君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#93 わるいやつのたおしかた

 ──今日も今日とて、AFOへの手がかりを探す為に奔走中の俺ちゃん。

 

 途中途中でダツゴクと出会ってはとっちめ出会ってはとっちめ。拘束用のロープが何個あっても足んないね。

 

「AFOに繋がる情報を持ってる奴、なかなかいないな」

 

『姿をくらますのは奴の得意分野だからな。裏から人を操る術に長けているんだ、昔からね』

 

 そっか、美然はAFOと過去の因縁があるんだったっけ。それがどういうものなのかは知らんが、ただならぬものを感じる。神野でもそんな雰囲気だったし。AFOの奴、もしかして過去に美然のケツを追っかけてたとか?いやいやそれは流石に無いか…こんなおっかない人…。

 

『お前いま失礼なこと考えてただろ』

 

「ギクッ!ソンナコトナイヨ!」

 

「そうか、ならいいんだか…」

 

 ふぅ、危ない危ない。女の人は勘が鋭いとか言うからね。あんまこういうのは表情には出さないようにしとかないと。

 

「私の女の勘は、通常の3倍鋭いぞ」

 

 なんか言ってるし。発揮されてるとこ見たことないけど。

 

 その時だった──。

 

「…とんでもないプレッシャーを感じる。強そうなのが来たな」

 

 頭に誰かの悪意が流れ込んできた。そしてそれがアラートのように、全身にビリビリと電流が走ったような感覚となって流れてくる。

 

「千晴、お前凄いな。既に私よりその能力使いこなしてるじゃないか」

 

 おい、女の勘とかどうなった?

 

「被害が出なさそうな場所まで誘導しないとな」

 

 言いながらプレッシャーを感じる方へ飛行。とりあえず上からどんな奴かを確認しようとすると、眼下に見えたのは…肉の塊…?なにあれ…?

 

「暴れ足りねぇなぁ!!!」

 

「うわ…」

 

 肉と言うよりかはアレだな…筋肉だ。筋繊維の集合体みたいなのを体に生やしながら、街を破壊して回ってるヴィランが居る。物騒なやっちゃな。ってか待てよ、あの筋肉って個性だよな?何か似たような個性の話を前に聞いた記憶があるような…?

 

『血狂いマスキュラー…だったか。あの緑のモジャモジャ君が話してくれたな』

 

「そいつだ!俺よか覚えてんのね」

 

 そうだ!マスキュラーだマスキュラー!林間合宿で出久が戦ってたらしいアイツだよ。こんな敵が居たんだよ〜って緩い空気感で血生臭い話をされたな。…確かそん時の話でいくと、火事場の馬鹿力的なのでようやく倒せたって言ってたな。

 

「血ぃ!血ぃ!血ぃ見せろやぁ!」

 

「ありゃ狂ってるわ。名が体を表しすぎるにも程がある」

 

 さっきからとんでもねぇ暴れっぷりを見せてくれてる。3分でこのビルを平にして見せようか?とか言ってきそうでヤダな。オレンジジュースとか好きそう。

 

「クソ…!改造武器(こんなん)で相手になんのか…!?」

 

 そんなマスキュラーに対抗しようと、デトラネットが改造してバラ撒いた改造武器を手に取る市民の姿が見えた。社会が崩壊してから、ヒーローなんて頼れないと自衛の術を持ち始めた市民は大勢いる。中にはそれで何とかなるヴィランも居るけど、あんな筋肉ダルマ相手じゃ無謀にも程がある。

 

「観戦しとる場合じゃないな」

 

 優雅に上空から見守っていられる時じゃない。誰ひとりとして傷つけさせやしない。マスキュラーが誰かを襲う前に鎮圧しないと。

 

「おいおいおい!!こんなになってもヒーローは来ねぇのかァ!?可哀想な奴らもいたもんだぜ!見捨てられちまってんだよ、おめーらは!!」

 

「んなこたない」

 

 筋肉の鎧が纏わりついてない箇所、剥き出しの頭部めがけて勢い任せのドロップキック。そのままマスキュラーの顔面を足場に踏み締め、宙返りをしながら後方へ距離をとる。蹴り入れてもビクともしなかったな、体幹が強ぇ奴なのか?

