍しすぎるというかなんというか。しっかり三角巾も着用してきてるし。なんだこの人、調理実習でもしてたのかこの路地裏で。

 

「何してる…ですか」

 

 ちゃんとマスクもして、食べ物に唾とか入らないように配慮してるんですね!マスクはマスクでもペストマスクだけど!ウイルスとかしっかり防げる、今じゃコスプレだと思われるやつだけど!

 

 とりあえず同様や焦りは見せちゃいかん。今更かもしれないけど。あくまで平静を保ち、怪しい素振りや警戒心は持たせちゃいけない。こっちのプランや見通しが勘づかれたらアウトだ。

 

 ──と、先を見据えた人間ならそう思うだろう。

 

「エリちゃん…でしたっけ?凄く怯えてるし、俺にしがみついて離れない。奥さん、何か変なことでもしたんじゃないですか?」

 

 やべ、つい奥さんって言っちゃった。ぴくんと眉が若干つり上がったのが見えたぞいま。下手こいちまったか…?

 

「先程、生きた魚の解体ショーを魚屋さんで見てきたんですよ。珍しくて見入っていたら、この子にとっては恐ろしいものだったようで。さっきから何度言い聞かせてもこの状態で…」

 

 ガサゴソと、治崎は持っていた買い物袋の中を漁り始める。じり…と少しだけ後退し、警戒心を持つ。なんだ?何を出してくる?

 

「ほら、その解体された魚の刺身です。新鮮なんですよ?」

 

「なんじゃそりゃ!刃物とか出てくるんだと思ったわ!」

 

『ち、千晴さん…。なに普通にツッコミを…』

 

 いや、ナナメ45°の事がお出しされたらそりゃツッコむでしょうよ。ビックリした、この人ただの主婦だわ。新鮮な食材で栄養管理とかバッチリな献立を考えてるタイプの人だわきっと。

 

「刃物…?そんな危ない物出すわけないでしょう。ましてやヒーローの前でなんて」

 

 カラカラと笑う治崎。その様子に何だか拍子抜けしてしまう。

 

 いや、油断は絶対にしちゃいけない。理由はエリちゃんのこの怯えよう。よっぽどの事がない限り、今の会話を見てなおも体を震わせることなんて無いはずだ。

 

 つまり、治崎のこの態度は偽…。仮初の姿だってことだ…。

 

「…よかったらいります?今夜の晩ご飯にでも」

 

「あ、じゃあせっかくなので」

 

『何してるんですか千晴さん!!!』

 

 あ、なんか普通に貰っちゃったわ。ヤクザの若頭が買ってきたお魚さん、譲ってもらっちゃったわ。うん、身がプリプリでなんとも美味そうだね。晩ご飯が楽しみだ。

 

「──さて。壊理、そろそろ行こうか。まだ買い物の続きがあるからね」

 

 優しくエリちゃんに微笑みかける若頭。今この瞬間の様子だけ見ていると、とても悪い人には見えない。

 

 だけど、この胸の中の小さな少女は。

 

「…いや」

 

「さっきは怖い物を見せてゴメンよ。お詫びに好きなお菓子を買ってあげよう。だから機嫌を直してくれないか?」

 

「…いらない」

 

 俺を掴んで離さない。

 

「壊理…ワガママが過ぎるぞ…」

 

「──っ!?」

 

 明らかに声色が変貌した。さっきまでとは打って変わって、冷たい声質に。それを聞いたエリちゃんの肩がビクンと跳ねた。体の震えもより一層激しくなる。

 

「エリちゃん…」

 

「あまりママを困らせるな」

 

 ま、ママ…だって…?

 

「お願い…お兄さん…!」

 

 胸の中のエリちゃんの顔を見る。その赤い瞳には、今にも溢れ出しそうな程の雫が溜まっていた。

 

 

 

 

 

「助けて…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、俺の脳内に溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 存在しない記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あははは!!おにいちゃーん!!こっちこっち!!』

 

『こらエリ、あんまり走り回るなよ』

 

 それは、家の近くにある公園での出来事。

 

 

 

 

 

 

『わ、見て見ておにいちゃん!おっきいお魚さん!』

 

『あれはクジラって言うんだよ。食べると意外と美味い』

 

 それは、2人で行った水族館での会話。

 

 

 

 

 

 

『どうしておにいちゃんは、私より先に生まれてきたの?』

 

『それはだな、後から生まれてくる弟や妹たちを守るためさ』

 

『私のこと?』

 

『そう。だからおにいちゃんはエリのことを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ずっと守り続けるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壊理を掴んでるその手、離してもらっていいですか?」

 

「おっと、ごめんなさい。人様の子どもをずっと抱いてるなんて、失礼でしたよね」

 

「いえ、私の教育不足っていうこともあ──」

 

「──だが断る」

 

 治崎が眉を顰めた。

 

 明らかに俺を警戒…いやこれは敵視だ。

 

 ヤクザといえど、言い方を変えたら指定ヴィラン団体。自分たちが密かにマークされていることは承知の上だろう。

 

 そして、これから何かしらの計画が動き出そうとしている。

 

 そこに都合よく現れた1人のヒーロー。

 

 俺とコイツは完全に敵同士なんだということを、俺たちはお互いに理解し合う。

 

 

 

「どういうつもりです?あなたを未成年誘拐罪で訴えます。覚悟の準備をしておいてください」

 

「うるさい!!俺はお兄ちゃんだぞ!!」

 

 

 

 腕の中の少女を、強くギュッと抱きしめる。

 

 この子は守り通してやらなきゃならない。

 

 俺の命に代えても。

 

 

 

 

 

 




今作のオバホママは錯乱してますが、やることはちゃんとやってます。

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