微強化わかむら   作:焼肉マン奉行

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若村最大の強化ポイントは、小さい頃から武道教室に通っている点です。そのおかげで、メンタルや人間関係などが少しだけ変化しています。


プロローグ①

持たざる者というわけではない。若村麓郎は。それは、B級隊員であること、銃手として過不足なく働けるほどには恵まれたトリオン量からもわかる。かと言って、ボーダーの中で才能に恵まれた方かと言えば、疑問符が付く。

 

1年間と少しの間、訓練に打ち込んで、若村麓郎の個人ptはやっと6908ptなのだ。なんとかマスタークラスに到達する為に、様々なトリガーに手を出し、工夫を重ねた。だが、駄目なのだ。個性になるほどの不器用さではないが、不器用という欠点は地味に響く。

 

簏郎は不器用なヤツだ。

 

例えば、グラスホッパーを使えるようになろうとして、自主的にトランポリンを始めて、新体操部の友人に教えてもらっていたのはいいもの、モノにはならなかった。思い描いていた緑川の様な空中起動(ピンボール)は、どんなに訓練しても無理だった。もっと言えば、生駒隊の隠岐の様な空中での回避行動さえ出来なかった。

 

麓郎は不器用なヤツだ。

 

例えば、射手トリガーを使えるようになろうとしたが、これも使えなかった。戦闘中、軌道をイメージしていたら、足が止まるわ、思ったようには飛んでいかないわ、軌道をどう引くかの選択にも時間がかかる上、そもそも、銃手トリガーを併用しながらとなると、弾の分割さえ覚束なくなるのだった。

 

その様な麓郎の試行錯誤の間に、友人の妹(ヨーコ)はその全てをとっくに平均以上に使いこなしていた。

 

とどのつまり、麓郎は不器用なヤツなのだ。

 

情けないと麓郎は心のどこかでは思っている。「すげぇなぁ、ヨーコは。」と当初は褒めてはいた。努力を重ねるうちに、そうは言わなくなった。外では、ヨーコの才能を認めている風に装っている。外で何か言えば、嫉妬しているみたいでカッコ悪いから。

 

才能を正面から才能って認められないのはカッコ悪い。けど、納得いかない。自分がトリガーをうまく扱う為に行った様々な工夫が、意味のないものの様に易々と超えていかれるのは、認められない。だけど、ヨーコは友人の妹(ヨーコ)なのだ。チームメイトなのだ。自分が年上なのだ。

 

「情けねぇ。」

 

ガツッ。手に持つ散弾銃型の銃手トリガーを頭にぶつけて、1VS1(サシ)に関係ない思考を追い出そうと麓郎はした。

 

しかし、燻った自分は心の中には常にいて、すぐに切り替えるなんて器用なことは麓郎は出来ない。心の中で認知不協和を抱える自分を自覚しながら、麓郎はT字路から顔を出す。

 

誰もいない。手元には、近未来的な形をした実在の銃であるKSGを模した形の散弾銃型の銃手トリガー。麓郎の師匠である犬飼が使う突撃銃同様、ブルパップ方式の銃だ。

 

ピストルグリップを持った右手親指で切り替えレバーを撫でる。切り替えレバーは上がりきっていた。

 

つまり、スラグ弾仕様。一発弾の大玉モードだ。単射のみだが、散弾銃型にしてはそこそこの射程(有効射程42m)があり、アイビスと同等に威力が高い。

 

頭を引っ込めると、もう一度撫でながら、考える。通常の散弾銃の標準パターンであるバードショット仕様の拡がる弾の方が良いか、そのままで良いか。

 

迷うままに背中をT字路のブロック塀につけながら目線を上げると、道路の向かいにはカーブミラーがあった。しかし、麓郎はカーブミラーを見たものの鏡という機能を持ったものとは認識しなかった。

 

麓郎の頭は、()()()()の現在の位置の推測、そして、弾の切り替えの二つに占領されていたからだ。

 

(2、30秒前に屋根の上から見た時は、2ブロック先の路地を走ってたけど、そん時に思わず撃ち込んだから、こちら大体の方角は知られてる。もうこの道の反対側まで来ててもおかしくねぇ…けど。一つ先の道に来てる場合もあるか。)

