時刻は朝の8:30──俺たちヒーローと警察は、治崎がいる死穢八斎會のアジト前に集結していた。もちろんデクや切島、麗日と梅雨ちゃんも一緒だ。なんなら俺たち雄英1年組は固まって、突入のタイミングが来るのを待っている。
「待ってたぜこの瞬間をよォ!」
「気合い入ってんなぁ愛生!目つきがいつもと違うぜ」
「あたぼうよ。妹の危機なんだ、今すぐにでも突入したいぐらいだ」
「エリちゃんか…、そーいや、ホントに血ぃとか繋がってんのか?」
この期に及んでキョトンと首を傾げる切島に思わずため息。何を言っているんだこの赤ツノツンツン虫は。脳みそまで硬化でガチガチになっちまってるんじゃないのか?
「俺はお兄ちゃんだぞ!!」
「なんか最近こればっかりなんよ」
「B組の拳藤ちゃんに聞いたんだけど、愛生ちゃんに妹はいないって言ってたわ」
「闇を感じるのは僕だけかな?」
こいつら何にも分かっちゃいないな…。俺はお兄ちゃんだ…誰がなんと言おうとお兄ちゃんなんだ…!断じて、自分のことをお兄ちゃんだと思い込んでいる異常者なんかじゃない!
そうこうしてる間におまわりさんが令状を読み上げる。どうやら、あれを読み上げたら突入しても良いらしい。俺はいつでもスタートダッシュを切れるように、全身にエネルギーを張り巡らせておく。最高速度でぶっちぎってやるぜ。
その場にいる誰もが、これから始まる戦いに覚悟を整えていた時──。
「何の用ですかァ!!」
玄関先から、ペストマスクを付けた巨漢が飛び出してきた。
扉を巨腕で吹き飛ばしながら現れたそいつは、玄関前にいた警察の人を数人放り飛ばす。すぐさまデクと波動先輩が救出に向かっていった。
「このムキムキマッチョマンは…渡された資料の中にいたな!」
「敵の情報くらい頭に叩き込んどけ。活亀力也、触れられたら活力を奪われるぞ」
さすがイレイザーヘッド、一緒に居てくれて良かった。触れたら駄目なら念動力とかで対処するしか無いな。っていうか何であの人パンイチなの?
警察やら集められたヒーローやらでごった返しになる玄関前。周囲の住民の避難は既に完了しているから、どれだけ暴れても問題無し。ようやく開戦だ。
「朝っぱらから大勢で…。おかげでボスの手料理が食えなかったじゃないですか!」
コンクリートに拳をぶち当て、地面を砕き揺らされる。俺は飛んで回避し、玄関の屋根瓦と近くに生えてあった樹木を念動力で引っこ抜く。
「これでも食っとけ」
引っこ抜いた屋根瓦と樹木を活亀に叩きつける。脳天にぶつけといたから、流石に少しは怯むだろ。そこにそのまま急接近して──。
「ほいさッ!」
渾身の回し蹴りを叩き込む。もちろんアンナチュラルに教えて貰ったように、衝撃の瞬間にエネルギーを脚先に集中させておいた。クリーンヒットだ、ダメージはあるはず。
「ぐぅ…なかなかに重い一撃…。眠気が吹き飛んだ」
「ブリーフ派に負ける訳にはいかないんでね。まさかとは思うが、その汚ねーモンをエリには見せちゃいないだろうな?」
「壊理?あぁ!今頃中では皆がパンイチで、その集団の中に壊理ちゃんもいるよ」
プチン…と何かが切れた音がした。俺の脳内に、怯えて泣くことしか出来ないエリの姿が浮かび上がる。
「ぶっ殺す!!!!!」
頭に熱がこもるのが分かった。この感情の行先は、こいつら死穢八斎會にするのだと心から誓う。
俺は大きく飛び上がり、そのまま活亀めがけてダイブ。両足でおもっくそ活亀の頭を踏んづけ、そのまま地面にめり込ませておいた。うん、綺麗にめり込んでくれたね。
「こんなんじゃ怒りは収まんねーけど、後はアンタらのボスで発散させてもらうわ」
上半身が深々と地面に突き刺さった活亀にそう言い残し、アジトの中へと入っていく。デクやミリオ先輩は先に行ったようだ。俺もその後を追うことにしよう。どうやら活亀の拘束は、警察とリューキュウ事務所の方でやってくれるそうだ。麗日たちにサンキューしながら駆けていく。
アジトの中では、既に何名かの構成員が床に転がっていた。多分他の皆が先に会敵し、ボコしておいてくれたんだろう。ありがたい、余計な体力は使わず温存しておける。スタコラサッサとアジトの中を走り回る。
「やべぇ、そーいやどっかに隠し通路的なものがあったんだっけ?ナイトアイがその話してたと思うんだけどなぁ。全く聞いとらんかった」
その辺を歩いていた構成員をとっ捕まえて吐かせようとしたけど、どうやらそこまで情報を与えられていないようだった。こいつは困った、本当に困った。このままじゃ皆と合流は愚か、治崎をぶん殴ることすら出来なくなってしまう。
そんな時だった。
「ん?なんか壁がうごめき始めたな」
周囲の壁がうようよと動き始めたではないか。びっくりしていると、次に足元が波のように揺れ始める。なんだこれ、死穢八斎會の方でアトラクションでも用意してくれてるのか?
