ヒカセンinダンまち:ファイナルファンタジーだんじょんず 作:TAKUMIN_T
真上らへんの太陽というのは、意外と傾き具合がわからない。今何時かな?と見上げてみても、基準となるモノはなくて、数値に変換ができない。諦めて下を見てみれば、影の伸びが暗に時間を知らせてくれるというなんとも呆気ないおまけ付きでもある。
とてとて路地を歩いて行くエリの影は、靴一個分くらい伸びている。後ろをとてとてついていくベルとフィンも、身長による長さの差異はあれど、自身が履く靴一個ぶんくらいには伸びている。
ベルが「あのぉ……」と、なにか言いたそうにして前置きする。
「ダンジョンに潜らないで冒険者って、どういうことなんですか?」
ふと湧いて出た疑問に、フィンは確かにと頷きを見せる。
つまり、オラリオにおいての最低条件に満たしていないのに〈冒険者〉と名乗っているエリというのは、ベルからすればとても不思議なのだ。
別にそんなんじゃないとばかりに、彼女は「単純だよ」と微笑む。
「別に、ダンジョン潜るだけが冒険者って訳でもないでしょ? オラリオの外に行ってみて、色んなことを知ってみる。そこに住んでいる人だったり文化だったりを知ったり、道中を楽しんだりさ。ただダンジョン潜ってモンスターと戦うだけが【冒険者】って括りじゃぁないでしょ~」
「なるほどぉ……」
オラリオの常識に囚われ過ぎていたのかもしれない。ベルの頭の中の〈冒険者〉に、新しい知識がニョキニョキ
「冒険者って、いろいろあるんですねー」
自分の知識として補強しようとすると「ベル君の疑問は間違いでもないよ」とフィンが続ける。
「ダンジョンは探索が
「ベル君もモチロン知ってるよね」と、ベルを伺う。
オラリオに住んでいるからには当然のことだ。ファミリアに加入して冒険者となってダンジョンへ潜ってお金稼ぎ。流石に冒険者の中の冒険者な一級冒険者は遠くとも、ある程度の力を有しているならば、魔石や素材の換金で他の職より多くの金銭を稼げたり、巡り巡って名誉が生まれたり。
この仕組みは、エリの立場に置き換えても同じこと。
立派な建物の音響環境もなにもないただの路上演奏で、ここまで人を惹きつける音色を奏でることができる。すなわち〈力〉があるのなら、冒険者にならずとも生きていける。どこかのお金持ちのお抱え演奏者となって悠々自適に生活していくことも出来るはずだ。
それでも。エリは冒険者を名乗って活動している。オラリオにいるものとして、あまりにも異端な存在だ。
ベルも形は違えどそんな考えに行き着き、なるほどと頷きを返す。
それはフィンも同様で、同時に興味と好奇心が顔を覗かせ始める。
「ティンバーさんは、ダンジョンに入ってみたりするのかい?」
「んー、気分転換とか材料集めに少し潜るくらい」
「え⁉︎ ダンジョンってファミリアに入ってなくても潜れるんですか⁉︎」
「ファミリアに入っているかのチェックなんて、ダンジョン前でされていないでしょ? 全員がギルドに登録を済ましているって思っているみたい。だからこそできる、抜け道、だよ」
それいいのかなと、なんとも言えない表情のベルと、なにか苦いモノでも食べた?そんな表情のフィン。
「……僕は聞かなかったことにした方がよさそうかな?」
「あの、危なくないんですか?」
「すっごく危ないよ。普通デメリットが多過ぎるからね。私はわざと登録していないだけだから、普通に冒険者を目指すだけなら素直に登録した方が身のため」
……この妙な説得力は、ねぇっとり、ぺぇったり、靴裏にくっついてきたガムのでもあり。
あくまで英雄に憧れる普通の冒険者を目指している、ダンジョン初心者ベルは「何層まで行ってみたんですか?」と単純な好奇心を出す。
「一人で潜ってたから、あくまで様子見ぐらい。小さな魔石集めだね」
ファミリアに入っていないのに、ダンジョンの敵と太刀打ちできている。ベルのお目々がキラキラしている。
一方ダンジョン上級者のフィン。ちょっとの引っ掛かりを感じる。
ファミリアには入ってない。つまり
しかし、オラリオで生きていくためには、それだけではお金が足りなくなるはずだ。
「冒険者が生活していくにはダンジョンくらいしか……どうやってお金を稼いでいるんだい?」
「雑貨とか武具の制作をしてるんだ。半分くらいはオーダーメイドだったり、他から回ってきた難しい依頼だったりね。まあ、製造とか原材料の採集とか加工だったり、生産系ならほとんど請け負ってるよ」
彼女が請け負うという範囲は、あまりにも手広い。
普通であるならば、
故に探索系だったり制作系だったりで、そもそもの主神となる神様の得意分野というのはありにしても、ファミリアごとに
ベルは「オーダーメイド?」と反芻している。聞き馴染みがないようだ。フィンが「注文を受けて、その人用に作ることだよ」と教える。
その人用。つまり、個人専用。その人だけが扱う武器防具!
