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「いいか千晴、よく聞け?人ってのは脳からの電気信号で動いてるんだ。頭ん中で次はこう動くって指示が出て、それで体が実行に移してるってワケ」
「ほう…」
とある夜の夢の中、俺は緋彗から謎の講釈を聞かされていた。
「じゃあ例えばだ。常人より電気信号の伝達が早い人がいたとして、そいつと普通の人、どっちの方が喧嘩が強いと思う?」
「ん〜?んー、そうだな。もしかしたらそのデンキシンゴウってやつの伝達が遅いヤツの方が、喧嘩慣れしてるかもしれないかんな」
「ふむふむなるほど、そういう解釈の仕方ね。美然、お前宿主間違えたな」
「特大ブーメラン頭にぶっ刺さってるんだが」
なにそれ、どういう意味?なんか俺のこと貶してない?
「とにかくだ!体内の電気信号の伝達速度の向上!それによる身体活性術!それがこの俺"緋色の彗星"様の個性なんだ!」
「緋色の彗星…ぷぷ…それ本気で言ってたのかよ…ぶふっ!」
「笑うな、堪えろ千晴…!コイツは昔からこういう奴なんだ」
「いよーしテメーら、今夜は寝かせねぇからな」
とある夢の中での出来事。緋彗が言うに、美然と同じで緋彗の個性が俺に刻まれているらしい。電気信号の伝達速度向上による身体強化。何度か手合わせはしたけど、確かに緋彗の近接術はホンモノだ。肉体強度が半端じゃない。
「ヴィラン共が何やら悪巧みしてんだろ?ならその日が来た時の為に、力つけとかなきゃな」
そうして俺を鍛え上げてくれた緋彗には、感謝しかない。弱点だと言われ続けた近接術の克服が出来たのは、間違いなくコイツのおかげだ。
緋彗だけじゃない、美然もそう。同じ個性を持った先駆者として、多くの事を学ばせてもらった。2人を見る度思う、俺はなんて恵まれているのだろうと。
『ヴィランに見せてやろうぜ、俺たち3人で作った力を』
「おう!」
『負けたらただじゃおかんからな』
身体が熱い。全身に熱と電流が走っているのが分かる。
バチバチと迸る蒼色のスパークは、俺の闘争心を表しているようだった。
"
「そうか、お前も色々背負ってんな。見えてるぜ、後ろの背後霊どもが」
緋彗と美然の事だろう。そういう個性を持っているのか、死柄木にも2人が視認できるようになっているみたいだ。
『自己紹介とかしとくか?』
『いらん、神野で顔は見てる。AFOの駒だコイツは』
『AFO…久々に聞いたなその名前…』
「御託はいい。俺にも果たすべく目的がある。その為の贄にさせてもらう!」
言いながら、死柄木が大地を蹴る。オールマイト並みの膂力、それに加えて足先からジェット噴射のように空気が盛れ出している。それにより、殺人的な加速を生み出していた。
「ぶっ…潰れろォ!!!」
視界が暗く染まる。見上げると死柄木が自らの手を巨大化させ、俺を蝿のように叩き潰そうとしてきていた。まるで巨人の掌だ。広がった攻撃範囲は想像以上に広い。
だけど──!!
「──ッ!?消えた!?」
戸惑う死柄木の声が聞こえた。振り下ろされた巨腕はいとも簡単に地面を割る。崩壊は発動していない…ならあの腕は自身の腕じゃなく個性で作り出したものということか。
「どこ行きやがった、あのガ──キ!」
言い終わるよりもやや早く、俺は死柄木の懐に飛び込んだ。
まずは1発、腹部に拳を叩き込んで吹っ飛ばす。
空を裂きながら飛ばされていく死柄木に追いつき、今度は上空へと蹴り上げた。
崩壊は使わせない。崩壊を使うには地面と指が接する必要がある。それをさせない為にも、死柄木は空中で留まらせ続ける。
「速すぎて…目で追いつかな──ぎぃ!」
空に浮かばせた死柄木に対し、次々と攻撃を浴びせていく。
超能力による飛行+空気を押し出すことによる速度上昇。そこに身体能力の底上げを加味した建御雷神で、死柄木の体にダメージを与えていく。
「いくらダメージを受けようが、俺には超再生がある。どれだけ頑張っても無駄だ」
「ならそのキャパ超えるまで、殴り続けるだけさ」
USJでオールマイトが脳無にやった戦法がそれだった。再生を持つ相手に対し、その上限を超える程のラッシュを浴びせることで、オールマイトは脳無をうち崩してみせた。だから不可能なんてない、無理だと諦めるのはただの甘えだ。
もっとだ…もっと力を上げろ。スピードもまだまだこの程度じゃダメだ。
力は速さと重さ。2つの要素を重ね合わせて、目の前の悪を穿つんだ。
「OFAさえ手に入れられたら、それで良かったんだけどな!やっぱり今はお前が優先だよ!」
「お前を野放しにはしておけない!お前の力は!意志は!皆の夢を壊す!そんなの許せない!」
「耐久ゲームだぜ愛生!その力、ずっと使い続けられる訳じゃ無さそうだな。俺の体とお前の体力、どっちが先に尽きるかだ!せいぜい張り合ってくれよ!?」
「遊びでやってんじゃねぇんだよッ!!!」
突き刺す一撃。
蒼い稲光の如き拳を、死柄木の体に打ち込んでいく。
