どうぶつれいといっしょ   作:黄田田

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チルノ、チラチラ見てただろ

眼下に広がる世界は赤と緑にくっきりと分かれていた。

 

魔法の森の鬱蒼した緑と赤く朽ちる妖怪の山の紅葉でだ。そして今更もう神無月なのかと気づく、どうりで景色が秋めいていると思った

 

別にボケたわけじゃない、季節の感覚がなくなるほど最近は激動だったからだ。記憶がないので新しい人生を始めた、といってもいいかもしれない

 

ところで神無月とは実際に神がいなくなるというわけではないらしい。「無」は「の」の意ですなわち神の月、というそれだけの意味だと

 

おれは神々が出雲大社に集まって神々がいなくなるから神無月、と覚えていたのでこの俗説はどこから広まったのか、なぜここまで浸透したのか気になる次第である

 

この幻想郷には実際に紅葉を司る神がいるらしいが…

 

右側は秋、左は不変の森と中途半端な所在をひたすら飛んで進む。以前魔法の森を飛んで抜けようとしたらひどい目にあったので、妖怪の山との中間、玄武の沢を超える形で飛んでいる

 

視界の先に霧が見えてきた。この辺まで来るのは初めてではないが人里から離れているので緊張はする

 

途中で香霖堂が見えたので寄ろうかと思ったが仕事の最中なのでやめた、さっさと終えて博麗神社に行きたい

 

『だいぶ飛行にも慣れてきたんじゃないか?』

「(あぁワニ霊か、おかげさまでな)」

『毎日の訓練の成果が出たな、今何キロ出せる?』

「(体感80キロってとこか。全力を出せば120キロは出せると思う、風の抵抗が強くなるからやらんがな)」

『もうそこまで出せるのか、こりゃもう飛行に関して教えるものはないな、霊力の出力も抑えられるし、姿勢制御は私は人間じゃないから教えられないしな』

「(あぁ感謝してるよ本当に)」

 

あの一夜が明けてからワニ霊とおれは今日に来るまで毎日飛行訓練を行っていた。あまり激しく飛んでることを見せびらかすのもどうなので、人里の離れでだが

 

かなり上達したとは思う、飛んでいるときの疲労感というものが練習するたび減っていった。霊力消費を抑えられているのだろう

 

『あとは戦闘訓練…弾幕ごっこの練習だけだな、ほらもう湖が見えてきたぜ』

 

なぜか嫌らしくそう笑うワニ霊。あたりの霧はどんどん濃くなり自分の周囲以外がすべてホワイトアウトしたような錯覚を受ける

 

この霧の湖には厄介な妖精が住んでおり、一度目を付けられると執拗に攻撃されるという話で、さらに厄介なことにその妖精とおれは顔見知りなのだった

 

(寒気がする…外気が明らかに冷たくなり始めた、これは…いるな)

 

『今のお前なら楽勝じゃないか?』

「(話し合いという解決手段もあるかもしれないだろう)」

『いーやどうだか、相当お前にご執心だったし話の通じるタイプじゃない』

「(まだわからない…)いるんだろ?チルノ、出て来いよ」

 

「…」

 

そう言って霧から出てきたのはウェーヴがかかった水色の髪。白き羽をはやした氷の妖精チルノだった。不機嫌そうに顔をしかめて、こちらをじっと見つめている

 

「…なんでやめたの」

「えーっと…」

「なんでやめたの!寺子屋!」

 

チルノの纏う冷気がいっそう激しさを増す。やはりおれの辞職に対して抗議しているようだ

 

「チルノ、それはな。最近色々と忙しくt…「うるさい!!」

 

あぶねぇ、攻撃された。すんでのところで交わしたが当たれば結構な深手になりそうな氷のつぶてを飛ばしてきていた

 

「チルノ、まずは落ち着いてくれ、コミュニケーションが大事だと教えてだろう」

「うるさい!うるさい!倒して連れていく」

 

氷の槍がチルノを中心に展開され、今にも発射されそうな段階になる

 

「チルノわかった、じゃあこうしよう」

 

そう言ってチルノに最大限近づき、おれに言いたいことがあったら暴力じゃなく言葉で言ってくれと伝える

 

