東方回顧録   作:まっまっマグロ!

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森近霖之助の受難

例えば貴方の周りに貴方を愛してくれる人が1人でもいるとしたらそれは素敵なことでしょう。

しかし、人に愛されるというのは世界で最も簡単で、最も複雑な魔法であることを知ってください。

~Männchen~

 

■■■■

 

私は普通の人間ではない。

 

昔から宙に浮いたり、手から火を出したり人にできないようなことができた。

私は勉強した。不思議なことをもっとしたかった。不思議なものをもっと知りたかった。

 

私の先生は、偶々市場で見つけた魔法に関する古びた本と、昔父の元で修行し、今は独立して魔法の森の近くに店を構える「香霖」だけだ。

 

私は魔法使いになりたいが、お父さんは魔法を認めてくれない。だからこの間「頑固ジジイ」って言ってやった。その時は大きなげんこつが私の頭に飛んできた。

 

 

翌日、私は香霖の店「香霖堂」に行った。

 

「なぁ香霖、何で頑固ジジイは魔法を認めてくれないだ?」

 

「心配してるからだろう。それと魔理沙、頑固ジジイは止めなよ。旦那様、相当落ち込んでいたよ。」

 

「心配なんてされなくても平気だぜ。私は自分がしたいようにするんだ。頑固ジジイは私が思う通りになってくれないのが嫌なだけだぜ。」

 

「そうかな?僕は魔理沙のことを心配するよ。たぶんそれが家族としてあるべき姿だと思う。末っ子が問題児なのもそういうことだと思うよ。」

 

そう言いながら香霖は私の頭を撫でる。

 

「止めろよ!私は猫じゃないぜ……。」

 

そう言って帽子を深く被る。

 

「それはごめんよ。ところで魔理沙、僕が死んだら嫌か?」

 

「それは当たり前だぜ。誰だって身近な人が死ぬのは嫌なもんだぜ。」

 

「じゃあ魔理沙、今度は復習だ。人間から魔法使いになる条件はなんだったかな?」

 

「食事をとらなくてもよくなる捨食の魔法と寿命が長くなる捨虫の魔法を習得したら魔法使いになれるんだよな?」

 

「正解。」

 

そう言って香霖はまた頭を撫でてくる。もう抵抗する気も失せてきた。

 

「けどそれが頑固ジジイとなんの関係があるんだ?」

 

「そうだったね。魔理沙は魔法使いが人に劣るところがあることを知っているかい?」

 

「そんなのあるわけないぜ。半妖や半獣と違って恐れられることも少ない、魔法が使える。人間に劣るところなんてないと思うぜ。」

 

「少し胸が痛むけど、まぁいい。知っているだろうけど僕はそこら辺の人よりもよっぽど長い時間を生きてきた。その分多くの人の死を見届けてきた。友人、商売仲間、商売敵、これまで関わってきた人の多くが僕よりあとに生まれて僕より先に死んだ。それはとても辛いことだ。もし君が魔法使いになるんなら、君が今まであってきた人達よりも長生きをしなくてはいけない。人の死というのはとても辛いものなんだ。魔理沙、わかるよね。」

 

「香霖、私はお前が思うほど弱くないぜ。人が死ぬのはとても怖い。けどな、私はそれでも魔法使いになりたいんだ。人にできないことを、自分にしかできないことをしたいんだ。分かってくれよ。」

 

「もちろん、魔理沙の気持ちもわかる。だけどね、旦那様の気持ちも僕は痛い程わかるんだ。だから、魔法を使うなとは僕からは言わないよ。けどね、魔法使いにはならないで欲しいんだ。君が人との別れに悲しむ姿は見たくないんだ。」

 

「分かったよ。お父さんに心配かけるようなことはしない。けどな、魔法は絶対に止めないからな 。」

 

「うん、そうしてくれた方が僕も嬉しいよ。」

 

