夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
楽しんでいただけると嬉しいです(*´∇`*)
「我の名は」
夜、月が雲に隠れてしまい闇が広がっている町。
街灯が地面を照らし、その光に集まる虫。
そんな中、様々な高さ、形が家の屋根の上を風の如く早く走る人影が見える。
普通なら微かにでも足音が聞こえるはずだが、人影からは一切聞こえない。
一直線に目的の場所へと走っている。
月明かりがないためどのような顔、どのような格好をしているのか分からない。
ただ、影の形からしてパーカーやTシャツなどではないのと、腰には細長い何かが付けられているのが分かる。
息を一つ切らさず走り続ける人影の前方に、二つの影が見えた。
一人は腰を抜かした女性で、長い髪を揺らし、甲高い声で助けを求めている。
そんな女性の前には、人と言うにはあまりに歪で、奇妙な影の形をしていた。
一見成人男性のような見た目だが、左右から伸びる腕はなぜか四本あり、尻から太いしっぽのような物が生えている。
その影は、四本の腕を左右に大きく広げ、鋭くとがっている爪を光らせる。地面に座り込んでしまっている女性を襲おうと、振り下ろした。
「させるか」
風の如く走っていた人影が先程より膝を折り、一歩の幅を大きくしスピードを上げる。その際、手には拳ぐらいの大きさはある石が握られていた。
女性が襲われる直前、人影は一度足を止め、右手を顔後ろまで引く。
左足を前へと出すのと同時に、右手に握られていた石を勢いよく投げる。すると、その石は化け物の顔横へと直撃し、よろめいた。
人影は左手を腰に差されている細長い物に伸ばす。
屋根から地面へと降り、両足で着地。街灯が彼を照らす。
通常より大きな襟を揺らし、銀髪が街灯により輝いている。目元には、白い顔半分の狐の面がつけられていた。
左手で握られているのは、刀の鞘。
足音一つさせず、彼は散歩をするように歩き、女性の前に立つ。
化け物は彼を見つけ、窪んでいる目を向け、大きな声を上げた。
圧が二人を襲い、女性の顔が真っ青になり体を大きく震わせる。だが、彼は微動だにせず、右手をゆっくりと動かし、刀の柄へと伸ばした。
「忌まわしき想いの結晶よ。我ら
そう口にし、彼は刀の柄を握る。そして、ゆっくりと引き抜いた。
銀色に輝く刃が姿を現し、彼は右手をそのまま横へと下ろす。すると、膝を折り、地面を蹴る。
土埃が舞うのと同時に、軽やかに空中へと跳び、化け物の頭上をとった。
両手で刀を握り、頭の上まで振り上げた。
化け物は、四本の腕で顔を隠すように覆う。だが、彼はそんなことを気にせず重力に従い、両手で刀を振り下ろした。
化け物を腕ごと縦一線に斬り、真っ二つにし地面に着地。刀は赤く染ってはおらず、黒いモヤが漂っているのみ。
斬られた化け物は、耳に残るほど不気味で重苦しい悲鳴をあげながら、黒いモヤへと姿を変え、そのまま風に乗るように消えていった。
地面に着地した彼は、しゃがんでいた体勢から立ち上がり、振り返る。
「強い恨みは具現化し、対象を殺す。君、人からものすごく恨まれているらしいね」
化け物が消えた方向を見る彼。それを、女性は青い顔のまま見上げ、口を大きく開き甲高い声で叫んだ。
「い、いきなり。いきなり何よ……。あんたは一体、誰なのよ!」
「我か。我の名は──」
月明かりを遮っていた雲が徐々に移動し、暗闇に染められていた町を照らし出す。
銀髪が風に揺れ、目元を隠している狐の面は、女性をまっすぐと見ている。
男性にしては、少し高めの声で自身の名を名乗った。
「────ナナシだ」
大きな襟付きのノースリーブが風に揺れる。その人物の格好は、実に奇妙なものだった。黒い上着のチャックを胸辺りまで下ろし、左肩を露出している。履いているのは、紅色のスニーカーだ。ゆっくりと女性へと近づく。
女性の目の前で立ち止まり、刀を鞘に戻した彼は、次の瞬間。一瞬のうちに姿を消した。
気配を感じることが出来ず、足音すら何もしなかった。まるで、風が彼を持って行ってしまったかのように、忽然と姿を消した。
女性は何が起きたのかわからず、しばらくはその場から動けなかった。
☆
闇の中から突如として現れ、突如として消えてしまう。
闇を駆け回り、人の『負の感情』が具現化された存在。【
銀色に輝く髪、女性のような白い肌。腰には、黒く光っている鞘。そして、目元には狐の面をつけている青年。
その人の事を皆、口を揃えてこう呼んでいる──
闇夜を駆け回る狐。【
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