そうするとチルノはまだ怒った表情のままだったが若干落ち着きをみせた。いきなり近寄られると意外性により一瞬人は冷静になる。それをねらった

 

子供特有の吐息とわずかな熱が伝わってくる

 

「こちょうは、あたいをあたいたちを裏切ったんだ!」

「それは違う、おれの、おれだけの都合なんだ、今でもチルノたちのことは大切に思ってるよ」

「うそだ」

「うそじゃない」

 

そういうとチルノはもう口撃する材料がなくなってしまったのか一瞬困ったような表情を見せたが、何か思いだしたのか普段のチルノではなかなか見ないようなけったいな笑みを浮かべる

 

「知ってるよ、こちょうは外来人、それも特別な外来人なんでしょ?」

 

?どういう意味だ

 

「こちょうは舶来人なんだ。慧音が言ってたよ、こちょうはこの辺の人間じゃないんだろうって、西から来た特殊な人間だって」

「慧音に教えてもらった、外の世界にも人間がいっぱいいてその人間にもいろんな種類があるってこと、それであの悪魔も西から来た…」

「つまり、こちょうはあの館の悪魔と同類なんだ!この英吉利人め!そうに違いない」

 

だいぶ話が飛躍したが、チルノはおれが孤独であることを主張したいようだった

 

「チルノ、おれは吸血鬼の仲間ではないよ」

「うそ、だってこの先の紅魔館に向かってるじゃん」

「紅魔館へ行くのは仕事の用があるからだ、だからここを通りたい、通してくれないか」

「だめ。行ってしまったら本当に戻ってこない気がするから」

「…」

 

チルノは悲しいような困ってるような表情を見せる。チルノがしおらしくなっている様子など見たことがない、悪いことをしているような気分になる

 

「なぁチルノ。言っただろう?おれはどのみち帰らなきゃいけない人間なんだ。舶来人かどうかは知らんが、この世界にいるべき人間じゃないんだよ。だからおれはこの小包も届けるのを最後の仕事にするつもりだ。これが終わったら博麗神社で巫女を待つ、だからどうかここを通して、笑って見送ってくれないか」

 

そういうとチルノはうつむいて押し黙ってしまった。これは通っていいということだろうか、うつむいているチルノを横にそっと脇を抜ける。早く逃げたい。やはり今日のチルノは変だ。妙に暗いというか、普段のチルノのからは想像もできないような負の感情を感じる

 

ここから最高速度を出して逃げたいが、それは失礼すぎるだろうという感情が歯止めをかけ、ゆっくりとチルノから離れる。今思えば後悔しかない選択だった

 

離れて離れて、やっとチルノの姿が見えなくなったと思ったら感じる氷獄のような冷気。目の前には巨大な氷の柱が展開されていた

 

少しでも早く飛んでいれば瞬時に冷凍保存されていただろう

 

「だめ、やっぱり氷漬けにしてみんなのところへ連れていく」

 

やはり説得は無理だったか、戦う以外ないようだ

 

『ふふ、やはり私の想像通りの展開になった』

 

ワニ霊が興がった感情を出していたのはこのためか、こいつはやたらおれを戦わせたがる

 

「(最初から予想していたな?こうなることを)」

『見て判断できないお前が悪い。あの娘はどう見ても異常だ』

「何をぼーっとしてるんだ!」

 

チルノを中心に氷弾幕が複数形成され、それと同時におれは霊弾をチルノに発射する。”弾幕ごっこ”の始まりだ

 

初回の弾幕は一見スキがないように配置されていたが上下移動に関しては結構緩く、上へ、下へと飛ぶだけで回避することができた

 

そして二回目の弾幕も全く同じ形相で展開されたので水色の誘導弾にさえ気を付けてなんなくクリア

 

一方おれの弾幕はすべて凍らされて無力化されていた

 

「ええぃ、じれったいわね」

 

氷符「アルティメットブリザード」

 

周囲の冷気がチルノにあつまり、それを解放するかたちで氷弾幕が複数形成される。こちらは上下移動に関して厳しくなっているが、先の通常弾幕より密度は低い

 

こちらもスペカを使おうと思ったがやめた、これなら回避できる。同じく水色の誘導弾にさえ気を付けて…

 

