──綺麗な人だと思った。
肩まで伸びた黒髪とそれに負けず劣らずの漆黒のセーラー服。黒色で染まった全身の中で鈍く光る紅色の瞳が、なんとも言えない色気を醸し出している。
その人物が確かにこう言った。‘’私の千晴”と。
「千晴とどういう関係なんだ…?あんたは…」
問い詰めなきゃ…。また他所で女を作っているアイツの事情を…。
「関係ね…。なんて言ったら良いんだろうな…う〜ん…一心同体…?」
「イッシン…ドウタイ…!?」
イッシンドウタイ…?一心…同体…?
一心同体だって!?
「あっはっは!面白い顔するね」
「な、なに訳の分からないこと言ってんだよ!一心同体って、意味分かって言ってんのか!?」
「勿論。私とアイツは身体を共有してるからね」
「は──?」
「私の記憶が千晴の細胞に移植されてね、それからあの子の身体に住まわせて貰ってるんだ。にわかには信じ難いだろうけども」
なにを言っているんだこの人は。
え?身体に住んでる?どゆこと?それ家賃とか発生するの?てゆーか記憶の移植?そんな技術がこの世にあるの?ヤバい、さっきから言われてることの意味がひとつも分からない。
「面白い娘だな、顔にすぐ出る」
「話がぶっ飛びすぎてるから…」
「そうだな、もっと分かりやすく言うと──」
ほくそ笑みながら、その女性は続けた。
「毎日同じ時間に起きて」
「は?」
「毎日同じご飯を食べて」
「ひ?」
「毎日同じ時間を過ごして」
「ふ?」
「毎日一緒にお風呂に入って」
「へ?」
「そして一緒に眠るんだ」
「ほ?」
「脳が壊れたようだな」
ピシッと体にヒビが入ったような気がした。それも顔にしっかり出ていたのか、黒髪の女性は私を見て笑っている。
「千晴の心の中に、常に自分が居ると思っていたのか?拳藤一佳」
な、なんでこの人、私の名前を知っているんだ…?自己紹介したっけ…?
「なんで知ってるんだって顔だね。君の話はよくしてるし、それに千晴の中からずっと見ていた。幼馴染なんだってね」
「そ、そうだけど!それがなんだってのよ!」
「その立場にかまけて居られるほど、余裕はあるのかなって思っただけさ」
女性の赤い瞳が怪しく光る。何だろう、この全てを見透かしているような目は。やけに心がザワつく。
「よ、余裕…?何の話してるのかサッパリなんですけど…?」
「おや、見当違いだったかな?私の見立てによるとキミ、千晴のこと好きだろう?」
「ッ──!?」
ば、バレてる!そんな分かりやすいのか私は!?普段の態度から出てるってこと!?こんな今日初めて話したような人にすら気付かれるって…。うわ…めちゃくちゃニヤニヤしとる…。すっげー腹立つ顔してるわ…。
「図星のようだな、可愛い奴め。これでなんで当の本人は気付いてないんだろうな。まぁかなりのニブチンではあるが」
「それはそう」
そこに関しては納得できる。別に気付いて欲しい訳ではないけど。
にしてもだ、千晴のヤツこんな綺麗な女の人と四六時中一緒に居るのかよ。記憶の移植…とか言ってたな。そんな大事なこと、私になんで話してくれないんだ…。
──千晴の心の中に、常に自分が居ると思っていたのか?