そう言って香霖は私を自分の膝の上に乗せた。物心つく前からの私の場所に。

 

「魔理沙、魔法を学ぶにあたってひとつだけアドバイスするよ。」

 

「「使えそうなものは使えなくてもいいから取り敢えず持っておくんだ」だろ?」

 

香霖は少し驚いた様な顔をして、また頭を撫でてくる。どうやら私のことを猫か何かと思っているようだ。

 

「あぁ、そうだね。後、商売人として一言言うと、どれだけ使えそうなものでも人から借りたものは必ず返すんだよ。それができない人はそれ以降、全く信頼されなくなるからね。わかったかい?」

 

「わかったぜ。借りたものは死んでも返す。だろ?」

 

「あぁ、そうだ。必ず返すんだよ。」

 

それからしばらく香霖と話して私は香霖につれられ家に帰った。

 

■■■■

 

魔理沙を家まで送った僕は旦那様の部屋に呼び出された。

 

「旦那様、霖之助です。入ります。」

 

「あぁ、入ってくれ。」

 

扉を開け中に入ると旦那様がパイプを吹かしていた。

 

「まぁ座ってくれ。後、いい酒が入ったんだが、飲むか?」

 

「あ、頂きます。」

 

そういうと旦那様は部屋の奥からグラスと深い琥珀色の液体が入った瓶を取り出す。

 

「ウィスキーですか?少し色が濃いですが……」

 

「あぁ、そのなかでも外の世界で作られた『バーボン』と言うもので水で割ると旨いらしい。今氷と水を持ってくる。」

 

そう言って、旦那様は部屋を出ていった。

 

旦那様が戻り、酒を注ぐ。

 

一口飲み味わってみる。なるほど、香りが強いな。それにウィスキーに比べて少し癖が強いがそれもうまく感じる。アルコールが強く喉を焼く感じが心地いい。

 

「美味しいですね。」

 

「そうだろ?この間来た客がくれたんだ。」

 

そう言って、微笑んでいた旦那様の顔が引き締まる。

 

「……それで、話というのはな、」

 

「魔理沙のことですか?」

 

「あぁ、今日お前と話したお陰で魔法使いになりたいというのは言わなくなった。礼が言いたいんだ。」

 

そう言いながら旦那様は座ったまま頭を下げた。

 

「いえ、自分も言はいたいことを言っただけで礼を言われる程ではありませんよ。」

 

「そう謙遜しないでくれ。それと、ここでひとつ頼みたいことがあるんだ。」

 

「面倒事でなければいくらでもいいですよ。他ならぬ旦那様の頼み事ですからね。」

 

「そうか、それでは……。」

 

そう言って旦那様は大きく息を吸う。

 

「……魔理沙をお前に預けたいと思う。」

 

「……えっ?」

 

「今日、色々と考えてみたんだ。そうして、あの子にはしたいことをさせてあげようと思ってな。」

 

旦那様は昔から続く道具屋の長男として、今まで自分のしたいことを見つけることもなくこの店を継いだと言っていた。

本当に親バカな人だと思う。

 

「それでも、なぜ自分なんですか?魔法の研究はここにいながらもできることでしょう?」

 

「そうなんだがな……私は今まで魔理沙を霧雨店の末永い発展のために、人並みの幸せと不幸を味わいながら生きてほしいと思っていた。だから魔理沙の魔法の勉強を許さないで来た。その手前今ごろになって魔法を許すのがどうしてもできないんだ。」

 

旦那様はそう言い、「情けない」と言いながら頭をかく。

 

「……そこで、私は一芝居打つことにした。」

 

それから旦那様から芝居の中身を告げられ、僕も程よく酔ってきたので帰ろうとすると。

 

旦那様に袖を捕まれている。旦那様の顔は真っ赤だ。

 

「まぁ待て、男同士、商売人同士積もる話もあるだろう。」

 

