藤原妹紅はここにいた。
誰にも気づかれない竹林の奥深く、静かに暮らしていた。
彼女のことは誰も知らない。
知っているのは人里に住み自分のことを理解してくれるただ一つの存在、「上白沢慧音」と憎き「蓬莱山輝夜」と、その取り巻きだけだ。
ある理由で、自ら進んで『老いることも死ぬこともない程度の能力』を手にいれたが、今では子の能力が恨めしい。
「人に忘れられここに来たのに、ここでも忘れられるのかな…」
一日に何度も口ずさむ台詞をやっとのことで吐き出す。今の自分は生きているのか死んでいるのか分からなかった。
死ぬことはないのだから、こんなことを考えても仕方ないのだが、それでもそう感じる。人との交流を失った今の自分はなんのために呼吸をしているのか分からなかった。
そうこう考えているうちに日が沈む、彼女が来る時間だ、
「やっぱりここにいたか、妹紅…」
来た
「ほら、今日は人里で色々買ってきたぞ。今日はこれでご馳走でも作ろう。」
白と青の混じった長い髪を靡かせ重たそうな袋を担いできたのは「上白沢慧音」だ。人里で寺子屋で童たちに歴史を教えているらしい。私は人里にいかないので「らしい」でしかないのだ。こうやってたまに私のもとに来てくれて、食料を持ってきてくれたり、最近あった話をしてくれる。私が「死」なずにすんだのは、慧音のお陰だ。
「またこんなところに座り込んで、体を壊してしまったらどうする。」
少し節介焼きだが、私のためだと思うと嬉しかった。
「ほら、早く妹紅の家に行くぞ。日が沈んでしまう。」
「ごめん慧音、少し考え事をしていただけ。」
そう言って私は動き出す。私の家とは言えない掘っ立て小屋へ…
■■■
「それでな、その時チルノのやつがな…」
慧音は今楽しそうに今日あった話をしている。私のことを話していないのと、「チルノ」という人はかなり頭が悪そうだということは分かる。
その時慧音が箸をおき静かに私を見る。
「妹紅…お前は私といて楽しくないのか?」
突然だった、
私は慌てる。
「ッそんなことないよ。慧音は独りの私を案じてくれて来てくれるし、食料もくれるし、話もしてくれる…とても感謝してるよ!」
慧音はまだ私を睨み付けるように見ている、
「礼は言ってくれても一緒にいて楽しいとは言ってくれないのか?」
慧音の一言にはっとする。確かに慧音には感謝もしてる、それこそ一生かかっても返せないくらいの恩恵を慧音から受け取っている。しかし、楽しいと心の底から感じ、それを言葉にしたことはなかった。
私は何を言えなかった。
その様子を見て慧音がもう一言私に言う。
「妹紅、…私はお前に礼を言ってほしくない。
ただ『今日も楽しかったよ。』といって欲しいんだ。」
私は意味が分からなかった。
慧音が静かに続ける。
「私が妹紅に初めて会ったとき、お前は虚ろな目をしていて私は死んでいるのではないかと思った。生まれてきてから、絶望しか味わってこなかったようなお前に少しでも楽しいということを経験して欲しいんだ。」
慧音は下を向いた。長い上の隙間から大粒の涙が落ちるのが見えた。
私は口を開こうとするが、この事を慧音に伝えてよいものかと考える。そうして伝えなければならないと思い再び口を開く。
「慧音、私もね生まれて十数年楽しく生きてきたんだよ。貴族の家に生まれ、周りにもいい人たちに囲まれて楽しく生きてきたんだよ。
…けどねその楽しかった日々を『アイツ』に壊されたんだ。それからは地獄だったよ。」
私は慧音に伝える。『あの出来事』が原因で父親が自害したこと、『禁薬』を盗み、永遠の命を父の仇を打つために使うと決めたこと、永遠の命を手にいれたために人に忌み嫌われようが関係ないと心に決めたこと。
ここで私は一呼吸置いた。そして続ける。
その後、暫く元々住んでいた屋敷に住んでいたこと、数年経つと私の姿が変わらないことを周囲の人たちが気味悪がり出したこと、兄たちは庇ってくれていたが、心ない人たちによって『悪魔を庇った罪』として殺されたこと、屋敷に火をつけられみんな死んだこと、それから町や村を転々としたがその先々で『化け物』として恐れられ、石を投げられたこと、家を焼かれたこと、磔にされたこと、打ち首にされたこと、それらから逃げて、山奥に住み静かに暮らしたこと、百年近く一人で暮らしたこと。
私は全てを話した。そして続ける。
「…どう?これが私の歴史、人に忌み嫌われ、逃げて生きてきた私の歴史よ。慧音にこの気持ちが分かるの!?」
私はいつの間にか泣いていたらしい、頬に冷たい感覚が走る。
慧音はゆっくりと顔をあげ、口を開く。
「わかるぞ。私も元々人間だ、妖怪に襲われ半妖となってしまったがな、親に捨てられ、人々に忌み嫌われて生きてきた、だからお前の気持ちも痛いほどわかるぞ。」
