君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#6 まだまだ心眼が足らぬ

 雄英高校の食堂は、お昼休みになると人で賑わう。

 

 その理由は、厨房に立つ男──クックヒーロー・ランチラッシュにあった。

 

 彼の作る至高のひと皿。そこには神が宿るといわれている。それを低価格で頂けるということで、学生にとっては夢のような場所であった。

 

 私──拳藤一佳は、お昼をクラスの皆で食べる。出会ってばかりなのもあり、まだまだ緊張感が抜けきっていない面々であるが、少しずつ親しくなっていっている。

 

 雄英での生活は楽しい。今までの生活とはまた一味違った体験が多くあり、毎日が新鮮さで溢れている。尊敬できる先生や、気の良いクラスメイトたち。私の高校生活は、良いスタートを切ることが出来ていた。

 

 ただ、ある一点を除いては……。

 

「いいか? 同じクラスになれたからっていい気になるんじゃあねぇぞ? 一佳に指1本でも触れてみろ、そんときゃ俺が容赦しないぜ」

 

 ランチが乗ったトレーを持ってクラスの皆がいる席へ戻ろうとしたら、そこには何故か千晴の姿が。なんかクラスの男子に絡んでる……。

 

「……千晴、アンタ何してんの?」

 

「おう一佳、今日も美しいな。何って、B組の野郎どもに念押してんのよ。一佳に変な気を起こすんじゃねぇぞ、って」

 

「はいちょっとこっち来ようか。皆は先に食べてて」

 

 トレーを置いて、私は千晴を引っ張り食堂の外へ。千晴はキョトンとしていた。

 

「なんだよ、そんなに俺と2人きりになりたかったのか?」

 

「違うわ。お前いったいどういうつもりだよ? クラスの奴らにあんなこと言って」

 

「えっ、大事なことだろ?」

 

 そう言う千晴に頭を抱える。なんでこう……真っ直ぐな目をしているのかな……このアホは。

 

 このような千晴の行動は、今に始まったことではない。入学式の後から、千晴の私に対する溺愛行動はスタートしている。その様子は、中学の時となんら変わりはない。そのため、早速クラスの子らには、様々な勘違いをされているのだった。

 

「あんなことばっか言ってたら、変な奴だと思われちゃうだろ? いいのか? 変人扱いされても」

 

「俺は一向に構わんッ!」

 

「ああ……そう……」

 

 駄目だ、コイツにはもう何を言っても無駄なようだ。ため息と一緒に、千晴への希望を吐き捨てる。

 

 もういいや、と皆がいる食堂へ戻ろうとすると、その行く手を千晴が阻む。壁に手をつけ、まるで逃がさないと言うように。

 

「一佳は、俺が近くにいたら迷惑か?」

 

「え……? いや、別にそんなことないけど……」

 

 やけに真剣な声色で、千晴は私の瞳を見つめてくる。胸がドキリとした。

 

「一佳は、俺に好きって言われるの嫌か?」

 

「きゅ、急にどうしたんだよ……」

 

 なんだ……一体どうしたんだよこの男は……。なんでそんな目で、私を見てくるんだ。

 

 千晴の瞳に反射して、自分の姿が写って見える。今こいつの視界には、私しか入っていない。いつもそうなのだろうか? いつも、私だけを見てくれているのだろうか? 

 

 千晴の顔がすぐ近くにある。その瞳、鼻、口が私の視界を埋め尽くす。心臓の鼓動は、更にその速度を上げていく。同時に、体温が上昇していくのを感じる。

 

 ダメ……これ以上は……。

 

「俺は一佳が好きだよ。世界で一番。だから、誰にも奪わせはしない」

 

 千晴の唇が、私の唇に向かってくる。このままいけば、重なり合ってしまう。

 

 あと数センチ……あと数ミリ……。もう、私の心臓は爆発しそうだった。鼓動のカウントが、ぶっ壊れている。

 

「だ……だめーーーッ!!!!!」

 

「どぅわくしっ!!!」

 

 私と千晴の唇が重なり合う寸前、私はその幼馴染を勢いよく吹っ飛ばした。凄い勢いで飛んで行った千晴は、やがて通路の柱に激突し、それから動かなくなった。そんな彼を放って、私はクラスメイトが待つ食堂へ戻る。手をパタパタさせ、火照った顔を冷やしながら。

 

(千晴のヤツ、いま何をしようとしたんだ……?)

 

 そんなことを考えては、湧いて出てきた答えに頬を染める自分がいた。

 

 あの表情、あの視線、あの距離。間違いない、千晴は私にアレをしようとした。

 

 アレというのはアレのことだ。恋人同士が好んでよくするあの行為のことだ。キから始まってスで終わるあの……。

 

 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。やばい胸のドキドキが収まらない。すっごい近かった、すっごい距離が近かった。しかも唇と唇が。なにあれ? あの感覚がマウストゥーマウスってやつなの? 別に触れ合った訳じゃないけど! 