「うぷ…ちょっと待って…酔ってきた…」
地面や周囲の景色がぐにゃぐにゃになってきたのもあり、何だか気持ち悪くなってきた。船酔いしてるような気分だ。口を押えて吐くのを我慢しながら、ヨタヨタと道を進む。全く、いったい誰の仕業だよ…。
まっすぐ進んでいるのか、あらぬ方向へ進んでいるのか自分でもよく分からないまま道を往く。こんな迷宮迷路じゃあ皆と合流するのも至難の業だ。
「…お、ぐにゃぐにゃが終わったみたいだぞ」
それから少し経った後、壁や床の変形が終わりを迎えた。うん、地面がしっかりしている。視界も歪んだりしてない。これなら平衡感覚も保てるし、吐き気を催したりしないだろう。へへへ、そうとなりゃこっちのもんだぜ。パパっと治崎を見つけて、その鼻っ柱をへし折ってやらねえと。
そう意気込んでズカズカと道を進んでいると、視線の先に1つの人影が映り込んできた。
「ん?誰かいるな…、仲間のプロヒーローか?おーい!そこのひとー!」
視界に映りこんだその人に声をかけながら近寄る。なんか柄の長い肉叩きみたいな棒持ってんぞ。あんなの担いだ人、味方にいたかな?
「…」
「そうそうアンタだよ──って知らない顔だ」
そこには薄い水色がかった髪を後ろに無造作にかき上げている男が、俺の方へ首を向けて立っていた。…変だな、ヒーロー側にこんな人はいなかったし、渡された死穢八斎會の構成員の中にもこの顔は無かったはず。
こいつは一体誰なんだ?
「…ホントに連れてきた」
「え?なんて?」
その男がボソッと小さく何かを呟く。声が小さすぎて何言ってるのかよく聞こえなかった。てゆーか、なんか俺の体を舐め回すように見てくるな。まさかそっち系の人なのか…?
「そうだな…。渡されたリストにアンタはいなかったし、そもそも急いでいる。ここはひとつ、お互い会わなかったってことにするのはどうだ?」
「あーいいぜ」
我ながら素晴らしい提案力。目の前のこいつが何者か分からんが、正直相手にしている暇などない。1秒でも早くエリの元へ駆けつけなければ。
「じゃ、そゆことで」
そのまま肉叩きのような物を担いだ男を通り過ぎる。通り抜けざまにチラッとそいつの顔を見たが、どうにも嫌な目付きをしている。俺を品定めするかのような、そんな目だ。
はぁ…結局こうするしかないよな…。
バッと背後を振り返ると、男が俺の方へ肉薄し、得物を振りかぶって来ていた。
その動きをしかと目で捉え、目の前の空気を操作し見えない壁で敵の攻撃を防ぐ。
オールバックの男は、目の前の現象に対して目を見開いていた。
「さては嘘つきだなオマエ」
「テメーもな」
手のひらから衝撃波を繰り出しぶっ飛ばそうとしたが、勘づかれたのか丁寧に得物で弾かれる。
だが、こちらの動きを考慮してかオールバックの男は後方へ跳び距離を取った。
ふむ、だいぶ戦い慣れているな。
「テメーを殺せば金が貰えんだ。大人しく殺されてくんねーかな?」
「はっはっは、お口が悪いのは誰かな?」
仕方ない…不本意だがこいつをのしてから先に進むとしよう。
もしかしたら、治崎の場所とか知ってるかもしれないし。
「そうか、2秒で殺す」
「やってみせろよ、マフティー」
ま、なんとでもなるはずだ!