君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#61 タイマンで決着をつけようぜ

 例えば自分が蟻んこだとして、すぐ頭上に象がいる。

 

 そしてその象がおもむろにタップダンスを始めたら、蟻んこはどうするのが正解なんだろうか。

 

 ただ踏まれるのを待つ?

 死ぬ気で避けることに専念する?

 ワンチャン狙って相手の足に噛みつく?

 

「大怪獣バトルみたいになってきたな」

 

 目の前には部下と融合し、巨大化を果たしたオーバーホール。大怪獣の姿へと変貌を遂げた部下のちょうど口の部分に、オーバーホールは埋め込まれるようにしてその姿を顕にした。

 

「この状況を見て、まだ勝てると思うか?どう見てもこちらが有利、ボロボロのお前じゃどう足掻いても俺を超えることは出来ない」

 

 脚を動かすだけで地響きが鳴り響く。

 オーバーホールは、その巨大な前脚を俺目掛けて振り下ろしてきた。

 まるで蟻を踏み潰すかのように俺をぺしゃんこにするつもりのようだ。

 

 跳んで回避し、オーバーホールの眼前にまで迫る。

 手を銃の形にして人差し指の先を奴に向けた。

 

 絞り出せ…腹の底からエネルギーを…。

 

 撃ち放った空気の弾丸は、本体の上半身に突き刺さる。

 オーバーホールは衝撃に上体を揺らし、小さく呻き声をあげていたが、そこまで大きなダメージにはなっていないだろう。

 

「これがお前の全力か?」

 

「はは…かもな…」

 

 次の瞬間、混凝土のミサイルが四方八方から飛来してきた。

 その全てが回転を加えられ、威力と貫通力が高められている。

 それに今までの物とはサイズ感も全く違う。

 今度はもっと、人を殺す為の攻撃だ。

 

 見えざる壁を作って攻撃を防ぐが、1発だけ侵入を許してしまう。

 ギリギリのところで避けることに成功するが、少しだけ皮膚を削られた。

 

『長引けば長引くほど、こちらが不利になるぞ』

 

「分かってる」

 

 とは言うもののだ、力の限り戦える余力があるか?と聞かれたら素直にうんとは言いづらい。

 それくらい追い込まれている。

 

「それでも」

 

 それでも…どれだけ辛くても…苦しくても…。

 

 あの子(エリ)を救う為ならば。

 

 辛い現実に打ちのめされて、頼れる人も誰もいない、助けてくれる人もいない。ただただ耐えることしか出来ない小さな女の子に、明るい未来を示してあげたい。

 

 その想いさえあれば、俺は立ち上がることが出来る。

 

 それに…。

 

 ──うん、頑張れ。

 

 最愛の幼馴染(拳藤一佳)が、俺を待っていてくれている。

 

「頑張るよ、一佳」

 

 そう思うと、無限に力が湧いてくる気がする。

 

「いい加減にくだはれ、病人が。お前たちを見ていると本当にイライラしてくるんだよ」

 

 再び飛んでくる混凝土の弾丸。それと同時に伸びてくる肉の巨腕。

 

 今のオーバーホールの攻撃方法は至ってシンプル。

 だが、シンプル故に強力な攻撃が、じわりじわりと俺の命を脅かしてくる。

 何とか足を動かして回避するが、避けた先で足がもつれ、地面に転がる。ああ…なんとも情けない。

 

「避けるのに精一杯かと思ったが、それすら危うくなってきたな。終わりの時は近い」

 

「…なんとでも言え…。俺は…お前を倒して…あの子の笑顔を取り戻す…!」

 

「綺麗事だな。今のお前の姿を壊理に見てもらったらどうだ?そうしたら、心の底から失望するだろうに」

 

 地面に手をつきオーバーホールを見上げる。

 太陽を背に俺を見下ろす奴は、とても大きく見えた。

 

「…頑張れ」

 

 地面に両手をつき、息も絶え絶えになりながら踏ん張る。

 