 

「はぁ……ほんっと、油断ならない……」

 

 くちゃくちゃになってしまった顔を一生懸命戻して、私は皆の元へ向かった。

 

 内に秘めた乙女心は、まだ見せない。

 

 

 

 

 〇

 

 

 

「本日の授業は……お待ちかね、戦闘訓練ッッ!!!」

 

「いよっしゃああああああ!!!!!」

 

 同日──午後、俺たちA組の面々はオールマイトに連れられ、演習場へやって来ていた。市街地を模したその場所のとある建物で、今回は戦闘訓練を行う。

 

「全員ぶっ殺してやらァ!!!」

 

「イェーイ! イェーイ! 俺イェーイ!!!」

 

「爆豪くん、愛生くん! 少し落ち着きたまえ!」

 

「んんん、元気があってよろしい! まるで血に飢えた野獣のようだ!」

 

 飯田に諌められ、少し落ち着く。戦闘と聞いてはしゃぎすぎてしまったようだ。思春期だからね。そういう言葉には過剰に反応しちゃうんだ。

 

 さて、雄英に教師として赴任してきたオールマイト先生のデビュー戦は、俺たちA組の戦闘訓練の監督、それも対人の。

 

 ヒーロー・ヴィランに分かれて、2対2の屋内戦を行うようだ。それぞれの陣営に勝利条件が設けられており、ヒーローはヴィランの占有する核兵器の回収。ヴィランは時間内に核を守りきるorヒーローを捕まえること。

 

「それでは早速、チーム決めのクジ引きを行うぞ!」

 

「頼むぅ。爆豪と一緒はヤダ、爆豪と一緒はヤダ」

 

「テメーなんざこっちから願い下げだわ! 敵になったら覚悟しとけ!」

 

 公平なクジ引きの結果、俺は八百万百ちゃんとヴィランチームになった。

 

 八百万といえば、個性把握テストで一位だった子だな。仲間として申し分無し。ヴィランってのが解せないけど。

 

 にしても、八百万のコスチューム……なんだかグッとくるものがあるね。その高校生離れしたボディもグッドです。……っと、いかんいかん。俺には一佳という心に決めた人がいるんだ。他の女の子に目移りしては駄目だ。……いや、でも視線が。いやダメダメ、そんな目でクラスメイトを見ては。でもこれはなかなか……。駄目だって! 俺には一佳という素晴らしい女性がいるじゃないか! 

 

「愛生さん、宜しくお願い致しますわ。──あら? どこを向いてらっしゃるのですか?」

 

「あ、ああ〜……野鳥さ! 野鳥を見ているんだ! ほら、あの鳥とか凄く大きいぜ?」

 

「鳥……? 一体どこにいるのでしょうか……?」

 

「まだまだ心眼が足らぬ」

 

 キョトンとする八百万、テキトーに誤魔化したけど何とかなった……のか? 

 

 とりあえず、今日の授業は八百万と一緒に頑張ると決める。確か彼女は、個性で様々な物を創り出せるんだよな。強力で頼もしい個性だ。

 

 そして、そんな俺たちの気になるお相手はと言うと……。

 

「お前ら二人が相手か」

 

「出たなイケメソ」

 

 イケてるツラにイケヴォを携えて近づいてきたのはヤツ……轟焦凍だ。隣にいる障子さんがペアだろう。そのゴツイ肉体で攻められたら、なんかもうとんでもないことになりそう。タコ殴りにされて、二度と人前に出れない顔にされそう。

 

「なんだオメーうちの八百万を口説きにでも来たんか」

 

「別にそんな気はねえが」

 

「お、おう……案外ズバッとした物言いすんだな……」

 

「愛生さん、口説き……とは何でしょうか?」

 

「ああ、八百万がそんな言葉の意味を知る必要は無いよ」

 

 八百万はお嬢様だ。だから、世間の常識には疎い面がある。今まで生きてきた世界が違うんだ、そりゃそうなるさ。

 

 変な言葉とか教えたら、実家からお父様とか飛んできそう。そして社会的に殺されそう。清く麗しいレディだからね、丁重に扱わねば。

 

「んで、結局なんの用なの?」

 

「別に用なんかねえよ。ただクラスメイトと話に来ただけだが」

 

「え、お前ってそういうキャラなの? もっとなんかこう、孤独を好む男だと思ってた」

 

「俺は皆と仲良くなりたいだけだ」

 

 キメ顔でなに言ってんのこの子……。まぁ大事なことだとは思うけども。人は見かけによらないって言うけど、こいつの場合はよらなすぎだろ。クールでとっつきにくい奴だと決めつけてたかもな。意外と可愛いところあるじゃない。

 

 そんな轟の肩に腕を回す。仲良くなりたいなら大歓迎だ。俺だって、出来ることなら皆と仲良く楽しく居たい。恋愛もそうだが、男の友情だって青春の1ピースだ。

 

