微強化わかむら 作:焼肉マン奉行
旧弓手町駅を出発したバスは川を渡り始める。外を眺めれば、ボーダーの基地が視界の後ろに映り、緑色のジープが対向車線を走るのが見える。
(玉狛か。)
一瞬しか見えなかったが、筋肉のよくついた腕がハンドルを握っていた。
(木崎さんか。…話したことねーな。)
玉狛支部所属の隊員の中で、麓郎が唯一話したことのあるメンバーは一人。迅だけだ。迅と麓郎が初めて話した時、何故か「グラスホッパー使ってないの?」と聞いてきたことを麓郎はふと思い出す。
それが、麓郎がグラスホッパーを使い始めるきっかけだった。その当時もまた行き詰まりを感じていた麓郎は、迅の言葉に光明を感じたのだ。S級の迅が言うなら、自分に何となくグラスホッパーの適性があるのではないかと考えたが、そんな都合の良いことはなかった。
グラスホッパーの目玉である空中機動は未だできないまま。A地点からB地点までの地上移動が早くなっただけである。それでも、自分の機動力が上がったことを鑑みれば十分な成果ではあったが。
「さっきの玉狛じゃね?」
そう麓郎が言うと雄太は「んぅ。」と生返事を返す。具体的な返事を返さない雄太をちらりと見ると、麓郎は再度視線を外に向けた。
それも飽きた麓郎は、携帯電話を見る。
(LINEだ。)
隠岐からだった。文面を見ると、連休に課された宿題についてだった。
「なぁ、雄太。物理演習、何ページから何ページ、宿題?」
そう麓郎が雄太に聞くと、雄太は「ページは忘れたけど。確か、電気とエネルギーの単元の偶数の問題全部。」と答える。
「確か?」「多分。」
確証までは得られなかったものの、知らないと答えるのも申し訳ないと思った麓郎は雄太の言う通りのことを書いて送る。
(隠岐の機動型狙撃手ってオンリーワン良いな。)
隠岐にLINEを送る最中にそう思う麓郎だった。
(スナイパーがいるのといないのでは、戦いやすさが全く違う…らしいし。)
防衛任務ぐらいでしか、狙撃手が味方になったことはない麓郎には、その”戦いやすさ”の実感は湧かない。
新しい散弾銃型トリガーを利用して、雄太に7割を取られてしまったことが脳裏に浮かぶ。
(俺にスナイパーって選択肢がありゃ…穴が埋まるんじゃねーか…。)
香取隊の純粋な銃手は麓郎のみ。あとは、近接戦闘中心であり、今回の麓郎のショットガン導入によって、承知の上だったが、香取隊の近接戦闘偏重はより顕著だ。
葉子のメイントリガーは拳銃型。葉子が拳銃型、雄太が孤月、麓郎の散弾銃型と中〜遠距離に対応するトリガーを香取隊は持っていないのだ。
麓郎が狙撃銃型トリガーを持てば安定感は出る。取れる選択肢も増えるだろう。
そう自己弁護した麓郎は、(練習してみるか。狙撃銃。)と考え、早速、隠岐に狙撃手の訓練の参加方法をLINEで尋ねる。
驚いた様子のスタンプとともに、参加フォームのURLが送られてくる。感謝のスタンプを送り返すと、麓郎は送られてきたURLを踏む。
器用貧乏未満な麓郎が、フワフワと決めた狙撃手訓練の参加。それが、無駄骨になるのか光明となるのかは誰も知らない。
しかし、麓郎は満足気だった。
『末社。末社です。お降りの方はお知らせください。』
ピンポーン。雄太がオレンジ色の【お降りの方はこのボタンを押してください】というボタンを押す。【とまります】と仄かな赤色の明かりが灯った。バスが止まる。
「じゃあ。」そう言って雄太と別れて、また携帯電話を弄り始める麓郎。
ポンとLINEが来る。麓郎がアルバイトをするジムのブラジリアン柔術教室のインストラクターのウーゴからだった。今日のメニューと彼の長女がボーダーに入隊する旨だった。
(上の子、小学生にしては大きかったよな。)
