「キャハハ、じゃあこれやっといてね~」
そういって彼女たちはおれの前に大量の食器を置く、シンクは水であふれかえりそうなほど洗い物で埋まった
いじめられているのか?妖精メイドたちに
レミリアさんに半ば強引に忠誠を誓わされてから一週間は過ぎ、おれの紅魔館での立ち位置は非常に危ういものとなっていた
どうしてこんなことになってしまったのか。それは現在のおれの紅魔館での地位から説明する必要がある
おれは現在、新米執事長である。頭文字に新米はつくが執事長なのだ。妖精メイドたちを統轄する役割にあるのである。一週間しかこの館に籍をおいていない新人のおれがだ
きっかけはただのの気まぐれである。
「あなた有能だし、仕事も覚えられたようだからメイド長…執事長に昇格よ。もともとそのつもりで雇ったんだからお願いね」
とのことだ。無茶ぶりにもほどがある。当然新人に長なんて勤まるわけがなく、もともと彼女たちにはなめられていたので、指示に従ってくれるはずもなくこれである
食器の山だ
妖精メイドたちは、楽しいことしかやってくれない。料理やお菓子作りなどは楽しいから積極的にやってくれるが、後片付けや掃除などはすべておれに執事長の義務と称して押し付けていってしまう
(本当にどうしたものか…直談判すべきか?おとなしくこなしてしまっているおれが悪いのかな)
咲夜という前任の女性はそのてん、うまくやっていたのだろう
『情けないやつだな。一週間もたったというのに館の連中にいいようにされて、脱出プランはどうした』
「(おれが無理やり従属させられたときにはレミリアさんにビビッて出てこれなかったくせに)」
だがワニ霊の言う通りだ。おれはいいようにされている。おれは咲夜さんの後任になった覚えはない。こんな仕事さっさと辞めてやる!
(だけど…)
脱出ができないのだ。その問題の妖精メイドらに常に監視されている気がする
おれがこっそり朝に抜け出そうとしたとき、彼女らがどこからともなく出てきて外へ出ることはできなかった
レミリアさんが館から出ることはできないといったのはおそらくこういうことなのだろう
***
洗い物を終え、確認をするためにある部屋まで来た。咲夜という女性の容体の確認だ
白い無機質な部屋の一角で彼女は寝かされていた。そうとう慕われていたのだろう、普段の仕事とは違い、妖精メイドたちの管理はしっかりと行き届いている。お見舞いの花や果物などもいくつかおかれていた。咲夜さんのお見舞いに、という理由でこの紅魔館に訪ねてきた人たちも何人かいた
咲夜さんの肌色は健康そうでとても昏睡状態とは思えない。穏やかに眠っているように見える。一応この幻想郷で最も高名な医者に見せ、結果は失血による意識混濁らしいが、ただの失血で二週間近く意識不明なんてあり得るのだろうか?
しかもおれの血で、輸血済みだというのに
しかし一度扉が開いていたので見てしまったのだが、あの背中の生々しい“巨大な爪で掻っ切られたような”傷跡を見るにそれほどのダメージだったのかもしれない
と、女性が眠っているベッドのそばにずっといるのも犯罪臭がしてきたな
とにかく彼女が目覚めない限り、おれがこの館からでることは一生かなわないような。そんな予感がする。一刻も早い回復を願うばかりである
***
「パチュリー様、紅茶と軽食の用意ができました」
執事の仕事には給仕というものがある。午後の昼下がり、昼食を食べ、常人なら少し眠気が襲ってくるような最も退屈な時間に、爽やかなストレートのダージリンを飲む。というのがパチュリーさんのこだわりだ
「あら、来ていたの、胡蝶。そうそうこの香りよ、覚えていてくれたのね。この時間帯にこれが飲みたいのよ、眠気覚ましに。最も私は眠る必要がないから、眠気なんてものも感じないけれど。嗜みくらいは人間に寄り添っていきたいものだわ。軽食も完璧ね、昼食をとったばかりだから、量はそんなにいらないけれど、手が寂しいこともあるから、クッキー一枚。完璧だわ」
「は、はい…」
図書館の魔女パチュリー・ノーレッジ。このヴラル魔法図書館の住人であり、紅魔館の魔女であり、レミリアの友人でもある重要人物だ
Knowledgeの苗字の通り、あらゆる魔術に、知識に分野を問わず精通し、本を読み続け、さらに知識を蓄えるさまはまるで古代の哲学者、博学者のようだ
「生粋の」魔法使いであり、生まれながらに魔法を扱い、食事も睡眠も必要がなく、老いることもしないらしい
そんな彼女が紫の髪を揺らしながら、指をパチンと鳴らすと食器台から、紅茶が宙に浮かび上がり液一つこぼさないまま、それまた宙に浮いたソーサーに収まった
動かない大図書館らしく、動かない。高度な魔法を扱うほかにこんな精密な操作もできるのだからまさに魔女といったところだろう
「そうね。レミィの言う通りお前は本当に仕事ができるわ。えぇ、出来すぎて怖いくらい。まるで…他者の欲望を反映しているかのようね」
紅茶を嗜みながらときおりこちらを見つめてくるパチュリーさん。毎回話していると思うのだが、この人の視線はどこか自分でなく、自分の背後にいる“何か”を見ているようでワニ霊の存在がばれたのではないかと心配になる。いやばれたとてどうにかなるわけではいのだが
「あなたの気質は黄金。本人にとっては水銀かしら?どちらにせよあまり好ましいものではないわね。昔みんなの気質を集めて気候を変えていたやつがいたけど、あなたの場合その猛毒のような気が自然に洩れ出ている。気を付けなさい、あなたまでその毒気に巻かれたものにやられてしまうかもしれないわよ」