 

地図を確認する。レーダーに映る黒点はない。

 

「動かねぇと…。」

 

もう一度、麓郎はT字路から顔を出す。恐らく、攻撃手である相手は回り込んでくる筈。バッグワームに触れながら、麓郎はそう思った。

 

「だいたい、80mくらいの直線…。」

 

100mを迅速に走り切る為のグラスホッパーの角度や位置を思い出す。散弾銃の切り替えレバーを下げ、拡散弾へ。

 

次に、スターターとしてグラスホッパーをカーブミラーの脇に置き、一足跳びに走り寄ると、クラウチングスタートの様に体勢を低く。そして、グラスホッパーでスタート。その勢いを活かして、跳ぶように走る。そう、心がける。

 

中ほどで、グラスホッパーを60度近い角度で設置。グラスホッパーを母指球で迎え入れるように踏み込み、再度加速。

 

足の回転速度を緩め、スライディングに移行。すばやく立ち上がると、塀の裏に飛び込む。そして、視線と銃口の向きを同期して左右をクリアリング。

 

数ヶ月間のグラスホッパーのコソ練の成果が、このグラスホッパー走法だった。戦闘中、空中に設置することは距離感や角度の調節諸々がどうしても難しかったが、平な面の上に設置することなら出来る。

 

屋根の上を走る音。気配を感じる。肩に銃床をつけ、周りの民家の屋根を確認する。

 

(居ない。居ないなら…。)

 

「レーダーの確認…。」

 

確認しようと視線を下に向けたのと同時に、何かが迫るのを肌で感じる。

 

身を投げ出すと同時に太ももの上を何かが縦に横切る。脚が切り離される。麓郎は受け身を取り損ね、向かいの塀に腰を強打。麓郎が仰ぎ見ると、屋根の縁で孤月を縦に振り下ろし終えた三浦雄太(対戦相手)がいた。

 

「旋空っ…。」

 

散弾を撃ち込む。瓦が弾け飛び、屋根は剥がれる。しかし、肝心の雄太は無傷。シールドだ。雄太はそのまま道路に飛び込んでくる。

 

中指で切り替えレバーを押し上げる。大玉。スラグ弾。シールドを食い破る為の弾。その弾で決着を付けるべく、肩に銃床を当て、狙いを定めようとした途中、雄太がカメレオンを起動。透明になる。

 

妥当な落下位置と思われる場所に銃口を向ける麓郎。

 

(雄太は幻踊で落下位置をズラすなんて事は容易にするッ…。)

 

切り替えレバーを押し下げて散弾にするかどうか。人差し指が引き金の上で踊り、一瞬ではあるが麓郎は迷った。

 

雄太の孤月が振り下ろされて押し出された風を首の皮で感じたと同時に、雄太が現れる。交錯。

 

『トリオン供給機関破損、緊急脱出。』

 

バシュッ。麓郎は現実に引き戻される。

 

(あそこはまず撃つべきだった。確実に。)

 

戦術的には、銃手の割に麓郎は近接戦闘を選択しがちである。それは、散弾銃型をメインに扱うからという真っ当な理由もあるが、慎重なくせに、思考が行き詰まると無意識に距離を詰めることを選択する悪癖故でもあった。

 

そして、距離を詰めても、実際の近接戦闘になれば、持ち前の慎重さや確実性を重視する気質によって行動にラグが起きる。

 

「クソッ…。」

 

(練習しなきゃな…まだ。)

 

黒色のマットレスに麓郎は倒れ込む。

 

『ろっくん。』

 

雄太だ。「何?」

 

『からあげクン、奢りだよ。奢り。』

 

30本の内、7割強の22本を取った三浦雄太はただ揶揄うようにそう言った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ん。」

 

麓郎は、コンビニエンスストアの小さな袋にガサガサと手を突っ込み摘み上げたからあげクンを沿道のコンクリートの縁石に背中を預けて待つ雄太に遠間から渡す。

 

