命の危険を感じてブラック企業を退職したのに…… 作:オリジーム
……?
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―――――なんで?
「ふふ、今日はラッキーだね」
今日は珍しく良いことがあった。配達先の人や、誰かが手配してくれたお陰で運の良いことにボスに教えていた帰る日付よりも三日も早く帰って来れたのだから。
「♪」
既にボスたちペンギン急便のメンバーには通知済み、多分数時間もしたらボス主催で宴会が行われるだろうね。だからこそ私は、それが楽しみで思わず鼻歌を歌っちゃうんだ。何時から始めたのか今となっては思い出せないけど元は危険な場所への配達を終えた私、そしてアルペジオとの単なる二人で集まってのささやかな祝い。二人で配達先やその道中で見つけた珍しいお酒を酌み交わしのんびりと旅の感想をお酒のツマミにしながら楽しく語り合う場だった。その時間は今でも偶に思い出すよ。私の体験した旅先での出来事も面白いと思うけど、彼の話す体験は何と言うか現実離れしていて奇想天外。どれもこれもが魅力的で好奇心を沸き立たせるものばかり。
正直嫉妬しちゃうよ。楽しい事も楽しくない事も、どちらも比べる事無く、自身の体験した唯一無二の思い出として目を輝かせながら語る彼の姿にね。……ま、まぁその影響で色恋に疎い私でも流石に分かってしまうほどに大きくなったこの気持ちに気付いた訳だけど。
けどそんな二人っきりで過ごす楽しい時間は続く訳でも無くて回数を重ねて行くうちに、集まっている事が他のメンバーに見つかっちゃったんだよね。エクシアには沢山文句を言われちゃったよ、"何で私を仲間に入れてくれなかったのぉー! "ってね。そのせいもあってかバレた時の次の会からはエクシアが参加。そしてそれを何処からか聞きつけたテキサスやクロワッサン、ソラとどんどん数が増えて行きあれよあれよと今では大所帯での宴会に成っちゃったのさ。まぁ皆の気持ちも分からなくも無いよ。旅先での面白い出来事の話は聞いてみたいだろうし、何より私自身が彼の語る軌跡を聞いてみたいからね。
だからこそ今の私は嬉しい気持ちでいっぱいなのさ。確か配達に出る前に見た記録だと今日と明日はアルペジオの予定はフリーで他のメンバーも同様。だから自然と今日がその宴会の日になるって訳だからね。久しぶりにアルペジオと語り合えるの、楽しみだ。
自然と浮足立ち私らしくも無いスキップなんて踏んじゃって、宴会用に買いそろえたお酒類をエクシアから聞いた会場へ運ぶとテキサスから聞いていた今彼の使ってるセーフハウスへと向かった。あ、もちろん合鍵ももらったよ。最初は私も驚いたけど理由を聞くと納得するしかなかったのさ。
彼、アルペジオってしっかり者に見えて意外とおっちょこちょいなとこが有るみたいで自宅の鍵やセーフハウスの鍵をよく失すみたい。それで失くした時に困るからとテキサスに合鍵の手配をしてもらってるらしく、彼女ならアルペジオの用意した物件の鍵は全て複製して持っているだってさ。それを聞いて確かに心当たりが無いわけでもなかったけど……全部ってのはこれまた酷いなぁ。彼ってそんなにドジだったのかな?
「まぁその件に関しても追々聞けばいいかなぁ」
ルンルンと迎えに行く。その間も私の鼓動は自然と早まり、ちょっと緊張。そしてセーフハウス前に立つと更に早まり、思わず息を飲んでしまう。
お、落ち着かなきゃ。まずは深呼吸だね深呼吸。確かソラも言っていたっけ、緊張した時は深呼吸した方が落ち着きやすいってさ。
「すぅーはぁー……よし」
ぎぃっとドアの軋む音が響く。ん? 彼らしくも無いな。彼って意外と潔癖的なとこあるからこんな建付けが悪いまま、放置するはずがないんだけど……
一つの疑問、一つの違和感を覚えながら私は中へ。けど、後々の事を考えたら私はその先へと足を踏み入れるべきではなかったと思う。こんな後悔と狂おしいほどの孤独感を味わうのならば……
「や、や、や────……」
声が聞こえる、彼の声だ。けど、その声は酷く苦しそうだ。
私は気になり声のする方へ足を踏み入れる。重々しい空気の影響か、思わず気配を殺し静かに移動し声のする部屋へ来たが……なんだろ、この違和感は。
このセーフハウスには一切の生活感を感じない。テキサスの話ではかなり長い間彼は使っていたようだが、この様子を見てからそう言われても信じられない。音を消し、白一色の壁紙に囲まれた長い廊下を通る。途中開けられたままのドアを見つけ、ゆっくりと中を覗き込むんだ。
「────―!?」
そこには必要最低限の家具しかない、まるで空き部屋のような無人の部屋があった。個人がいた形跡を一切見せないその部屋はまるで人のいた証拠を残さないよう、細工をしたかにも見える不自然な部屋。それはまるでこれから起こる出来事を予言しているようにも見える。
やだ、信じたくない。彼が────
そしてその部屋はまだ奥に続くようで扉が一枚、先ほどの声もここから聞こえたんだろう。セーフハウスへ入る前に感じていた感情や緊張などとうの昔に忘れ。何かが零れ落ち始める、そんな喪失感を胸に抱きながら私はゆっくりとその戸を開けた。
「巻き込まれる前に────」
そこには彼が居た。
何時もと同じ彼御用達のスーツに身を包み、緊急時であろうと一切使わないアーツユニットの組み込まれた大きな剣を腰に下げた彼の後ろ姿が。そして彼の浮かべる表情は苦痛、そして焦りにも似た感情が現れていた。だからこそ私はその異常性を直ぐに察知出来てしまったんだと思う。
彼はどんな状況、それでこそ命の危機が差し迫った状況であろうと他のメンバーに自身の苦痛の表情を見せる事無くて何時もニコニコと笑顔を振りまき、皆を元気付けていた印象しかない。そんな彼がそんな表情を浮かべるだなんて……よっぽどの事が起きたんだろうか?