「負けるな…」

 

 両足に力を入れ、地面を踏みつける。

 膝が笑ってら。

 それでも、体が言うことを聞かなくても立つんだ。

 

「力の限り…!」

 

「無様だな。そこまでしてしがみつく理由がどこにある?壊理は所詮ただの他人…たまたま事情を知って、正義感とやらで首を突っ込んでくる」

 

「……」

 

「俺はお前たちヒーローの、そういう所が大嫌いだ」

 

「ヒーロー嫌い、極まれりだな…」

 

 オーバーホールの顔に、青筋が立つ。

 怒りやストレスの発散とでも言わんばかりに、再び迫り来るのは混凝土の砲弾だ。

 複数飛んで来るどれもが、ドリルのように回転を加えられながら、確実に俺の体を貫こうとしている。

 

 まともに喰らえば、まず命は無いだろうな。

 

 ヨタヨタ歩いていたら格好の的だ。

 少しでも直撃される可能性を下げる為に、俺はもたつく足を無理やり動かす。

 今の俺の姿は、酷く不格好に見えるだろう。

 それでも足を止めない。

 飛来する弾丸を辛うじて避ける。

 超能力で受け止める。

 間に合わなくて皮膚を掠める。

 俺の駆けてきた背後には赤色の道が出来ていた。

 

「邪魔なんだよ!!俺の往く道に貴様らはッ!!」

 

 振り下ろされた巨腕の余波で巻き上がった瓦礫が、強く体に打ち付けられる。

 じんじん鳴り響く痛みに歯を食いしばりながらも、足は止めない。

 

 ああ…何だか頭がボーッとしてきた…。

 視界が霞む。

 全身に血が回っていないような…指先の方から徐々に感覚が無くなっていくようだ…。

 

 それでも俺の足は、体は、オーバーホールを目指して動き続けている。

 

 ピトリ…と巨大化したオーバーホールの脚に触れる。

 何故だろうか?

 こんな状況でも、どうにか出来ると思っている自分がいる。

 何が今の俺を動かしているのか、その意識すらも薄れてきている。

 

 だけど、何故だか"出来る"と思ったんだ。

 

「…は?」

 

 瞬間、オーバーホールを包んでいた肉の鎧が勢いよく弾け飛んだ。

 バラバラになった肉片が辺りに飛び散り、びちゃびちゃと音を立てながら地面に落下する。

 吹き出した血飛沫が少し、顔にかかった。

 

 肉の鎧を失い、融合前の姿に戻ったオーバーホールが、宙から落下してくる。

 地面に降り立ったオーバーホールは見た目の変化に困惑しながら、俺を睨みつけて言った。

 

「今度は何をしたんだ?」

 

「逆転の発想」

 

「なに…?」

 

 正直、俺にもしっかり理解出来ている訳じゃない。

 

 ただ、さっきアンナチュラルがやった方法を試してみただけ。

 

 アンナチュラルに刻まれたもう1つの個性である"反転"は、自身にプラスのエネルギーを流し込むことで肉体の再生が可能となる。

 

 オーバーホールに触れられ即座にアンナチュラルと入れ替わった時、彼女はそのエネルギーをオーバーホールに流し込むことで彼の分解を跳ね返し、逆にその体を破壊させた。

 

 その理屈でいくと、マイナスのエネルギーを生み出し注ぎ込むことで、相手の体を今のオーバーホールのように破壊することが可能になるということだ。

 

 表を向いているコインを裏にするように、俺は"反転"で生み出したプラスのエネルギーをマイナスに変換し、オーバーホールにアウトプットさせた。それが奴の姿を、融合前にまで引き戻したんだ。

 

『小僧お前、掴んだのか?私の個性の核心を』

 

 体内のアンナチュラルから問いただされる。個性の核心…?なんだそれ…?