勿論、死柄木もただ打たれてばかりという訳では無い。
こちらの一瞬の隙を捉え、反撃の糸口にしてくる。
しかし、建御雷神によるバフ効果で俺の動体視力も上昇している。
反撃の手こそ繰り出されてはいるが、それが俺に届くことは無い。
死柄木の体には、複数の個性が刻まれている。その中には凶悪な個性も眠っていることだろう。逆転の一手となる力。それを発動させる前に、こいつを戦闘不能にする。
『押し切れるぞ、やっちまえ!』
「クソがッ!!あんまりいい気になるんじゃ──!?」
口を噤む死柄木。その視線は、俺の右手に注がれている。
『行け、千晴。そして証明しろ。私たちの器たり得るその力を』
全エネルギーを右手に集約。俺たちの想いに呼応するように、掌が蒼く輝く。
「元いた場所に戻るんだ、死柄木弔。俺たちの進む道からいなくなれ」
俺と死柄木。ヒーローとヴィラン。同じ道筋は辿れない。
救うとか救わないとか、そういうことじゃないんだ。
俺たちの道は平行線、決して交わることは無い。交わらせるつもりも無い。
それでもお前が…お前たちが俺たちの前に立ち塞がるのなら。
俺は全力で、お前たちを否定してやる
繰り出した一撃は、死柄木の体を的確に撃ち貫いた。
○
Side:拳藤一佳
ヒーローとヴィランによる全面戦争。私は群牙山荘側に、クラスメイトやA組の子らと一緒に配属されていた。
初めはヒーロー側が優勢だった。ホークスの仕入れた情報のおかげで構成員が集まる絶好の機会を抑えることが出来たし、セメントスやエッジショットを始めとしたプロヒーロー、A組の上鳴の活躍もあり、戦況はこちらに傾いていた。このまま押し切れる、誰もがそう確信した時に。
怪物が目覚めた──。
「主の声が…彼方から聞こえる…」
超常解放戦線・死柄木弔の忠実なる下僕、"ギガントマキア"。
構成員の中でも特に注意するようお達しが来ていた人物。
歩く災害と呼ばれるソレは目覚めたら最後、主の命令を達成するまで止まらないとのこと。また、7つの個性をその身に宿していることから、その戦闘力は計り知れない。
つまり、ギガントマキアだけは起こしてはいけなかった。
「最悪の展開ですわ…」
「ああ…。見ろよ、体がどんどんデカくなっていってる…」
目覚めたマキアの個性である巨大化が作用し、その背丈がどんどんと大きくなっていっている。
数秒経つと、そこには見上げるほどの巨人となったマキアが私たちヒーローを見下ろしていた。その背中には元ヴィラン連合の面々が張り付くように乗せられている。
「行かねば…主の元へ…」
マキアの小さな呟きが、私達の耳に入る。行く…?主の元…?主って誰だ…?
巨体が大地を踏みしめる。ただの1歩、ただそれだけで大地が揺れ大気が震えている。歩くだけでも壊滅的な被害が出てくる。
マキアが見据える方向…やけに離れた方向を見通している。その様子を見て、ピンと来たのは私だけじゃないハズだ。
「まさかアイツ、病院の方に行こうとしてるんじゃねぇのか?」
峰田の予想は恐らく当たっている。マキアの向いている方向には、エンデヴァーやミルコ達が居る蛇腔総合病院がある。そしてそこには、敵の親玉である死柄木弔も。
…嫌な予感がするな。病院、主、死柄木弔。この3つが指し示すのはもはや…。
「死柄木と合流する気だな」
「私も同じ事を思いましたわ、拳藤さん」
隣に居る八百万も同じ考えのようだ。それを聞いて、周りに居る皆が息を飲む。
「ここの戦場を放棄したのか、はたまた病院側で由々しき事態が起きているのか、真相は分かりませんわ。ただ唯一言えることは、このままあの巨人をみすみす逃がす訳にはいかないということ」
八百万の言う通りだ。マキアが向かおうとしている病院側には死柄木弔が居る。向こうの状況は掴めていないが、死柄木+連合のメンバー+ギガントマキアを一同に集めたら何が起きるか分からない。
「いちばん怖いのは、病院までのルートに市街地が多くあるということ。その中をあの巨体が突っ切るとなると犠牲者が出てしまう。未曾有の事態なんてレベルじゃ済まなくなる」
「そういうことよ!!!」
突如として私達の頭上に影が降りてきた。見上げると、巨大化したマウントレディがマキアに向かって突撃していくところだった。
「このデカブツは歩くだけでも被害をもたらす。そんな奴を、一般市民がまだ居る所に向かわせちゃ駄目!!」
マキアに右フックを喰らわせながら、マウントレディは叫ぶ。
「雄英のヒヨっ子ども!アンタらの力が必要なの!子どもだとか大人だとか関係ない!今ここに居るヒーローとして、死んでもコイツらを止めるわよ!!」
「「「はいッ!!!」」」
マウントレディの言う通りだ。まだ学生気分でここに居る訳じゃない。現場に出て、ヴィランと抗争して、実際に重傷を負っている人もいる。これは命の取り合いなんだ、ヒーローとヴィランの。
やるしかない…ここで私たちが…ギガントマキアを止めるんだ…!