ついさっきの言葉を思い出す。そうだ、千晴の近くには割と色んな子が居る。目の前のこの人もそうだし、この前お見舞いに行った時にいたあの女もそうだ。A組の女子にも仲の良い子は居るし。あれ?よくよく考えてみたら…。
「いつ他の女に千晴が取られてもおかしくないって気付いたか?」
雷に打たれたような衝撃が走った。そうだ、その通りだ。
千晴とは長い付き合いで、昔っから私のことを好きだ好きだと言っている。私も勿論…アイツのことは好きだけど…。まだ告白は出来ない!千晴に相応しい女になってからじゃないとって決めたから!そう思って、アイツのアプローチは受け流してきた。
「しかし、高校に上がってあいつの周りに自分以外の女の子が増え始めた。その中には、明確に好意を持っている子もいる。千晴だって男だ。異性に迫られて、そっちに靡くなんてこともあるだろうに」
「心が読めるのかよ!?」
「年頃の娘が考えそうなことだ」
え、この人いくつ…?セーラー服着てるけど、もしかして実年齢はかなり上…?
「もう少し危機感を持った方がいいんじゃないか?思春期の男だ…いつまでも手を握らせてくれない子よりも、自分に積極的になってくれる子の方を選ぶことになっても不思議じゃない」
「ぐ、ぐぬぬ…!」
ド正論すぎてぐうの音も出ないとはこの事か!ぐぬぬとか言っちゃったわ!
でも確かに、この人の言うことは正しい。私の千晴への対応は、傍から見たら別に何とも思ってない人への対応に見えているのかも。それでも好きだと言ってくれるからどこか安心していたけど、千晴がずっと私のことを好きでいてくれる保証なんてどこにも無いんだ。
「あ…あんたは…」
「ん?」
「あんたは千晴のこと、どう思ってるんだよ?"私の"とか言うくらいだから、その…す…すき…好意とか持ってたりするのかよ!?」
なんで顔が熱くなってんだ、私。
「そうだなぁ…。毎朝私の胸の中で眠る千晴を見て、可愛いなって思ってるくらいだな」
む、胸の中で眠る…だと…!?私の脳内にイメージ映像が流れ始める。
「いつも寝ぼけて抱きついてくるんだ。これが何度注意しても直らなくてね。私のこと抱き枕か何かと思ってるのかもしれん」
勝ち誇ったかのような顔で言われる。何だよそれ…そんなこと知りたくなかった…。私が思っている以上に、2人の関係は…。
黒雪の女性はふわりと浮かび上がると、出入口の方へふよふよ飛んで行く。私の横を通る際、耳元で小さく呟いた。
「うかうかしてると、私が奪ってしまうからな」
奪う…千晴が…奪われてしまう…。
駄目だ、嫌だ、そんなこと。千晴は私のモノなんだ、昔から今までずっと。他の誰かに渡すなんて、そんなの許さない。
けど、今の私にそんなことを言える資格はあるのか?千晴を釘付けにし続けられるほどのことを、今までしてきたのか?この人の言う通り、いつ他の子にコロッといくのか分からない。危ない橋を渡っていたことに、今更気づいてしまったんだ。
「じゃ、私はお暇するとしよう」
そう言って黒雪の女性は、私の部屋から出て行った。
その背中を、私は呆然と見つめることしか出来なかった。
○
『愛生さん、ついに完成しましたよ!あなたの体を元に戻す発明品が!』
『待っていたぜ、この瞬間をよォ!』
昨晩、発目から一報が入った。どうやら、俺の体を元の大きさに戻す発明品が完成したらしい。それを聞いた俺は、部屋のベッドの上で舞い上がっていた。
「やったぜ!ようやくこの不便な体とはおさらばだ!」
「でも大丈夫なのか?その娘、この前はお前を豚と合体させようとしたんだろう?」
「昔の話さ!今度のは絶対に成功するって言ってたし。細けーことは気にすんな」
「嫌な予感しかしないが、本人が良いならまあ…」
という訳でやって来たサポート科の実験室。そこには見たことの無い巨大な機械が設置されていた。なんだこれ、棺桶みたいなのが見えるんだけど。
