奏side
「ヂィッ!!」
猛攻が止まらない。
女は徐々に剣速を上げ、もはや感覚で捌くしかないほどの速さであった。
「おらおらおらおら゛ぁ゛!!!!」
汚い言葉とは裏腹に、剣筋は的確に急所へと迫る。
それを弾き、流し、叩き落とし、打点をずらし、避け続ける
だがそれにも限界はあった。
女は俺だけじゃない。常に俺の背後にハウラたちがいる状況を作り、隙さえあればハウラたちを狙おうとしている。
正直いって、クソほど厄介だ。
「どうしたよぉ゛ぉ!?祭壇に祀ってくれるんじゃねェのかあぁぁ??」
乱暴に振りかざす腕が、巨岩すら一瞬で砕ける破壊力。
それを身を逸らし避け、腕を掴み下から紅煉で突刺す。
出血はするが、その血飛沫すらも意志を持ち小型のナイフとなって無数に飛んでくる。
一瞬で弾き落とすが、その間に女の目を狙った刺突が飛んでくる。
体を捻り、顔面へ卍蹴。
女は諸に喰らい、不規則にそびえ立つ地面や建物を貫きながら吹き飛んでいく。
だが隙を許さず、すかさず追撃。
破壊された瓦礫を投げ飛ばす。
だが、漂う土煙が女を覆った瞬間に女も妖刀をこちらへ飛ばして来ていた。
音速すらも凌駕するスピードで、一直線に飛んでくる。
なん10メートルもある瓦礫が豆腐のように穴が開き、俺の首へと迫る。
弾こうとするが、その影に乗じ女の姿が消えていることを確認した。
「どこ隠れてんだよ」
蒼天で妖刀を弾き、視線を数百m離れた木造の家へと向ける。
一瞬で距離を詰め、魔力で形成した風で家ごと破壊。
地面諸共綺麗に抉りとり、宙に舞う小屋や土を魔力で細切りにする。
「バレてたのかよ……」
「当たり前だろ?……てかお前剣以外はあんまりだよな。これなら椿の方がしんどかったぞ」
ハウラとラプラスへの被害を抑えつつ、2人を狙おうとする女を警戒。
俺の背後にハウラたちがいるように立ち回る行動の、先読みと妨害。
椿がいるであろう場所からも離す必要があった。
だがここは数百m離れは場所。こいつであっても1秒ほどはかかる。
その1秒で俺はこいつを細切れにできる。
「うるせぇ!!!!!ならやってやるよ!!!」
その言葉に女は激昂する。
女は手を横へ伸ばす。
「とっとと来いよ兵器ッ!目の前のこいつを殺せッ!!!」
「ッ!!」
俺は椿のいた場所を確認する。
だがそこに姿は既に無かった
「クソッ!!」
刹那、視界の端で何かが動いた。
ーーー来る
薄暗い世界を七色の光が、天使の再臨を謳うように現れる。
その中心に静かに佇むのはやはりーーー椿であった。
瞳の光が失われ、感情が消え去っているような虚ろな眼差し。
さっきと同じ……。
「戻ってこい……。」
関わった日数は短ろうと、時間を共にしてきた仲間だ。
ただでさえ1回目ですら、心に来るものはあったが……。
今や状況が別だ。
ハウラとラプラスが死んでしまっている。
俺の能力を使えば再生はされる。……それでも愛する2人を殺される悲しさは耐え難いものだ。
それに兵器としての椿の再覚醒。
少女は俺の言葉に答えない。
ただ静かに手をこちらへ向ける。
粒子が集まり、空気が歪む。
殺気は俺へと向けられていた。
「く……そッ!」
2対1
椿の破壊力と、女の姑息さが合わさればハウラとラプラスを守りきれないかもしれない……。
椿を殺す……?いやダメだ……。
女を殺し、椿を無力化しかない。
できるか……?
数百年ぶりに緊張が走る……いつぶりだろうか。
「やるか……。」
椿の姿が消えた。
(ーーーー背後ッ!!)
振り向くと眼前には先程の光芒が迫っていた。
(避けーーー)
能力を発動し、光芒を破壊する瞬間……。
その光芒は不自然に軌道がズレる。
頬を掠め、奥の瓦礫を粉砕し、遅れて音が聞こえた。
「……は……」
「は?」
有り得ない……。
今のは完全に俺を狙っていた。
正しい軌道を描き、直撃するはずだった。
なのに…………。
少女は震えていた。
伸ばした腕は不自然に止まっている。
「私……はっ……」
声だ……。
単調で機械的な声じゃない。
しっかりと自分の意志を持った声……。
「椿……?」
「何やってんだ!!このウスノロ!!とっとと殺れッ!!」
怒号と共に、椿は再び腕を振り下ろそうとする。
だがその腕を…………。
自分で、止めた。
「私はッ……貴方の……道具じゃないッ!!」
震える声で……それでも、今までの自分を断ち切るように告げる。
その時、弾けるように何かが砕けた。
椿の体から重圧が消え、ゆっくりと掴んでいた腕を下ろしていく。
「……っ、は……っ……」
「戻っ……たのか?」
思わず呟く。
椿は小さく息を整えながら、こちらを見る。
その瞳に、以前の虚ろさはない。
「……遅くなって、ごめんなさい。」
ー歩……。また一歩と俺の隣に歩み寄る。
「でもーーもう大丈夫です」
椿は女へ視線を向ける
「私は、私の意思で戦います」
女は、眉を歪めた。
「……ありえない。…………ありえねぇだろうがッ!!!!」
「クソックソクソクソクソクソッ!!!!なんで命令が通らないんだよ!!」
女の魔力と妖力が暴発した。
周辺の建物や木々を一掃し、女を中心に嵐が吹き荒れる。
その中で椿は静かに答えた。
「通りませんよ」
「だって私はーーー選んだんだから。」
そうか……。
……椿はもう守られる側じゃない。
「行くぞ」
「はい」
二人で同時に踏み込む。
二度とーーー奪わせない