ボンバージャケットを着た横向きの姿をちらりとしか見たことのないが、身長が大きい印象は強かった。だいたい170cmはあったはずであり、初めて会った時はどこの高校かとウーゴに聞いてしまったぐらいである。
(よろしく頼みますって…何すりゃ良いんだ。)
どうすれば、普段お世話になっている人の"よろしく頼みます"に負う義務を果たせるのか、麓郎は悩む。
香取隊は、現状、戦闘員は3人。上限が4人であることを考えれば、1人はいれても良いものの、オペレーターの華のキャパシティを超えそうだ。
となると、香取隊に入ってもらうことはできない。
(となると、娘さんがB級隊員になれたら紹介とかしなくちゃ…なのか。)
銃手の男コミュニティ、そして市立第一高等学校の同級生が辛うじて麓郎が頼み事ができそうな知り合いの限度である。
女子であることを考えれば、女子のみの那須隊などを紹介できればいいが、麓郎には酷なことである。
もっと言えば、幼馴染のA級オペレーターをしている真木理佐に声をかければ、もっと紹介できる選択肢が増えるかもしれない。しかし、ほぼ絶縁状態にある彼女に声をかけること、ましてや何かを頼むことなど麓郎にはできないだろう。
結局、(時折、話しかけるぐらいか。できることは。)と、無難な答えに落ち着いたが、同時に”頼み事のできる”知り合いを増やそうと麓郎は思った。
『次は新弓手町駅前。新弓手町駅前です。お降りの方はお知らせください。』
少し腰を浮かして、尻ポケットから定期券を取り出すと、【お降りの方はこのボタンを押してください】というボタンを押す麓郎。席から半分身を乗り出すと新弓手町駅が見えてくる。
ギッというブレーキ音ともに身体が揺れた。
バスから降りると、麓郎は真っ直ぐ駅前のビルに向かう。麓郎の目的は、【24hsジム三門】である。ここで、麓郎はアルバイトをしており、ジムの柔術インストラクターの補佐や受付などをしているのだった。
小階段を駆け上がり、エレベーターの【↑】ボタンを押す。赤色のエレベーターの鉄扉には、年季を感じる汚れが所々に入る。
チンッ。エレベーターが開く。駅前ビルに入居するテナントの看板や広告がずらりと左右を囲む。
エレベーターが開くと、「あ、お疲れ様でーす。」麓郎は、受付に座るアルバイトの同僚と挨拶を交わす。
受付には、後ろ姿からセレブオーラを漂わせる加古の姿があった。
「加古さん、お疲れ様です。」
「あら。」
そう言って加古は振り返る。加古のゆったりとした振り返る動作に伴って、サラリと髪が波打つ。
「若村くん。今日、防衛任務は終わり?」
「はい。朝番だったので。」と麓郎が返事をすると「そう。堤くんは?」と加古は尋ねる。
「今日来るらしいです。」
「ありがと。そう言えば。」
そう言って、加古は麓郎のつま先から頭頂まで眺める。「また身長伸びた?」「多分。」と麓郎が答えると、「抜かされちゃったかしらね。」と言って、近寄る加古。スッと立ち止まる加古に合わせて、芳烈とは反対の爽やかさを感じる清香が慎ましく香る。
「175、6cmになったのかしら。」
麓郎の身長を推し量るべく、加古は手のひらで麓郎のつむじ辺りを柔らかく押す。
麓郎は、加古との距離の近さに言葉を失う。(か、加古さん!)そう思うことしかできず、ただ押し黙る麓郎。
「背を伸ばしてくれる?」
麓郎は加古に言われるまま背中を伸ばし、加古のオーラに気圧され目を瞑る。そんな様子の麓郎を知ってか知らずか、麓郎の様子を触れる様子は加古にはない。
「多分、174cmだと思うわ。三輪くんもこれぐらいだったから。」
その言葉とともに加古は離れていく。それに合わせ、加古の馥郁とした香りも離れていったが、麓郎の鼻にはその香気はまだ残っている。
