君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#71 おっす、オラ千晴。それと…カカロット

『続いて、本日のヒーローニュースです。学生ヒーローが大手柄を上げました』

 

 淡々と読み上げるテレビの中のキャスターは、まるで当たり前だとでも言わんばかりに報道を始めた。決められた台本とそれに合わせて流れる1つの映像。そこには、今日街に現れたヴィランと戦う俺の姿が映し出されていた。

 

「わぁ〜!これホントにちはるおにいちゃん?」

 

「そうだぜコタロー。よぉく見てみな、こんな男前そうそういねぇだろ?」

 

「すご〜い、かっこい〜!」

 

 俺の勇姿を見て目をキラキラ輝かせるガキンチョが1人。名を天岸コタローという。齢6歳のエレメンタリースクールスチューデントだ。

 

「千晴くんがいなかったら私も危なかったわ。本当にありがとうね」

 

「ははは、何回言うんだよりんねさん。もうお腹いっぱいだって」

 

 感謝を伝えてくれたのはコタローの姉、天岸りんねさんだ。近くで保育士をしているとのこと。母性が全身から漏れ出ている。

 

 地面をグラグラさせるヴィラン、ヴィラン名"マグニチュード"を倒した俺は、この"天岸家"にお邪魔していた。え?この人たちとどういう関係だって?全くの赤の他人さ!

 

 事の経緯を説明しよう。ヴィランを倒した後、諸々の手続きや現場の後始末をしていて、終わる頃には日が傾きかけていた。色々あって疲れたからホテルに行こうと思い、ナガンに今日のホテルはどこか確認。すると返ってきたのは、「ホテルは自分で用意しろと言ったはずだ」という悪魔のような言葉。

 

 愛生千晴は絶望した。なんかそんなようなことを言っていたような気もしたが、正直ちゃんと話を聞いていなかった。いつものように公安側で色々と準備をしてくれているだろうと、油断をしていた。その慢心がこの状況を作ったのだ。

 

 今夜は野宿か…そう思い始めた時、俺の前に1人の女性が現れたのだ。それがいま目の前に居る、りんねさんというわけ。

 

「さっき助けてくれたお礼をさせてください」

 

 そのりんねさんのお言葉に甘え、俺は天岸家に転がり込んだという寸法さ。お風呂と服を借りて、用意してくれた晩御飯を前にちゃぶ台を囲んでいる。凄い、よく出来たストーリーだ!

 

「雄英高校の1年生なのよね?体育祭見てたよ」

 

「マジっすか?なんか照れるな、変なことしてなかったかな」

 

「色んな意味で目立ってた」

 

「そりゃ結構」

 

 談笑しながらりんねさんの焼いてくれた魚をひょいパクっとな。うん、完璧な味付けです。これならどこに出しても恥ずかしくないであろう。お米とお味噌汁も堪能する。うん、お店を出せるレベルなんじゃないか?どうして保育士の道を選んだんだろうね。

 

「ふふ…」

 

「ぬん?俺の顔になにか付いてますか?」

 

「ううん、よく食べるなぁって。新しい弟ができたみたい」

 

「ハッハッハ、弟ならこちらにおられるではないですか」

 

「ぼくも弟だよ!」

 

 ばっと箸を突き出して声を荒らげるコタロー。危ないからやめなさいと、りんねさんから注意を受けていた。わんぱくである。

 

「ただいま〜」

 

 その時、玄関の方から声が聞こえてきた。パタパタと廊下を歩く足音は、いま俺たちがいる居間の所で止まる。

 

「おかえり、フウカ。夜ご飯できてるよ」

 

「おかー」

 

「ありがとう、お姉ちゃん。コタロー、いい子にしてたか?──って、あれ?」

 

 居間に入ってきたのは制服を着た金髪ロングの女の子、フウカと呼ばれたその子は、俺の顔を見て目付きを鋭くさせた。

 

「誰?この人」

 

「愛生千晴くんっていうの。今日私をヴィランから助けてくれたんだ」

 

「ヴィランから…?」

 

「おっす、オラ千晴。それと…カカロット」

 

「カカ…?なんて?」

 

 は?というような顔をされた。掴みは失敗したようだ、女の子にこのネタはあんま通用しねーな。

 