「愛生さん、お待ちしてましたよ」
「おお発目。いつにも増してすす汚れてんな」
「ええ、この機械を完成させるのに1週間くらいお風呂入ってないですからね」
「JKがそれで良いのか果たして」
…まぁ、発目も俺の為に頑張ってくれたんだ。見たところ隈もすごい。寝ずに発明をしてくれてたんだろう。感謝してもしきれない。
「あ、それと今回の実験に伴ってとある方に協力を依頼したんですよ」
「ん?協力?一体誰だい?」
発目が自身の背後を見やる。俺もそこに注目すると、俺と同じくらいの小さな人影がゴソゴソとしているのが見えた。
「こ、こんにちは…」
「エリ!エリじゃないか!?」
そこから現れたのは白髪の少女、エリだった。気恥しそうにモジモジしながら、俺の前にトコトコと歩いてくる。
「元気してたか〜?もう体は平気そうか?」
「うん…病院の皆さんも良くしてくれるから…。それにヒーローの人たちも…」
死穢八斎會の解体後、ひとまずエリは都内の病院でお世話になっていた。傷の治療や心のケアなど、まだ幼いエリに早く元気になってもらえるように皆が動いてくれたようだ。色々とタイミングとか合わなくて俺は結局お見舞いに行けていなかったから、今日会うのは久々なんだ。
「あの、私ちゃんとお礼言えてなくて…。それで、今日会えるって聞いてたから、その時にちゃんと"ありがとう"って言いたかったの…」
「ははは〜!別に良いのにそれくらい。俺たちゃエリが元気でいてくれたら、それだけでお釣りが来るってもんよ」
しっかりしてるな…この子は…。俺がエリと同じくらいの歳だった時なんて、犬のフンとか集めて友達に投げつけてたぞ。
まぁ何にせよ、エリが普通の暮らしを送っていけそうならそれで満足だ。
「まぁなんだ。また何か困ったことあったら、すぐ言うんだぞ。にーちゃんすぐに駆けつけるからな」
言ってエリの頭をポンポンする。身長が同じくらいだから、実は少し背伸びもしている。ああ、早く元の体に戻りたいぜ。
「うん…!」
ま、こんな笑顔のエリを間近で見られたなら、小さくなっても良かったのかもな。
「んでもさ発目、なんでエリがここに?」
再会の喜びで少し吹っ飛んでたが、そもそもそこだ。エリをここに呼んだ理由は一体なんなんだろうか。
「無論、今回の実験を手伝ってもらうからですよ」
巨大な機械の方へ歩を進めながら、発目は続けた。
「聞くとその子、エリさんの個性"巻き戻し"によって、今回アナタはそのような体になってしまわれたんですよね?そこで思いついたのが、その巻き戻しの力を逆転出来ないかってことです」
「逆転の発想」
「ぎゃくてん…?」
「そういうことです」
機械のモニターを弄りつつ、手元のボタンをポチポチする発目。俺はそんな彼女の元にエリと近づく。
「今回私が発明したのは、物事の現象を逆転することの出来る機械。その名も"ライフイズストレンジ"。これとエリさんの巻き戻しを使って、あなたの体を高校生に戻します」
「らいふいず…すとれっち…?」
横でエリが首を傾げていた。俺も正直よくわかってない。なんか凄そうな話をしていることは分かる。
「まぁ話しても無駄でしょうし、とりあえず2人ともあの棺桶の中に入ってください。機械を起動させて実験に移ります」
「いや展開はやっ!?なんか色々不安だけど、今回失敗のリスクとかは無いのか?」
「…」
「なんか言えよっ!」
先行きが不安すぎる!けどまぁ、今のところ元の体に戻るにはこの方法しか無さそうなのも事実。
「…っ」
「お?どした、エリ?」
エリにギュッと服を掴まれる。不安そうな表情をしていた。…まあ無理もないだろう。訳の分からないところで、こんな訳の分からない機械の中に入れられようとしているんだから。
