敵が味方の決めゼリフ使うの良かったです。
『精神と魂の同調。それを行うことで私とお前の体の境界は曖昧になり、お前は私、私はお前に近づく。お前よりかは"超能力"という個性についての知識や解釈が深い私に近づくことで、必然的に個性の核心への距離が短くなるということだ』
頭の中でアンナチュラルの声が響く。精神と魂の同調。アンナチュラルと思考や体を共有することで、普段の何倍もの力を発揮することが出来る。こんな方法があったなんて、思いもよらなかった。
『窮地を脱する為の付け焼刃程度の策だ、あまり過信はするなよ』
「OK。不服だけど、こればかりはAFOに感謝かもな」
『それだけはやめとけ』
言うやいなやバッサリと切り捨てられる。うん、俺も嫌だけどアンナチュラルはもっとらしい。一体AFOと過去に何があったのやら。神野での話しぶりからすると、ただならぬ関係性ではありそうだけど。
「行クぞ…!」
「かかってこいやァ!しゃおぉうワッ!!」
先に動いたのはハイエンドだ。伸ばした四つの腕を全て、俺を穿つ為の武器として放ってきた。
見える…ハイエンドの動きが…。
強化向上されたのは単純に個性の出力だけじゃない。基礎的な身体能力等も上がっている。アンナチュラルのパワーも付加された今の俺の動体視力であれば、ハイエンドの動きも捉えられる。
躱しつつバリアでいなしつつでハイエンドの猛攻を凌ぎ切り、その距離を詰めていく。同時にエネルギーを溜めに溜めた右手を引き絞っておく。狙うは勿論──。
「その剥き出しの脳みそだァ!」
ぐちゃり、と嫌な音と感覚がした。俺の拳がハイエンドの顔面にクリーンヒットしたのだ。繰り出した拳の威力そのままに、勢いよく腕を振り抜いてその巨体を吹っ飛ばす。
「まだまだこんなもんじゃないぞ」
続け様に俺はビルを引っこ抜き、腕を振るってそれをハイエンドに投げつける。強大な質量爆弾。さっきの車や標識なんかとは訳が違うぞ。
ハイエンドとビルが一緒に地面に墜落するのが見えた。攻撃の手は緩めない。ハイエンドが何かをしてくる前に決め切るんだ。
墜落地点をロックオン、後はイメージ。まるで地中から溶岩が噴き出してくるかのような、猛る炎を生み出すような。ありとあらゆる物を焼け焦がしてしまう程の火力を。
「パイロキネシス」
瞬間、視界が炎に包まれた。
発火なんて超えたレベルの炎が、ハイエンドの居る所から炎柱として顕現される。極大の爆炎が、ハイエンドを包み込んでいた。相当威力が上がってるな、出した俺ですら熱さを感じる。
「こノ程度…!」
だが、パイロキネシスが直撃したはずのハイエンドは涼しい顔で炎の中から飛び出してきた。肉体の数カ所は再生途中だということから、ある程度の削りは出来たのだと分かる。
「丈夫なやっちゃな。痩せ我慢とかしてるんじゃないだろうな」
だけどそれじゃ駄目だ。中途半端なダメージはすぐに回復されて、新品に戻ってしまう。コイツを一撃で屠れるくらいの技が必要だ。そうでないとジリ貧で俺が先に倒れる。
「熱ヲ…熱が欲シい!」
何か打つ手を探せ!今この瞬間、目の前のヴィランを倒せる方法を見つけるんだ!