「ちーくんって呼んでもいいぜ。仲良い子はみんなそう呼ぶ」

 

「私ら初対面だよな?」

 

「それはそう」

 

 ごもっともな意見だ。しまった、初めましてでこのノリは些かチャレンジが過ぎたか…。見るからに怪しい目で俺の事を見ているぞ、この金髪ギャル。視線が痛い。

 

「ふ〜ん…で、いつまで居る気なの?ご飯食べたらさっさと出てくんでしょうね?」

 

「それが今晩泊まっていってもらおうかなって…。聞くと泊まる場所が無いみたい」

 

「めんぼくねぇ」

 

「ハァ!?何それ意味わかんない!!」

 

 おう、すごく大きな声が出たな。気持ちはわからんでもないけど。初対面の人をいきなり泊めさせるなんて、漫画の世界かよって思うもん。

 

「イヤに決まってんでしょ!ご飯だけ食べてもらったらすぐ帰そうよ!」

 

「で、でも…まだこの子高校生なのよ?こんな時間に他所に行ってもらうなんて心配じゃない…」

 

「それはそうだけど…。でも私は反対よ、知らない人を家に泊めるなんて」

 

「フウカ…」

 

 りんねさんの弱々しい声が、お茶の間に響く。コタローも幼いながらも空気感を感じ取っているのか、ご飯を取る箸が止まる。

 

 ──まぁ、普通に考えてこの子の言う事が当たり前だよな。言うなれば俺は異分子だ。いくら一晩の予定でも、年頃の女の子が居るご家庭にお邪魔するのはよろしくない。ここは俺が出ていくのが良さそうだな。りんねさんの厚意で夕食をご馳走してくれただけでも、感謝しないと。

 

 勢いよくご飯をかきこみ、グラスの中の水を一気に飲み干す。これでお腹いっぱい、満たされた。長居するのも迷惑だ、さっさとお暇するとしよう。

 

「ごちそうさま、りんねさん!じゃあなコタロー、ちゃんと姉ちゃんの言うこと聞くんだぞ?」

 

「あっ、千晴くん…」

 

「ちはるおにーちゃん、もういっちゃうのー?」

 

 残念そうな表情をするコタローの頭に手を置き、なでなでしてやる。

 

「ご馳走してくれただけで充分さ。それに、今からまだパトロールしなきゃいけないしな。──ってな訳で、ここらで退散とさせていただきますわ!」

 

 立ち上がって帰り支度を始めると、オロオロしているりんねさんが見えた。誘ってもらっておいてこの始末だと、逆に申し訳なくなってくるな。けどまあ仕方ない。

 

「ビックリさせちゃってごめん」

 

「…」

 

 次女のフウカにそう言って、玄関へ向かう。後ろからりんねさんとコタローが着いてきた。靴を脱いで挨拶をしようと向き直ると、やはりそこには申し訳なさそうな顔をしているりんねさんがいた。

 

「命を救ってもらったのに、ごめんなさい。ロクなおもてなしも出来なくて」

 

「気にしなくて大丈夫。ご飯美味しかった!ありがとう!」

 

 じゃ、と言って天岸家を去ることにした。そのまま団地を後にして、適当にぶらついていると、割と大きめな橋が架かっている河原を見つけた。そこの土手に腰を下ろすことにする。

 

「…風が騒がしいな」

 

 吹き付ける秋の夜風が髪を揺らす。

 

 夜もだいぶ過ごしやすくなってきたな。

 

 今日は満月。夜空に輝く月が川面に反射して、その存在を示している。

 

 なぁ、知ってるか?月って自分一人では輝くことが出来ないんだぜ?

 そう、まるで今の俺のようにな…。

 

『何をカッコつけているんだ?』

 

「え゛」

 

 気づけば背後にいたアンナチュラルが、冷たい声色でそういった。い、一体いつからそこにいらっしゃったのか。そしてなんだか見下されているような…気の所為…?