「んだよー、それならさっさとそう言えよー。ほら、なんか別の場所で観戦するみてーだから行こうぜ。そーいや、俺学校来るまでに野良犬みたぜ。あ、今日帰りにゲーセン寄ってかね? 面白そうな格ゲー見つけたんだよなー」

 

「距離を詰めるのが早いのなんの……、私も見習わなくては……」

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 という訳で回ってきた俺たちの番。ヴィランチームの俺と八百万は、"核"の置いてあるフロアまで赴き、そこで対策を練っていた。

 

「まず轟がビュオオオってくるだろ? そこを俺がバキンってする。そしたら障子がズドドドってなるから、八百万はそこをスコーンと」

 

「愛生さん、あなたさっきから擬音が多すぎますわ。もっとちゃんと言語化して下さいまし」

 

 八百万にそう言われ、ハハハと頭を搔く。

 

「轟さんは氷結と炎熱、障子さんは複製した腕で、波状攻撃を仕掛けてくるでしょう。対して私たちの勝利条件は、お二人の捕獲or核の防衛」

 

「ま、なるよーになるだろ。相手の出方次第で、臨機応変に対応していこう」

 

「……バリケードくらいは作っておきます」

 

 八百万がバリケードを創造し終えたちょうどその時、オールマイトから戦闘開始の宣言がなされた。

 

 俺たちがいる核の保有室は、入口が一つ。その他に入ってこられるような窓や扉はないから、迎え撃つのは容易い。ダクトとか通ってこられたらしんどいけど、流石にそんなことできるような奴らではないはずだ。

 

 さて、轟と障子の二人がここまで来たら、どうやって対応しようか。轟は炎と氷を用いた中〜遠距離タイプ。障子は近距離。障子が前に出てくると思うけど、轟の射線を防いでしまったら意味が無い。轟を軸にした火攻め……または一気に凍らせて制圧をかけてくるとか……? いったいどうやって攻めてくるのやら。

 

「へくちっ!」

 

 柄にもなく頭を使っていると、部屋の中に音が響いた。見ると、八百万がズズっと鼻をすすっていた。

 

「花粉症か?」

 

「いえ……なんだか少し寒くなってきたような……」

 

 まあそんだけ露出してたらな。八百万のコスチュームは肌の露出が多い。それ故に気温の低下の影響を受けやすいのだ。なんか羽織ったらいいのに。春はなんだかんだで冷える時は冷えるぞ。

 

 ──と、俺は呑気にそう考えていた。だけど違う。明らかに室温が下がってきていると気づいた時には、既に部屋に霜が降り始めていた。

 

 そうか、そう来たか轟は。どこから氷結を繰り出しているかは分からないが、あいつはこのまま俺たちを、この部屋の中でカチンコチンにする気だ。まるで冷凍庫に入れられた食材のように。

 

「轟さんですわね、すぐに暖を取れるものを……!」

 

「そいつは俺に任せな。ったく……こんな手で勝とうなんざ、考えが甘すぎるぜ」

 

 俺は指をパチンと鳴らす。そうして、弾いた指から炎を出現させる。それを大きくして、部屋の中の温度を上昇させる。

 

発火能力(パイロキネシス)さ。割とポピュラーな能力だけど、まあ知らなくても無理はないわな」

 

「暖かい……助かりました」

 

 俺より寒がっていた八百万の方に、炎を移動させる。まだ氷できてくれて良かった。これが炎だったら、流石に対処が難しいからだ。

 

 しかしまあ、その可能性が潰えた訳ではない。

 

 ドゴン! と鈍い音が響き渡る。その次にはカランカランという音と共に、鋼鉄の材質で造られたバリケードが床に転がっていた。

 

「氷が溶かされたのはそういうことか」

 

 コツコツと、部屋の中に入ってくる足音。現れたのは、コスチュームを纏ったヒーローチームの二人。

 

「随分と派手な登場じゃねーか。部屋に入る時はノックしろって、親に教わらなかったか?」

 

 俺は個性を発動し、砕かれたバリケードの破片を浮かび上がらせ、自身の周りに呼び寄せた。本来の役割ではなくとも、牽制にはなるだろう。

 

 数メートル先で轟が立ち止まる。左半身に氷を纏わせ、左目がある箇所が赤く光っている。なんというか……凄く斬新なデザインのコスチュームだ。あれ自分で考えたのか? 

 

「生憎、ろくでなしに育てられたもんでな。マナーがなってねえんだ」

 

「そうかい。だったら俺が、手取り足取り教えてやるよ」

 

 

 

 




愛生千晴④
・発火能力で前髪が燃えた過去がある。

八百万百①
・心眼が足りない。

轟焦凍①
・とりあえずクラスの皆のアカウントを登録するタイプ。

障子目蔵①
・バリケードぶっ壊して拳が痛い。
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