オッス!俺の名前は愛生千晴!ひょんなことからヒーローを目指すことになった、普通の高校生だ!
OK、いつもみたいにその後の流れを説明するぜ!
まず俺が戦っていたハイエンド。コイツは
お次は戦いの舞台となった街のことだ。戦いが終わった後、現地のヒーロー達と公安から手配された業者によって、復興が早速進められているとのこと。
そして肝心の俺ちゃん。ハイエンドの戦いが終わった瞬間に気絶、そのまま病院へ直行。すぐさま全身の精密検査が行われた…らしい。正直俺も自分の事なのによく分かってない。病院へ運ばれた後一瞬だけ目を覚ましたんだけど、すぐにまた気を失ったんだ。アレだ、全身麻酔の手術後に少しだけ意識が覚醒して、周りの声や着替えとかさせられてる感覚だけ感じるやつと同じだ。
追加でもう1点…どうやらハイエンドは別の場所でも出現していたようだ。そっちの方はエンデヴァーとホークスが対処にあたって、無事に討伐に成功。エンデヴァーが跡形もなく焼け尽くしたようだ。相変わらずやるね、あの炎おじ。さすが轟のお父さん。けどあっちもなかなかの重傷らしい。綺麗な奥さん泣かせたらダメだよ。
──とまぁ、まとめるとこんな感じだな。とりあえず俺のインターン活動は、そんな激戦が繰り広げられたってわけ。ま、俺ちゃん自体はまだ目を覚ましてないんだけどね〜。
○
side:???
「どうじゃったかのう、久々の外の空気は?」
隣に座る特徴的な髭を生やした老人、氏子達磨がそう問いかけてきた。
私は目の前で鈍く光る試験管を眺めながら、その問いに対する解答を考えていた。
「ああ、あんたの言う通りいくらか気分が晴れたよ」
「そうじゃろう。特に夜の散歩はな、人の心を落ち着かせる効果があるんじゃよ」
…何を1人ではしゃいでいるのやら。出会った時からそうだが、この老人の情緒がいまいち理解できない。まぁ、理解する気などサラサラ無いのだが。
「…で、感想は?」
「そうだな…聞いてた通り背後に居たな、黒髪の女が」
「ほほほ、そりゃ良かった。まだ振られてはいなかったようじゃな」
隣で嬉しそうに手を叩く老人。私はそれを横目で見る。
愛生千晴──雄英高校1年の生徒。超能力という個性をその身に刻まれつつ、悪の帝王AFOにより別の人間の細胞を植え付けられた少年。アンナチュラル…だったか、あの闇の擬人化みたいな女がそうなのだろう。接触した日のことを思い出す。
「差し向けたハイエンドとの戦いは見てたかのう?我々の望む個性、反転。少しばかり使いこなしていたようだったが」
「あの力は、少年の物なのか?」
「いいや違う。あれは女の方に後天的に発現した個性じゃ」
「後天的…」
引っかかる言葉だ。一体何がどうやってそうなったのか。その人に発現する個性は、遅くとも4歳くらいまでには発覚する。それが後から刻まれるなんてことも有るのだろうか。
「だが、その反転とやらがあれば」
「そうじゃな、お主の個性のデメリットも打ち消せる。万々歳じゃ」
氏子達磨が両手を上げてバンザイのポーズを取る。
「実験の準備は出来ているのか?」
「バッチリじゃよ。ご希望とあればすぐにでも」
「そうか、なら準備してくれ」
私は椅子からゆっくり立ち上がり、目の前の試験管に近づく。中には薄紫色をした奇妙な液体が、定期的にポコポコと気泡を生み出しながら怪しく光っていた。
「実験の最終調整じゃ!これを終えたら後はもう、目的の為にひたすら邁進するだけじゃ!良かったのう!」
「利用されるつもりは無いがな」
「それでもじゃ!OFAと超能力の両方を相手取るのは流石に厳しい。だからOFAを死柄木に、超能力にはお主をぶつける」
「欲張りなじいさんだ」
「欲しい物は全て手に入れるのが悪者の務めじゃ」
…真意は理解できない。だが、私とヴィラン連合とやらの目的は交じりあっている部分もある。私とヴィラン連合の計画の一部に、愛生千晴という少年の存在が絡んでいるのだ。
──君はなんでヒーローを目指しているんだ?