「ありがとうございます…。」そう言うと、職員のユニフォームに着替えるため麓郎は慌ててバックヤードへと入っていった。
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堤の背後から両足を内ももに絡めるバックコントロール。堤の後頭部から、汗が滴り落ちるのを見て、麓郎は体をひねって道着で受ける。それによって、密着状態が解けたのを感じた堤はエスケープを始めた。それを体で察知した麓郎は、右手親指で襟を再度強く掴み、密着状態に戻そうとするが失敗。堤の足はあぐらに近い状態に。
失敗したことにより、送り絞めはできなかったものの、麓郎は堤の右腕をとって片羽絞へ。
堤が麓郎の右足を叩く。タップだ。その音を聞いて麓郎は絡みついた状態を解く。
解いた勢いのまま、麓郎はマットにバタリと倒れる。フー、と息を吐き、麓郎は道着で汗を拭く。ゼィハァ、ゼィハァという肩で息をする声が堤の背中越しに聞こえた。
麓郎がちらりと出入り口の方を見ると加古がいた。麓郎にとって、ジャストサイズのトレーニング着の加古は目に毒だ。キックボクシングのクラスは終わったのか加古は手にグローブを持っている。
「堤さん、加古さんいますよ。」
堤は何も応えず、手をひらひらと振る。
同じジムに通う加古は、ブラジリアン柔術クラスの日を知っていて、堤が疲れてくる頃合いに見に来ることが多い。疲れが極まってくると堤の目が段々開いてくるのだ。
身内贔屓も入るかもしれないが、目を開いた堤は嵐山や烏丸にも並ぶイケメンである。
しかし、これを知るのは僅かしかいない。というのも、堤は持ち前の体力の多さから滅多に疲れることはなく、目を開くほど疲れるのは、体力を大量に奪われ続ける柔術のスパーリングをする時だけ。そのイケメンと化した堤を見るのが加古は好きらしいが、付き合ってはいないと二人は言う。
堤が息を整え、加古がいる出入り口の方に視線を向けると、大げさにため息をついて見せる加古。
「麓郎さん!」
ちょいちょいと若村を呼ぶ他の受講者。紫帯である若村はインストラクターの補佐もしているため、受講者に教えなくてはいけない。麓郎は立ち上がり教室の反対側の手招きする受講者の方へと歩いていくと、背後で堤が立ち上がる気配を感じた。
30代ぐらいの青帯の受講者の近くに座る麓郎。
「すいません。もう一度バックコントロールから絞め技に行くコツ教えてもらっていいですか?」
「ああ、はい。ええとまずですね。」
そう言って、麓郎は麓郎を呼んだ受講者と体を入れ替え実演してみせる。
「まず、背中に体全体を密着させるのが大事です。」と言って麓郎は呼んだ受講者の練習相手の背中を触り、自分の胸や腹を触る。
「はい。」と受講者。
「で、切られないように襟を引っ掛けて。」そう言って、右胸の襟を巻き込むように折り返して持って見せる。
「はい。」
「んで、手首を返す。」そう言って、麓郎が絞め技に移行して見せると、「はい。」と返す受講者。
要領を得ない様子である受講者に、ポリポリと頭を掻く麓郎。言語化は難しい、インストラクターの補佐を始めてから麓郎は特にそう思う。
「皆、今日は時間です。」
インストラクターを務めるウーゴがクラスの終了を告げる。その声とともに立ち上がり、礼。
「「ありがとうございました!」」
「また、今度説明しますね。」
そう言って、麓郎は受講者の下を離れると、今度はウーゴが麓郎に手招きをする。
「ちょっと、ワカラナイ事あった?」
「まだ教えるのが難しくて。」
「そうだねー。もっと、ヒトツずつ教えないとね。」と言って、階段を表すジャスチャーをするウーゴ。
「麓郎は、飛ばすね。説明。さっきも極める時、飛ばしてたよ。」
麓郎は頭を掻く。
(そうだったか?)
