君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#98 ただいま雄英

 久し振りに見たナガンは、心配と後悔とほんの少しの安堵を含ませた表情をしていた。

 

 本当なら、公安と協力してやっていかないといけなかったヴィラン連合探し。それを俺の勝手な独りよがりな判断で先行してしまい、結果として皆に心配や迷惑をかけることになってしまった。

 

 それなのに…。

 

「ごめん…ごめんな…苦しい思いをいっぱいさせちまって…」

 

 謝るのはナガンばかりで、俺を1人にさせてしまったのは大人の責任だと言って何度も何度も俺に謝ってきた。そんなことないよとナガンに伝えると、ギュッと力強く抱きしめられてしまった。

 

「モテモテですね、千晴さん」

 

「おちょくるなって…」

 

 その後は一旦公安の基地の方へ帰還。集めた情報やメディカルチェックを済ませてからは自室で過ごしていた。まずは心と体を休ませることが先決だと、ナガンにも言われた。お久しぶりの公安のマイルーム。家の自分の部屋や雄英の寮に並んで、何だかんだで落ち着くしくつろげるスペースでもある。

 

「懐かしいな…戻って来たのか…」

 

 ぼーっと天井を見つめながら呟く。1人で居る時はこんなゆっくりする時間なんて取ってなかったな。皆の為だと自分に言い聞かせながら、体を限界を超えてまで酷使していた。

 

 一体何を焦っていたんだろうな…俺は…。今はなんだろう…心に余裕が出来ているような気がする…。

 

 そんな時だった。コンコンと扉を叩く音がした。

 

「千晴さん、私です」

 

「黒雪か、どうぞ」

 

「失礼します」

 

 顔をひょっこりと覗かせた後、黒雪は部屋の中へと入って来る。

 

「ごめんなさい、疲れている時に」

 

「いや別に平気さ。昨日ぐっすり眠れたから」

 

 そう、今までは夜に眠ろうとすると悪夢を見て飛び起きてしまっていた。大切な人たちがヴィラン達によって殺されてしまう夢。そんな事が続くうちに眠ることを辞めたんだけど、やっぱり体は限界を迎えていた。

 

 だけど、昨日黒雪と話したからなのかその悪夢はやってこなかった。本当に久しぶりに取る事が出来た睡眠。心が安心したからなのか…それとも…。

 

「昨日…は、その…」

 

 モワモワと頭の中で思い起こされる昨晩の出来事…。昨日の夜…俺は黒雪と…。

 

「凄かったですね!」

 

「ウォッホン!!げふっ!げふっ!」

 

 思わずむせかえる俺の背中を撫でてくれる黒雪。近くにあったペットボトルの水を一気に飲んで落ち着く。全くこの子は…もうちょっとこう恥じらいとか持ち合わせてないのか…!

 

 水を飲んでふぅと一息つくと、腰掛けていたベッドの隣に黒雪が座ってきた。肩をピッタリとくっつけてくる。そんな行為にすら何故かドキッとしてしまう。

 

「でも、あの日言ったことは全部真実ですから。これから貴方を1人にはさせませんし、貴方だけに全てを背負わせるようなことはしません。私も…私達も一緒に戦います」

 

「黒雪…」

 

 言いながら俺の方を見て優しく微笑む。思えばこの笑顔に救われたんだ。

 

「ありがとう。めちゃくちゃ心強いよ」

 

「いえいえ。それに…もしまた心寂しくなれば、いつでもお相手しますからね?もちろん夜の方で…」

 

 耳元で囁かれて背筋がゾクリとする。そんな俺の姿を見て小悪魔のような笑みを浮かべながら、黒雪はベッドから立ち上がった。

 

「雄英…戻るんですよね?クラスの皆様や幼馴染の方にもよろしくお伝えください」

 

 そう言い残し、ヒラヒラと手を振って黒雪は部屋を出ていった。彼女の言う通り、明日には雄英の皆の元に戻るつもりだ。ナガンから聞くと今はもう寮の方で生活をしているらしい。皆に会うのは酷く久しぶりだから、少し緊張するな。

 

 ふと、自分が雄英を出ていった時に置いていった手紙の内容を思い出す。確か…めちゃくちゃ適当な内容の物を書いていった気がするけど…。

 

「う〜ん…爆豪辺りに締められる未来しか見えないなぁ…」

 

 やっぱり戻るのやめようかな…。ちょっとだけそんな気持ちが出てきたのはここだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 Side:緑谷出久

 

 僕らの前から突如姿を消した愛生くん。その後を追うべく、彼と共に行動していると思われる公安に連絡をしてみたものの、大した情報は得られなかった。どうやら公安とは別で行動をしているらしい。接触したくても出来ないのが現実とのこと。

 

「チッ!なぁにが公安だ、ガキ1人のお守りすら出来てねぇじゃねぇか!」

 

「親父…エンデヴァーにも聞いてみたが、プロの方でも追跡は出来てねぇみてぇだ。アイツ…一体どこほっつき歩いてんだ」

 

 かっちゃん、轟くんを中心に僕らA組の面々は皆、寮の共同スペースで頭を抱える。前に皆で愛生くんの行方を追うと決めた日から、しばらく時間が経ってしまっている。1日でも早く愛生くんを見つけて、彼が背負う負担を肩代わりしてあげないと。彼ばかりが苦しい道のりを歩むのなんて、そんなの友達なら黙って見過ごせるはず無い。

 

「今日も手がかり無し…か」

 