――ベルのお目々が、さらにキラキラする。
なんとなくその気持ち、分かるなぁと
既製品を依頼者に合うように改造だったりするのが基本だが、本当にゼロから作り出す場合はかなりの金銭を要求されることは間違いない。
「値段は?」
「完全オーダーメイドならなかなか。既製品ならある程度」
「……相場よりは高めかい?」
「高めだね。素材持ち込みだったなら――そこそこ」
なんとも曖昧な言葉だ。それでも最初に高めと述べているだけ、ある程度の予想を立てることはできている。相場以上であるからには、取り扱う武具の性能はどうなのか。ロキ・ファミリア団長である以前に、武具に命を預けるいち冒険者として妥協できない点だ。
うってかわって。ベルはその領域を知らないし、そもそもお金が足りなくて手の届かないシロモノ。憧れを心に秘めながらも〝将来は僕も〟と他人事のように絵空事を思い浮かべる。
「もしかして。その弓とか、服とかも……エリさんが作ったんですか?」
「うん。そうだよ」
見たことない衣装やら弓やらとフィンは薄々思っていた。しかし、まさかながら彼女の身に付けているもの全てが、その彼女自信が持ち得ている技術力を暗に示唆しているとは思っていなかった。
衣服はしっかりとした図面を持ち込みであるなら、
あるのだが。中でも特記すべきは、何より彼女が背負っている弓である。
下部の持ち手は水晶らしきものが覆って、上部にも同様の水晶が。それら全体の意匠はとても実戦用とは思えず、どこかに飾って眺めるかの観賞用として捉えればかなりの値が付きそうだ。
しかし冒険者である彼女が背負っているということを鑑みるなら、実戦用の可能性がある。
「……その弓って、少し見せてもらえるかな?」
「いいよ、――――はい」
なんのことはないと片手で手渡してきたのを、彼は両手で受け取る。
手にしてまざまざと見つめる。なんという一品だろうか。
手でさわらず
だが。手にとってしまったら、これは決してどこかに飾っておく観賞用などでは無く、狩るための戦闘用である事をまざまざと感じさせる。
重すぎず、かといって軽すぎず。しっかりとした重さに各部の精密さが、等しく弓であることを否応なく。
衝撃だ。たかだか弓に、これほどまでの衝撃を受けようとは。
そんなフィンの内心を知ってか知らずか、ぴょこんと横から覗きに来たベル。
「フィンさん。この弓どうですか?」
「――――弓は使ったことがないから、あくまで素人の意見にはなっちゃうんだけども……すごいよ、これ」
それ以上、フィンから感想が生まれない。息が漏れるほどだ。
フィンさんがそれほどまでのもの言うのかと、嘆息を漏らしながらぴょこぴょこ顔を出す。どこがすごいのか、まだわからないのは仕方ないだろう。弓というのを触ったことがないなら尚更だ。
息を大きく吐いて、フィンは気持ちを落ち着ける。
「……これを、ティンバーさんが?」
「そうだよ。テルパンダー・ルクス*1って弓。力を出させるとなると相当の技量が必要になるから、まずほとんどの人が扱えない代物だね。というか、ここだと扱い方が特殊すぎて私以外は扱えないものになっちゃうかな」
彼女以外は扱えない。一体どういう力がこの弓に込められているのだろう。一流冒険者と言われるからには、たとえ専門外の武具であっても一流の品に興味を引かれる。
また溜め息して、弓を両手で御返却する。少なくとも今日いっぱいは、手に感触が残り続けるだろう。
「こんなところで、これほどの職人と出逢うなんて思ってもみなかったよ……」
フィンさんが言うならそれほどのものなんだろうと、弓の凄さがいまいち理解できていないベル。とりあえず思っている。まだまだ初心者には高級品と言える武具を見たこと知ったこともないはずで、仕方ないことではある。
エリが弓を背負うのを見計らい、フィンはなんとなしに
「僕は槍が主武器なんだけど、槍って作れるかい?」
「槍? うんまあ、自分も使うから作れるよ?」
「えっ、エリさん槍も出来るんですかっ⁉︎」
「便利だからねー」
そんな理由で槍を扱うものではないと思うが……。
間合いの長さは単純に考えて剣の二倍かそれ以上。一点突きで急所を一差しもできる。しかし、槍の刃は小さい。避けられて間合いに入られてしまえば一点して危険であるし、剣のように単に振り回す訳にもいかない、扱いは難しい。
それでも。便利だからの一言で済ましているからには、本当に扱えているのだろうし、作れてしまうのだろう。
これほどの弓を作れてしまうのだ。彼女が槍をも作れるというなら、品質は間違いないだろう。
よしっ、と決意を固めたようにフィン。
「ティンバーさん。今度オーダーメイドで依頼してもいいかな?」
「ん、いいよー。上限額だけでも出してくれれば、モノ自体は検討できるから」
「え、上限額だけでも?」
「ほんとほんと。あ、なんなら普通の雑貨とかも注文していいからね」