「大丈夫ですよ、エリさん」
そんなエリを見かねて、発目がそう声をかけた。膝を折って、目線をエリと合わせる。
「今回の実験が仮に失敗したとしても、あなたに被害が及ぶことはありません。失敗した時のリスクは、全て愛生さんが背負うように調整させていただきました」
「それ調整って言わねーだろ!」
「そっか、それなら大丈夫だね」
「んエリぃ!!」
…ったく、でもエリにマイナスに働くような事が無いなら、最悪俺に何かあっても大丈夫か。そこは発目の言葉を信じよう。不安しかないけど、やるしかない。
「千晴…お兄ちゃん…。私のせいで大変な思いをさせてしまってゴメンなさい。でも、私の力でお兄ちゃんを元に戻せるなら…。私、怖くないよ!」
「エリ…なんて良い子なんだ…!お兄ちゃん嬉しくて泣いちゃう…!」
「はいじゃあ始めますねー」
淡々と実験の準備を始める発目。俺とエリは指示された通り謎の棺桶の中に入る。中はクッション性のシートが付いており、意外と入り心地は良い。いや感心してる場合じゃ無いんだけどね。
「ライフイズストレンジ、起動!時の旅へいってらっしゃーい!」
「これアトラクション感覚でやるもんなの?」
ガコンとレバーが引かれる音がする。次にゴゴゴゴと重低音が鳴り響いてきた。この辺は前と同じなんだな。
「キャリブレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定。擬似皮質の分子イオンに制御モジュールを直結! ニューラルリンゲージ・ネットワーク、再構築…メタ運動関数!コリオリ偏差修正!運動ルーチン接続! システム、オンライン!ブーストラップ起動!」
「えっ!?なになに!?なんて言ってんの!?」
突如として早口を言い始めた発目にビビるも、今の俺たちは大人しくすることしかできない。ビクビクしながら待っていると、背骨あたりにビビっと電流が流れるような感覚が走った。
「あばばばばば!」
「CPC設定完了。イオン濃度正常。メタ運動野パラメータ更新。原子炉臨界。パワーフロー正常。全システムオールグリーン」
発目はまだ呪文を唱えている。なにこれ何かの詠唱?怖いからやめて欲しいんだけど!
「──来ます!」
「お、おわあああああ!?」
なんっだ…この感覚…!体が強引に引っ張られるような…ちぎれる…!?まるで洗濯機の中に放り込まれたような気分だ。
ドゴン!というひときわ大きな衝撃音が響いた。なんだ?一体どうなった?
バシュン!と棺桶の蓋が開かれる。棺桶の外は煙がモクモクしており、視界が遮られている。とりあえず俺は外に出ることにする。
「発目…実験は…?」
「はい、実験の方は──」
視界の左側に人影が見える。これは隣の棺桶から出てきたエリだ。エリはちゃんと無事なのだろうか、そっちも心配だ。
「実験は…」
だんだんと煙が晴れてきた。視界がハッキリしてくると、自分の目線も分かってくる。
…ん?あれ…なんかあんまり変わってないような…?それになんか体が重い…。膝とか痛いし…。立ってるだけで体力が消耗していく…。
近くに姿見がある。そこに写った自分の姿を見て、俺は度肝を抜かした。
「おじいちゃんになってる!!!」
そこには白髪で腰の曲がった老人が居た。
高校生どころじゃねぇ!これもう天寿を全うしかけてるぞ!
「失敗しました☆」
「ざっけんな!これどーすんだよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて。入れ歯が飛んでっちゃいますよ」
「やかましいわ!」
くそ、やっぱり発目を信頼した俺が馬鹿だった。こんなジジイの姿になっちまって、これからどうやって生きていったらいいんだ。いや、もしかしたら本当にもう先は長くないのかも…。そんなの嫌だ!まだやり残したことが沢山あるのに!