ちっ!誘導弾に気を取られて真正面から来た弾幕に少しかすってしまった。ズキっとした鈍い痛み。服が破れ、右腕から血がポタポタと垂れる、殺傷用の弾幕だ。やれやれ弾幕を凍らせることといい本当に強敵だな

 

どう対処しようか考えていたところ、弾幕攻撃がピタリと止んでいることに気づく

 

「こちょう…血、血が…」

 

チルノは自分がしてしまったことに驚いているようだった。目を見開いて恐る恐るこちらに近づいてくる

 

「これか?たいしたことないよ、殺傷用なのも今更驚きはしない。それより続きはやらないのか?」

 

右腕の傷は出血こそひどいものの痛みは対してなく、かすり傷だと自分で判断できるレベルだった。何よりチルノは殺す気できていると思っていたから、この程度で中断されて少し不思議だった

 

「こちょう、ごめんね、そんなつもりじゃ…そんなつもりじゃなかったの」

 

そういうとチルノは泣きだして、泣きながらすぐにどこかへ消えてしまった

 

本当にどうしてしまったんだろう。凍らせようとしてきたわりに、血を見てためらったりどこかおかしい

 

(妖精も凶暴化しているのだろうか…)

 

そんな話は聞いたことがないが、今日のチルノは変だった

 

『お前が子供心を理解してないだけなんじゃないの?』

「(子供心ってなんだ)」

『さぁ』

 

とりあえずあの場から離れることはできたのでよしとしよう。そう結論付けた

 

 

 

***

 

霧の泉を抜けると、紅だけが支配する空間だった…とでも表現するべきか

 

紅魔館。霧の泉の湖畔に位置する、悪魔が住まう館

 

おれはその入り口にいた。改めて紅魔館の外観をよく見まわす

 

門も屋敷も屋敷に続く道もすべて紅に彩られており、悪趣味だとは思わないが上空から見る限りひどく浮いていた。外の世界から来たらしいが同じく外から来た近くのプリズマリバー邸は景色に溶け込んでいるので、幻想郷にとっては廃館くらいがちょうどいいのだろうなと思った

 

そしておれはいま飛行をやめ、湖に面する門の前に立っている

 

(どうしよう、声をかけるべきだろうか…)

 

目の前の屋敷の紅に則ったような赤髪の女性が、じっとこちらを見つめてきていた。何をするわけでもなく睨んでいるようにも見える

 

(門番、なのか?前にここを観光がわり見たときはこの女性ずっと眠っていたような…」

 

どこかで名前を聞いたような気がするが、思いだせない。中国の人民服を着て”龍”の帽子を被っている赤髪の門番…

 

「もし、」

「あ、あぁはい!」

「長髪に菫色の瞳の長身瘦躯の男性…もしやあなたは胡蝶さんでは?」

「は、はいそうです!ここの館の主のレミリア・スカーレット様に依頼品を渡しに参りました!」

 

(ん?なんでおれの名前が伝わってるんだ?)

 

依頼者には依頼を受けた業者が届けるとしか伝わらないはず

 

(…まぁ空が飛べる配達業者なんておれくらいか、そこから特定できるのかな)

 

「それはよかった、来てくれたんですね。案内します」

「いえ案内はいらないので、ハンコだけおねがいします」

「いえいえ、“そういう話じゃないんですよ”」

 

女性は笑顔でこちらに近づいてくる。思いだした、赤髪に中華風の門番、紅美鈴だ。

 

「いや本当に案内は大丈夫ですから」

 

話を聞いていたのか?おれは荷物を渡すだけだって。全く、面倒なルールがあるのかもしれない

 

「ところで話は変わりますが…あなたの血液型はB型ですか?」

「え?そうですけど」

『胡蝶…』

「(あ?)」

 

いきなりワニ霊に話しかけられた。なぜか相当焦っている、焦りの感情が急ピッチでこちらにも伝わる。なんなんだいったい

 

『【今すぐその場から離れろ】』

「(な…)」

「B型ですか、そうですか、なおさら都合がいいですね。お連れします」

 

瞬間、みぞおちに衝撃を感じ、おれの意識は不気味なほどに極まった女性の笑顔をとらえたのを最後に暗く、落ちていった

 

 

 




チラチラミルノ
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