雄太はからあげクンを受け取ろうと手を伸ばしたが、背負うスクールバッグの持ち手が肩からズレ落ちてしまう。

 

渡そうとした手が空をきった麓郎はからあげクンを手にしたまま雄太の前で立ち止まる。雄太が両手で持ち手を元の位置に戻していると、「今日は負けた。何でだと思う?」と麓郎が言った。

 

「そうだね。全体的にやっぱりチョイスミスじゃないかなぁ。」

 

雄太はからあげクンを受け取りながらそう言った。

 

「いつもだけど。」

 

雄太は麓郎を見ずにそう言った。

 

「戦闘中は視界が狭くなるとこ、あるよね。焦ると言うか。一段肩が入ると言うか。」

 

「その状態だと、間違った選択をしちゃいがちな気はするなぁ。ろっくんは。例えば、最後の。」

 

雄太はそう言った後、からあげクンの袋を開ける。

 

「撃たなかったヤツ?」と言いながらも、麓郎は(撃てなかったが正しいよな。)とそう思った。

 

「それ。」爪

 

楊枝を唐揚げに突き刺さしながら、雄太はそう言った。

 

目の前を車が通り過ぎる。

 

袋の中から肉まんを取り出す麓郎。袋を開くと肉まんのぼてっと艶やかな白い肌が見える。齧り付く麓郎。

 

「ほぁっ。」

 

一挙に広がった肉汁が麓郎の口の耐熱温度を超え、冷ますために冷たい空気を求めて口が開く。

 

「おいッ…若村ァ‼︎」

 

声のする方向を見ると先程目の前を通り過ぎた車が信号の手前で幅寄せしていた。よく見ると、助手席からは金髪頭が見え隠れする。

 

(諏訪先輩だ。)

 

肉まんを手にその車に走り寄る麓郎。雄太もその後を小走りでついて行く。

 

「何すか?」

 

「本部行くけど、乗ってくか?」

 

諏訪のその言葉に、麓郎は首を振る。

 

「行ってきたところで帰りです。今。」

 

そう言いながら、麓郎は運転席を覗く。

 

「堤さん!」

 

運転席には堤がいた。堤と麓郎は、ブラジリアン柔術の道場で同門であり、そこでも先輩後輩の関係にあるが、柔術道場では麓郎の方が先輩だった。

 

「おう。」

 

車内で何かを探していた様子だった堤がこちらを向いて短い返事を返す。

 

「諏訪先輩たちは、今から防衛ですか?」

 

三浦がからあげクンを頬張りながらそう言った。

 

「今から久佐人迎えに行って、その予定だ。夕方まで。」

 

「お疲れさまっす。」「お疲れ様です。」

 

麓郎に遅れて、雄太はペコリと頭を下げる。

 

「どうだ、例のショットガン。」

 

諏訪が手でショットガンを撃つフリをしながらそう言った。齧った肉まんを包装紙で包みながら、麓郎は言う。

 

「実際に使ってみると…切り替えがイマイチ。自分の中で上手く…。」

 

麓郎が肩をすくめてみせると、諏訪は麓郎の肩に手を置く。

 

「あまり気を負うなよ、麓郎。何でも最初は上手く扱えないモノ。」

 

煙草を咥え直しながら、諏訪はそう言う。

 

(上手く使えなくても、拡散から大玉の切り替えは強ェはず…。そこそこ戦えなきゃ、オカシイ。)

 

そう思って、麓郎は目を伏せた。

 

「練習あるのみ。それしかないよな。堤。」

 

「そうですね。銃手トリガーは特に。」

 

頷く堤。

 

「なら、また夜な。」

 

堤は、麓郎に手を振り、雄太には目礼を送る。

 

「じゃあな。三浦、麓郎。お疲れ。」

 

そう言って、諏訪は麓郎と雄太の肩をバンッと叩く。その勢いで思わず雄太はたたらを踏んだ。

 

車が発進する。それを見送る麓郎と雄太。麓郎は無言で肉まんの包装紙を開け、食べようとした瞬間、脇腹に人差し指を突き付けられる。勿論、雄太である。

 

「動くな。」

 