「毒気?」
「そう毒気よ。突然だけどあなたは両性具有かしら」
「?いきなり何を」
「ついてないんでしょう?」
「何がです?」
「男性器がよ」
「ぶっ!いきなり何言ってるんですか」
「あら、変容性と多様性は錬金術の根本表象よ?女性でもあるが男性でもあり、金属であるが同時に液体でもあり物質でもあるが同時に霊でもあり、冷たいが同時に火と燃え、毒であるが同時に妙薬でもあり、諸対立を一つに結びつける対立物の合一の象徴、それがあなた」
相変わらずこの人の言っていることはよくわからない。煙に巻かれているようだ
「私の言ってることがよくわからないって顔してるわね」
「…おれは男ですよ」
「だからいいんじゃない。かのヘルマプロディートスだって最初は男だったのよ、強姦されて両性具有になったの」
「…もう失礼していいですか」
「さっきも言ったけどあなたは水銀よ。とてもじゃないけどほかの雑多では制御しきれないわ。魔法使いの私だけがあなたを御することができる」
「面白いわよね。賢者の石…、仙丹…。東洋でも西洋でも水銀は霊薬作りの貴重な原料とされていたのよ。レミィは幻想郷にほとんどないあなたのヨーロッパ系の血をありがたがっているけど、これを踏まえたうえで考えると馬鹿らしいと思えるわ。知は海を越えるというのに」
「あなたの”片割れ”いえ、今はそれぞれの別の存在かしら、あなたがそれと出会い、再び一つに結びついたとき。生まれるのよ、人をもとにした賢者の石が」
「失礼します」
「待ちなさい。あなたは錬金術の最高の素材だけど、ほかに単に読書中の良い目の保養になるという利点もあるのよ。そこにずっと立ってもらえると嬉しいのだけど」
「そんなことできるわけないじゃないですが」
「できないの?」
できないよ!勘弁してくれ
「パチュリー様セクハラはその辺にしてあげましょうよ」
小悪魔は本棚の隙間からいつ助け舟をだそうかタイミングをうかがっていた
ヴワル魔法図書館の司書、小悪魔。よく勘違いされているがこの図書館の司書は小悪魔なのである。確かにここの蔵書はほとんどパチュリーの私物ではあるが、彼女はあくまで住人。管理しているのは小悪魔だ
ほおずきのような紅髪に、黒い悪魔然とした翼を頭と背中にはやした彼女はパチュリーの召喚した使い魔であり、下手に口出しできるような立場ではないのだが…
(さすがにこれは見過ごせないかなー)
パチュリーが胡蝶…、最近紅魔館で働くことになった彼にときおり意味不明なことを言っては困惑させている様子は今まで何回か見てきたのだが、最近はそれよりセクハラの様相が強くなってる気がする
主にして偉大な魔法使いがセクハラ思うかもしれないが、小悪魔は胡蝶を視界にとらえるとごくりと唾を飲み込み、仕方ないのかなと考える
見ているだけでため息が出てしまいそうなこの世のものとは思えない白皙の美貌に長身
人里にとんでもなく美形な外来人がいるという噂はこの紅魔館にも伝わってきていたが、まさかその話題の当人がここで働くことになるなんて
小悪魔だって最初はあがった。悪魔は本来面食いなものだし、彼女だって女の子なのだ。イケメンは好きなのである
だが彼のここに来た理由はあまり喜ばしくないものだ。不本意な幻想入り、人里の人間たちからは恨まれ売られ、今も住み込みで給料はでるとはいえ脅迫され働からせているようなものだ
咲夜の代わりらしいが、それも不憫だった。あの完璧な咲夜様の代わりだなんて、ちょっぴり後をつけてみたら妖精メイドたちにセクハラ、もといいじめられていたし
だからこそ、主ぐらいからは守ってあげられるように彼女は動く
「パチュリー様セクハラはその辺にしてあげましょうよ」
「セクハラ?ずいぶん断定的ね、こぁ。これのどこがセクハラなの?それに主である私に対して少し失礼じゃないかしら」
「うっ。わかりましたセクハラではないかもしれませんけど、胡蝶君困ってますよ。その辺で勘弁してあげましょうよ」
「別に興味ないわよ。あなたにも、彼にも」
そういってパチュリーはふぃっと後ろを向くと本を読み始めてしまった
小悪魔はぐっとこぶしを作って後ろの胡蝶へ笑顔を送り無音で伝える【してやったり】と
「先ほどはありがとうございました小悪魔さん」
「小悪魔でいいわよ。さん付けは照れくさいわ」
「よかったんですか?パチュリー様はあなたの主人?なのでしょう。おれなんかのために小悪魔さんが殺されるなんてことがあったら」
「そこまでひどくないから安心して」
困り顔で否定する小悪魔さん。どうやら信頼関係はしっかりとあるようだ
「パチュリー様は今回はちょっと錯乱しちゃっただけど、本当にあなたを錬金術の材料にするつもりとかは一切ないと思うわよ。あの人もあの人なりにあなたを気にかけてくれてるのよ」
「そうなんですかね…だとしたら失礼なことを。仕事をするからにはしっかりと気に入られるように、言われること全部やってるつもりなんですけど」
「まぁ気に入られすぎもよくないってことかしらね。何かあったら妖精メイドのことも、パチュリー様のこともこの紅魔館のこともなんだって言いなさい」
「相談に乗るわ」
「ありがとうございます」
「いいわよ、ふふん。なんたって私はこの紅魔館の先輩なんだからね」
そう言ってエッヘンと胸をはる彼女はとても頼もしく見えた
すいませんヴァロやってました!