──好きな子を守るため。
あの日の会話が思い起こされる。真っ直ぐな瞳をしていた。その瞳を見て思った、この少年は心の底からそう思って言っているんだと。
夢や目標は誰にだってある。勿論それは愛生千晴にだって。だがそれは今の彼の力や能力があってこそのもの。その力が失われてしまえば、その夢への道は途絶えることになってしまう。そして私は、その道を阻む存在となるのだろう。
ちゃぽんと体が水に沈む音と感覚がする。全身に機械が装着されていき、身動きひとつ取れない状態にされる。それに対して湧いて出てくる感情など、何も無かった。
「最後の仕上げじゃ。次に目を覚ましたら、お主の体は全部で9つの個性をストック出来るようになっておる。生まれ変わった体で求めるのじゃ、自分の理想とする世界を」
理想とする世界…私の望む世界…それは…。
「では、また逢う日まで。おやすみ…ナイン…」
氏子達磨が謎のレバーを引いた。不気味な機械音が耳に伝わってくる。それは実験の開始を意味していた。
望む世界…か。それを実現するだけの力が、もうすぐ手に入る。
私の理想…力だけが支配する世界。
そこに平和や愛など存在しない。まやかしの希望などあってないようなものなのだ。
来たるべき新世界の為に、私は静かに目を閉じた。
○
「…うん?ここ…どこだ…?」
意識がハッキリしてきたところに聞こえてきたのは、えらく間抜けな声だ。ったく、誰だよこんなアホ丸出しな発言をする奴は。…あ、俺か。今のは間違いなく俺の声だったな。
段々と明確になってくる意識。何だか右腕に冷たい感覚がある。チラリと見ると点滴の針が刺さっていた。点滴って、何であんな変な冷たさを感じるんだろうね。ってことは、ここ病院か。
寝ぼけ眼で周囲を見渡す。窓の外が明るいな…まだお昼くらいの時間帯か?ヒラヒラ揺れる白いカーテンがやけに眩しい。
ゆっくりと体を起こす。すると、俺が寝かされていたベッドの右側に黒雪がいた。用意されたんだろう椅子の上で、こっくりこっくりしていた。お見舞いに来てくれたのだろうか…相変わらず優しい奴だな。サイドテーブルには皮が綺麗に剥かれたリンゴが置いてあった。これも黒雪がやってくれたのだろうか?
「腹減ったな…」
最初に感じたのは空腹だった。点滴をしているのにも関わらず、俺のお腹はぐぅ〜と鳴りやがった。このいやしんぼめ、そんな風に育てた覚えは無いぞ。皮が剥かれたリンゴに手を伸ばそうとしたが、体にビリッとした痛みが走ってつい動きが止まってしまった。
次いでやってきたのは頭痛。これは個性の副作用だろうな、バトった後は大体こうなる。にしても、やけに強い痛みだったな。今までとはワンランク上の痛みだった。…なんか怖いな。
「どんくらい眠ってたんだろうな…」
ボーッとしている頭でそんなことを考える。カレンダーを確認しようとしたが、目の届く範囲には無かった。っていうか、カレンダー見ても今日が何曜日だとか分かんないから意味ないか。スマホならあるんじゃねーか?えーとカバンカバン…。ある訳ないか、戦った場所からそのまま病院に来てるハズだからな。
その時、ドサッと荷物が落ちる音がした。何事だ?と音の方へ振り向くと、そこには目を丸くした師匠──レディ・ナガンが病室の入り口の所に居た。
「あ、ナガン。丁度いい所に居た。今日って何に──」
「無事でよかった」
言葉を遮るように、ナガンが俺の体を抱きしめる。まるでその存在を確かめるように、優しく抱擁される。
「全部私のミスだ、全部。街の皆が危ない目にあったのも、お前がこんな…ボロボロになっちまったのも…。ごめんな…愛生…本当にごめん…」
「ナガン…」
そう声をかけると、抱きしめられる力が更に強くなった。心配…してくれてたんだろうな…。逆に言えば、俺が弱いからナガンに心配をかけさせちまったんだ。
「俺の方こそゴメン。でも俺は大丈夫だから。だからそんな悲しい顔なんてすんなよ」
「…うるさい。心配するに決まってるだろ…バカ…」
ナガンの肩をポンポンと優しく叩く。もう大丈夫だって言っても、ナガンは少しの間離してくれなかった。少し恥ずかしい気持ちもあったが、ここはナガンの気持ちを優先しよう。
「んっんー!心配する気持ちも分かりますが、少し長すぎるのではなくって?そろそろ千晴さんを解放してあげては?」
「あ…ああ!そうだな…急にすまなかった…」
「無問題」
「全く…意外なところでダークホースかしら…?──それはそうと千晴さん、お身体の方は平気でしょうか?」
「まぁよっぽど大丈夫でしょ!包帯ぐるぐる巻きだけど!いつものことだな!」
「もう…もっと自分のことを大事にしてくださいまし…。でも、私も気持ちはナガンと同じですわ。貴方が無事に帰ってきてくれた…それだけで充分です」
「はは、わりーな。いつも心配かけて」
「今に始まったことじゃありませんから」
ごもっともだ。ナガンだけじゃない、黒雪にも心配をかけさせてしまったんだ。それもこれも、俺のことを大切に思ってくれている何よりの証。それが当たり前なんかじゃないってことを、知っておかなきゃいけない。
「目が覚めたようだね」
次に聞こえてきたのは男の人の声。見ると、そこには白衣を身に纏ったお医者さんが立っていた。その横にはカルテらしき物を手に持つ綺麗なナースさんも。
「起きたばっかで診察室に来てもらうのも忍びないからね、個室で失礼するよ。なーに別に痛いことはしない、君が寝ている間に行った検査結果の報告さ」
「検査…?まさか俺の体のあんなところやこんなところを入念にチェックしたんですか…?」
「そうさ。君の恥ずかしい所をぜんぶ見せてもらったよ」
「いやー!お医者様のエッチスケッチワンタッチぃ!」
「いや古いな」
冗談はさておき…と部屋に来た医者は隣にいたナースから書類を受け取る。それをピラピラとめくりながら、ふむ、と息を漏らした。
「単刀直入に言おう」
医者がキリッとした声で言った。
「愛生千晴くん、君は──」
「近い将来、個性が使えなくなる」
「…はい?」
素っ頓狂な俺の声が、病室に響いた。