そう思い、脳内で自らの説明を一つずつ追う。ウーゴは麓郎の肩に手を置く。
「ワカラナイから。思ってること。ヒトは。」
そう言うと、ウーゴは太い眉を上げ、麓郎を目を覗き込む。
「ナンカ、まだ悩んでるね。麓郎。」
「いや、何もないです。」
麓郎は首を横に振るが、ウーゴは目を覗き込むことを辞めない。数瞬の間、沈黙が二人の間で続く。
空気を求めるかのように口を開けた麓郎は、悩みを打ち明けようか打ち明けまいか迷い、開けた口を閉じかける。
「麓郎、何年になる?ボクがキミの先生になって。」
「8年です。」
「そうだよね。」と言って口を閉じるウーゴ。
麓郎の悩みは、やはり壁を乗り越えられないという点にある。柔術では幸いなことに感じなかった悩みである。
ウーゴの目力に押され口を開ける麓郎。
「実は…。」
口澱む麓郎。
(トリガーって言っても分かんねぇよな…。なんかに言い換えなきゃ…。)
そう考えた麓郎だったが、良い言い換えが見つからず取り敢えず"道具"で良いかと結論づける。
「いい道具が手に入ったんで、その道具でアドバンテージを手に入れたと思ったんですけど、負け越してばかりで。」
「使いこなす為に練習してるんですけど、成果上がらなくて。ボーダーでこれが続いてるんですよね。」と悩みを打ち明ける。
「ボーダーのこと、私にはワカラナイけど。みんな、あるんだよねタイミング。」
ウーゴは”タイミング”という言葉に合わせ、片手で作った飛行機を空に飛ばす。
「練習しても上手くならない時もあるね。続けるコト、これがベスト。私も娘との付き合い、一向に上手くならないよ。でも、会話続けること大事でしょ。」
そう言って、ウーゴは麓郎の紫帯を掴んだ。「コレも続けたからでしょ?」ウーゴはバシンと麓郎の背中を叩き、受講者名簿を麓郎に渡す。
「これ、お願いね。渡すのいつも通り。」
「わかりました。」
そう言うと、麓郎はウーゴに一礼し、すごすごと教室を去る。
その姿を、ウーゴは複雑そうに見ていた。本来、麓郎は感覚派の人間である。ウーゴはそう思う。麓郎がその歳で紫帯になれたのも、元々センスがあるのはもちろんだが、ウーゴが取捨選択し練習を続けさせたからこそだ。
だからこそ、人に教えるという経験を通して、自分の身につけた技術を言語化することで、自分がどう成長してきてどうすれば成長していけるのかを考えさせる為に、麓郎を自分の経営するジムでアルバイトをさせていた。
その上、ウーゴにとって、麓郎は、元々このテナントで道場を営んでいた大叔父から”よろしく頼むよ”と世話を頼まれた存在の一人だ。だから、息子とは言わないが弟のように思っている。
しかし、やはり、言葉の壁が存在するし、麓郎自身からどことなく壁を感じる上、気難しいところが麓郎にはある。自分の言葉が通じているのかいないのか、ウーゴには判りかねるところだった。
自分の言葉がちゃんと伝わっているのか判断がつかないという点は、反抗期に入りつつある彼の娘にも共通することではあったが。
(皆、練習しろって言うけどなぁ。してねぇってこと?)
