君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#8 テメーはこの愛生千晴が、直々にブチのめす

 今日も今日とて訓練日和。俺たちA組の面々は、バスに揺られて目的地に着くまでそれぞれの時間を過ごしていた。

 

「──にしても、施設内をバスで移動ってとんでもねぇな」

 

「ああ、雄英スケールやばいな。──てか、愛生見ろよ。あいつ全然話聞いてなかったらしくてよ、バスに乗るから遠足があると勘違いしてお弁当とおやつ持ってきたらしいぞ」

 

「アホ丸出しじゃねーか」

 

「おいコラァ!聞こえてんぞテメーら!!」

 

 くそ、完全に騙された。相澤先生が「バスに乗るぞ」とか言うから、クラスの皆で遠足に行くのかと勘違いしちゃったじゃねーか。前日に親に「明日遠足があるからお弁当作って!」なんて言ったの、何年ぶりだったと思ってんだよ。

 

「ケッ、話もちゃんと聞けねーのかよ」

 

「なんで君が隣に座ってるのかなバクゴー君。そのツンツン頭が鬱陶しいから他所に行ってくんね?」

 

「テメーから隣に来たんだろがッ!!」

 

 あーあ、今日も爆豪がやかましいや。相変わらずのテンションで安心するよ、逆に。

 

「す、凄いな愛生くん。かっちゃんにそんな絡み方が出来るなんて。イジられるかっちゃんなんて、未だに見慣れないや」

 

 爆豪とは反対側の隣に座っていたデクは、俺たちのやり取りを見てそう言った。

 

「そうか?ネタの宝庫じゃん。デクも言ってやれよ。え、なにそのアタマ毎日セットしてんの?とか」

 

「しとらんわ!!朝起きたらこんなんなっとんじゃ!!」

 

「天然だったのか……メモしとかなきゃ!」

 

「てめぇクソデク、良い度胸じゃねぇか……!その指へし折ってやろうか……!」

 

「緑谷と爆豪は仲が良いな、幼馴染だったか。俺にはそういうのいねぇから、正直羨ましい」

 

「半分野郎、テメーは眼科行け!」

 

 デクの横に座る轟は、ポケーっとした顔をしながらそう呟いた。最後尾の席に座る俺たち4人は、そんな他愛のない会話をしながら移動時間を過ごした。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

「なんじゃいこのバカでかい建物は」

 

 バスから降りるとそこは、もはや遊園地と呼んでも良いくらいの広さを誇った施設が広がっていた。

 

 どうやらここは、《ウソの災害や事故ルーム(USJ)》と呼ぶらしい。ちゃんと許可は取れてんだろうな?

 

 ソワソワしている俺たちを出迎えてくれたのは、スペースヒーローこと、13号先生だ。宇宙服のコスチュームを身にまとった先生は、何だか有難い話をしているようだった。なんか……個性は人を傷つけてしまうとかなんとか……。ぶっちゃけちゃんと聞いてなかった。そんなことより、お弁当の中身の方が気になっていた。

 

 それじゃあ今からレスキュー訓練を始めますとなった時、突として相澤先生が臨戦態勢を取った。

 

「全員ひとかたまりになって動くな」

 

 その言葉に、俺たちはキョトンとなる。いつも首の周りに巻いている布を解き、ゴーグルを装着して眼下の中央広場をキッと睨みつける相澤先生。そこに視線を注がせると、何やら黒いモヤのようなものが発生していた。

 

 ──次の瞬間、そのモヤの中から不気味な人相の男がぬっと這い出てきた。

 

 吐き気を催す邪悪……人の顔を見てそう感じたのは、生まれて初めての事だった。不穏な匂いのする悪意が、全身に突き刺さってくる。

 

「13号、生徒達の避難を。委員長、仕事を全うしろ」

 

 黒いモヤは数を増やし、その中から武器を持った人たちがわらわらと出てくる。一目で分かる、奴らは絶対に雄英の人たちじゃない。奴らの正体がヴィランだということに、そう気付くのに時間はかからなかった。

 

 相澤先生がその場から飛び出す。ヴィラン退治に赴いたのだ。 たった1人で。敵の数はパッと見20以上。いくらプロのヒーローだといっても、多数に1人で挑むのは無謀だ。敵の能力も分からない、目的も不明。こんな時、ヒーローってどうするんだっけ?

