HEAVEN EROSION LED.   作:Song Of Friend

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誰のために(3)

 スラッシャー種。

 中心にトゲの生えたコアを持ち、外輪鋭利な刃を持つ、二重構造のキャンサー。各種属性のスラッシャーがいて、全部味は違う。ただ食感は同じなので、気ままに味変できるおつまみ、あるいはデザートという感覚。

 小さな体の割に攻撃力は高く、打撃への耐性があるため衝撃にも強い。刃毀れというものをしないのだ。

 

「だからこそ、こうして飴のように食べられるのよね」

「東吾津……我のみを呼び出すのだから何事かと思えば、単なるキャンサー狩りか? であれば我は基地に戻らせてもらう」

「まぁ待って待って。そろそろ見つけられると思うのよ」

「見つける……?」

 

 さて、呆れ返る彼女の言う通り、私は今最中ちゃんを連れてダンジョンに来ている。

 基本私は市街地専門で、こういう地下のダンジョン、というのには来ないのだけど、RotaryMoleが地中を移動しているとなれば話は別。

 このままいけば31Awith蒼井えりかに倒されてしまう事必至なので、先に倒してしまおうという魂胆。食べたい、が強い。

 それにもし、この──RotaryMoleを止める、という成功体験が無ければ。

 変えられる、かもしれない。

 

「地面に手を当ててみるのよ」

「……ふむ」

 

 最中ちゃんは現行セラフ部隊最強と名高い剣士だ。

 そして、私とも少しばかりの縁がある。本当はもう1人最中ちゃんの回復要員としてHEALERを連れて着たかったのだけど、生憎と手の空いている子がいなかった。

 ので、気持ち防御多めに戦う所存である。

 

 私に言われた通り地面に手を当てる最中ちゃん。

 目を閉じて、耳を澄ませて、手の感覚に集中して。

 

「……確かに、巨大な……何かが、地中を掘り進めているな」

「手塚っちから、見つけたら優先的に倒せ、ってちゃんとした命令も貰っているのよ。どう、手伝ってくれる?」

「司令官の命ならば是非もない。何より、東吾津が我の剣を頼った、というのは、些か気分が良いからな」

「そろそろ──仕掛けた爆弾にぶち当たる頃だから。ダメージなんて欠片も入らないと思うけれど、準備はしておくのよ」

「そんなものどこで調達し、いつの間に仕掛けたのだ……」

「こんな世の中になっても、ブローカーというのはいなくならないものなのよ」

 

 言葉を吐き終えた直後、前方区画で凄まじい爆発音が鳴り響く。

 激震はこちらにまで届き、いくつかの岩や線路に罅が入るが──まぁいいでしょう。使われていない線路だし。

 

「──"風林火山"」

「"いただきます"」

 

 互いにセラフィムコードを唱えれば、ワームホールから降ってくる武器。

 私の場合は置き換わっただけだけど。

 

「それじゃ、行きましょうか」

「ああ」

 

 トランスポートで跳ぶのは最中ちゃんだけ。

 私は直接跳躍し──。

 

「第一打、貰ったァ!」

 

 そういう意味の言葉ではないのだけど。

 砂煙土煙に覆われ前後不覚になっているRotaryMoleに、渾身の一撃を入れる。

 

 うん。

 

「これ、硬いのよ! 素手じゃ無理!」

「当然のことを驚いたように言うな! 一度下がれ、東吾津!」

「HEALERがいないのだから食べて回復するしかないのよ! ガンガン押せ押せイケイケ攻め攻めなのよ!」

「待て、少しは戦略と言うものを練れ!」

 

 待たない。

 頭部が硬いのならば、触手部分を食べればいい。

 確かRotaryMoleの弱点は突。第一段階は砲撃の類もしてこないのだし、とっとと近づいて──。

 

「東吾津──下だ!」

 

 下?

 下に何がある。地面しか──。

 

 私が地面に目を向けた、その瞬間。

 ()()()()()R()o()t()a()r()y()M()o()l()e()が、地面を抉り穿って這い出てきた。

 今相対しているRotaryMoleもまた、頭部の回転を始める。

 

 横回転と縦回転。

 磨り潰される──。

 

「──断!」

 

 デフレクタが半分程削れた。挟み撃ちの攻撃、それだけで、だ。

 けど、間一髪。最中ちゃんが上にいたRotaryMoleを叩きつけてくれたおかげで、私が逃れる隙が生まれる。

 

 逃げるべきだろう。

 最中ちゃんが作ってくれた絶好のチャンスなのだから。

 

 けど。

 

「生憎──私の辞書に、逃げるという言葉はないのよ!」

 

 下から来たRotaryMoleを踏んづけて、最中ちゃんの攻撃によってバランスを崩している最初の方のRotaryMoleへと肉薄する。

 ──掴んだ。

 