 

『このアンポンタンが…せっかく手に入れた寝床をみすみす逃すなんて愚行…!恥を知れ!』

 

「わ、悪かったって!だから頭グリグリすんのやめて!」

 

 アンナチュラルによる拳骨グリグリタイムの襲来である。両方のグーでこめかみを抉られるかのような威力で、それは放たれる。俺の頭はちょっと凹んだ。

 

『ったく。それで?これからどうするんだ?他に行く宛てがあるんだろうな?あるからあの家を出てきたんだろうな?え?』

 

 わお、すっごい高圧的な態度。俺でなきゃ萎縮しちゃうね。アンナチュラルさん、激おこである。頭からツノ生えてるもんツノ。

 

「行く宛てですか?今のところ野宿ですけど?なにか?あ、ちょうど目の前に水浴びが出来そうな川がありますね!そこでスッキリしてきたらどうですか?」

 

『こんの…クソボケがぁーッ!!!』

 

「ッ()ァー!!!」

 

 そんな返事をしたら、おもっくそぶん殴られた。そのまま土手の下の所まで飛んでいき、頭から地面に着地。無事に地面から足だけが出てる形になりました。

 

『我、暖かい寝床を所望す』

 

 なんか言ってるよ…。てかアンタ幽霊だろ、そもそもそんなの必要ないだろうに。いつからこんなワガママな子になったんだ?誰だ、こんなに甘やかして育てた奴は!

 

 にしても、本当にどうしような今日の寝床。漫画喫茶やカプセルホテルなんかも考えたけど、高校生の身分じゃ一晩泊まるのは厳しいよな。どっかにプロヒーローとか転がってないかな?そんでそのままその人んちに転がりこめたりしないかな?

 

『あの女に電話してみろ、あのスナイパー気取りの年増だ。泣きつけば何とかしてくれるだろう。泣き落とせ!』

 

「いや言い方…。でもまぁそれが一番いいか…。えーとスマホスマホ」

 

 ナガンに頼るのが安牌か、それもそうだよな。アンナチュラルの提案に乗り、ナガンに電話をかける。その時だった。

 

「こんな所でどうしたんだ?」

 

 背後からそう声をかけられる。振り向くと、そこには銀色の髪をした長髪の男性が立っていた。

 

 どこか不思議な雰囲気のある人だと思った。

 

「…誰?」

 

「名乗る程の者じゃないよ。ただの通りすがりの一市民さ。君は?ここで何をしていたんだ?」

 

 掠れているけどどこか芯のある声。変な緊張感が走る。返答をするのに少し間が空いてしまった。

 

「あ、ちょいと寝床探しをですね。このままじゃ野宿になるかもって状況だったから」

 

「それは大変だ。しかし悪い、私では力になれそうにないな」

 

 なんだ…この人…。一体何を考えている…?なんで俺に話しかけてきた…?いや、変に疑いすぎか?

 

 俺の勘ぐるような雰囲気を察したのか、その男は柔和な笑みを浮かべた。

 

「別にそう身構えなくてもいいさ、怪しい者じゃない。ただちょっと夜風を感じたくてね。こうして散歩するのが好きなだけだ」

 

 そのまま俺の傍までやってきて、ゆっくりと河原に腰を下ろす。

 

「君も座りなよ」

 

「あ、はい…」

 

 言われるがままにそうする。チラリとアンナチュラルを見やると、彼女もじっと男の人を見つめていた。

 

「今日は風が騒がしいな」

 

「ッ!?」

 

『この男、まさか同類だったか』

 

 この人、さっきの俺と同じこと言ってる。後から思えばちょっと恥ずかしかったあの発言と、全く同じこと言いおった。マジでどういう人…?

 

「けど、心は落ち着くな。そうは思わないか?愛生千晴くん」

 

「…なんで俺の名前知ってんの?」

 

 俺の質問に、男はフッと笑って答えた。

 

「雄英高校のヒーロー科の子だろ?世間じゃちょっとした有名人じゃないか。今日もこの街で活躍したみたいだ。ビックリしたか?知らない人が自分の名前を知っていたことに」

 

「もうそんなに広まってんだ。まぁニュースでも取り上げられてたしな、ちょっとくらいは驚くよ」

 

 度々雄英高校の知名度には驚かされる。体育祭とか全国規模だからか、既に国民に知られている生徒もやっぱり少なくない。それでも自分の知らない人に知られてるって、変な気持ちになるな。

 

