遡ること数分前。
表向きは蛇腔の医師を勤めている殻木球大により、複数体のハイエンドが活動を開始。どのヒーローよりも早く、病院内の本拠地に辿り着いたミルコがこれと交戦。傷を負いながらも、その中の数体を撃破。
しかし、真の最悪は更に深淵にいた。
ハイエンド達が収納されている試験管、それと似たような形状のものをプロヒーロー・エクスレスが発見。人間の動物的な本能が危機を察知したのだろう、中に浮かぶ人影をひと目見た瞬間に悟った。
コイツだけは外に出しちゃいけないと。
自身の個性である眼球から光線を放つ力。それを用いて中にいる人ごと試験管を破壊しようと考える。試験管の前に設置されてあるモニター、そこには"適合率 50%"という記載。これが100%をしてはいけないということは、幼子でも分かる。
こいつの復活が、ヒーローとヴィランの勝敗を決める。体の芯からそう理解したエクスレスは、すぐさま個性を発動。光線が試験管に触れる直前、中に居た人物と目が合った。
「いま…何月何日だ…?」
結果として、蛇腔総合病院は塵となって消えた。目覚めた最悪、超常解放戦線の最高指導者・死柄木弔の寝覚めのひと撫でで全てが瓦解した。
「良い寝起き、とは言えねぇが。体の調子は悪くない。やるべき事も分かっている。──ん?」
そこで死柄木はとあることに気付く。視線の先から、灼熱の弾丸が迫ってきていることに。
「死柄木を発見!早々に対処する!」
「暑苦しいのが来たな…。いけ…」
死柄木の小さな呟き。それに反応したのは4体のハイエンド達だった。崩れ去った病院の底から這い出てきたそれらは、一目散にエンデヴァーへと肉薄する。
「まだいたのか…!死柄木弔ァ!」
「悪いけど、今はアンタの相手をしている場合じゃない。ワンフォーオールを取りに行かなきゃ」
「ワンフォーオール…?」
エンデヴァーの相手はハイエンド達に任せ、死柄木は地面を蹴る。地面を抉る程の跳躍力で、一瞬にしてその場から姿を消した。
ドクターによる人体改造手術。それにより強靭な身体能力を手に入れているのだ。
「うん、話に聞いてた通りだ。まるで生まれつき備わってたかのような使い心地。こりゃいい」
加えて体に刻まれた複数の個性。この2点が死柄木を高揚させる。今なら何でも出来る。やりたいこと、成すべきこと。自身の夢を叶える為のピースは揃ってきている。
"サーチ"を発動させ、目標の位置を探る。かなり離れた所にはなるが、確実に戦場には出てきている。その横にもう1つ、その更に隣にも1つの小さな点が見える。付き添いか、或いは一緒に飛び出してきたのか。だが、そんなこと今は関係ない。
「ワンフォーオールもそうだが、今はその前に」
"サーチ"が知らせてくれたのは、目的のワンフォーオールの居場所だけじゃない。ワンフォーオールと会敵するよりも前に、ぶつからざるを得ない者がいた。そいつもこちらに向かってきている。
ほんの数秒後、死柄木とそれは激突する。
「来い、愛生千晴。まずはお前から殺してやる」
力を試すには丁度いい相手。USJの屈辱は忘れていない。
空気を裂く程の速度で、こちらに向かってきている者が見える。死柄木の視界にそれが映ると、自然と肩に力が入った。
向こうも気付いている、衝突は必須。避けられない戦いとなる。
「死柄木弔…!」
「愛生千晴…寝起きに見る顔じゃねぇな」
両者の拳がぶつかる。目が合った瞬間から、お互いがお互いをこう判断した。
こいつを越えなければ、先は無いと。