三浦が精一杯の低い声でそう言うのを無視し、麓郎は肉まんを口に運ぶ。グニッ、雄太の人差し指が麓郎の脇腹に突き刺さる。

 

「ウバッ。」

 

今まで出したことのない声が麓郎の口からついて出る。

 

「辞めろぉ。」

 

そう麓郎は言うが、雄太は構わず追撃を行う。

 

「ぐぅ。」

 

麓郎の口から忍耐が漏れる。

 

「それやったら、戦争だろうよぉ。」

 

そう言いながら、麓郎は肉まんを学校指定のスクールバッグの中に乱暴に詰め込む。

 

それを見て、雄太もからあげクンの蓋を閉じ、スクールバッグの中に入れた。その瞬間、雄太はバス停に向かって走り出す。

 

麓郎は虚を衝かれる。元陸上部の雄太が逃げに徹したら、最後、麓郎はグラスホッパーなしには追いつけない。

 

軽やかな走りを見せる雄太。

 

「クソッ。」

 

だが、全力で麓郎は走る。二回突かれたら、相手を二回突くまで全力で追い、全力で逃げる。それが決まりだった。二人である映画(「Tag」)を見てからの。(視聴は2日前)

 

「待て、雄太!!」

 

雄太は麓郎をちらりとは見るものの、速度を緩めはしない。陸橋の中程のバス停近くまで走る二人。

 

「雄太!ヨーコに対して全肯定Botになるの辞めろよな!!」

 

そう叫び、「なぁ!」と麓郎は走りながら言うと、立ち止まる雄太。

 

「はぁ!?違うし!!」

 

雄太は否定する。

 

「オレもそう思うって毎回言いやがって!キメェぞ!雄太!」と雄太を挑発しながらにじり寄る麓郎。

 

それを察知し、雄太はバス停標識の向こうに逃げ込んだ。

 

「葉子ちゃんがカワイイから!毎回!」

 

そう雄太が標識越しにそう言った。

 

「恥っっず!!」と言うと麓郎はスマホを取り出して、雄太にもよく見えるようにひらひらとスマホを振ってみせた。

 

「録音したぞ!」麓郎は裏声を使って、『葉子ちゃんがカワイイから!毎回!』と真似してみせた。

 

「は!?おまっっ!」

 

雄太はスマホを麓郎から取り上げようと一歩近づくと、今度は麓郎自身が大きく近づいて雄太の腹を突く。

 

「うげッ。」

 

雄太は後ずさりする。もう一度、麓郎が右手で突くと雄太はそれを左手で払いのけた。今度は左手。雄太はそれを今度は右手で払いのけ、ベンチ裏に逃げ込む。

 

「華ちゃんを裏では華って呼び捨てしてることバラすぞ!」

 

ベンチの背もたれを掴み、中腰になりながら雄太が言う。

 

「本人に華って呼んでいいって言われたし!それ!」と麓郎が返すと雄太はグゥと声ならぬ声は発する。

 

「呼んでいいじゃなくて、呼び方なんてどうでもいいって言われたんだろ!それは許可じゃない!」

 

そう雄太が言うと、麓郎は「いいんだよ!呼んでも!」と言って、ぐるりと肩を回す。

 

大きく回された腕に一瞬気を取られた雄太の肩に肩紐の様にかけられたスクールバッグの持ち手を掴む麓郎。千載一遇のチャンスだ。迷わず麓郎は腹をつく。

 

(二度目だ。)

 

そう麓郎が考えた瞬間、雄太がスクールバッグの持ち手を掴む麓郎の腕を突く。

 

慌てて、距離を取る麓郎。

 

「ま、待て。やっぱり、突くのは突き指しそうじゃね?」

 

麓郎は後ずさりしながらそう言った。

 

「なら、映画と同じように普通にタッチで!」

 

そう言いながら、雄太は易易とベンチを飛び越えると、麓郎は慌ててベンチを回り込むようにして逃げるが間に合わず、雄太の右手が肩に触れる。雄太はにやりと笑う。

 

若村とベンチを境ににらみ合う。

 