 しかし、気持ちばかりはやるだけで成果は何も出ていなかった。携帯も当然の如く出ない、僅かに残った痕跡や市民の人からの些細な情報を元に彼が訪れたであろう場所に赴いても、既にそこに愛生くんの姿は無い。捜索は難航していた。

 

「なぁB組の拳藤にも連絡とか来てねーのかな?あいつ、拳藤のこと溺愛してただろ?幼馴染だとか言って」

 

 峰田くんの言葉に僕はゆっくり首を振る。

 

「確認はしたんだけど、拳藤さんの方にも連絡はしてないみたい。徹底してるんだ。僕らへの繋がりを完全に断ち切ろうとしている」

 

「…なんで、そんなことするんやろね」

 

 麗日さんのポツリと呟く言葉が、胸の中にじんわりと広がっていく。…正直、その理由を理解はしている僕らがいる。だけどそれは誰も口には出さない。出してしまったら、それこそ本当に愛生くんとの繋がりが絶たれてしまう気がするから。

 

「クソが…!俺ァ諦めねぇぞ。別に国外に居るとか宇宙に飛んでったとかそんなんじゃねーんだ。ぜってーヤツを見つけ出して、手足全部折ってでも連れ帰る!」

 

 そう意気込むかっちゃんに対して、それはやりすぎでは…?と思う。けど、僕だってかっちゃんと気持ちは同じだ。たった1人でヴィラン達と戦いを繰り広げている。そんな辛い状況の中にいる友達を、これ以上そのままにしておくことなんて出来ない。

 

「──ホークスからメッセージだ。愛生についてもかしれん!」

 

「なにッ!?」

 

「常闇、メッセージはなんて?」

 

 常闇くんから放たれた一言に、A組みんなの注目が集まる。

 

「5分後に行く…クラスの皆を集めておいて…と」

 

「それは…どういう…?」

 

 踊るクエスチョンマーク。その場にいる誰もがホークスのそのメッセージの意図を読み取ることが出来ていないようだった。かく言う僕も同様だ。クラスの皆に集まってもらってわざわざ言うことか…。もしかして、ヴィラン連合の足取りが掴めたとか…?

 

「5分後ってもうすぐじゃんか!」

 

「流石は速すぎる男だな」

 

「いや、この場合は連絡してくるのが遅すぎるんじゃ…?」

 

 そうこうしている間に5分なんてのは経ち、寮の玄関扉が勢いよく開かれた。そこから現れたのは、メッセージ通りホークスだ。

 

「やあやあ皆様お揃いのようで!ごめんね急に押しかけることになっちゃって!」

 

「ホークス、わざわざ皆を集めて何をするつもりだ?」

 

 そう聞く常闇くんに対して、ホークスは満面の笑みを作る。なんだ?そんなに嬉しい報告があるのか?

 

「なーに、ちょっとしたサプライズを持ってきただけだよ。君たちにとっては死ぬほど驚くことだろうし、ビッグニュースでもあるかな」

 

 終始ニコニコを絶やさないホークス。何だかここまで来ると胡散臭いな。それになんだあの、後ろからエンデヴァーがカラカラと引いてくる黒い箱は…?

 

「親父…何なんだその箱は…?」

 

「焦凍、この箱はだな…」

 

 息子からの問いにモゴモゴとするエンデヴァー。ハッキリ言ってくれれば良いのに。そんなに言葉にしづらいことなのか?それとも、言語化能力が低すぎるのか?その顔から出ている炎で脳みそすら焼け焦げているのだろうか。

 

「早速だけど、この箱の中身…気になるよね?なーに別に爆弾が入ってるわけじゃないさ。君たちにとったら凄く嬉しい報告になるかな?」

 

 言いながらホークスが黒い箱に近づく。僕たちはその様子を固唾を飲んで見守っていた。エンデヴァーは…あさっての方向を見ている…。

 

「それではサプライズいってみよう!この箱の中身は──」

 

 ホークスが箱の蓋に手をかけ、勢いよくそれを取り払った。

 

 

 

 

「皆が探してた"愛生千晴"くんでーす!!」

 

 

「はいっ!!オッパッピー!!!」

 

 

 

 

 

 凍る空気。その場を静寂が支配するのが分かった。

 

 勢いよく元気に飛び出してきたソレは、まさに僕たちが追い求めていた姿をしている。愛生くんがそこにはいた。

 

 が、状況の理解が出来ず思わず硬直してしまう。なんだこれ。一体どういうことなのか。僕らが探し求めていた人物が、まるで小学生のように無邪気に箱から飛び出してきた。こちらの空気や想いをガン無視しながら。

 

「ほ…ホークス!?ぜんっぜんウケてないんだけど!?聞いてた話と違う…っていねぇ!?どこ行ったあの鳥!?」

 

 この下りの立案者であろうホークスは、忽然と姿を消していた。テンパりまくっている愛生くんの姿がそこにはあった。

 

 ああ…でも…この雰囲気…。間違いない、彼だ。愛生くんが帰ってきてくれた。それも前のように元気な様子で。僕が安堵のため息をついた時、BOMB!という爆発音が背後から響いてきた。…恐らくかっちゃんだ。というか十中八九かっちゃんだ。

 

「オイゴラボケカス…とんだ茶番用意してきやがって…。他に言うこと無いんか…!?」

 

 人殺しだ。人殺しの目をしている。我が幼馴染ながら戦慄する。僕はこんな人と昔から一緒に居たのか。その彼が、愛生くんの胸ぐらを掴んで今にも爆殺しそうな雰囲気を醸し出している。

 

「いや…あの…勝手に出て行ってすみませんでした…」

 

 かっちゃんの形相に気圧された愛生くんは、声を震わせながらそう言った。

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