 

「爆豪」

 

「あ?」

 

「雄英の敷地内なら、個性使っても良いんだよな?」

 

「ああ」

 

「アイツら蹴散らそーぜ」

 

「テメーと意見が合う日が来るとはな」

 

 おお、流石の爆豪。血の気が多くて助かる。どうやら考えていたことは同じだったみたいで、2人して準備運動を始める。

 

「ちょっと、何する気ですか!?早くバスに戻って!」

 

 13号先生が、俺たちの様子を見て駆け寄ってくる。マスクで顔は見えなくても、声で焦っていることは伝わってきた。予想外の出来事なのだろう、当たり前か。

 

「でも相澤先生1人じゃ危ないよ。俺たちも戦おうよ」

 

「駄目です!子供たちを危険に晒す訳にはいきません!」

 

「よー分からん奴らに侵入された時点で先手取られてんだ。これ以上後手に回ってられるか」

 

「もう、反抗期なんだから!」

 

 13号先生がプンスカしてらっしゃる。気持ちは分かるし、皆を守ろうとしてくれているのは痛いほど伝わる。だけど、それじゃ多分駄目だ。俺たちはもう、守られる存在じゃないハズなんだ。

 

「俺たちを選んだのは先生たちじゃん。だったら、少しくらい信用してよ。──それに、奴らの目的は分からんけど、もしも矛先が学校の方に向けられたら、俺はもう黙っちゃいられない」

 

「……学校の皆さんのことも気になりますが、やはりここは──」

 

「──今、校舎では俺の嫁が授業を受けている」

 

 シン……とその場が静まり返った。音一つない世界が、そこには広がっていた。

 

 その静寂は、13号先生の声で終わりを迎えた。

 

「よ……嫁……?」

 

「うん。確か英語の授業だったかな。一佳は頭が良いからなぁ、授業でも大活躍してるはずさ……。そんな一佳に危険が及ぶって考えたら、何もせずにいられる訳がない。ふっ、さすが俺の伴侶。英語のスピーチがお上手だ」

 

「すみません……彼はいったい何を言っているのですか……?」

 

「ビョーキだビョーキ」

 

 ビョーキね。ま、一理ある。恋の病って言葉もあることだし、その人のことを考えるだけで胸が高鳴るなんて、一種のビョーキだ。まぁつまりそーゆーことだ。もしかしたら学校の方に危害が加えられるかもしれない。だからその前にヴィラン共を叩く、それだけの話だ。

 

「じゃ、いってきまーす」

 

「抜け駆けすんな」

 

「あっ、2人とも!!」

 

 待ちなさい!と叫ぶ13号先生の声も聞こえないフリ。俺と爆豪はセントラル広場の方へピューっと移動する。相澤先生が絶賛奮闘中だ。あの数相手に少しも劣っていない。布使うの上手すぎんか?

 

「お前ら、何をしている……!13号は……!?」

 

 俺たちの姿に気づいた相澤先生が、ギロリと睨んできた。そのまま俺たちの方へ跳んで来る。めちゃくちゃ怒ってるっぽい。そりゃそうか、逃げるよう指示されてたのに、こんな戦いの渦中に飛び込んできたんだから。

 

「俺は止めたんですけど、爆豪くんが強引に……」

 

「テメ!!なにほざき散らかしてんだ!!」

 

「──まァいい、緊急事態だ。自分の身は自分で守れ、死にそうになったら逃げろ。帰ったら説教だ」

 

 それだけ伝えると、相澤先生はヴィラン達の方へ舞い戻って行った。そのまま戦闘を継続、瞬く間に数人を打ちのめしている。

 

「お説教だって。どーする?」

 

「学校に戻らなきゃいいじゃねぇか。直帰だ直帰」

 

「爆豪あったまいいー!じゃ、俺は右行くわ」

 

「けっ、精々ぶち殺されろ」

 

「それクラスメイトに吐く言葉?」

 

 ほんっとにお口が悪い子だな。初めての実戦なのに言うことがそれかい。ま、爆豪らしいっちゃらしいけど。ここで「気をつけろよ」とか「死ぬんじゃねえぞ」とか言われたら、それはそれで気持ち悪い。

