「オールマイトから貰った個性なんだ、かっちゃんには前に伝えたんだけど」
夜、ナースの目を盗んで俺の部屋に集まった勝己、焦凍、俺に対して出久がそっと呟いた。今はいつもの4人で、部屋に付けられたテレビを用いてのテレビゲームに勤しんでいた。
「…急にどした?俺いまスマブラで忙しいんだけど。皆もそうだと思うけど」
「俺の個性も親から貰ったものだ」
「ああ…うん…そうだよね…」
俺と焦凍の反応に、出久は力の抜けたような返答をしてきた。引き続き皆でボタンをカチカチさせながら、出久の言葉は続いていく。
「"ワンフォーオール"って言ってね?悪を倒す為に、遠い昔から受け継がれてきた力なんだ」
「遠い昔?」
「うん。歴代の継承者の人たちが、決して途絶えることの無いよう今まで繋いできてくれたんだ」
「ってことは、出久の前任がオールマイトってことか」
うん、と小さく呟く出久。
── 来ると思ってたよ緑谷出久。俺はお前に用があるんだ。
──私たちが求めているのは緑谷出久だけじゃない。
前の戦いの時、死柄木弔と銀髪──ヴィラン名"ナイン"が口走っていたことが不意に頭をよぎる。その時は何を言っているのか分からなかったけど、出久の言葉を聞いてぼんやりと輪郭が見えてきたような気がする。
巨悪…オールフォーワンは過去に2度、オールマイトに倒されている、そのオールマイトが持っていたワンフォーオールの個性を受け継いだのが出久。そしてそれを狙う死柄木たちヴィラン連合。戦いの際の発言から、奴らはワンフォーオールを狙っている。
「前置きが長そうだからもう聞くけど、つまり敵さんが出久を狙って雄英に攻め入るんじゃないかって不安になってるってことか?途中から死柄木たちの所から離れたから、詳しい事はよく分かんねーけど。」
「理解早いなコイツ」
俺の言葉に出久は目を丸くさせた。どうやら図星のようだ。回りくどいヤツめ。それならそうと最初からハッキリ言ってくれれば良いのに。
勝己がチラリと出久の方を見やった。
「とどのつまりそういうこと…。それでね、オールマイトとも話し合って決めたことがあるんだけど…」
「決めたこと?なんだよ?」
轟が首を傾げる。
「近いうちに、雄英を辞めようかと思ってる」
「なんですって?」
出久の言葉に、反射的に言葉が出る。今こいつなんて言った?
「うん、この学校を辞めようかなと」
「………」
訪れる静寂。室内にはただボタンを押すカチカチ音だけが響いていた。
「いやいやいやいやいや!!急にどうしたお前!!」
「何で学校辞めるっていう発想になる?」
「いや…まぁ…辞めるというよりかは、一旦離れようかなって」
「離れてどうするんだ?」
「オールフォーワンと死柄木を探す」
真剣な声色で、出久は言った。
決意は固まってそうな感じはするけど、聞いてる感じ不安しかない。オールマイトと相談してたって言ってたな。つまり大人のバックアップはありきということ。まあ流石に高校生が1人で敵の親玉探しますー、なんて回りが止めるだろうけど。
「ヤツらは必ず僕を狙って来る。雄英に僕が居ると、学校の皆も危ないんだ。それに、今は避難してきている人たちも沢山いる。それを考えると、僕はここに居ない方がいい」
「出久…」
自身がターゲットなってるから、皆に危害を加えさせないように自分が外に出ていくとな…。
──…ま、ウマが合うだけあって似たようなこと考えてんだな。
「まあ言ってることは分かんないこともないけど…そうだなぁ…友達からしたらそれはやめた方がいいってなっちゃうかもなぁ」
「千晴くん…それはどうして…?」
「1人で何でも抱え込もうとしてる友達を、そうですかじゃあ頑張ってって黙って見送れる訳ないだろ」
「…優しいね」
自分のキャラが場外に弾き飛ばされた焦凍が、コントローラーを地面に置いた。
「お前が決めたことだ、意思は固いんだろ。でも俺も千晴と同じこと思ってる。こういう大変な時だからこそ、大事なのは1人の力より、皆の力なんじゃないのか?お前のそのワンフォーオールも、そうやって受け継がれてきたんだろ?」
「…焦凍くん」
出久は真面目で、意外と頑固な所もある。芯がしっかりしてるから、自分の行いや考え方にブレが無い。だけど、それが時に危うい方向へ進んでしまうこともある。こういうの…なんて言うんだっけ…?
「自分のことを勘定に入れてねぇ。テメーの悪い癖なんだわ」
爆豪が代弁してくれた。それだそれ。俺もそれが言いたかった。
その言葉を受けて、出久がグッと唾を飲み込む。
「でも…今回の戦いでも大勢の人が傷ついた。僕がここに居たら、また同じことが起こるかもしれない。そんなことになったら、僕は…」
「そんときゃ皆で戦うだけさ。今度は誰も傷つけさせないように。それにな出久、何も狙われてるのはお前だけじゃないんだから」
「だったら余計に…」
「俺たちの力も信じてくれよ、友達じゃねえか」
「──っ!!」
声にならない声を上げて、出久は俯く。絶望的な状況に立たされて、自分にもその絶望を招いてしまった要因があって、それを失くす為に決意したことが揺らいでいるのだろう。俺的には揺らいで欲しかった。1人で抱え込むなんてことはして欲しくなかった。
手を伸ばせばすぐに助けを求められる人が、近くに居るということを忘れて欲しくなかったんだ。
「俺たちも、お前に置いてかれないように頑張るから」
「俺は置いてかれてねぇけどな。てかなに勝手にお荷物扱いしてんだ調子乗んなよコラ
「焦凍くん…かっちゃん…僕は…」
「そーゆーことだ。1人で勝手に学校から出てったら、そんときゃマジでグーパンだかんな」
冗談交じりに出久の顔に拳を持っていく。でもこれは本気だ。もしまだ1人で何とかしようと思ってんなら、その時は足跡たどって絶対に見つけ出してやる。
「俺たちはまだ、同じテーブルを囲ってご飯を食べるんだよ」
「…!そうだね、僕が間違っていた…」
顔を上げた出久の瞳には、涙が今にも溢れそうになっていた。泣き虫なところは変わっていないようだ。
「無事に退院出来たら、皆で特訓しよう。来れるかどうか分かんねぇけど、親父も呼ぶからさ」
「エンデヴァーもいるなら、凄く心強いな」
「状況が状況だ。生ぬりぃことはしてらんねぇ。死ぬ気で強くならなきゃあのシラガぶっ飛ばすことも出来ねぇ」
「はいスキあり〜」
「「「あ!?」」」
3人が熱く盛り上がっていたところに、俺は自キャラを操作して1人残らず場外へたたき出しておいた。
バカどもめ、今がスマブラの途中だってことすっかり忘れてたな。