二話を書くからには最終話までやりますので、ゆるりと楽しんでいってください。
「へぇ~。四四八くんのお父さんって言われるとやっぱり似てるね」
自分よりもはるかに大きく、憮然とした表情の親父の顔をしげしげと眺める歩美。
「確かに。ちょっと柊、こっちに来て並びなさいよ」
面白そうに俺に手招きをする我堂。
晶達は幸せそうに頬を緩める母さんに絡んでいる。
程度の差こそあれ皆衝撃から醒めた中……俺だけは未だ、呆然としたままで居た。
「……ちょっと柊?何ぼーっとしてるのよ。来なさいったら!」
「……っ、と。ああ……」
「…………」
我堂に強制され、親父と向かい合う。
俺もそれなりに背は高いほうだと思ってはいたが、こうすると親父の遺伝ということか、わずかに見上げることになった。
……だが、気まずい。
この氷のように冷たい表情と言い、俺の目を真っ直ぐに見据える目といい、そもそも父親との初の邂逅である。正直言って壁を感じていたし、向こうだって突然馴れ馴れしくしてこない辺りそれは同じなのだろう。
「…………」
「……おい四四八、なんか喋れって」
栄光が俺をせっつく。見ると母さんが一転して不安そうに俺と親父の顔を見比べていた。
「……あー……おや…………なあ」
「……何だ」
少なからぬ逡巡を飲み込んで声をかけると、親父も目に僅かな動揺を浮かべて、だがなんとも興味なさげな、冷たい表情に落胆すら浮かべるようにして返答を返す。
それにもなんとなく苛立ちを覚えた俺は、今日母さんを親父に引き合わせると決めた時から聞こうと思っていた事を尋ねた。
「…………どうして、居なくなった」
そう。
この男は、先ほどのように母さんに優しげな言葉を投げておきながら、俺を身篭った母さんを置いて消えているのだ。
俺自身はそのことにコンプレックスなど無いし、女手ひとつで育ててくれた母さんには感謝している。自分の生まれに誇りだって抱いている。
だが、だからこの男に一切の文句が無いと言うわけでもないのだ。
事実として母さんは今日この日まで親父を愛し、再会を願っていたのだから。
「今更愛しているなんて言うくらいなら、どうして母さんを一人にしたんだよ」
声に怒気を孕ませて詰問する俺に、和やかだった周囲が気まずそうに俺たち二人を伺い始める。
きっと目を向ければ、母さんはオロオロと取り乱しているのだろうが、これだけは聞いておきたかった。
れっきとした理由があるというのなら、親父の口からちゃんと聞きたかった。
だが……
「そんなことはどうでもいいだろう」
「ッ!?何だと……!」
思わず食って掛かった俺を母さんが止めようとするが、目の前の親父自身がそれを手で制した。
「聞け四四八、どうでも良いのだ。それは既に過去のこと、その程度の事なら、後で幾らでも話してやる。だから今は、俺の話を聞け。そのために来たのだから」
「何を、言っている……?」
淡々と理解の及ばない事を言われ、思わず怒りよりも困惑が先行した。
それは仲間たちも同じなようで、一様に話の流れがおかしいと困惑しているようである。
ふぅ、と一つため息を付いて、親父は口を開いた。
「……状況は今ひとつわからんが、どうせ神祇省の盲打ちか辰宮が勝手をしたのだろう。業腹だが悪い手ではない、しかし…………まあいい。
今は訳が解らないだろうが、心に止めておけ」
念押しするように俺たちを---母さんはどうやら素通りしたようだが---見渡す親父の真剣な様子に、思わず息を呑む。
「お前たちの言う、我も人、彼も人というやつだ。お前たちはどうやらそれを、他人を肯定するような意味で使いがちなようだが……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何だそれは?」
俺達の、などと言われても覚えなど無いし、皆を見渡しても一様に心当たりのある様子ではない。
「チッ、どうやら本当に……いいからひとまず聞け。その言葉だが、こういう受け取り方もできる。遥かに格上、全く及ばないような存在が居たとしても、自分と同じ人に過ぎぬ、とな」
言っていることは分かる、だが唐突に何の話だといちいち口を挟みそうになるが、不思議な誠実さがそれを許さない。今はただ、その理解できない言葉を刻み込んでいた。
「これから先で、増長する余裕など一切無いだろうが……だからといって必要以上に他者を過大評価するな。途方もなく強大に見えても、惑いもするし、間違いも犯す、浅ましい我欲に突き動かされる人間なんだと、心に刻んでおくがいい」
「……忠告は、至極最もだと思うが……この先って、何のことだ?」
「それは……」
先ほどまでの勢いが衰え、僅かに逡巡する親父。
「……お前たちは、この先---」
躊躇いがちに親父がその先を口にしようとした瞬間である。
ズゾゾゾゾ……
無数の蝿音が、辺りに響く。
「
数千万、億を超える虫が羽音を立てるような歌声。
聞いているだけで苛立ちを煽るような、不快で神経を逆なでする音だった。
そして何かが焦げるような硫黄の匂いが周囲に充満していく。腐乱死体の腹を歓喜しながら這いずり回り、糞を貪る死出虫にも似た穢れの気配。
「まさか……」
強張り、掠れた水希の声は、何やら抑え難い興奮に爛れている。
地面から湧き出るように現れたそれは、俺達の夢が、もはや俺たちの手を離れ異常事態と化した事を想像させるに足る、災厄であった。
神野さん降☆臨
描いてて一番楽しい人です。
ワースト?逆に聞くけど一人以外思い浮かぶの?(白目)