どうぶつれいといっしょ   作:黄田田

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初めてのスペカ戦

「うおっ!」

 

気が付くとおれは空を飛んでいた、いや浮かんでいるの方が正しいか。下には先ほど妖怪の山。上には煌々と輝く満月に、星々たちがきらめいている

 

『やっぱりな』

「うわっどっから話しているんだあんた」

『脳内に直接語り掛けている。やれやれ、ここまで精神が脆弱な人間は初めて見たぞ』

「もしかしておれの体を乗っ取ったのか?」

『あぁそうだ。今お前が浮かんでいるのも私がお前の霊力を操作しているからだな』

 

ふざけるなというより感心してしまった。動物霊というのは人間に憑りつくこともできるらしい

 

ワニ霊が操作するままにおれの体は右へ左へ自在に動く。そして痛みがほとんど引いていることに気づく。いつの間にか怪我はほとんど治療されていた。ワニ霊がおれの霊力を使って治してくれたらしい

 

「霊力を操作できればこうやって空を飛んだり、けがを治したりできるのか」

『あぁそうだ、といってもお前はとりわけ戦闘に使うことが多そうだがな』

「?どういう意味だ」

『今私たちは盛大に霊力を使って飛んでいるから、下の連中にとってはむき出しのナイフが宙に浮かんでいることに変わりない』

 

嫌な予感がする。とてつもなく嫌な予感がする

 

「…それって妖怪の山の妖怪相手に…」

『宣戦布告したってことだな。おっと、早速来たようだぞ』

 

なにがだよと思い、ふと星空を見かけると青い何かが高速で近づいてくるのがわかる

 

「流れ星…?」

『いや違う、敵だ。衝撃に備えろ』

「は…」

 

放心していると感じる凄まじい衝撃と痛み、おれは空中から叩き落されていた

 

(何が起き…)

 

土煙が晴れると空中には見知らぬ青い頭巾をかぶった女性がいた。翼が生えて空をとんでいる、どうやらこの女性に“けり落された”らしい。ワニ霊がとっさにガードしてくれたのか痛みは対してないが

 

「ほう、今の一撃で死なないか。死んでたら楽だったんだが」

『「いきなりスペルカードルールもなく攻撃か、それが妖怪の山流のやり方か?」』

 

(勝手にしゃべるなよ!)

『すまん、だが妖怪相手にはこれぐらい強気で行った方がいい』

 

脳内で言い合いをしていると女性は近づいてきておれの顔をマジマジとみていう

 

「ずいぶんな霊力を持っているようだから下級天狗じゃ相手にならないと思って私が来たけれど、なんだまだガキじゃないの」

「あなたが誰なのか知らないがおれは敵じゃない。そう、ガキなんだ。霊力がコントロールできない、だからここは見逃してくれませんか」

 

あの妖精と違い、まだ会話ができそうな落ち着いた雰囲気の女性だったので多少の嘘を混ぜて説得することにした

 

「私は飯綱丸龍。そうはいかないわね、ここら一帯は我々天狗の領域。そして私は大天狗、おずおずと見逃すわけにはいかないの」

「責任ある立場なんですか?」

「そう責任ある立場なの、ん?お前よく見ると二重の霊力持ちじゃない。動物霊に憑りつかれてしまったのか?」

「そうなんです、ワニ霊に憑りつかれてしまったんです。すべての責任はそいつにあります」

『えー全部私のせい?』

 

実際間違ったことは言ってない

 

『けがを治してあげたのに』

 

それとこれとは別問題だ!

 

「あっはっは、君面白いね。そうだな、あとはマネタイズするだけの新しいアイデアが思い浮かんで気分がいいし見逃してやってもいい」

「本当ですか?」

「ただしそれは私にスペルカード戦で勝ってからだな。あんなに大口をたたいたんだから相当できるんだろう?」

「それはワニ霊が…」

「言い訳無用!使用スペルカードは2枚、いくぞ!」

 

直後龍さんからとてつもない重圧を感じ星形の弾丸が次々とおれめがけて襲い掛かってきた。相当やばい状況になった。こっちはスペルカード?状態なのに

 

『焦るな!私にゆだねろ。お前の意識はそのままにお前の体を動かしながら解説してやるからそれを聞け』

「そんな暇があるとは思えないんだが…」

 

自身に迫る青い小粒の脅威を見ながら言うも、おれ(の体を操作しているワニ霊が)華麗に体を滑り込ませて回避して、風を放射状にまき散らしながら空へと舞い上がる様子を見てゆだねて解説を聞くことに決めた