○
「ハァ…ハァ…!」
思わず地面に手を付き、肩で息をする。ポタポタと流れ落ちてくる汗と血が、荒野となってしまった地面を濡らしていた。
"
「…今のは危なかった。再生持ちでもカバーしきれない程の威力…」
「クソが…!」
「けど…あと1歩が足りなかったな…」
目の前で横たわっていた死柄木の目が開かれる。そのままゆっくりと上体を起こし始めた。
「"サーチ"って知ってるか?どっかのプロヒーローが持ってた個性。それを使えば相手の弱点や居場所が分かるんだが。愛生千晴、お前のその力は命を削っているな?」
「ラグドールの個性か…人のモンばっか奪いやがって…」
「お前だって他人の力を使ってんだろ。お互い様だよ」
見たところ、死柄木の身体の随所に傷が付いている。再生があるとしても、まだ修復が追いついていない証拠だ。それなら、ダメージが回復される前に更なるダメージを与えていけば、何とかなるかもしれない。
『まだいけるか?建御雷神は身体に負担を掛ける。長引けば長引くほど、不利になるのはこっちだ』
「うん、まだ身体は動く…」
『ここからが正念場だぞ』
震える膝に喝を入れて立ち上がる。建御雷神の反動で全身に痛みはあるし、超能力との併用で頭痛もする。それでも、まだ倒れる訳にはいかない。今ここで俺が倒れたら、死柄木の崩壊が皆を襲う。
「そうこなくちゃ。お前には初めて会った時からの怨みがあるんだから」
「いつまでも引き摺る男はモテねーぞ?」
その時だった。
頭上に熱を感じると思った次の瞬間、俺と死柄木の間に炎のカーテンが引かれた。分断するように発生した炎は、そのまま死柄木の身を包むように伸びていく。
「すまん!遅くなった!」
「エンデヴァー!」
「チッ…」
戦場に現れたのはエンデヴァーだった。業火を身に纏いながら飛んで来たNo.2は、両手から灼熱を繰り出しながら俺の前に降り立つ。
「ここまでよくやった。後は
「俺達…?」
その言葉に首を傾げていると、俺の耳に届いてきた3種類の音。バチバチとした雷が弾ける音、小刻みに鳴らされる爆破の音、氷が地を這う独特な氷結音。馴染みのある連奏に、自然と口角がつり上あがる。
「千晴くん!」
「まだ死んでねーよな!?」
「わりぃ、1人で戦わせちまって」
続けて俺の前に来てくれたのは、大切な友人たち。出久、勝己、焦凍の3人が駆けつけてくれた。4人の背中を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
「いいとこ取りのつもりかよ?」
「んなダセーことするか!コイツのトドメは俺が刺すって決めてんだ!」
「皆で戦うんだよ?かっちゃん。そこんとこ分かってる?」
「わーっとるわ!」
「見ての通り元気いっぱいだ。だから千晴、お前は休んでろ」
「そうはいくかいな。お荷物扱いすんじゃねーよ」
言って4人の隣に並び立つ。友達が戦おうとしてくれてるんだ、俺だけ指をくわえて見てるなんてことしたくない。それにエンデヴァーもいる、戦況はこちらに分が有る。
「ゾロゾロとご苦労なこった。俺のプレゼントは受け取ってくれたか?エンデヴァー」
「ああ、1匹残らず灰にしてやった。次はお前の番だ」
「お手柔らかに頼むよ。そこのガキにコテンパンにされた後なんだ、恥ずかしいことに。…それと」
死柄木が出久の方を見る。出久の肩に力が入るのが分かった。
「来ると思ってたよ緑谷出久。俺はお前に用があるんだ」
「それを言うなら僕の方だ。お前は僕が…僕たちが止める」
ジリ…と地面を擦る音がする。
ヒーローとヴィランの全面戦争はここからが本番だ。
冬のインターン後から全面戦争までは結構時間が経っているので、それぞれ名前の呼び方が若干変わっていますね。