伸びてくる多腕。それは鞭のようにしなり、俺の体を弾き飛ばそうとしてくる。一撃でも貰ったら上半身と下半身が2つに分かれてしまいそうな、それだけの威力が込められている。
見えない空気のバリアがあると言っても、それは完璧な防御術とは言えるレベルでは無い。周囲の空気の操作にはほんの少しの時間が必要だし、コントロールが未熟で上手く作動しない場合も全然ある。だから、先読みの力と間に合うだけのバリアで何とかハイエンドの攻撃を凌いでいる状況だ。
「防ぐバカりか?腰抜ケなんだナ」
「言ってくれるじゃねーか!」
ハイエンドの右ストレートを寸前で回避。
そのまま顔面に拳を1発、後頭部にカカト落とし、空いた腹部に渾身の右手を立て続けに撃ち込む。
宙から地面に突き落としたハイエンドへ、さらにゼロ距離の衝撃波を浴びせた。
これも強化されて、もはや空気の刃と化していた。
地面が真っ二つになる程の威力を秘めた刃は、ハイエンドの胴体をいとも簡単にバラけさせた。しかし、その損傷も一瞬にして回復される。参ったな、埒が明かないぞ。
その時だった。脳を中心に激痛が走る。あ、これはいつものやつ…個性の副作用がやってきた…。同時に鼻から血が垂れてくるのを感じる。
同調の威力は凄まじい…。けどその分、体に来るダメージは大きいようだ。今までの副作用とは比べ物にならない程の苦痛が、全身を巡っている。
「つツッツまらない…」
痛みに悶えている隙をつかれる。
ハイエンドの左腕が俺の首を掴み、そのまま目線の高さまで押し上げた。
剥き出しの脳ミソと黄色い瞳が目の前にある。
「もッとやレるかト思っテいた。お前二は失望しタ」
「期待に添えなくて…悪かったな…がフッ!」
口から履いて出た血液が地面に溢れ落ちる。あーあ…また出血多量で鉄分を摂れと言われるんだろうな…。
「もッと強イヒーロー…はイナイのか…?」
「へへ…そりゃおまえ…飛んでくる場所間違えたな…」
小さくなっていく呼吸と、どんどんと増していく痛みに顔が歪む。やっぱり無理があったのか、学生風情がハイエンドのような凶悪ヴィランに立ち向かうのは。
…せっかくアンナチュラルにも、力を借りたのにな…。その力を上手く使えないまま、俺はヴィランに負けていくのか。
霞んでいく視界。首を絞めるハイエンドの手からフッと力が抜けたと思った次の瞬間。
今まで感じたことの無い衝撃が、腹部を貫いた。
前へ前へと一気に流れていく景色。背中と固い何かが激突したと思ったら、体の動きはそこで止まる。そうして遅れてやってきた激痛に、思わず血反吐を吐く。
ハイエンドの拳をモロに喰らったのだと理解したのは、意識を失うほんの少し前だった。
「もしも〜し、起きてるか〜?お〜い」
…なんだ?どこから誰かの声が聞こえてくる…。目を開けようにも瞼が重すぎてなかなか開かない。
「…ココハドコ…ワタシハダレ…」
「なんだ、思ったより元気そうじゃん。ほら、いつまでも伸びてないでさっさと体を起こしな」
謎の声の主に強引に引っ張り上げられた時にようやく、俺の体が地面に倒れ伏していたのだと気付く。無理やり上体を起こされ、背中をバシンと叩かれる。おかげで意識がだいぶハッキリしてきた。目も開くようになった。
ここは一体どこだ…?
周囲を見渡して最初に出てきたのはその疑問だ。一面真っ白なだだっ広い空間が無限に広がっている。思わず、某時の流れが現実世界とは異なるあの部屋のことが頭に浮かんだ。が、そこ以上に俺の今いる場所は寂しい雰囲気を醸し出していた。
(俺はどうなったんだ?ハイエンドの拳をおもっくそ喰らったトコまでは覚えてるけど…)
「何がなにやらって顔だな」
「…そーいや、アンタ誰だ」
こちらの顔を覗き込んできた男に視線を向ける。黒髪に深紅の瞳、顔つきにはまだ幼さが少し残る少年…俺と同い年くらいだろうか?コイツはこんな所で一体何をしてるんだろう?
「はじめましてだな。俺は
そう言ってニカッと笑う"緋彗"とやら。緋色の彗星?美然?何の話だ?
「お前の存在は認知していたよ、なかなか腕が立つじゃないか。けど、まだ荒削りな部分が沢山ある。でも心配すんな、この俺がお前に体の動かし方ってやつを伝授してやる。この"緋色の彗星"がな」
ガッハッハッと笑う謎の男、緋彗。こいつ凄い、こっちの事なんて気にも留めずひたすら自分の事ばかり喋ってる。そしてその内容が一つも伝わってこない。これはもはや才能なんじゃないか?頭の中も空っぽそうだし。
「──まぁいいか、よろしくなァ!!」
とりあえずその場のノリに合わせることにした。