雄太はふと我に返り、二人の口からゼーゼーと息切れし疲れた呼吸が漏れていることに気がつく。

 

「やめやめ!」

 

そう言って、雄太が古ぼけた青色のベンチにドッカリと座ると麓郎も隣に座り背もたれに背中を預ける。

 

若村がステンレス製の大きな水筒をスクールバッグから出すのを見て、三浦もスクールバッグからペットボトルを取り出そうと地面にかばんを置いた。

 

麓郎は大きなステンレス製の水筒を太ももの間に挟みながら、いそいそとからあげクンをかばんから取り出す雄太の方を盗み見る。

 

(雄太は個人ptは伸び続けてる。反面、オレはな。)

 

そう思いながら、麓郎は背もたれに背中を預けながら、背中を伸ばす。

 

数瞬、黙ったままの麓郎に雄太は手持ち無沙汰になり、からあげクンの箱を覗く。唐揚げは2個まだ残っていた。

 

(ろっくんは、ネガティブ思考マンだからなぁ。)

 

そう思い、「どうした?」と聞く雄太。

 

「いや、さっきと同じ。負けたのが響いてる。」

 

そう言って、麓郎は、水筒に付属しているカップに緑茶を注ぐ。「いつものことではあるけど。」と続け、グビリと麓郎は緑茶を飲んだ。

 

銃手と攻撃手とで点の取りやすさに違いがあるとはいえ、7000点台中盤でまだ伸び盛りの雄太と6000点後半で足踏みするの麓郎では、対戦成績に偏りが出るのは当たり前の話だった。

 

「例のショットガン、使い始めたばかりじゃん。慣れれば伸びるよ。」

 

そう言って、雄太は立ち上がり、全身を伸ばす。

 

「まぁ、練習あるのみだよね。諏訪先輩たちが言ってたように。」

 

雄太はからあげクンを持ちながらそう続けた。

 

「練習か。」(してるんだけどな。)そう麓郎は思いながらも「確かにな。」と続ける。

 

(してても向上しないのなら、練習が間違ってるのか?。だけど、基礎練なんてある程度まで行ったら結果は目に見え辛いもの。)と自分を説得にしかかるが、「でも。」が先に来る麓郎。

 

(でも、初お披露のトリガーで7割負けるか?普通。ショットガンは少し前に使い始めたから、それに雄太は慣れてるとは言え…。)

 

カップに残る雫を振って落とすと水筒に付け直しながら、麓郎はそう思う。

 

(トリガー構成自体は、弓場さんに近いアタッカーメタになったはず。普通に使い手に差があるんだよな結局。)

 

雄太はへの字に口を結ぶ麓郎の横顔を視界の端に捉えながら、(焦りすぎだよ。ろっくんは。)と思った。

 

麓郎は葉子に昔は懐かれていたと、雄太は葉子の兄から聞いた。妹分だと思っていた葉子に手も足も出ない状態が続くのが看過できないのかもしれないと雄太は思う。

 

麓郎と反対に、有無を言わせず強気で隊を引っ張る葉子が雄太は好きだった。

 

(上手くなりてぇ。)と思い、ガリガリと頭を掻く麓郎。

 

麓郎の思考は、上手くなるための方法ではなく、上手くなりたいという願望に囚われ始める。葉子に教えを請われ教える自分の姿。エースとして活躍する自分。華や理佐に認められる自分。ぐるぐると妄想が頭の中を駆け巡る。

 

しかし、現実の麓郎は7000点の壁を破れないでいるのだ。

 

(キメェ。なんだよ。お前。)

 

自分に対し麓郎はそう思い、ギュッと目を瞑ると、水筒のカップに緑茶を注ぎ、グイッと緑茶を煽る。麓郎はかっこ悪い自分のドロドロとした承認欲求を渋い緑茶で打ち消したいと願った。

 

「ん?」

 

雄太がこちらを振り返る。「ん?」何に対しての"ん?"なのか分からない麓郎は鸚鵡返しにする。

 

「さっき、でもって言ったよね。」と言った雄太は口を指す。

 

「ああ。」

 

ポリポリと耳裏を掻く麓郎は、ああの後に続く言い訳を考える。

 