 瞬間、響き渡るはブチブチという嫌な音。

 外殻を破壊せぬままにキャンサーを引きちぎった時のみに聞き得る、まだダメージを受ける準備の整っていない中身が引き千切れる美しい音だ。

 

 それを、一本、二本、三本と。

 六本しかない触手の内の、半分を貰い──歯を立てる。

 

 コリコリとした食感。味は魚介のようでいて、山の幸をも思わせる深いもの。少なくとも既存の味のどれとも違う──けれど地球のそれを思わせる不思議な味は、もっと、もっと欲しいと全身に思わせるトリガーになる。

 自分の胴よりも大きいその触手。

 それを、ゴリ、メキャ、グチャ……なんて汚い音を立てながら、しかし凄まじい速度で食べ尽くしていく。

 

「食べるのは後にしろ、東吾津! 此奴──逃げるぞ!」

「──……アハ」

 

 そう。

 そうだった。これは。このキャンサーは。

 

 二匹目をもう一度強く蹴り飛ばし──地面へ潜ろうとしている一匹目の頭部、回転しないギリギリの部分を掴む。

 構わない、とばかりに地面へ潜ろうとするRotaryMoleに、こちらこそ構わないと腕を突き出した。

 

「ねぇ──ねぇ、ねぇ、ねぇ! どうして逃げるの!? 長く生きる理由があるの!? 繁殖ができるとか? それとも長く生きればより上位個体になれるとか!? ねぇ、どうして? 死んでも短期で蘇生するアナタ達が! どうして、どうして逃げるの? ──そんなに死ぬのが怖いのかしらぁ?」

 

 突き出して、突き刺す。

 RotaryMoleのど真ん中。頭部の裏。触手の付け根。

 既に地面を掘り始めていたRotaryMoleが、その衝撃にビクンと跳ねて、掘削を中断する。

 外殻に穴が開いた。だから──私は、そこに口をつける。キスを落とすかのように口をすぼめて、針を吹く。

 

 直後、青く罅割れていくRotaryMole。

 スキル2。猛毒の針。

 ただ、あくまで防御力を下げるに過ぎない。BREAKまではいかないから、動き回り得る。暴れまわることができる。

 RotaryMoleは私を振り解かんとその身を地下のあらゆるところにぶつけ始める。その効果は十二分。掴んでいると言ってもオクトパステイルのように密度の高いわけではない触手は、私を守ってはくれない。そもそも私が半分千切っちゃったし。

 だから──落石がモロに来る。

 なんとかデフレクタを発生させて防いでみるけれど、先ほどの挟撃で半分にまで削れたデフレクタでは、もって後数秒。

 

 最中ちゃんは二匹目のRotaryMoleを相手にしていてこっちに割く余裕が無い。

 

 ──そうして、時は来る。

 バリン、という音を立てて──私のデフレクタが完全に割れる。

 

「──ッ、東吾津!」

 

 果たしてそれを──好機、と捉えたのだろうか。そんな知能があるのか。そんな感情がるのか。

 けれど、結果として。RotaryMoleは、デフレクタBREAKによって流石に手を離さざるを得なくなった私へ振り返る。今なら逃げ得るかもしれないというのに、振り返って。

 

 その頭部を、咲かせた。

 

「な──第二形態だと!?」

 

 第二形態。

 頭部のドリルを花開き、中にある砲身を露出させ、長距離砲撃を可能とする形態。

 

 デフレクタBREAKで臥せっている私を確実に消し飛ばすための第二形態だ。

 セラフ使いは、デフレクタがない状態で一定以上の攻撃を受ければ──死ぬ。それが体力なのか、セラフなのかはともかく。

 

 最中ちゃんが駆け付けてきているのが見える。

 あちらのRotaryMoleはまだ逃げる気配がないから、背を向けるなんて危険極まりないというのに。

 

 ああ──本当に、良い子。

 

「でも、ごめんね最中ちゃん。──私はこれを、ずぅっと待っていたのよ」

 

 臥せった姿勢から、弾丸のように飛び出す。

 RotaryMoleが砲撃を撃つより早く──その砲身に、私と言う弾丸が入り込む。

 自殺行為だと言うだろう。誰もが言う。誰が見たってそうだ。そこから出るだろう攻撃に、自ら突っ込むなど。

 

 けど、私の耳は捉えた。

 最中ちゃんがブレーキをかけた音を。彼女が──「あれは大丈夫だ」と、私を信頼した音を。

 

 視界が光に染まっていく。RotaryMoleが砲撃を準備しているのだ。

 

「何度も言わせないで欲しいのよ。──ねぇ、それが。それが関係あったことが、あったのよ?」

 

 スキル1が、掴み、引き千切る事なら、毒針はスキル2だ。

 そして、最後。1度の探索において2回しか使えない高威力を誇る──第3スキル。

 

