「……無貌か。貴様何の真似だ」
「セージ。セェェェジ。何の真似だ、じゃないよ全く。君がなんともぶち壊しにしてくれそうだったから、演出家として慌ててテコ入れに来たというのに」
地面から湧いて出たようなその異形は、ポーズだけは呆れたようにしながら、しかしなんとも愉しげに嗤っていた。
金髪に、色黒を通り越した漆黒の肌。見るだけで嫌悪感を催す造形の、人智を超えた存在。
「ほざけよ。俺が貴様の趣味に付き合う必要など何処にある。目障りだ、失せろ」
ただでさえ四四八のそっけないどころか、刺のある態度に沈んでいた所。こんな男とは一言だって口を聞きたくはない。
見れば、一人の少女を除き皆怯えているではないか。
それに……今の四四八達の異常の元凶はこの男、神野明影にあるのかもしれないのだから。
「あっれぇ?セージなんか怒ってるぅ?折角感動の再会だってのに、何時にもましてぶすーっとしてるじゃないか。そんなんじゃ行けないな、ほら皆の顔が引き攣ってる」
思わずどの口で言う、などと反論しようとしたその時。
「--水希ッ!」
と、四四八の叫ぶ声に反射的に目を向けると、今まさに四四八達を守るようにドーム状の壁が形成され、単身神野に飛びかかる少女がいた。
「--行くぞォォォオッ!!」
咆哮は憎悪に燃え、完全な殺意の色に染まっていた。先ほどまで和やかに談笑していた少女とは思えない……いや、俺が知らないだけで“過去”に何かがあったのかもしれないが。
なんせこの男は神野明影。無貌、じゅすへる、黒い放射能チェルノボーグなどと無数の異名で己を飾り立て、全てを嘲笑いながら愛でる悪魔そのもの。
多感な少女など、この男にとってはただの餌に等しい。
「神野、明影ェェッ!!」
灼熱の烈風の如き剣閃は、しかして空を切ったかのような虚無感だけを残した。
「弱い、なあ……」
少女の剣は神野には届かない。奴の解法の透……干渉を解析・透過する技は超常の域であり、ともすれば俺の崩……それと対をなす技すらいなす程。
神野は微塵に刻まれながら、不快な笑みを浮かべていた。
「百年経ってその程度かい?弱い弱い弱いなあ!
なんて愛しいんだ水希、あぁぁ水希--僕の恋人よ。変わらず綺麗な君に逢えて、実に僕はこう、いきり勃つじゃないか。きひはははははははは!!!」
「クッ……」
おぞましい哄笑をかき消すべく横薙ぎに振るわれる白刃を、俺は素手のまま受け止める。
「察するに、どうやら貴様またくだらん真似をしたようだが……説明してもらおうか。いったいなにが起こっている。未だ歯車は回っているというのか?」
少女だけでなく、障壁の向こうの恵理子達の視線まで感じる。全く、相変わらず余計なことしかしない奴め……
「そうだよ--だが野暮だぞセージ。邪魔をしないでくれないか。コレは僕のものなんだよ?
たとえ君でも……間男の真似は許さないからね?」
「野暮は貴様だ無貌、突然湧いたかと思えばベラベラと、目障りだと何度言えば分かる」
乱杭歯を剥いて域を荒くする神野の様は、まるで涎を垂らして餌を求める病犬だ。見るも汚らわしいその剣幕に、思わず鼻を鳴らして首を振る。
「よくもまあ俺の前に姿を現せたものだな。ちょうどいい、貴様にはここで早々に--」
と、意識を神野に向けた瞬間、抑えていた刀を引き剥がして、少女が再び神野に飛びかかる。
「叩き潰してやる……負けてたまるかァァ!!」
悲鳴を思わせる絶叫は、まるで底なし沼に沈む断末魔のよう。
無数の攻撃は尽く無駄に終わり、明らかに神野に遊ばれていた。
「チッ……」
まずは暴走した少女を止めるか、恵理子達の方を対処するか……一瞬の迷いの間に、三度異常が発生する。
「おのれ……どいつもこいつも間の悪い……!」
吐き捨てながらも身体能力を戟法で強化し、一気に恵理子達の元へ跳ぶ。
同時、発生したのはまるで砲撃を受けたかのような爆発と火柱であった。
とっさにほとんどは弾いたものの、流れ弾が障壁を砕き、その欠片が四四八に降り注ごうとする。
「……怪我は」
「あ……大丈夫だ。だがこれは一体……?」
その欠片を防ぎ、呆気にとられている四四八達を伺う。皆少女を気にかけ、異常事態に困惑し、恵理子に至ってはほとんど半泣きの様子で俺の元に駆けてきた。
その背を撫で落ち着かせながら周囲に目をやると、もはやそこは先程まで居た場所とは全く違う空間。
雷鳴が轟き、雹が降りしきる嵐の夜。どうやら
「おやおや、どうやらちょうど誰かがやりあってる最中みたいだねえ」
愉しげに嘯く神野に、殺意が膨れ上がっていく。
「さあ、これで再スタートが決定したよ。今度は一体誰g「そこを動くな無貌ッ!今この場で逆十字にかけてくれる……!」
……物語は、致命的にズレてゆく。
本日の戦果:言葉責めキャンセル
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