どうぶつれいといっしょ   作:黄田田

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スカーレットデザイア

 

 

暗く、暗く…

 

どこまでも落ちていくような…

 

おれはこの世界に来てから一度も夢を見ていない。いや、幻想入り以前の記憶がないのだから夢を見たことがないが正しいか

 

記憶を失う前…日本にいたころのおれは夢を見れていたのだろうか。穏やかに眠れていたか?おれはいまとても穏やかな気持ちだよ

 

ただ、この紅い暗闇に身をゆだねるだけで…

 

 

 

***

 

「はっ」

 

まるで死の淵から引きあがったようなここちだった

 

紅い、どこまでも紅い天井だ。視界の端に写る金の淵、なんとまぁ豪華なソファだろう、ここに寝かされていたのか。ぼやけた思考、視界、起き上がると目の前には謎の少女がいた

 

「おはよう、ずいぶん寝心地がよかったようね」

 

ここは客間だろうか、少女はこれまた紅い豪華な椅子に座り、シェンデリアがぼやけた明るさをたたえていた。天井も低く、部屋自体も紅いだけでそこまで大きくはないので閉じ込められたような錯覚を受ける

 

どこなんだここは、思う前にひどい頭痛がして再び気絶しそうになる

 

「少し、血を抜きすぎたかしら」

 

血を抜いた?

 

「ごめんなさいね。緊急事態だったの、あなたの血を少し、いや結構頂いたわ」

 

そう言ってクスクスと笑いながら少女は赤色の液体が注がれたグラスを掲げた。まさかと思うがあれがおれの血か

 

「私を、食べるんですか」

 

虚ろな思考からどんどんと覚醒していく。どうしてこんな状況になっているのかも思いだした、そうだ吸血鬼だ。吸血鬼の館とは聞いていたがまさかここまで手荒な歓待を受けるとは思ってなかった

 

「食べる?人聞きが悪いわね、咲夜の輸血用にあなたの血をいただいただけよ。まぁ少し、楽しませてもらっているけど」

 

改めて少女の容姿を見る。想像よりかなり幼い、吸血鬼が女性とは聞いていたが、身体が小さく、翼のスケールがあってないところを見るにまるで子供のように見える。しかし外見の年齢とは裏腹にその容姿はどこか妖艶な雰囲気をはらんでいた。こちらをじっと見つめる深紅の目は大きく、銀にも透ける青髪はその幻想的な美しさにさらに拍車をかける

 

「はじめまして、胡蝶。私はレミリア・スカーレット。この紅魔館の長にしてあなたの“主”になる誇り高い吸血鬼よ」

「あの、なぜ私の名を知っているのですか、どうして私を気絶させて連れ込むなんてことを」

 

おれは間髪いれず疑問詞を投げた、ただ荷物を届けに来ただけで気絶させられるのは意味が分からない。

 

「それを説明するにはまず、こちらの事情を説明しないといけないわね」

 

そういうとレミリアさんはグラスに入ったおれの血を飲むと、こちらをじっと見つめながら話し始めた

 

「三日前、襲撃があった」

「襲撃?」

「えぇ、うちのメイド、咲夜が襲われたわ。人里でも似たようなことがあったでしょう」

「はい」

「それと同じで下手人は妖怪。傷口には巨大な爪で裂かれたような傷が複数あったわ、それで輸血が必要になったんだけど…」

「吸血鬼の館なんだから血の常備くらいあると思うでしょう?でもタイミングの悪いことに、血の常備パックは襲撃があった前日に私の妹がすべて飲み干してしまっていたの」

「そこで咲夜と同じb型の血液型を持った人間を用意する必要があった。私は必死で探したわ、幻想郷のルールを破るくらいに。咲夜は大事なメイドだったし失いたくなかった、それも血がなかったなんて吸血鬼らしくない間抜けな理由でね。」

「そして人里で蝙蝠になって飛び回っているうちにあなたを見つけて、確かめてみたらb型だった。こんなところかしらね」

「おれの血を入れたことでその咲夜という女性の容体は?」

「回復したわ。以前昏睡状態のままだけだけどね」

 

気づかず血を吸われていたことや、もろもろ納得はできなかったが、緊急事態自体ということなのだからまぁ仕方ないだろう。

 

それより早くこの屋敷から出たくなってきた。先ほどからこのレミリアという少女から視線が不気味でしょうがない。時折おれの血を飲みながら、無機質にこちらを見つめてくるので、吸血鬼の館にいるということに、現実味が増しどんどんと恐怖感を感じ始める

 

「わかりました。そのような事情があったのですね。では私はこちらでお暇させていただきます。スカーレットさん」

「レミリアでいいわ。まぁ待ちなさいよ、この話には続きがあってね」

 

立ち上がり、さっさと去ろうとしたときにとてつもない力で腕を握られる。この少女にどこにそんな力が。先ほどから少女の瞳はより紅く、不気味に輝いている。もはや一刻も早く外に出たかった

 

「胡蝶。お前の血は本当においしいわ。あの時と同じ味、におい。お前はまさに私の理想通りよ。ええ、期待に添いすぎて怖いぐらい、私が望んでいた人間よ」

「実はね、胡蝶。そのときお前を見たのは初めてじゃなくってね。少し前、お忍びで人里にいったときにお前を一度見ていたのよ」

「目を奪われた。世の中にはこんな美しい人間もいるんだって、そのとき誓ったのよ。いずれ将来この人間を必ずペットにしようって」

 