「キャンサーを食べて、それを栄養素として変換し、回復できるのだから──ふふふ、勿論、()()も特別。でも、これでも乙女だから──たとえ気心が知れた仲でも、他人には見せたくないのよ」

 

 光に向かって舌を出す。

 そこから滴り落ちるは、粘性の高い液体。

 落ちた。ピトり、と。落ちて。落ちたら。

 

 ジュッ! と──強い音を立てて、砲身に穴が開く。

 

「ガストリックアシッド──ね、気持ちが悪いでしょう?」

 

 光は放たれず。

 逃げようとしていたRotaryMoleは──その身をグズグズに溶かして、死滅した。

 

 

 

 

 

 

「あぁ! 逃げられたのよ!?」

「十分な戦果だろう。新種が二体いて、一体は討伐。もう一体も有益な情報が取れた」

「一匹目は溶かしちゃったから触手以外の味を知らないのよ!」

「知らぬ。これ以上は付き合えぬ。デフレクタが完全に消えているのだ、東吾津。流石にお前も帰投しろ」

「……くぅ……」

 

 結局、二匹目には逃げられてしまった。

 頭部の味をこそ知りたかったのに。

 残念。

 

「──崩落の危険性があるな」

「んじゃ、とっとと出るのよ」

「ああ──むぅ!?」

 

 流石の私も、自分の食欲がために最中ちゃんを生き埋めにするのは心苦しい。

 だから、跳ぶ。

 

 風の匂いでどこが出口なのかはわかっているから──首根を掴んで、いつもビルとビルをピョンピョン行き来しているあのジャンプで、水平方向に大ジャンプ。

 地面スレッスレを跳びながら、二歩目で軌道を変えて──地下坑道を飛び出した。

 

 

 

 

 夕方。

 お礼に最中ちゃんへあんパンを奢り、「何故あんパンなのだ……」と言われながら別れて、少し経った頃。

 

 フレーバー通り……基地内に設置された商業娯楽施設。の、通り。

 主要施設ともいえるスーパー銭湯、もとい温泉ミエミエ、映画館シアターバトル9、そして噴水広場……以外にも、カフェや雑貨屋、楽器屋、スーパー、ショッピングモールと様々揃っている。また、闇市……軍事施設にあっちゃいけないブローカーの集まりみたいな場所があったり、更にはもっとヤバい商品を扱っている場所があったり。

 基地内における通貨はGPというもので、既存のお金は使えない。全てが電子通貨なため、不正はできない……に思われがちだけど、穴というのはいくらでもある。

 

「で」

「で?」

「アンタ、誰だ。どうしてここにいる?」

「それは此方の台詞なのよ。こんなアンダーグラウンドに来る人がいるなんて──しかも、セラフ部隊なんて」

 

 所謂にらみ合い。

 片方は銃を、片方はその片目に指を突き付けて──膠着状態。

 

「とりあえずこの銃、降ろしてくれるのよ? そうすれば、貴女の可愛い目は無事なのよ」

「ハっ、それはこっちの台詞だ。全身から滲み出てるその血臭、隠したらどうだ? わかるよ、これでも修羅場潜ってるんだ。銃を降ろせば最後──目どころか全身穴だらけ。そうだろ?」

「そんな野蛮なことはしないのよ。それに、血液の匂いがするのは当然。私、今傷だらけなのよ」

「あん?」

 

 このままでは埒が明かない。

 そう判断したので──制服を、ぴらりとめくる。いやん。

 

 ──出てくるのは、ジワリと赤黒いモノが滲み出る包帯。それは真一文字に腹部を横断していて、尚も拡大を続けている。

 

「……その傷は?」

「デフレクタが完全に壊れた後、キャンサーにね。鼬の最後っ屁という奴なのよ。キャンサー自体は殺せたけど、結構怪我が酷くて。正当な医療施設に行くと監禁されるから、こうして闇医者の下を訪れているというワケ」

 

 銃が下ろされる。

 私も手を引く。

 

「闇医者か。……勘違いは謝るよ。早く帰って安静してな」

「それはできない相談なのよ。これからキャンサー狩りに行くのだから」

「はぁ!? てめっ、怪我してんだから安静にしてろよ! そういうのはもっと余裕ある連中にやらせとけばいーんだよ!」

「安静にしていたって治らないのよ? こういう時は、沢山沢山キャンサーを狩らなきゃ」

「戦闘狂が過ぎるだろ……。チッ、ちょっと来な!」

 

 手を引かれる。

 大きなファー付きのコート。私よりは低いものの、結構な身長。粗暴な口調──の裏に秘された優しさ。

 

 水瀬いちごちゃん。

 31期B部隊がATTACKER、且つ、殺し屋である。

 

 




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