 

「あ?んだテメェ」

 

「通りすがりのヒーローでっせ」

 

 瓦解した建物が破片となって辺りには散らばっている。俺はそれらをサイコキネシスで浮かせ、コンクリートの弾丸にしてマスキュラーに撃ち放つ。ワンチャン目とかに当たってダメージになんないかな。あの筋肉部分に当てても意味無さそうだし。

 

「あぁ…?どっかで見たことある顔だな…どこで見たっけな」

 

「俺ってまさか有名人?照れちゃうね」

 

「ああそうだ!殺害リストに載ってた雄英のガキの1人だな!」

 

「なんじゃそりゃ…ちっとも嬉しくないぞ…」

 

 まぁ多分夏の林間合宿の時の話だろうさ。ヴィラン連合に目を付けられてたのは事実で、こいつもそれに加担していた。そして今は、ただ平穏に過ごしたい人たちに危害を加えようとしている。

 

「俺ァ久々にシャバに出てきてなぁ、溜まってんだよ鬱憤が。お前、俺の発散に付き合ってくんねぇかな?」

 

「だってさ。どーする?」

 

『私に聞くな私に』

 

「あ?なに1人で喋ってんだ?」

 

 言いながらマスキュラーは準備体操をしている。こいつ、俺の回答がどうだろうと鬱憤晴らしに付き合わせるつもりだったろ。まぁ俺からしたらそれが好都合なんだからいいんだけど。

 

 背後の市民の方をチラリと見て、こくりと頷く。あとは俺に任せて、という念を込めたが、ちゃんと意図は伝わってくれたようで、そそくさと安全な場所まで避難をしてくれた。よし、これで一旦は大丈夫だな。と、するとあとは…。

 

「よぅし、準備体操バッチリ。じゃあ雄英のガキ、テメェが俺のウォーミングアップに付き合ってくれるんだな?」

 

「いいね、ウォーミングアップで終いにしてやんよ」

 

「よろしく」

 

 瞬間、割れる地面。瞬きをしたその直後には、筋肉の塊が眼前にまで迫って来ていた。マスキュラーの拳が、俺の目の前にある見えない空気の壁にぶち当たる。

 

「あ?んだこりゃ」

 

「個性で作った空気の膜だよ」

 

「何の話だ!?」

 

「脳筋には分が悪いって話」

 

 そのままマスキュラーの顎下に飛び膝蹴りをかまし、すかさず胴体を蹴飛ばす。うん…やっぱ硬ぇわ…。

 

「軽い…軽いねぇ…!緑谷と比べても足りねぇなぁ…!」

 

『らしいぞ?カッコがつかないな』

 

「なぁにまだまだこれから」

 

 後方に飛び下がりながら指をパチンと鳴らす。それがパイロキネシス発動の合図だ。メラメラと発現した白い炎がマスキュラーの周囲を囲む。

 

「FIRE」

 

「んあ?」

 

 そびえ立つ炎柱がマスキュラーを包み込む。打撃が通りにくいなら、この炎はどうだ…?いくら筋肉の鎧があると言っても所詮は人体…。炎までも無効化できるとは思えないけど…。

 

「なんだァこりゃあ…こんなんじゃバーベキューも出来ねぇぞ」

 

「ありゃりゃ、ちと抑えすぎたか…。ウェルダンが好きなんだけどね」

 

「テメーの好みなんざ知るか!」

 

 白炎を振り払って肉薄してくるマスキュラー。さっきよりも早い…!身体が温まってきて、ギア上げてきてんなコイツも。これじゃ空気バリアも間に合わない。

 

 そんな時は…!

 

「潰れちまえ!!」

 

 読み取れ…敵の挙動を…。どこからの攻撃がいちばん俺にとって危険か…予測と反射による先読み…プラス!