「何でもない。」

 

結局、言い訳なんて出てこなかった麓郎は、強引に誤魔化し立ち上がる。それを見て、雄太は自然と麓郎の横で歩き出す。

 

「そういえば、トリガー開発室の鬼怒田さんてやっぱ怖い?」

 

雄太は、トリガー開発室に通う麓郎にそう尋ねた。ボーダーの大人たちは、いつも忙しいそうであり、訓示のような場所でしか普段関わり合いにならない。

 

話す時といえば、トリガー関連やシフトについてだが、トリガーのチューンや入れ替えも自分たちでやるか、エンジニアはエンジニアでも雄太たちと同じ中高生に頼むことが多く、シフトはフォームやメールを通したやり取りだ。だから、雄太には会話する機会は殆どない。

 

翻って、麓郎は、今回のショットガンに関してチーフエンジニアの人とも相談したと言う。

 

「別に…。」

 

と言って麓郎は何かを思い出すようにポケットに手を突っ込む。

 

しかし、思い出すのは、後ろ姿のみ。挨拶ぐらいは交わしたが。

 

「…あまり関わりがないからわからねぇわ。お世話になってたのは別の人だから。」

 

「へぇ。」

 

そう言って、雄太はペットボトルから水を飲む。特段、意味があるというわけではない会話、つまりは雑談、を交わしながら、二人が陸橋を渡っていると、前方からガヤガヤとした声が聞こえる。

 

(生駒隊だ。イコさん、確か卒業だったな、今年。)

 

関西弁を話すその声から、雄太はそう思った。

 

「イコさん!」

 

そう、三浦が呼びかけると、生駒は「おう!」と手を上げて返事を返す。

 

「帰りか?。二人とも」

 

生駒隊の男メンバー3人に囲まれながら、生駒が話しかけてくる。

 

「そうです。イコさん達は?」

 

「個人ランク戦やら何やらやわ。みんな、それぞれ用事があったりなかったりやな。」と、ピンと立てた人差し指をぐるりと回して生駒が言う。

 

「隠岐は、ナンパやナンパ。」と生駒は続けた。

 

「いや、ボーダーにですか?そんなんしませんよぉ〜。時と場所が合うてないでしょ。」

 

その隠岐の発言に対し、水上が片手で首をもみながら、「時と場所が合うたらやるんか?ナンパ。」と言う。

 

「しませんて。三浦くんらは何や今日朝番?」と隠岐が二人に話しを振ると、「隠岐はモテるからなぁー。せんでも寄ってくるか。」と生駒が南沢や水上に向かって言うのを横目に、雄太が「そう、朝番。だから、昼だけど少し眠気あるわー。」と答える。

 

「そっか。二人ともお疲れさんー。出た?今日。」

 

「小物が少し。」と麓郎。続けて、「大部分は二人でコソ練。」と雄太が言う。

 

「コソ練?」

 

そう言って、隠岐は言外に内容を促す。

 

「コソ練の内容言ったら、コソコソ練習する意味ないでしょ。」

 

雄太はスクールバッグを背負い直しながらそう言った。

 

「そないな冷たいコト言わんと教えてや〜。ウチらクラスメイトやん。」

 

そう隠岐が言うと、その隠岐の背後で南沢が「漏れそうです!コンビニ行ってきます!コンビニ!マジで、パンツ、ビシャビシャになる3秒前です!」と言い始める。

 

「だから言うたやん。弓手町駅着いたら行ったほうがいいって。」

 

隠岐が振り返りながらそう言うと、被せるように水上が、「はよ行ってき。コンビニ前で待っとるから」と言う。二人はその様子を眺め、雄太は南沢の後ろ姿を目で追う。

 

「なら、ここらへんで。」と三人に向かって麓郎が言う。「お疲れ様です。」と二人が言うと、生駒隊の三人は三者三様の返事を返す。

 

「じゃ、隠岐。」と二人が同級生の隠岐に対して小声で言うと、隠岐はニコリと笑って小さく手を挙げる。そうして、生駒隊は基地の方へ去っていった。

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