むしろ雑貨が一番作り甲斐あるからねー、と武具を注文しようとしてる冒険者を目の前にして言う台詞ではないが……とりあえず、注文は受け付けてくれたようだ。
あとでお金の見積もりでも出そうとフィンは早速考えモード。ベルもなんとなくで興味を引かれる。
「僕とかも、注文すれば作ってくれたりするんですか?」
「だいじょうだいじょぶ。完全オーダーメイドは流石にベル君にも高すぎるし、そういうのは初心者の技術向上にはまったく役に立たないから、既製品をベル君専用といってもいいぐらいに調整すればいいの」
「そんな簡単に出来るもんなんですか?」
「難しいよ? 鍛治師だから武器を扱えるってわけじゃないじゃん。ふつうは使用者から話を聞いてその
「大変なんですね……」
「初心者用の武器もバカにしちゃいけないよ。初心者用、つまり誰でも扱えることってのは、単純だけどスゴイことなんだからね。でなきゃ一番売れてないよ」
誰でも使える、だからスゴイ。そういう考えを聞くと、ベルは自分が持っている初心者用の短剣はすごいものなんだと思えてくる。
「ティンバーさんは
「まぁね――到着っと」
彼女が歩みを止めたのは、一軒家の赤い扉。工房なのだろうか、扉にかけられている
〈
「エオルゼア……」
その単語は、フィンの記憶に存在しない。他から回されてきた依頼だったりオーダーメイドを
ましてや、冒険者となったばかりのベルが知らないのも当然だ。
「ここが、エリさんの?」
「工房。あとちょっとした休憩場所」
「ちなみに、自宅は別だからね」と付け加える。
「入ってもいいのかい?」
「お店、だからね。」
でなきゃ、お店として開ける訳はない。そう
「おや、エリではありませんか」
すると、ある声が聞こえてくる。
三人が声のする方を向く。そこにいるのは青い目にブロンドヘアーの少女。いいところのお嬢様、という第一印象が先立って感じられる。中でもエリは面識があるようで、意外そうにしている。
「あれ、アルトリア。どうしたの?」
「いえ。通りかかったらなにやら夫がいるのに男二人を連れ込もうとしてる貴女が見えましたので」
フィンの親指が痛み出す。ベルもなんとなくヤバさを感じとった。エリさん結婚してたんですかと、その表情は驚きを隠せていない。
そんな二人の様子は眼中にないようで、アルトリアと呼ばれる彼女は話を続ける。
「逆ナン……と言いましたか?」
「ぎゃ、逆ナン……⁇」
一体なんの略称なのか。どちらにせよ、この状況を表すのであればロクなことではないのだろうが。
「またまたぁ。アルトリアがここに来るのなんて、料理作ってほしいとかそういうのでしょ」
ビクッ――。
「やっぱり」
……図星を突かれたようだ。
「く……やはり貴女には勝てないのですか……⁉︎」
「いっつもお腹鳴らしているくせしてぇ」
非情たる追撃。アルトリアの端正でまっしろお肌のお顔が赤く色付いていく。あわわ、と口から声が漏れそうだ。
「ま、また来ますっ――!」
ぐぅ〜とお腹の音をも捨て台詞として、脱兎のごとく逃げ去っていった。
二人が話していたひとときは一分程度。しかし精神的によろしくなかった一分だった。
特に、大人としていい年齢を超えだしている、または約一名に狙われ続けているフィンにとって致命傷になりかねない。
「……すっごく勘違いされた気がするんだけど」
「だいじょぶだいじょぶ。からかっただけだから」
からかった、にしては、一つ間違えれば修羅場と化していた気がしなくもない。というか既婚者である女性が男二人を部屋へ連れ込むのは、もし見られてしまったら世間体的によろしくない。見られてなくてもヤバい。
そんな二人をエリは一切気にすることもなk、鍵を外しながら「愛してるのはラハだけだからねー」と呟いて、ガチャリ、と扉を開けた。
扉の取手を握り「ささ、エオルゼアワークショップにごあんなーい」とドアボーイ*2ならぬ、ドアガールとなりながら、扉を全開にした。
▷
あくる日のお昼。ロキ・ファミリアの拠点、黄昏の館、の広場。
団員から見て、今日のフィンの様子はどこか違った。朝イチに姿は見えず、お昼前になっていつの間にやら広場の一角を座って占領。立ち上がって館に吸い込まれるときは、足取りは軽やかで、顔が綻んで。
要するに、ゴキゲンな訳だ。
何かしらの理由はあるはずなのだが、近日中の記憶を漁ってみても団員達には思い当たるフシがない。付き合いの長い団員でさえも「どうして?」と首を捻る。しまいに一緒に考えたりすることも。
そんな占領中の様子を後ろから進行形で確認し続ける、長い付き合いのアゴヒゲもじゃぁなドワーフ族男性。ある一点をめざとく気付く。
「おうフィンよ、なんじゃぁその槍は」
「あぁこれ? 個人的に注文した槍だよ。とっても良い出来だよ」
その時の彼は、満面の笑みだったと、のちに訊いたガレスが証言している。
アルトリア:
ダンまち世界で育ってるから宝具なんてないよ。おなかぺこぺこアルトリアってだけだよ。数年前の小説のアイデアだよ。