 

「いや、何か出来ると思ってやったら本当に出来ただけ」

 

『無意識のうちにか。末恐ろしい奴だな』

 

 ──細かいことは、戦い終わった後に考えよう。今はただ、目の前の敵に勝つことだけに意識を注ぐ。

 

「よう…最後は男らしく、タイマンで決着をつけようぜ」

 

 目の前のオーバーホールにそう告げる。

 

 戦いは最終局面を迎えていた。

 

「どこまでもどこまでも…俺の道を阻む…!」

 

 さあ、覚悟の見せ時だぞ愛生千晴。

 

 背負った希望も、秘めた想いも、誓った決意も。

 

 全てを賭けて、目の前のコイツに挑むんだ。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 

 最初に会った時、この人の言っていることは何一つ理解できなかった。

 

 私のことを妹?だと言っていたし、自分のことを私の兄だと言い張っていた。私には兄妹なんて居ないはずなのに…。

 

 だけど、抱きしめてくれた時の温もりは今でも鮮明に覚えている。

 

 今までに感じたことの無い暖かさ、安心感というものが全身に伝わってきた。

 

 ただ日常に怯えるだけだった私の人生に、希望の光を灯してくれたんだ。

 

 だから、あの日手を離してしまったことを少し後悔していた。

 

 でもあのお兄さんは、また私のもとに駆けつけてくれた。

 

 傷だらけになりながら。

 

 私の中に灯してくれた光は消えることなく、今でも輝き続けている。

 

 日が経つにつれ、私の中であのお兄さんの存在が大きくなっていくように。

 

 私の中の心の光も大きくなっていく。

 

 そう、私は願わずにはいられなかった。

 

 この人なら私を救ってくれると思えたんだ。

 

 だから──。

 

「おい!あれ!」

 

 男の人がこだますると、視線の先に2つの影があった。

 

 1つはヒーローさんたちが"治崎"と呼んでいた、私に酷いことをしてきた男の人。

 

 もう1つの姿は、もう見なくても分かってしまう。

 

 頭の上に昇った太陽の光に照らされたお兄さんは、ドサリと地面に落ちた治崎に続くように地面に降り立つ。そしてそのまま、地面に寝転がってしまった。

 

 周りの人たちがその光景を見てボーッとしている中、私は一目散に駆け出していた。

 

 体が勝手に動いていたのだ。

 

「お兄さん──!!」

 

 お腹の奥から声を出す。

 こんな大きな声を出したのは初めてだ。

 気づけば声を張り上げていた。

 

 息を切らしながらお兄さんの元へ走る。

 途中で転びそうになったけど、何とか踏みとどまり足を止めることなく地面を蹴る。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 自分の体が小さいことにもどかしさを覚えたのも、初めてのことだった。

 

やっとの思いでお兄さんの元へ辿り着くと、お兄さんは私の方へ首を向けて口を開く。

 

「よう、エリ…。元気かい…?」

 

「うん…うん…!元気だよ…みんながいたから、痛いところもないよ…!」

 

「へへ、そりゃよかった…」

 

 お兄さんは小さく笑うと、私の方にゆっくりと拳を差し出してきた。

 

「エリ…勝ったぞ…」

 

 そのまま目を閉じてしまったお兄さんの手を、私は握り続けていた。

 

 もう二度と、この手は離したくないと。

 

 心の底から強く思った。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 正直、途中からの記憶がかなり曖昧だ。

 

 どこからと言われると困るんだけど、多分最後にエリを抱きしめた後くらいからかな。恐らくあの辺りから頭が正常に機能していなかったと思う。

 

 無我夢中…自分で言うのもなんだけど、それくらい必死になっていたんだと思う。

 

 だからその時俺が何をどうしていたのかはよく分かっていなくて、ただオーバーホールと殴り合いをしていたかもというフワフワした光景だけが微妙に残っていた。

 

 そして最後にオーバーホールを地上まで突き上げて…俺も一緒に地面に寝転がって…駆け寄ってきたエリ(天使)に拳を突き出してから、俺の脳みそはシャットダウンした。

 

「ん…んん…」

 