話が不穏になり始めた、振りほどこうとするが少女の腕は鉛のように重く、動かない

 

「でも事情が変わったわ。咲夜は以前眠ったまま、屋敷の状態がひどくなり始めた。新しい従者を雇わないとね」

「妖精メイドは女ばっかりだから、ハンサムな男の下僕が欲しかったのよ」

 

早く逃げよう

 

「ぐっ!」

 

一瞬何が起きたかわからなかった。逃げようとしたらレミリアに後ろで結った髪を引っ張られ、引き倒されたのだ

 

「それにお前には少し調べたいことがある」

「あの、おれもうかえりたいんですが」

 

痛みよりも恐怖だ。恐怖でうまく発音できない。床に倒れ伏した状態で発言しているのであちらの方が目線が高くなり、見下されているような形になっているので、それも恐怖を助長させる。腹の心から底冷えるような、あれだ。非常に情けない事態になっているがこの冷酷な紅い瞳には勝てそうにない

 

「帰るってどこに?お前に帰る場所なんてないわよ」

「え」

 

何を言ってるのかがさっぱりわからなかった

 

「人里にです。人里に帰ります、お願いします帰らせてください」

 

こちらが恐怖し、懇願するさまに興奮したのかレミリアは口に弧を描きながら、おれを踏みつけ言葉を紡ぐ

 

「だから帰れないわよ、お前は。ついでにこの屋敷から出ることもできない」

 

本当に何を言ってるのかがわからなかった。帰れないって?人里に?

 

「私はお前を“買った”からね、いやお前が“売られた”のが正しいか」

「なにを…」

「お前は追放されたのよ、人里から」

「嘘だ」

 

嘘だ。嘘だ。嘘だ。でたらめだ、三か月という短い間だけれどもおれはそこで確かな信頼を築いてみんなから頼りにされ…

 

「嘘じゃないわ。そうとう恨まれてそうだったわよ。なんせ私がお前の人身売買を提案したときあちらは二つ返事だったからね。やっとあの目障りな外来人がいなくなってせいせいするって」

「じゃあ依頼は…」

「ふふ、自作自演よ。私とあの“人里のリーダー”である薬屋の男とのね。こんな小包、中には何も入ってないわ」

 

小包の中身は空っぽだった

 

「幻想郷のルールの盲点…妖怪は人里の人間を襲ってはいけない、しかし相互で認める人身売買、いけにえなら成立しない。吸血鬼は人間を襲ってはいけない、外来人であるあなたは対象外。ふふふ、そう、あなたは本当に私に都合の良い、理想通りの存在だわ」

 

おれは…今まで、何を…

 

「一度見た時から確信してたけど、血をのんではっきりわかったわ、自然な血のカクテル。胡蝶、あなたは混血ね。母方に私と同じ外の世界のヨーロッパ系の血が流れている」

「この紅魔館は、珍しい舶来のものを集めてるからその点でも都合がいいわ」

「珍しいってだけで拉致するのか」

「わかってないわね。珍しいってだけで魅力的じゃん」

 

そう言ってクスクスと目を細めながら笑うレミリア。不覚にも綺麗だと思ってしまった

 

「たとえルールを守っていても、珍しい、目につく、目障り、そんな理由で異人はたやすく排斥される。あの明らかにこの辺出身じゃない人形遣いや、金髪というだけならあの白黒の魔法使いもそうかしら。彼女も追放されてたわよね」

「その理由もあなたが追い出された理由とは少し違うかしら、うちで飼ってるホブゴブリンに近いかもしれないわね」

 

グラスに残ったわずかな血を飲み干し、恍惚そうにおれの髪をいじるレミリア

 

「彼らが追放された理由は、座敷わらしたちと違って醜くかったから。けどあなたの場合全く真逆。胡蝶、あなたは美しすぎた」

「度を越した美貌は嫉妬を買い、憎しみを受け、殺される。死ぬる子は眉目よし、そういう運命にあるのよ」

 

運命…

 

「胡蝶、お前はじつに私好みな運命をしているわ。凄惨で、悲劇しかない運命。そういう星のもとに生まれてる」

「…」

「でも私と一緒にいたら別。私は運命を操る力を持っている、この紅魔館と、私に忠誠を誓うというのならば、そんなふざけた運命などなくしてしまいましょう」

『やめておけ』

 

ワニ霊が警告してきた。どうする、この手を取るべきか。これまでの話すべてが嘘である可能性、いや嘘であってくれ。里人のほとんどがおれのことを憎んでいたのかもしれないという情報はそれだけおれの精神に衝撃を与えていた。いや、たとえ拒否したとしてもおれがこの屋敷を出ることはかなわないだろう。すべてが嘘に思えても、あの「この屋敷から出ることもできない」という発言だけは真実に見えて仕方がなかった

 

「胡蝶、私はなにも取って食おうってわけじゃないわ。ただあなたったら恐怖の感情を存分に発露するものだから時々虐めたくなっちゃうかもしれないけど、待遇は保証する。衣食住、ワインつきよ?」

 

...おれは何としてでも生き残って外の世界に帰らなければいけない。そうだった。立ち上がって、身長差があるので片膝を深くつき、レミリアの方が視線が上になるようにする

 

「胡蝶、私と、この紅魔館に忠誠を誓いなさい」

 

そのためには、どんなことだって…

 

「はい、レミリア様」

 

 

 

 

 

 




もちろんレミリャが主人公くんを拉致した理由はほかにあります。いろいろ都合がよかったとはいえ容姿がいいだけでさらわれるのは不憫すぎる
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