「ち、千晴おじいちゃん…?」
エリは無事のようだ。棺桶に入る前から何も変化は無い。そのことには胸を撫で下ろす。
「あー、分かりましたよ愛生さん。ちょっと軸がズレていただけのようです。今度はいけます、パーペキです」
「し、信じていいんだろうな…」
最早ここまで来たら、発目に何とかしてもらうしかない。せめて20代…いや10代の体にはしてもらわないと…。おずおずと俺とエリは再び棺桶の中に入った。
「スイッチオン!!」
再び訪れる衝撃音。棺桶の蓋が開かれるも…何故だ…体が思うように動かせない…。
「発目さん、棺桶の中から赤ちゃんが」
「ばぶぅ!!(マジでどーなってんだ!?)」
再び棺桶の中に放り込まれる。
「う〜ん…今度は30代くらいか…」
「ビミョーにおっさん臭くなってくる頃ですね」
またまた実験は失敗。棺桶の中へ飛び込む。
「あれ?なんか胸に柔らかいもんが…」
「まさか、ここに来て女体化!?」
その後も実験は失敗を繰り返し──。
「──次こそいけるハズです。もう失敗はしません」
「ホントに頼むぞ…発目…」
時刻は夕方に差し掛かっていた。気付けば一日がかりだ。もう体もヘトヘトになっている。
今度こそ…と祈りながら俺とエリは棺桶の中に入り込む。もう何度目かの機械音を全身で味わいながら、俺はギュッと目を瞑った。
体が引っ張られる感覚。ビリビリとした感覚も引き続き振りかかってくる。これ絶妙にしんどいんだよな。
「数値が全て正常!これはいけます!」
バシュン!と蓋が勢いよく開かれる。もうもうと立ち上る白煙から抜け出てすぐさま姿見の方へ。
「お、おおおおお…?」
まずは目線から。それはどこか懐かしいものになっていた。
「こ、これは…」
手のひらを見てその大きさに安心感を覚える。この手の大きさ、指の長さ。これはまさか…。
「も、戻ったぞ!16歳の俺に!」
姿見に映る全身像でそれを確信する。長い戦いの末、俺は元の高校生の体を取り戻した。
「ふぅ。終わり良ければ全て良しですね」
「はっ倒すぞおまえ」
でもまぁ、過程はどうあれ元の体に戻ることが出来たんだ。これは発目がいなきゃ出来なかったこと。ちゃんと感謝しないといけないな。
「エリ、無事か!」
自分だけじゃない。ここまで実験に付き合ってくれたエリにも、感謝をしなければ。まずはその身の安否を確認しなければ。俺はエリが入っていた棺桶の方へ近づく。
「ん…、お兄ちゃん、元に戻れたの?」
良かった、ちゃんとエリの声がする。実験は成功だ。みんな無事で本当に良かった。
「ああ、エリのおかげだよ!」
「そっか、それは良かった…」
次第に煙も晴れてきた。若干残っている煙にエリのシルエットが浮かび上がる。うん、ちゃんと棺桶から出てきてるようだ。よかったよかった。
──あれ?なんかおかしいな?
エリのシルエットに、俺は一瞬違和感を覚える。
なんというかこう…思っているより影が大きいのだ…。エリの身長は俺の腰くらいだったはず。なのに、目の前のシルエットは俺の目線より少しだけ低いくらいの大きさだった。
「歩きづらい…。それに何だか服も少しキツいような…」
「え、エリ…?お前もしかして…?」
何だか嫌な予感が…。
煙が完全に晴れ、そこから現れたエリの姿に俺は飛び上がった。いや、飛び上がらざるを得なかった。
なんとそこには──。
「あ…今度は私も高校生になっちゃった…」
「エリぃぃぃぃ!!!!!」
そこには、16歳になったエリが立っていた──!!
