君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#59 まぁ、割烹着で商店街を歩くヤクザなんてフツーじゃないよね

 ようやく、ようやくこの日がやってきた。

 

 目の前の男を見すえて、俺は口角をつり上げる。どうやら今日は前に見た割烹着ではなく、ファーのついた高そうな服を着てカッコつけてるようだがそんなことは関係ない。

 

「何がおかしい?」

 

「おかしいんじゃない、嬉しいんだ。貴様だけは、ぜひこの手でぶん殴ってやりたいと思っていた」

 

 あの日、エリとオーバーホールと邂逅した日。本当なら無理にでもあの日にエリを救いだすべきだった。エリをオーバーホールの手中に収めていたら、何をされるか分からない。もしかしたら、俺たちが救出の準備をしている間にも酷いことをされていたのかもしれない。そう思えば思うほど、怒りが沸々と湧いて出てくる。

 

 そして、今までにエリにしてきた仕打ちの数々。痛かったろうに、怖かったろうに…。それを思うだけで…。

 

 ──怒りは力。お前がいま抱えている怒り…感情は武器になる。

 

 前にアンナチュラルが言っていたことを思い出す。今ならその意味がハッキリと分かる。腸が煮えくり返りそうになるほどの感情が、俺の中で渦巻いている。

 

 なら俺は、この怒りを支配しなくてはならない。

 

「お前はもう謝っても許さねぇぞ、このクズ野郎!!」

 

 怒りを力に──俺は勢いよく地面を蹴り、オーバーホールに肉薄する。対抗するようにヤツは地面に手のひらを重ね、個性を発動。一瞬で視界が棘で覆い尽くされる。けど、俺にはそんなの関係ない。超能力で周囲を覆う見えない壁が、俺に傷一つ付けることすら許さない。

 

 血がにじむくらい固く拳を握り、右腕を引き絞る。それと同時に左手で個性を発動し、オーバーホールの体をこちらに引き寄せる。後はそれに合わせて、拳を撃ち抜くだけ。

 

「歯ァ食いしばれ!そんな大人、修正してやる!!!」

 

「…ッ!?」

 

 まずは1発、その顔面を貫く。続け様に体を回転させ脳天にかかと落とし。お次にアッパーを食らわせ、浮いた体の横腹に回し蹴りを叩き込んで吹っ飛ばす。

 

「がふ…っ!」

 

 オーバーホールのうめき声が聞こえる。まだだ、こんなものじゃ済まさない。

 エリ(あの子)が負った傷と比べたら、こんなのまだまだだ。

 

「一方的に殴られる、痛さと怖さを教えてやろうか!!」

 

 再度個性を発動、オーバーホールをこちらに引き寄せ、そのどてっぱらに渾身の一撃を叩き込む。

 

「う…!この、ガキ…!」

 

 ぐらりとその場に崩れ落ちるオーバーホール。腹を押えながら、忌々しそうに俺を見上げていた。

 

「ははははは!ざまぁないぜ!」

 

 …とどめを刺すにはまだ早いな。こんなやつ、もっと苦しめてやらなきゃ 。

 

 よろよろと足元をふらつかせながら、オーバーホールはゆっくりと立ち上がる。肩で息をしているものの、その目はまだギラついている。まだ心は折れていないようだった。

 

「…クク…はははは…!」

 

 突如として笑い始めるオーバーホール。なんだコイツちょっと怖いんだけど。ついに気でも触れたか。

 

「英雄症候群もここまで来ると末だな。一介のヤクザに、内情すら知らない奴らの為にここまで体を張るか」

 

「知らないなんてコトは無い。俺はお兄ちゃんだぞ」

 

「…雄英高校も堕ちたものだな」

 

「ぼ…ボス…」

 

 ふと聞こえてきたのは、今にも消えてしまいそうなか細く小さな声。全身真っ黒の男が、オーバーホールの足に縋るように這いずっていた。こいつも確か、チェックリストに載っていたな。名前は…えーと…なんだっけ?

 

「なぁ音本。お前なら分かってくれるよな?俺たちが目指していた世界は、こんなヒーロー共には理解されない。だからこうしてぶつかるんだ」

 

 音本と呼ばれた男の背中に、オーバーホールが手のひらを乗せる。それはさっきまでと同じ、個性発動の動き。

 

『ほう、そういう使い方も出来るのか』

 

「仰せのままに…ボス…」

 

 目の前の光景に目を見開く。オーバーホールは部下と自分の体に向けて個性を発動…お互いの体を分解して──。

 

『人体の再生と融合。この男、只者じゃないぞ』

 

「まぁ、割烹着で商店街を歩くヤクザなんてフツーじゃないよね」

 

 少し前のことを思い出しながら、それでもオーバーホールの異常性に生唾を呑み込む。オーバーホールの個性は対象の分解と修復、そこには死ぬかと思う程の激痛が伴うと聞いている。それを知ってもなお、部下と自分にその力を向けるとは。

 

「こうなったら、前ほど優しくは出来ないぞ」

 

 部下の物も合わせた4本の腕。無理やり体を結合させたのか、はたまた人体の融合は精度が必要なのか…。不格好ではあるが、そこにはさっきまでとは雰囲気の違うオーバーホールが立っていた。ご丁寧に、傷やダメージも治しているようだ。

 

「さぁどうする?チクチクダメージを与えても意味は無いぞ」

 

「俺がお前を殴ってお前がその傷を回復。そしたらまた俺がお前を殴ることが出来る。いいね、永久機関が完成しちまったな!」

 

「ふっ、どこまで保つかな」

 

 いいさ、やってやる。オーバーホールが白旗をあげるまで、俺は殴るのを辞めない。

 

「決闘開始の宣言をしろ、凡骨ヒーロー」

 

「これでノーベル賞は俺んモンだぜ!!」

 

 

 

 

 

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