 

 体を浮かして宙を舞う。横から相澤先生を狙うヴィラン達に狙いを定めて、空気を押し出す衝撃波を発射。手加減はしない、不法侵入は立派な犯罪だ。

 

「おい、ガキが紛れ込んで来たぞ!!こっちから潰せ!!」

 

 その声に数人のヴィランが反応し、俺の方へ一斉に向かってきた。刃物や得物を持ったヤツ、銃器のような物を構えるヤツ、なんかやたら肩幅が広いヤツなど様々だ。遠距離持ちのヴィランが、こちらに狙いを定めたのが分かった。

 

「撃ち落とせ!!!」

 

 ビーム、銃弾、伸びる腕や触手やらなんやらが一気に飛び込んできた。バリアを張りつつ、身を翻してそれらを躱す。軌道が一直線だから、避けるのは容易い。何にも考えてないんだろうな。

 

 その時、俺の全身に影が落ちた。上を見ると、腕が4本生えた大男がその巨体でフライングプレスを仕掛けようとしてきていた。

 

「化石にして博物館に展示してやるぜ!題名は"土に還る"だっ!!」

 

「寄託料は俺の口座に振り込んどいてくれよな」

 

 落下してくる男に手を向け、力を集中。念を送り込んで落下中のそいつの動きを空中へ留めさせる。

 

「お?おおお!?」

 

「シートベルトをお締めください」

 

 大男の体を、念力で上下左右に振り回す。地面に墜落させてから大地を削るように引きずり回し、最後は遠くに見えた建物の方向へ吹っ飛ばすことにする。遠くの方でドゴンという音がした。

 

「さてと、快適な空の旅をしたいやつはここに並んでな?アテンションプリーズ」

 

「ひ、怯むなッ!相手は1人の子供だ、大人の怖さを思い知らせてやれ!!」

 

「こんな大人にはならないよう気をつけよう」

 

 エネルギーを両手に集中させ、そのまま地面に押し当てる。すると大地は揺れ、所々でヒビ割れが始まる。次の瞬間、地面に送り込んだエネルギーが間欠泉のように、ヴィラン達の足元から輝きと共に噴き出した。

 

「ぐわああああーッ!!!」

 

「な、何て奴だァー!!!???」

 

「すっげぇありきたりなセリフ吐くじゃねーか……。けどま、超能力者ナメんなよ」

 

 こっちは片付いた。爆豪と相澤先生はどうなってるだろう?それに他のみんなは。──ってアレ?なんかさっき皆と居たところ黒くね?さっき見た黒いモヤみたいなのが漂ってる。いったい何が……。

 

 

 

 

 

 

「良い個性だな……」

 

 

 

 

 

 

 耳がその空気の振動をキャッチした瞬間、俺の全身に悪寒が走った。寒気を超えた不快な感覚。不気味なんて言葉では言い表せないほどの、口にもしたくないほどの邪悪が、俺の体にまとわりついてきた。そしてそれは、俺のすぐ傍までやってきていた。

 

「ッ──!?」

 

「おっと、危ない危ない」

 

 咄嗟に繰り出した裏拳を、声の主はひらりと躱してみせた。俺の方を見て目を細める。何故だろう、こいつに見られていると思うと妙に落ち着かない気分になる。

 

 まるで、命を握られているような。

 

「奇天烈なファッションだな。全身黒のスウェットに、赤いスニーカー……。そんでその顔に付いてるおててはなんだ?地元で流行ってんの?」

 

 クックックと、その男は体を震わせた。さっき倒した奴らとは雰囲気が違う。迫力は感じないが、何をしてくるか分からない不穏さがひしひしと伝わってくるようだ。

 

 顔に手をへばりつけたまま、男は口を開く。

 

「インターネット」

 

「は?」

 

「ネットで見たんだ。最近は、こういうだらしない系のファッションが流行だって。気取ってない感じが等身大の自分を表しているようで、女に人気があるらしいぜ」

 

「……」

 

「……?」

 

 待って、状況が掴めないんだけど。この手男は何が言いたいの?インターネット?ファッション?だらしない系が女の子に人気?ちょっと何言ってるか分からない。

 

