おっす、俺の名前は愛生千晴!!
ひょんなことからヒーローを目指すことになったしがない男子高校生だ!!
俺たちヒーローと相対する奴ら、通称ヴィラン連合っていうとんでもないワルがいるんだけど、俺は絶賛そいつらに狙われ中!どうやら俺の中にいるもう1つの人格──アンナチュラルの力が欲しいとのこと!
敵に狙われるとなると、一緒にいるみんなが危ない。そう考えた俺は、2秒で書き終えた手紙だけ置いて雄英高校にグッバイ!単身ヴィラン共を討伐する任についていた。
そこからかくかくしかじかこしたんたんとあり、色々限界がきた俺は公安の女の子、黒雪にケアされ雄英へと帰還!久々に会う皆と涙涙の再会!になると思いきや…。
「あの…もう許してください…」
「駄目だ、あと2時間はそうしてろ」
俺は皆の前で吊るされていた──!!
なにこれ、どんな拷問?目隠しをされ腕は後ろで縛られ、足が地面に着くか着かないかの絶妙な位置で吊るされている。これ地味にキツイな!無様に足をぴょこぴょこさせてる姿がさぞ情けなく映ってることだろうよ。
「爆豪、もういいんじゃねぇか?愛生も反省してるだろうし」
ここで轟の助け舟!いいぞ天然紅白野郎!俺をこの窮地から救ってくれ!
「駄目だ」
「そうか、駄目か」
いや弱っ!もうちっと抗ってくれよ!たった一言で突っぱねられてんじゃねぇぞ!?
「かっちゃん…気持ちは分かるけど、ここまでする必要は無いんじゃないかな?」
お、今度はデクか。そうだよ言ってやれ。こんなのやってることヴィラン達と変わんねーぞって。
「ある」
「うん、そうだね」
いや早っ!折れるの早っ!お前も少しは歯向かえよ!DV夫に逆らえない妻か!
「コイツにはしっかりと反省してもらう。その後この状態のまま、ヴィラン共の前に突き出す」
何言ってんのコイツ!?こえーわ、ここまでくるともはや恐怖を覚えるわ!思想が完全に悪人寄りじゃねーか!吊るされるべきは俺じゃなくてこっちだろ!
「うぅ…自分では色々と頑張ってきたつもりなのに…。こんなのあんまりだよ…」
メソメソと1人咽び泣く。なんでだよ…何でこんな痴態を晒さないといけないんだよ…。俺が何をしたって言うんだよ…。
「こら皆さん、愛生さんはただでさえ消耗されておりますのよ!ぞんざいな扱いをしてはいけません!」
そこに介入して来たのは八百万。爆豪に吊るされていた俺を介抱してくれた。
「ああ…あなたが女神様だったのですね…!」
「クラスメイトとして当然ですわ。しかし、このような事態になってしまったことも気がかり…。愛生さんが何故このような行為に及んでしまったのか、三日三晩眠らずに私達に話してもらいますわ」
あ、女神じゃなくて鬼の間違いでした。誰かこの鬼退治してくんないかな?それか鬼ヶ島に返してあげて欲しい。切実に。
「あ、みんなちょっとええかな…?」
A組の皆様にもみくちゃにされていたら、麗日の声が聞こえた。見ると何か言いたげな顔をしている。何だ麗日、お前も俺に何か言いたいことでもあるのか?
「拳藤さんが…」
スっと麗日が体を動かすと、背後から見覚えのあるサイドテールの女の子が現れる。
「あ…」
「よ、千晴。元気してたか?」
そこには幼馴染が立っていた。
〇
一佳の要望もあって、2人で俺の自室に来ている。
うん、部屋の中は雄英を出ていく前と何ら変わりない状況だ。使ってなかったのに意外とホコリとかは溜まっていない。誰かが定期的に掃除をしてくれていたのだろうか。なんでいい人だ、後でお礼を言いたいもんだ。
夕日に照らされる部屋で2人きり、変な緊張感が走っている。ベッドに2人して腰掛けているが、さっきから一佳は一言も言葉を発していない。
き…気まずい…。何でさっきからなんも喋んないのこの子?あ、もしかして俺の言葉待ち?こっちからなんか話題とか引っ提げた方がよい感じ?ヤベーなどうしよう久々に会うし状況も状況だったから、ファーストタッチが思い浮かばねぇ…。
チラリと一佳の横顔を見やる。スンとした表情で静かに床を見つめていた。感情が読み取れない…今この子は何を考えているのか…。
その時、俺がさっきA組の皆の前に現れた時の情景が思い起こされた。そこには複雑な感情がバラバラに入り交じっていたのを覚えている。安心もしてくれていたし、沢山の心配もかけてしまっていたことだろう。
一佳もきっと同じ想いでいる筈だ。長年連れ添ってきた幼馴染なんだ、そういう気持ちは皆よりも大きいのだろう。
なら、俺が一佳に言うべき言葉は──。
「ごめん…それと、ただいま…」
まだ言えていなかったその言葉は、想像以上に容易く口から出てきた。もしかしたら、心のどこかでは分かっていたのかもしれない。この子には、一佳には誠心誠意向き合っていかないといけないということを。
だからちゃんと一佳の方を向いて、その顔を、その瞳を見ながら伝えた。ちゃんと言わなきゃと思ったからだ。
「…何がゴメンなの?」
小さく紡がれた返事。
それに対しこちらも言葉を返す。
「何も言わず勝手に出て行ったこと。クラスの皆もそうだけど、一佳にも心配かけさせちまったから…。だからごめん!」
頭を深く下げ謝罪。
こんなので許されるとは思っていない。それでも、そうしないと俺の気は済まなかった。
頭を下げてから少しだけ沈黙が流れる。すると、一佳からはぁと小さなため息が漏れた。
まあ呆れられても仕方ないよな…。勝手に出て行って、勝手に1人になって…挙句の果てにはまたこうして皆の元に戻ってきている…。一体何がしたいのやらって感じだよな…。
次の瞬間、一佳が俺の方へその細い腕を伸ばし、
「ん!」
と、声を上げた。
「…ん?」
その対応に同じような音で返す。なんだ…?一体何をご所望なんだ…?