それに巻き込まれる前にって────―
ここで私の頭にあった一つの記憶が呼び覚まされる。
確かクロワッサンが言っていた。彼は今、かなりの大物から命を狙われていると。
何故かは話してくれなかったけど、彼の名前はかなり裏の世界では有名らしく。その筋では知らない者がいないほどの有名人だとか。でもそう考えると色々と納得いく部分もある。
私が彼を最後に見かけたその日、彼の格好はすっごくボロボロだった。てっきりその後直ぐに現れたエクシアの起こした問題に巻き込まれた結果だと思っていたけど何か、もっと大きなモノに巻き込まれたのが原因だと腑に落ちる。その時、駆け付けたエクシアの乗るバイクに飛び乗ったのもその何かから逃げ出す為、そして今発言した"巻き込まれる前に────"というのは再度その何かに巻き込まれまいとする彼の意志なのではないかってね。そう推理してみるけど、慣れない事はやるもんじゃないね。思考速度が必要だと感じて私のアーツの力で思考力を加速させてみたけど、頭が凄く痛むよ。
「準備は出来ている。後は消すだけ────」
思わず頭を押さえそうにもなるけど、その直後に発した彼の一言がそれを許されない。
消す、消すと彼は言った。
彼は遠方へのトランスポーターが主な勤務内容だけど、どちらかと言えば普段の勤務はエクシア達が起こした問題の後始末に回る事が多い。その中には当然法律ギリギリを攻めたグレーゾーンな方法を取る場合もあって……彼が消すと単体で単語を使う場合、証拠の隠蔽、改ざん、そして消去の際に隠語として使用する事が多くこの状況、隠語である消すに該当する意味は証拠の隠蔽、または消去だろう。そして準備が出来ているというのは既に下準備が整った事を指す。
つまり、この場合状況証拠から見て彼の言いたい事はこう。
"既に姿を消す準備は出来ている。後はこの場から離れるだけ――――"
っと。つまりは――――――
――――彼は私達の、私の前から去ろうとしている。
「────何処へ行くんだいアルペジオ、今日はこれから皆で飲む約束があるだろ?」
「────ッ!」
だからだろうね、そんなこんな状況にあるにも関わらず何も無いかの如く酷く冷静に、彼へと話しかける事が出来たのは。
――――きっと彼が巻き込まれた問題は彼個人に害がある物で下手したら私達を巻き込む問題がある為にそれを恐れて今、目の前で消えようとしているんだろう。そうだ、きっとそうに違いない。何時もは自分で対処できていたけど、きっと今回巻き込まれた問題は彼の対処できる範囲を超えていたんだ! だから彼は私達を巻き込むまいとこんな夜逃げみたいに突然姿を消そうとしているんだよ。きっとね!!!
「……モスティマ、さん」
彼の目つきが鋭くなってきた。多分、意地でも私を跳ねのけて逃げようと画策しているんだと思う。優しいなぁ、君は。私達を巻き込むまいと自分の身を犠牲にして守ってくれようとしてくれるだなんて……そんな心配、無用なのに。本当に優しいんだね、アルペジオは。
「ねぇアルペジオ、早く行こうよ。エクシア達も待ってるよ」
「……」
でも、それは許されない事だ。
私にこんな気持ちを抱かせる君は私の前から去っちゃいけない。私はほら、強いから。強いからこそ責任があるし見れない夢もある。けど、そんな私に夢や希望、どんな時でも諦めずに進む大切さを教えた君は私の前から去っては駄目だッ!!
「……行けません」
「────へぇ」
だけど、私のそんな思いは彼に届いてくれなかった。
本当はこんな手を使いたくはなかった。君にだけは暴力を振るいたくなかった。君とは気の合う友人、もしくはこれから添い遂げるパートナーになって欲しかった……けど、そんな態度を取るのならもう無理だね。なら教えてあげないと、彼にこれから迎える終末を。私と一生を添い遂げる終焉を。
「モスティマさん、お覚悟を」
それはこっちのセリフさ、アルペジオッ!
狂気は愛、愛は狂気。誰かがそう言ったの不意に脳裏の隅に浮かばせながら私は二本のアーツユニット、黒錠と白鍵を手に取る。
そして彼は腰へと手をかけ―――――
――――剣を抜いた。
一日でこんなにも応援くださるだなんて……皆求めてたジャンルなんすねぇ……
あ、ホントは今回こんな話にしようとしてました―――
モスティマ「You're my father.」
アルペジオ「NOOOOOOO!!!」
―――的な
どっちの方式が良い?
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裏話
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表裏