君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#85 超えるべき壁

 ──感情を支配する。美然が俺の体の中に入ってきてから、逐一言われていたことだ。

 

 怒りに身を任せる、その時の感情に身を委ねる。これも美然的には大事なことらしい。だがしかし、それ以前に人間という生き物は本能ではなく理性で動いている。自身の理性の及ばない領域から溢れ出てくる感情を、コントロールする。それを出来る者が、感情を力に変えることが出来る。…と、美然は口を酸っぱくして言っていた。

 

 だから──。

 

 伸ばした右腕で銀髪の男の口元を掴む。そのまま顔面を握り潰してしまいそうな程の握力で掴み、宙へと浮かび上がる。

 

「黒雪に手を出したヴィラン、言っとくけどお前のせいだからな」

 

 怒りを力に変える。

 

 俺は銀髪の顔を掴んだまま腕を振り上げ、そのまま急降下。勢いのまま地面に頭を叩きつけ、そのまま地面を削りながら飛行。最後に銀髪を思いっきり投げつけ、大木へとぶつけた。

 

 

 巻き起こる砂煙。だが、この程度で勝てるとは到底思っていない。現に、奴のプレッシャーは以前健在だ。

 

「超能力者と聞いていたんだがな、なかなかどうして泥臭い戦い方をする」

 

「フィジカル攻めしてくる奴がいちばん怖いんだよ。ま、俺はそれだけじゃないけどな。お望みなら見せてやるよ」

 

 念動力を発動させ、周囲の木々を操る。幸いここは周囲に武器になりそうな物がごまんとある。そいつらを上手く活用させてもらおう。

 

 まずは大木からだ。銀髪のお望み通り浮かせた木々をひたすらにぶつける。続いて近くに半分だけ埋まっている岩石も掘り出し、投げつけてやる。大木と岩石の雨が、銀髪に降り注ぐ。

 

「持って生まれた超能力の個性と、日々の研鑽によって培われた身体能力。そして治癒の力もある。強いな」

 

 砂煙の中から、平然とした様子で出てきた銀髪にギョッとする。嘘だろ、あれだけやってノーダメージなんて。何か特別な防御手段でもあるのだろうか。

 

「今度はこちらの番だ」

 

 言うやいなや、銀髪は指先をこちらに向けてきた。次の瞬間、銀髪の指先が紫色に鈍く光る。

 

 スパッ…と右の頬を何かが掠めた。

 

『…早い』

 

 緋彗の呟きが聞こえたと思ったら、ジンとした痛みと頬に血が流れ落ちる感覚を味わう。

 

『見えたか?』

 

「いーや、なんかが光ったとしか分かんなかった」

 

『あっはっは!次同じのやられたら終わりだな!』

 

「はっはっは!だろうな!俺たちの命運もここまでか!──って言っとる場合か!次来てるぞ!」

 

 再び銀髪の指先から、紫の光線が放たれた。始まりがその指からなら、それが向いている方向にしかビームは飛んでこない。だったら、射線上から居なくなればいいだけの話だろ。

 

 上空へと飛び上がり光線を回避。やられっぱなしも癪なので反撃をかましてやろうと思ったが、背後からのプレッシャーに総毛立つ。向くと、回避したと思っていた光線が俺の体を貫こうと接近してきていた。

 

「チッ…変化球習得済みなら言っといてくれよな!先によォ!」

 

 すぐさま体勢を変え、飛行状態へ移る。どこへ向かうかって、そりゃもう1つしかないでしょ。

 

「ギリギリまで接近して、直前で避けようって魂胆だろう。漫画の読みすぎだな」

 

 意外と銀髪も漫画読むタイプだったんだ。作戦は読まれてる…半分くらい…。

 

「その通りさ!けど──」

 

 俺の考えはそこで終わりじゃない。

 

 銀髪の眼前にまで迫ったところで、俺は念動力を発動。その瞬間、銀髪の身体は石像のように固まり動けなくなる。

 

「身体が…!」

 

「動けねーだろ!そのまま自滅しちまいなァ!」

 

 銀髪の動きを止めたまま、読まれていた通り直前で上空へ舞い上がる。するとどうでしょう、銀髪の放った光線は俺を追いかけるどころか、そのまま主の元へ帰還するではありませんか。

 

「ぐ…おぉぉぉ…!」

 

 光線の雨が降り注ぐ。重苦しい声を上げる銀髪を眼下に、この気を逃すまいと下降して拳に力を込める。

 

「歯ァ食いしばれ!」

 

 脳天一撃──ズドン!という鈍い音と共に、俺の拳が銀髪の頭に突き刺さる。

 

「まだまだァ!」

 

 続けて鳩尾に拳を入れこみ、よろめいたところに顔面ハイキック。空中で身体を回転させてそのままカカト落としを喰らわせる。

 

「せー…のッ!!」

 