着ていた子ども用の白いワンピースは、当たり前だがサイズが合っていない。丈が合わなくなってしまったワンピースを下に引っ張りながら、エリは恥ずかしそうにこちらを見ていた。
「あ、その…あんまり見ないでほしいです…」
「ほー、こりゃまたべっぴんさんになりましたね。体の凹凸もハッキリしてますし」
「べっぴんさん…?」
「そこじゃねーだろ!エリ、鏡を見ろ!これが今のお前の姿だ!」
俺はすぐさま鏡を持ってきてエリに自身の姿を見せてやる。エリは首を傾げながら、姿見の前で自分の体を確認する。
「凄い…ホントに大きくなってる…」
「やり直すぞ、このままじゃエリが可哀想だ。ったく、何がエリの方にリスクは掛からないよにしただ」
「へへへ、ゴメンなさい」
どっちにしろ、エリをこのまま16歳の姿にしておく訳にはいかない。すぐにでも元の年齢に戻してあげないと。それでもしまた俺の体が変わってしまっても、それはもう仕方ないことだ。
「発目、機械の準備だ。申し訳ないが、もうちょっとだけ付き合って──」
「待って!」
俺の言葉を遮るように声を張り上げたのはエリだ。唐突に大声が聞こえたもんだから、ビックリして発目と一緒にそっちへ向く。
「私、このままでいい」
「へ?」
エリの言葉に変な声が出る。このままでいいって、あなた本気で言ってるの?
エリは自分の姿を再度鏡で見た後、俺の方へ歩み寄って来る。じっと俺の方を見てくるから、思わず後ずさる。なかなか際どい格好をしているから、目のやり場に困るな。それに体つきも女性らしくなってるし。
「こっちの体の方がいい」
「な、なんでだよ…。急に高校生くらいの年齢になっちまったんだぞ」
「ううん、だってこっちの方が…」
次の瞬間、エリは俺の腕にギュッと抱きついてきた。
「お兄ちゃんとお似合いに見えるから」
二の腕に確かな膨らみを感じる…。っていやいや、そうじゃないだろ!お似合いってどういうことだ!?
「なんだそれ。バカなこと言ってないで、早く体を戻すぞ」
「嫌ですか?」
「え?」
ギュッと俺の腕を拘束する力が強まった。頬を桃色に染めながら、上目遣いでエリは甘い声を出してきた。
「16歳の私は嫌ですか…?千晴おにい…千晴さん…」
「ごふっ!」
俺は吐血した。何だこの破壊力は。ずるい、これはずるいぞエリ。そんな顔されて揺らがない男はいない。
「じゃ、疲れたんで私は帰りますね。おつかれしたー」
「なっ!?おい発目ぇ!」
発目も体をふらつかせながら部屋から出て行った。あいつ仕事放棄しやがった。
サポート科の部屋に残されたのは、俺とエリの2人だけ…。
「おいおい、どーすんだよこれ…」
「千晴さん、今から病院には戻れないので今日はお部屋に泊めてください」
「出来るかっ!!」
一体何を言っとるんだこの子は。仕方ない、こうなったらクラスの女子に頼んで部屋を貸してもらうしか。
「でも私…!」
「おわっ!」
エリに飛びつかれ、思わず地面に仰向けに転ぶ。その上にエリが覆い被さるような体勢に。なんか押し倒されたみたいになってんな。
「恩返しがしたいんです…!あなたは私を救ってくれたから…。だから…!」
ギュッと手を握られる。女の子特有の柔らかさのある手だった。心臓がバクバクいっている。やばい、俺いま顔真っ赤なんじゃ…。
「千晴さん…だめ…?」
「す、好きにしてください…」
そう答えると、エリは目を細めて妖艶に笑って見せた。
「やった♡」
間違いない…この子は将来、魔性の女になる──!!!
【拳藤一佳】
・元祖捕食者
・玉座で余裕をぶっこいていたが、その座を奪われそうになって焦り始める
【アンナチュラル】
・玉座を狙う(?)うちの、1人
・千晴のことを、本人の前では"小僧"と呼び、他の人の前では下の名前で呼ぶ女
【エリ】
・期待の新人
・恩返しという名の依存