 

「ほいさっ!」

 

「躱したァ!?」

 

 全身に突き刺してくる、このプレッシャーと言うなの警戒信号を信じる!

 

 マグナム砲かと思えるマスキュラーの拳をスレスレのところで回避。続け様に放ってる連続攻撃も、全身の動きと溢れ出るプレッシャーから攻撃パターンを予測し、いなして躱す。見える…俺にも敵が見えるぞ…!

 

「このガキ…!ちょこまかと…!」

 

「捕まえてみろよ、虫取り少年」

 

 マスキュラーの薙ぎ払うような回し蹴りを屈んで避け、隙だらけの顔面に一発ぶち込む。綺麗に決まったそれを受け、マスキュラーが若干よろけた。

 

「ぐっ…んだ今のパンチ…?妙な違和感が…」

 

「お?脳筋でも気づくんか?ならもう1発食らってみるか?」

 

 かつてアパートだった建物の瓦礫を浮かして、マスキュラーに投げつける。避けるか、正面から突っ込んで来るか、どちらにせよ次の手はある。お前の戦い方は単調だぜキン肉マン。パワー頼りの脳筋暴力ファイト。

 

 ただ力を振りかざすだけで強力で脅威なのは間違いないが、どれだけ強い力があっても一本調子じゃ──。

 

「舐めんなぁ!!!」

 

「お前は負けるぜ、マスキュラー」

 

 来た──!真っ向からの正面突破──!

 

 全身に筋肉の鎧を纏って文字通り筋肉ダルマと化したマスキュラーが、飛ばしたアパートに突っ込んで来る。

 

 激突するコンクリートと筋肉。無論、粉々になるのはコンクリートの方だ。飛び散った破片が宙を舞い、その中から飛び出してきたマスキュラーと目が合う。すんげぇ顔してやがるな、戦いを楽しんでるって顔…。

 

 辺りに飛散した瓦礫を再度サイコキネシスで掴み、マスキュラーに弾丸の雨を降らす。細かく、繊細に、丁寧に力を使いこなす。1発1発を雑に扱うんじゃなく、それ1つが致命傷になるくらいにまで精度を上げろ。

 

 狙うのは、凝り固まった筋繊維の隙間だ。表面からの攻撃はまるで意味を成さない。あの筋肉の装甲は敵ながら天晴れさ。並のヒーローじゃまず相手にならん。バカ正直に今までのような攻撃をしても、コイツには勝てない。

 

 だからやるのは内側からの破壊。筋肉と筋肉の隙間に入れ込ませた無数のコンクリートの破片。こいつらのサイコキネシスはまだ解かない。中に入れ込ませた破片たちを、そのままマスキュラーの筋肉の鎧…その先の体内で暴れさせる。

 

「がっ…!んだ…全身に痛みが…!?」

 

 マスキュラーがよろける。そうだよな、流石のお前でもそうなるよな。いくら表面を強化しても、お前の個性じゃ内装まで固めることはできねぇだろうよ。お前の生の肉体、さらにその奥の体内…内蔵があるところまで入れ込んであるんだぜ、さっきの破片たちは。

 

「あ…がはぁ…やべぇ…!なんだこりゃ…!?いてぇ…!?いてぇよぉ!!」

 

「あーあ、大の大人が泣き叫んでら。ま、それもしょうがないか。だって麻酔なしで内蔵切られてるみたいなもんだもん」

 

「ぎゃ!ぎゃあああ…!!い、いたい…やめ…!」

 

 痛みに耐えかねたマスキュラーが、その場でうずくまる。体がピクピクし始めた…相当な痛みなんだろう…。あまり想像はしたくないけど。全身を切り刻まれるって、考えただけでもやな感じ。しかも殺しちゃダメだから、死なない程度にしておかないといけないし。

 

「大丈夫!大事な場所は切ってないし、今から病院に駆け込めば間に合うよ!──さ、どうする?ボディビルダー」

 

「ぐぎぃ…!ぎぎぎ…!」

 