 

『じゃあ始めるぞまずあの青白いのは弾丸じゃない、弾幕だ。スペルカード戦というものは基本この通常弾幕を撃ち合いながら戦う。レーザーだったりなかには特殊なものもあるがな、あの妖精も使ってたろ』

「あぁこれと同じような星形だった」

『そうだ、弾幕は霊力、妖力、神力、様々な力を小型に力を形どって発射する、お前にもできるんだぞ?やってみろ、指先に霊力を集中させるんだ。全身のエネルギーを指先に集めて収束させるイメージだ』

そういわれても思いながら指先にエネルギーを収束させるイメージでやるとできた。白色のぼやけた大きな弾幕だ。無骨な形で銃弾をイメージした

 

『私は弾丸のイメージから抜け出せといったんだがな…』

「どうした!撃ってこないのか?」

『まぁいい、あちらもそう言っているようだしそれを撃ってみろ』

 

狙いを定めて撃つ、普通に躱された

 

『そりゃそうだ。相手だって棒立ちのまま弾幕を撃つわけじゃない。だがかなりいい精度だったぞ、当たればかなりの威力になる』

『今みたいに一発一発狙いながら高威力の弾幕を撃つのが【集中ショット】だ』

『次は【拡散ショット】をやってみろ。体全体からエネルギーを放射するイメージだ』

 

これにも疑問視を浮かべながらやると、できた。今度も銃弾をイメージした弾幕だが以前のそれよりかなり小さい、言葉通り体から全方向へこれを途切れさすことなく発射している。車の輻(や)のように中心から周囲に射出するイメージだ

 

『すごいじゃないか。もう全方向への攻撃ができるなんて、まぁ外来人にわかりやすく例えるなら一発一発狙って撃つ【集中ショット】がアサルトライフルで、狙いをつけず動きまわりながら撃つ【拡散ショット】がサブマシンガンのようなものだろう』

『じゃあ私が体を動かすからお前は好きに撃ってみろ』

 

そうしているのだがなかなか当たらない弾幕の密度を高めてもやすやすと躱されてしまう。これが経験の差か、しかし相手にとっても弾が当たらないのは同じようで辟易したのか何やらカードを掲げて宣言してきた

 

禍星「星火燎原の舞」

 

満点の星空にさらに星が加わる。だが神秘的な宙のそれとは違いどこが禍々しい赤色、紫色の星がムカデのように展開し、誘導しながら襲ってくる

 

『弾幕はこのように特殊な式を積めば誘導弾にできる』

「言ってる場合か!追いつめられたぞ」

 

星弾幕が最接近しビリビリと痺れるような感じを肌に感じる

 

『焦るな!よく聞けスペルカード戦において相手のスペルカードは躱す必要がない』

「じゃあどうすりゃいいんだよ!」

『こちらもスペルカードを撃てばいい。これを使え、私の【能力】をカードに落とし込んである』

 

そう言って右手に現れた三枚のカード、おれはそのなかから一枚を選び宣言した

 

噛罠「畜生界の洗礼」

 

すさまじい轟音がして緑色の歯型の弾幕が相手の弾幕を打ち消しながら進み龍さんに数回嚙みついて離散した

 

「痛ったいわねぇ」

 

『いいカードを選んだな、それは相手がスペルカードの展開中に宣言すると避ける場所がない回避不能の弾幕を発射するやつだ。われら【組織】の信条に則ったとっても素敵なカードともいえる』

「それルール違反なんじゃないのか?あの人、怒ってるように見える」

『畜生界にルールは無用だ』

「畜生界ってなんだ」

『後で説明する。戦いに集中しろ、私はそろそろ体の操作をやめる、疲れた』

「おい!おれはまだ一人で浮くことすらできないんだぞ」

『「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」、畜生界の常だ。戦え』

 

そういった直後おれは真っ逆さまに落下してしまった。あの畜生、本当にやりやがった。手から何とかエネルギーを放出するイメージでなんとか逆立ちのような状態で浮くことには成功するもそこから動けるイメージがわかない。

 

龍さんの方を見ると先の青白星弾幕より更に巨大な、黄色いまさに「☆」の形の弾幕を撃ってきていた

 

「くそっ!」

 