そう言って、僕たちは最近の経営状況から話は始めた。(後半は旦那様の『如何に魔理沙が大事か』という話であった。)

 

■■■■

 

あれから一月程たった。旦那様もそろそろ作戦を決行したことだろう。内容は知らないが、あの人のことだ、無駄なことはしないと思う。

 

「どーも、清く正しい謝命丸文の文々。新聞です。」

 

外から明るい声が聞こえる。何か特ダネでも見つけたのだろう。

 

「どうしたんだい?朝早くから元気だが。」

 

「あ、霖乃助さん。特ダネですよ、特ダネなんです。特ダネなんですよ。」

 

爽やかな笑顔で嬉々として話している。こういうときは関わらないのが一番だ。適当に流してしまおう。

 

「あぁそうかい。じゃあね。」

 

そういいながら戸を閉めようとする。しかしそうは問屋(新聞屋)が卸さない。

 

「霧雨店の話ですよ。聞きたくないんですか?」

 

にんまりと笑う顔を見て僕はあきらめた。

 

「わかったよ。聞くから、早くしてくれ。」

 

「実はですね、霧雨店のご息女の魔理沙さんが家出をしたそうです。今は知り合いの家に居候しているらしいです。」

 

僕はため息を漏らす。

 

「それは知っていたよ。というより、そうなることを知っていたと言うのが正しいのだが、」

 

「さぁ、話は聞いたよ。早く帰ってくれ。君が長居したら、翌日には幻想郷中に僕のよくない噂が流れることになるからね。」

 

そう言って戸を無理矢理閉めた。

魔理沙の家出は一月前には分かっていたことだが、やはり不安ではある。

 

収まらない不安を抑えるため僕は久しぶりに煙草に火をつけた。

 

■■■■

 

もうあんな家に帰ってやるか。そう言い聞かせながら私は人里を歩く。しかし、ここに居座り続けるていると、いつかあの親父に会うかもしれない。そう考えると、早く逃げ出したかった。

そういうわけで私は新しい居候先を決めなければならない。条件は

 

一、信頼できる人であること

一、親父が行かない様なところにすんでいること

一、家に戻りなさいと言わない人であること

一、出来れば「魔法の森」に行く手段を持つこと

一、出来れば魔法をいやがらないで知識を持つこと

 

……自分で考えてアホらしくなってくる。こんな良物件あるわけない。そう考えていると、いきなり黒髪の少女が現れた。背中の翼を見る限り人ではないことが解る。

 

「今日は、霧雨魔理沙さんですね 。少しお話を聞いてもらってもよろしいですか?」

 

いきなりそんなことを聞かれた。

 

「取り敢えず名乗ってくれ。それがマナーだろ。」

 

そう返すと少女は少し慌てた振りをして。

 

「あややや、そうでしたね。私は謝命丸文と言います。鴉天狗でして、文文。新聞という新聞の記者をしております。清く正しい謝命丸と覚えてください。」

 

「お前のことは分かった。で、話って何だ?」

 

鴉天狗に関してはなまじ知識ではあるもののいい噂は聞かない。私は少し退きながら尋ねてみた。

 

「はい、実は先程香霖堂という貴女のお家に縁のあるお店に行ったんですけど、そこの店主の霖之助さんが貴女の家出を事前に知っていたようなことw……「そうだった忘れてた、香霖は条件を満たす最高の物件じゃあないか!!」

 

私は謝命丸文の言葉を遮り叫ぶ。

 

そうと決まれば、香霖の元へ行くだけだ。

 

 

「ありがとうな、謝命丸。お蔭で助かったぜ。」

 

「あややや、何が助かったのかは分かりませんが、助かったのなら、それはよかったです。それとわたしを呼ぶときは、あややと呼んでください。」

 

私は謝命丸の言葉を半ば聞いて香霖堂に向けて走り出した。

 

 

私の魔法使いとしての修行はまだ始まったばかりだ!


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