 視界は暗いままだけど、段々と頭が冴えていく感覚がする。やけに遠くから聞こえていた誰かの声も、徐々にハッキリと聞こえてきた。やけにザワついているな。

 

 瞼を貫通してくる太陽光がやけに眩しい。いま何時だ?死穢八斎會のアジトに突入してからどれくらい経ったんだろう。

 

 あー…何だこの心地よい感覚は…。適温の温泉に全身どっぷり浸かっているような、体の中の疲れや痛みが自然に消え去っていくような気がするなぁ。むしろあれだ、回復しすぎて戦う前より元気になってきたかも。

 

 ──なんだ?やけに体が軽いな。戦った後とは思えない程だ…。え?そんなことある?疲労感とかあんまり感じてないんだけど。もしかしてこれもアンナチュラルのせい?

 

 周りのザワザワが大きくなってきた。だけど話している内容まではあんまり聞こえない。けど意識はかなりハッキリしてきた。体も充分動かせそうだ。

 

 瞼をゆっくり開ける。案の定日光に晒されていた俺は、その眩しさに耐えながら何度か瞬きを繰り返す。目をぱちくりさせていると、最初に見えたのはエリの姿。見たところ怪我もしてなさそうで安心だ。…なんか唖然としてるのは気のせいか?

 

 いや、唖然としてるのはエリだけじゃない。近くにいる麗日や梅雨ちゃん、切島も俺を見て目を見開いているようだ。なに?俺の顔になんかついてる?それなら取ってよこっちは重症なんだから…。

 

 ん…?重症…の割には体力が有り余ってるな…。

 

「やあみんな、思ってたより元気そうで何よりだね」

 

「あ、愛生…。おめえ…」

 

「そうだよ切島。その表情の答えを教えてくれないか」

 

 言いながら上体をゆっくり起こす。うん、やっぱりやけに体が軽いな。見渡すと、周りには今日集まっていたプロヒーローたちやビッグ3の面々が勢揃いしていた。その誰もが、俺を見て仰天しているようだった。

 

「ご…ごめんなさい…もしかしてわたし…」

 

 急にエリが謝り始めた。なんか悪いことでもしちゃったのかな?許してあげよう、お兄ちゃんは優しいからね。

 

「エリよ、案ずるでない。今はとりあえずキミが無事で…よかっ…」

 

 ──あれ?なんか声高くね?俺ってこんな声してたっけ?

 

 喉でもイカれたかと首元を手で触る。そんなんで分かるわけは無いが、1つだけ分かったことがある。喉仏…その出っ張りがない気がする。引っ込んでんのか?そんなことある?

 

「これは…」

 

「どうしたものか…」

 

 頭を抱えるリューキュウと、ため息をつく相澤先生が見える。なにその反応、寝起きに。なんか嫌な予感がしてきたんだけど。

 

 何気なしに自分の手を見てみる。…あれ?俺の手、こんなちっちゃかったっけ…?なんかもみじ位のサイズになってる気がするんだけど。

 

 

 ──アイツの個性を知っているか?あらゆる事象を巻き戻すのさ。

 

 

 ふと、オーバーホールがそんな感じのことを言っていたことを思い出す。それと同時に点と点が線で結ばれたような。そんな気がしてきた。

 

「あ、愛生ちゃん。これを」

 

「梅雨ちゃん…この手鏡はどこから…?」

 

 

 どこから持ち出したのかよく分からない手鏡を、梅雨ちゃんは渡してくれた。俺はそれを受け取り、そっと自分の顔を覗き込む。

 

 

「な…な…!」

 

 

 エリが慌てふためいている。

 周りの皆もどこか遠くを見つめている。

 麗日は何故かスマホをその手に持っている。

 

 

 手鏡に映っている自分。

 その姿に俺は素っ頓狂な声を上げざるをえなかった。

 

 

「なんじゃこりゃあああああ!!!!!」

 

 

 そこには、幼い子どもの姿になった俺自身が映っていた。

 

 

 

 

 

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