慧音はそう言って私を見る。先程の責めるような目ではない温かく、見守るような目だ。
だが、私は止まらない
「ならなんで!?それなら慧音も人が憎いでしょう?怖いでしょう?なのになんで普通に人里にいれるの?」
私は声を荒げる。
「人を愛しているからだ。」
慧音は静かに伝える。
「私は半分『化け物』だが半分は人だ、その人の部分が『人を愛せ』といってくるのだ。」
慧音の言葉が胸に刺さる。説得されたからではない、裏切られたからだ。
「なら私は無理だね。完全に『化け物』だからね。心のなかに人がいるなら、人と仲良くしなよ、私みたいな『化け物』のことなんかほっといてさ!」
裏切られた。理解してくれていると思っていた『上白沢慧音』は『人』だったのだ。
自分を忌み嫌い理由もなき暴力を降り続けた『人』だったのだ。
『上白沢慧音』が顔をしかめて声をあげる。
「お前も元々人間だったのだからお前のなかにもあるはずだ『人』が!」
私は声を荒げながら答える。
「ないよ。私の中の『人』はあのときに捨ててきたたからね。私は『化け物』なんだよ人に忌み嫌われて殺される化け物なんだよ!」
『上白沢慧音』が私を静かに見ながら諭すように言う。
「妹紅、それならば質問を変えるとしよう。妹紅、お前は私のことが好きか?」
私は少し考えて答える。
「さっきもいった通り感謝はしているよ」
慧音は私の答えを聞き、答える。
「感謝と言うのは人にしかできない。なぜか分かるか?…他者との関わりを持つからだ。人は他者との関わりを持ち生きている。関わりのなかには様々なものがある。『愛』や『友情』などだな。『感謝』だってそうだ他者との関わりがなければ持たない感情だ。だから妹紅、お前のなかにも『人』が残っているのだ。『愛』を知らずとも『感謝』することを忘れていない『人』の部分が残っているのだ。」
慧音の言葉を聞きながら、私は考えた。なんだか流された気もするが私にも慧音と同じように『人』の部分があるように思えた。そして思ったことをふと口にする。
「慧音、私はまた人に愛されることができるかな?」
慧音は微笑み私の問いに静かに答える。
「あぁもちろんだ。ただし、愛されたいならまず自分が愛することだな。」
そう言って慧音は続ける。
「私は人を愛しているのと同じように妹紅のことも愛しているぞ。」
私は驚いた。私は先程慧音に対し暗に好きではないと言っていたのだ。それなのに慧音は私に対し愛していると言ってくれた。そして私は微笑んだ。
「慧音、愛してもらうには先にこちらから愛さないといけないんでしょ?私は慧音に対して『愛してる』って言ってないから愛してもらえないんじゃあないのかな?」
少し意地悪を言ってみた。慧音も微笑み返して言う。
「あぁそうだ。しかし物事には始まりと言うものが必要なんだ。宇宙が無から生まれたのと同じように愛も最初は無なんだ。誰かの愛を誰かが受け取り返すことで愛は始まるそうしてそれが広がっていくのだ。まさしく宇宙のようにな。」
私は頷き、慧音に向かって言う。
「それなら、もらった愛にお返ししなくちゃね。慧音、ありがとう。私も『愛してるよ』」
慧音も頷き私に向かって言う。
「そうだぞ、妹紅。ただもらった愛を返したら、新しく誰かにあげなければならないぞ。愛は広げなければならないのだからな。だから妹紅はまず渡す人を見つけないといけないな。」
そうだったな。愛をもらっては渡す。これが『人』としての愛の形ならば私も『人』としていきるために誰かにあげなくちゃな。けどそのためには人と会わなくちゃいけない。
「慧音、どうしたらいい?愛を渡す相手が見つからない…。」
慧音に伝えると慧音は少し考えて口を開いた。
「この竹林の奥に薬師がいただろう?怪我人や病人がいたらそこまで送り届けるのはどうだ?そうしたら妹紅愛を渡す相手が見つかるし、もしかしたら噂が広まって、妹紅を受け入れてくれる人が増えて、いつか人里で私と暮らせる日が来るかも知れないな」
道案内か…この奥にある『永遠亭』には『用事』のために何度も行っていて道も分かる。そうしたらいつか慧音の言う通りに人に愛されて人里に住めるようになるかもしれないな。そうなったら私の愛を一身に受け止めてくれる人と…愛を育んで…。
そうこう考えていたら顔が熱を帯びているのに気がついた。
「慧音、明日から『迷いの竹林の案内人』として頑張って見るよ。」
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お疲れさまでした。
長かったですよね。なので解説等は要望があったら書きます。
文章書くのは初めてなので読みにくかったりすると思いますが、意見等ありましたらその都度訂正しますので言ってください。
感想は誰でもかけるので好きに書いてください。