「君はなんでヒーローを目指してるんだ?」

 

 次にそんな質問が飛んできた。何だかインタビューでも受けているかのような気分だな。

 

「好きな子を守るため」

 

「…へぇ!斜め上な回答が出てきたな。ナンバーワンになるとか、お金持ちになるとか、そんなありきたりなものを想像してた」

 

「んー、あんまそういうのには興味無いかな。俺は大切な子が傷つかないようにして欲しいだけだし。その子さえ居れば、後は何も要らないから」

 

「…凄いな君は」

 

 まぁね!一佳を想う気持ちは誰にも負けないから!けど最近ちゃんと話せてないよな、元気かな一佳。インターン先でも頑張ってるんだろうな。後で電話でもしてみようかな。

 

「この世界に足りないモノって、なんだと思う?」

 

「足りないモノ…?」

 

 なんか唐突に重そうな質問が飛んできたんですけど。世界に足りないモノ?なにそれ、そんなの考えたことないけど。でもまぁそうだな、強いて言うなら…。

 

「"愛"かな?」

 

「うん、趣深いね」

 

 なんだコイツ。趣深いなんて言う奴初めて見たぞ。

 

「変なこと聞くね。お兄さんは何だと思うの?」

 

「私か?答えは"分からない"だ」

 

「なにそのセコい回答」

 

「あっはっは!自分でもそう思うよ」

 

 けど…と、その男の人は言葉を続けた。

 

「何かが欲しいと思った時、何かを成し得たいと思った時に必要なのは"力"だと思う」

 

 男の目が鋭くなる。その瞳からは、強い想いのようなものが感じられた。

 

「弱肉強食なんて言葉があるけど、まさにその通りさ。強者が弱者の上に立つ。この世界はそうやって形づくられている」

 

 なんか急に話のスケールが大きくなったな。つまり何が言いたいんだこの人は。

 

「…ごめん、何だか思想が強い人みたいになってたね。忘れてくれ」

 

「いや、初対面でこんな強烈な人なかなかいないさ」

 

 かもな、と言いながら男は立ち上がる。

 

「話せて良かった。私はそろそろ行くよ。見たいバラエティがあるんでね」

 

「そっか。それじゃあここらで」

 

「ああ、くれぐれも気をつけて」

 

 手を振りながら男は、俺の傍から去っていく。長い銀髪を揺らすその背を、俺はじっと見ていた。

 

 少し歩いた所で男は立ち止まり、こちらを振り返る。

 

「君とはまた会える気がする。その時はまた話そう。今度は"彼女"も一緒に」

 

 それだけ言い残し、男は再度歩き始めた。その背中が見えなくなるまで見つめ続ける。

 

「彼女…一佳のことか…?俺付き合ってるなんて言ったっけ?」

 

『あの男…なんか引っかかるな』

 

 アンナチュラルがそんなことをボヤいていた。確かに少しクセのある人だったけども。不思議な人だったな。

 

『まぁ今はいい。それよりあの年増とは繋がったのか?早くしないと雷を落とすぞ』

 

「年増年増って、アンタの方が歳は上だろうに…。ナガンに聞かれたらキレ散らかすぞ多分」

 

『あ?私の年齢がなんだって?』

 

「な、なんでもねっす」

 

 とてつもないプレッシャーを感じたので、年齢の考えるのはそこまでにしてそそくさとナガンに電話を架ける。結果は…うん、どうせ俺のことだから寝る場所の手配を忘れているだろうと予想し、予め取っておいてくれてたみたいだ。持つべきは面倒見のいい師匠だね。

 

『一番風呂は私だからな』

 

「へーへー、分かりましたよ」

 

『覗いたら殺すからな』

 

「するかそんなこと!それよか、毎度俺のベッドに入ってくるの辞めて欲しいんだけどっ!」

 

『勘違いするな。ただ私は柔らかいベッドで気持ちよく眠りたいだけだ。蹴落とされないだけマシだと思え』

 

 な…なんつー女だ…。AFOめ、厄介な奴押し付けやがって。今度会ったら返品してやるからな。

 

 その後もやんややんや言い合いながら、俺とアンナチュラルはナガンの用意してくれたホテルへ向かうのだった。

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