 オマケにどてっぱらに拳をもう1発。打撃の衝撃(インパクト)と同時に衝撃波を発生させて銀髪を吹き飛ばす。

 

 いいダメージ入ったろ…これで少しは大人しくなると良いんだけど…。

 

 刹那、銀髪の方から飛び出してくる蒼龍が再び牙を剥く。

 

「──んな簡単にいかねぇよな!」

 

 反射的に目の前の空間を操作して見えない壁を作り出す。だが、2匹目の龍が突っ込んできたところで勢いに押し負け、今度は俺が吹き飛ぶ形に。ゴロゴロ地面を転がる感覚と、口の中に入り込んだ砂のジャリジャリ感が何とも不愉快だ。

 

『早く立ち直れ、追撃が来てるぞ』

 

 美然の言葉にハッとなり顔を上げると、頭上には蒼龍が俺を睨みつけていた。冷や汗が流れ、身体にエネルギーを回した時には既に、俺の身体は龍の硬い頭部の一撃を受けていた。続けざまに片方の龍が俺を口の中に放り込み、その堅固な顎で噛み砕かんとしてくる。ボキリと左腕の骨が折れる音がした。

 

『オイ!やべーんじゃねぇのか!?美然!!』

 

『分かってる…!おい千晴、合わせろ!!』

 

「〜〜ッ!!応ッ!!」

 

 激痛に苛まれながら、俺は体内の美然と呼吸を合わせ、魂の擦り合わせをする。

 

 魂の同調(シンクロニシティ)──ハイエンド戦で使った奥の手。脳の記憶(メモリー)を削る一か八かの荒業だが、出し惜しみしてる場合じゃない。

 

 すぐさま反転で左腕の損傷を回復。底上げされた力で龍の顎を吹き飛ばし、顔面を蹴り飛ばして脱出。もう1頭も念動力で地面に叩きつけてから、両足スタンプで頭を粉々に粉砕する。

 

『俺の力も使え!』

 

「もうやってる!」

 

 同時に緋彗の個性、建御雷神を発動させフィジカルを強化。蒼い雷光を纏って戦場を駆け抜ける。2つの力の重ね合わせ…身体への負担が心配だが言ってる場合じゃない。

 

 ここで俺が倒れたら、銀髪は他の皆の所へ向かってしまう。そうなりゃ来るのは最悪な結果だけだ。凶悪な力を身に付けた死柄木と目の前の銀髪の合流…その意味が示すものは考えなくても分かる。

 

 もし俺のせいでそんな事態になってしまったら、そんなの許せないに決まってる。

 

 だから──。

 

 迸る閃光が大地を削り、俺の体を加速させる。

 

 蒼き稲光へと変貌を遂げた身体で、銀髪へ肉薄。

 

「ワンパターンだな…!」

 

 再び飛んでくる紫光、それに加えて空気を押し出す衝撃波も織り交ぜられている。だけど、身体能力を最大限まで強化した俺のスピードには、ついてこれていない。

 

 龍は潰した。他にどんな個性があるかは知らないが、今はただ全力で突っ走るだけ。

 

 銀髪の攻撃の雨を潜り抜け、その顔を眼前にまで捉える。

 

 全身のエネルギーを右手に注ぎ込む。勝負は一瞬。この一撃の後、立っていた方がこの戦いの勝利者だ。

 

「私の力を…甘く見るなァ!!」

 

 焦り、怒り、恐怖…。いま俺と銀髪の中には様々な感情が渦巻いているだろう。歪む銀髪の表情がそれを物語っている。きっと俺もそうだ。

 

 そいつら全部を受け入れて、己の力に変える。

 

 こいつは俺が倒すべきヴィラン。愛生千晴がヒーローになるために、拳藤一佳を隣で支えられるようになる為に、乗り越えなきゃいけない壁なんだ!

 

『千晴、お前はまだ未熟もいいとこだ。やかましくて、いい加減で…。でもその心の中には、私たちと同じ物がある』

 

『"義勇の精神"。誰かの為に頑張ることが出来る人間性を、お前はちゃんと持ってるんだ。だから俺たちは、お前と一緒に居るんだぜ』

 

 美然と緋彗の声が聞こえる。俺はひとりじゃない。一緒に戦ってくれる人たちがいる。こんなに嬉しいことは無いさ。ただ傍に居てくれて、励ますように肩に手を置いてくれる、背中を押してくれる人がいるだけで…。

 

 

 

 

 ──今度は俺の方から誘うから。その時は、一緒に出かけよう。

 

 

 

 

 そう言った時の一佳の綻んだ表情を、俺は忘れていない。果たすべき約束が、守らなきゃいけない約束があるから。

 

 

 

 

 だから俺は、戦えるんだ──。

 

 

 

 

「一歩も引く気は無いぜ」

 

 

 

 

 

 全霊を込めた拳は生成された黄金色の障壁を砕き割り、その顔面を撃ち貫いた。

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