「白旗上げるなら、これ以上痛めつけないでやるけど?」

 

「…ッ!?…分かった、おれ…の…負けだ…!」

 

「いい子だね〜。じゃ、身体縛っちゃうから大人しくしててね!」

 

 ようし、これにて一件落着だ。血狂いマスキュラー、なかなか強かったけど、何とかなるもんだな。

 

 確かコスチュームの中に拘束用のロープがある。ん…と、どこにしまったかな?あれ?このポッケじゃない…?するとこっちか…?いや、ここでも無さそうだな…。

 

「馬鹿がァ!!油断したなクソガキィ!!!」

 

「え?」

 

 振り返ると、再び筋肉の鎧を纏わせたマスキュラーの姿がそこにあった。腕を引き絞り、こちらを完全に捉えている。こいつ、降参するフリをして不意打ち狙いかよ。

 

「甘ちゃんがぁ!テメーが相手にしてるのはヴィランなんだよ!!」

 

「知ってるよ」

 

 瞬間的にエネルギーを爆発させ、その全てを右手に宿す。

 

 マスキュラーの拳が俺に届くよりも早く、筋肉の装甲を幾重にもした土手っ腹に突き刺す。

 

「え──?」

 

 パァん!と弾け飛ぶ筋肉の鎧。1発目は筋肉を剥がす為の攻撃。そして2発目。捻出したエネルギーも打撃に使う俺は、そのエネルギーを後出しにすることも出来る。

 

 つまり、一度の打撃で2発の衝撃(インパクト)を生み出すことが出来るんだ。

 

 一発目の攻撃ではじき飛ばした筋肉の外骨格。その中に隠れている本来の体、生身の肉体。そこに2発目の打撃を注ぐ。さっきコイツが感じてた違和感はこれだろう。

 

「あ…」

 

「普通の暮らしをしていれば良かったのにな。どっかで道を踏み外して、ヴィランになって人を傷付けて、そして俺の前に現れた。その選択をした時点で、お前は俺に負けてんだよ」

 

 ぐるんと白目を剥いて倒れるマスキュラー。しっかり気絶しているみたいだ。これでもう、下手な不意打ちとか出来ないだろう。後はこいつをぐるぐる巻きにして警察に引き渡さないと。

 

『本当に生きてるのか?そいつ。なかなか凄惨なことをしてたみたいだが』

 

「流石に一線は越えないよ、ちゃんと調節してる」

 

『そうか…』

 

「なんだよ、なんか言いたげな顔して」

 

 俺を見る美然に物申す。付き合いも長くなってきた。表情を見ると、割と感情も読めるようになってくる。

 

「やり過ぎだなんて思ってないよ。ちゃんと強かったし、それに…他にもっと悪いヤツもいる」

 

『ああ…』

 

「奪われた物を取り返さないと。コイツらがやったことを考えると、俺はヴィランに容赦なんて出来ない。分かり合う気なんて無いよ」

 

 この先一生、俺はヴィランのことを理解することは無いだろう。する気もないし、したくもない。

 

 生まれた時から悪いヤツなんて居るはずがない。どんなヴィランだって、最初は望まれて生まれてきて、親からの愛情も受けている。

 

 それでも、人に危害を加える存在になってしまったのは、それはそいつの弱さだ。環境とか、考え方とか、備わった個性のせいだとか、原因は色々あるかもしれない。

 

 だけど、ヴィランになる選択をしたのはそいつ自身だ。全部自分で決めたこと。そこに同情の余地は無い。

 

 理解なんて出来ない。出来ないから、ヒーローとヴィランなんだ。

 

「潰していくしか無いんだ。悪の芽は、ひとつずつ」

 

 先の見えない戦いになるのは分かっている。

 

 それでも、その道を選んだのは俺自身だ。

 

 悪に対抗できる力を受けた俺の使命。

 

 雄英の皆と別れた意味を。

 

 一佳の未来を守る為に。

 

 立ち止まることは許されない。

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