 それになんで首傾げてんの?「え、俺なんか変なこと言った?」みたいな顔するのやめようよ。対応に困るだろうが。首を傾げたいのはこっちだよ。

 

「俺のこの格好、カッコよくない?」

 

 駄目だ、もう分からん。俺コイツが何を考えてるのか全く分からん。ああそうか。こいつがヴィランだからだ。俺がヒーローでこいつがヴィランだから理解ができないんだ。きっとそうだ、そういうことにしておこう。

 

「おかしいな……。インターネットではこの格好が女ウケ抜群で、夏までに彼女ができるって書いてあったのに……」

 

「もういいもういい!それ以上ぶち込んでくるな!こっちはもう頭がパンクしそうなんだよ!一体なんなんだお前は!そんなこと言うためにわざわざ雄英まで来たのか!?」

 

 数秒黙った後、手男はハッと何かを思い出したかのような素振りを見せた。

 

「そうだ、そうだよ。俺はこんなことを言うために雄英に来たんじゃない。気付かせてくれてありがとう。そうさ、俺がここに来た理由は……」

 

「理由は……?」

 

 両手を大きく広げ、手男は強く言い放った。

 

 

 

 

「JKと同じ空気を吸うためだ!!」

 

「逮捕ーッ!!!」

 

 

 

 

 俺は目の前のこいつを勢いよくぶん殴った。それはもう、あらん限りの力で。今までに出したことの無い、体の奥底に眠る力も引き出せた気がする。

 

 地面を凄い勢いで転がっていく手男。ズザザっと勢いが止むと、むくりと起き上がった。

 

「痛い……。なんで殴った……?」

 

「気持ち悪かったから」

 

「そんな理由で……。いじめが無くならない訳だ……」

 

 パッパと服についた汚れを払っている。おまけに解けた靴紐も結び直しやがった。なんなのこの変な空気感、こんなの初めて。

 

「ハァ……。何かの手違いで思っていた所と違う場所にワープするし、名前も知らない奴に殴られるし、せっかく買った服は汚れるし。もう帰りたい」

 

 悲しげな声で、手男はそう呟きながら天を仰ぐ。あれ?あいつちょっと泣いてない?頬になにか伝ってんだけど。あ、拳がプルプル震えてる!堪えようとしてんだ!全然堪えれてないけど!

 

「でもなァ……頑張って外に出てきたんだ。何かを成さなければ勿体ないよなァ……。──そうだ、良いことを思い付いた!」

 

 ポンっと手を叩いて、そのヴィランはニタリと笑みを浮かべた。

 

「どうにかして校舎に行って、そこにいる女に連絡先を交換してもらおう。俺、ロングヘアで勝気な女がタイプなんだよな」

 

「なんだと……?」

 

 ロングヘアで……勝気な女の子……だと……?そう聞いて、俺の脳裏に浮かび上がるのは、将来を誓い合ったあの天使の笑顔……。

 

「生徒の情報は持ってるんだ。今年の新入生に、俺好みの女がいたなァ……。なんて名前だっけ……。ああ、そうだ。あの子だ──」

 

 

 

 

 

 

「拳藤一佳。写真でしか見たことないけど、あれは上玉だ。どうにかしてあの子とお近付きになれないかなぁ……」

 

 

 

 

 

 その名前を聞いた瞬間、パリンと俺の中で何かが弾ける音がした。

 

 こいつ……今なんて言った……?

 

 一佳……?拳藤一佳って言ったか……?

 

 しかも、お近付きになりたいだって……?

 

 脳が、全身が、強く轟き叫ぶ。

 

 身体中の細胞が1つ余さず、目の前のヴィランを否定している。

 

 

 

「俺ならいけるよな。だって、女にモテるファッションをしてきてるからなァ」

 

「テメーはこの愛生千晴が、直々にブチのめす」

 

 

 

 こんな変態を、一佳に近寄らせる訳にはいかない。

 

 さっきまで感じていた不快感は消え去った。

 

 全身全霊を懸けて、俺はこいつを止めなければならない。

 

 魂がそう叫んでいた。

 

 

 

 

 




愛生千晴⑤
・バナナはおやつに入ると思っている。

死柄木弔①
・途方もない変態。
・ネットの情報を鵜呑みにしがち。
・彼女募集中。
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