逆立ちの状態を解除しそのまま落下すると、霊力を足元に練り上げ力場を形成し、まさに“足場”になるように組み立ててそこに着地し、霊力で加速して再び空中に躍り出た。そこから先は針の孔を通すような形で星弾幕同士の細かい間をすり抜けてなんとかやり過ごした

 

龍さんはおれが真っ逆さまに落ちるさまを見て勝ちを確信したのか躱されたのを見て舌打ちしカードを取り出し再び宣言

 

星風「虹彩陸離乱舞」

 

まぶしすぎて一瞬目がくらんだ、弾幕の難易度が跳ね上がっている。七色に輝くレーザーが周囲にくまなく発射されおれはそこから一里も動けなくなった。少しでも動けば丸焼きにされそうな気がする

 

『カードを使え』

 

そうすることにした。できるだけ手を動かさずに宣言する

 

擬態「十二辰虫の身」

 

瞬間、視界は虹一色となった。このスペルカードは相手のカード内容をまんまコピーするようなのだがこれはやりすぎだ、二重の光線で目もくらみ被弾していないのに皮膚が焦げるかのような強力な熱波に包まれる

 

「ちょっとなんだこれは中止だ!中止!これでは周りに被害が出る」

 

そう言って相手がカードを止めるとこちらのカードもピタリと効果しなくなる

 

「動物霊と言っていたが、容姿にあわず本当に卑劣な手が好きなようだ。帰れ、二度と私の前に現れるな」

 

怒られてしまった。それも当然か。相手の気が変わる前に脱兎のごとし勢いで妖怪の山から脱出する。前方には朝日がゆっくりと顔をのぞかせていた、額の汗を血だらけの手で拭う

 

空を自在に飛べるようになればあれほど出たかった妖怪の山も簡単に抜け出せる、この朝日のような晴れ晴れとした気分だった

 

すべて動物霊であるこいつのおかげなのだが…

 

『うーん、卑劣か?』

 

この調子なので感謝する気が起きなかった

 

「そういえばお前、名前はなんていうんだ?」

『…名前はない』

 

数秒出し渋って答えるワニ霊

 

「じゃあワニ霊、でいいのか」

『あぁ、それでいい』

 

憑りついている幽霊の表情なんか見えるはずないのにない表情筋を吊り上げながらワニ霊がにこやかにそう答えているように見えた

 

『そういうお前は名はなんていうんだ』

「おれ記憶喪失なんだよ」

『名前くらいわかるだろう』

「胡蝶、胡蝶だよ。あってるかどうかわからないけどな、名前ときてピンときたのがこれってだけだし」

『胡蝶か、いい名だ、それで胡蝶お前はどうしたいんだ?』

「どうって何を?」

 

妙に期待しているような明るい声色を脳内に響かせるワニ霊

 

『わからんやつだな。私はお前をずっと見ていたんだ。”現れた”時からずーっとな。それでお前に興味がわいた、お前がこれから何をして、どれを目的に生きていくのかを』

「何をって、そりゃ帰りたいよ」

「それはなぜだ?なぜ帰りたい」

 

この霊も変なことを聞く、と思ったが同時に確かに不思議だった。おれはずっと帰りたいと思っていたがそれはなぜだろう。あんなにひどい目にあったのだから当然だとも思うが、この胸を締め付けるような、早く帰らないといけないという焦燥感はどこからきているのだろう。おれは記憶喪失なのに

 

「帰らないと、帰らないといけない気がするんだ」

 

要領を得ない答えだった。帰るって、どこに?自分の“常識”がある世界、日本にか?家族すら誰も覚えていないのに。おれはますます自分の存在がわからなくなってしまったが、それでもこの「帰りたい」という欲求は本物だった

 

『そうか、私はお前がどこから現れたのか知らんし、幻想郷を出る方法もわからないがお前に力を貸そう、面白そうだからな』

「それがお前がおれに力を貸してくれる理由か?ずいぶん単純なんだな」

『あぁそうだ。面白そうだからだ、私はずっとこれを求めていたんだ』

 

自分の中にいるワニ霊がニっと口角を吊り上げるさまが想像できた。助けてくれることはありがたいが本当によくわからないやつだ

 

『あぁそれと』

「なんだよ」

 

 

地上に降下しようとした瞬間、喉奥が激痛でゆがみ、呼吸できなくなった。生暖かい血液が滝のように喉から手に零れる

 

『激しく動きすぎて傷口が開きそうだと言おうとしたんだがな。霊力操作とて万能ではない。何せ死んでもおかしくない状態だったからな、フフフ』

「…それを早く言え…」

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