一佳の行動に対するアンサーが見つからずきょとんとしていると、再度一佳が口を開く。
「申し訳ないって思ってるなら、それを態度に示して」
「た、態度…?」
「そ、態度」
こくりと一佳は頷く。
いよいよ真意が読めなくなってきたぞ…。
謝罪だけじゃ足りないってことか?
一佳を見て固まっていると、彼女の顔がゆっくりと赤くなっていき小刻みに震え始めた。まるで熱せられて沸騰していくやかんのようだった。
「だ…抱きしめろってことだよ!!見たら分かるでしょ!?ったく変なところだけ鈍いんだから…!」
「うぇ!?あ、そういう…」
言われて始めて理解した、その腕を伸ばしているポーズはハグを要求しているのだと。確かにそう見えなくもない…てかそれにしか見えない…のか?
「ああもう…!じれったいっ!!」
その言葉と共に頭が一佳の方へ引っ張られる。
ポヨンと柔らかい感触を味わったと思うと、ギュッと包まれるように一佳の細腕が頭に回された。
「い、一佳…?」
「うるさいバカ…もう喋るな…」
「はい…」
ぶっきらぼうな物言いに加えて、抱きしめられる力がまた強くなる。
これは…しばらくこのままでいた方が良さそうだ…。
「ホントに…どれだけ心配したと思ってんだよ…」
語尾が震えている。
一佳がどれだけ俺を想ってくれていたのかが伝わってくる。
A組の皆に対してもそうだ。
俺はもっと他人の気持ちに寄り添わないといけないんだ。
そうじゃないと、こんな俺を気にかけてくれる人に申し訳が立たない。
「一佳…ありがとう…」
腕に包まれながら呟く。
少しだけ頭を動かすと、一佳の腕がゆっくりと解かれた。
改めて、正面切って一佳と顔を合わすような体勢になる。
頬を薄く染めている幼馴染を見て、やっぱり一佳が1番だなとこっそり考えた。
「俺…1人で何も出来なかった…。ヴィラン達の事を1人で何とかしようと、俺にはその力があるって思い込んでた。けどそんなことは全然なくって、結局俺も他人に迷惑かけなきゃ生きていけない1人のガキなんだなって思い知ったんだ」
俺は驕っていたんだ。他の人よりも力を与えられて、自分が特別な人間なんだと勘違いしていた。俺1人で何でも出来るんだと。だけど、雄英を離れて嫌という程思い知ることになったんだ。人は1人では生きていけないんだと。
「だから、これからも一佳にいっぱい迷惑をかけると思う!こんな俺を許して欲しい!一佳も俺にいっぱい迷惑をかけてくれていいから!だから…」
──アンタとずっと一緒に生きて、一緒に死にたい。
あの日、一佳にそう言われた。
その時はロクな返答が出来なかったけど、今なら言える。
俺の心の底からの本音、一佳に伝えなきゃいけない言葉が。
「死ぬまでお前の傍に居させて欲しい」
今度は俺の方から一佳の体を抱き寄せる。
華奢で女の子らしい感触を全身で感じた。
俺は誰かに助けられないと生きていけない弱い人間だ。
辛いことや苦しいことが起きた時、挫けそうになる時。
そんな時に傍に居てくれたら心の支えになる人。
それは俺にとって、一佳しか居ないんだ。
「はい…分かりました…」
一佳の腕が背中に回ってくる。
一佳の体温が直に伝わってくる。
胸の鼓動も一緒に。
一佳と顔を見合わせ、少しの沈黙。
その後、俺達はそっと唇を重ね合わせた。
俺が一佳の為に生きると決めた、そんな日の出来事だ。