勿論、麓郎としては練習をしているつもりだ。散弾銃型をメインに使う今でも突撃銃型やC級の時扱っていたアステロイドも練習は続けている。何なら、バイパーやメテオラの練習だってしている。
それにもかかわらず、皆が一様に練習を続けろと言うには理由があるのだろうと麓郎は思う。しかし、そう諏訪や三浦、ウーゴに言わせる何かが麓郎にはわからないのだった。
設置されたベンチに座り、道着のまま駄弁る受講者たち。
「お疲れ様でーす。」
麓郎を一瞥すると受講者たちはそう麓郎に声をかける。
「お疲れ様です。」と返す麓郎。
屯する受講者たちの横で、麓郎は貼り出されたチラシから期日が過ぎたものを剥がしていく。麓郎は、剥がしたチラシや受講者名簿を抱えながら階段を降りる。
階段を降りると、受付前に設置されたベンチに座り、本を読む堤がいた。
「堤さん。」
「おお、若村。お疲れ。」堤はパタリと本を閉じる。
「何読んでるんすか?」
「時代小説。江戸時代の浦上三番崩れって事件についてなんだけど。」
そう言って、堤が本の表紙を見せるが、麓郎の脳内検索に”浦上”も”崩れ”もヒットしなかった。
「へぇ〜。」
そう言いながら、麓郎は受付に座る同僚に持っていた出席簿を渡す。「よろしくお願いします。」小声で、麓郎は同僚に言った。
コクンと同僚が頷くの見ると、麓郎は堤の方へ向き直る。
「歴史は面白いぞ。日本史でも世界史でも詳しくなって悪いことなんてない。」堤は言う。
「確か、東さんも歴史好きが乗じて戦術的な所に強くなったって言ってたしな。」
「東さんが?」
「そう。歴史に親しむのは良いことがあるってこと。」
本を自分の隣に置く堤。
「歴史学べば、指揮れるんですか?」
東と言えばその指揮力である。歴史を学べば、指揮ができるようになるのなら、今のところ興味のない日本史や世界史を真面目に学ぶのも吝かではないと麓郎は思う。
「そういうわけではないけどな。そういう側面もあるらしい。」
そう堤が言うと、麓郎は「そうなんすね。」と返す。もう少し力を入れて勉強するべきなのかもしれないと麓郎は思う。
受付の同僚と目が合う。同僚は冷蔵庫に入ったプロテインシェイクを売れと目で麓郎に訴えかける。
「飲みました?プロテイン?」
そう言って、受付の脇に立つ冷蔵庫を開けるが、「飲んだよ。自前のをさっき。」と堤に言われて冷蔵庫を閉じる。
麓郎は時計を見る。21時を過ぎていた。遅い時間ではある。受付で小説を読むほど時間があるなら、そのまま帰ることを選ぶ時間帯である。
それを選ばないということは誰かを待っているのだろうと麓郎は思った。
「誰、待ってるんですか?」
「加古。今日は送っていってくれるって言うから。」
(これで、加古さんと付き合ってないのかよ?堤さんて。) と麓郎は思うが、麓郎だってビックスクーターで本部へ行く時は葉子の送り迎えをすることもある。
そのことを考えれば、普通と言えば普通かもしれないと麓郎は思い直す。
「キックボクシングのクラスは、とっくに終わったはずですけど。」
「マシンでもやってるんじゃないか。…そう言えば、昼の話だけど。」
「昼の?」
「練習するしかないって話。」
「ああ、昼の。」
「最近、若村が使い始めたショットガンは兎も角…、もしかしたら、ショットガン
「高原期。」
「ああ。」堤が首肯する。そして、堤は段々になった成長曲線を空中に描き、横ばいになった部分を指し示した。
「どうやって抜けるんですか?」
そう麓郎に問われ、堤は足を組み直して考える。どうやってという問いは、言葉だけなら簡単だが難しい問いである。堤自身、何がきっかけで抜け出したのかはわからないほど自分なりに多くの工夫を重ねている。
「一般論で言うなら、練習メニューを考え直すか、一旦休みを増やすとかなんじゃないか。後は、違うものを試してみるとかだ。今、若村がやってるように。」
「そうなんすね。わかりました。」
(今やっているように、か。)
堤の言葉に、自分の足掻きが少しは自己成長の役には立っているかと思えたが、同時に、何か具体策を教えて欲しいとも思う。
しかし、後ろから、「堤くん。待たせちゃったわね。」という加古の声が聞こえ、それ以上を麓郎が堤から聞き出すことは出来なかった。
「若村くん?」「加古さん、お疲れ様です。」「お疲れ様。」といった加古とのやり取りの後、「じゃ、お疲れ様です。」と言って麓郎が堤に頭を下げると、「あぁ、お疲れ。」と言って、堤は小説をかばんに仕舞い込む。
「若村、色んなものに
ポイントのやり取りなしに麓郎の練習に付き合うことのある堤は、麓郎の肩を叩いてそう言った。