夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
手を引っ張られながら、星桜は弥幸に付いていく。相変わらずフードとマスクで顔を隠しているが、雰囲気で不機嫌なのはわかる。
星桜自身も今、他を気にしている余裕が無いため人の気持ちに気付けていない。俯いてしまい、淡々と付いて行く。
学校の屋上に向かった弥幸は、重い扉を開け、外へと出た。
朝なので一人も居ない。風が吹き二人の髪を揺らす。
今日は天気が良いため、青空が広がっておりすごく気持ちが良い。だが、二人にはそんなものどうでもよかった。
彼はそのまま屋上の柵まで進み、やっと星桜を掴んでいた手を離す。
チラッと後ろを向き星桜を確認する。
手を離された彼女はそこから逃げようとせず、俯いたままで動こうともしない。
「君、もっと人間味がないと思ってたけど、しっかりと怒りの感情はあるんだね」
「っ。さ、さすがにあるよ。私だって人間だもん」
「そうなんだ。まぁ、そりゃそうだよね」
「って、やっぱりその声……」
星桜は俯いていた顔を上げる。それに合わせるように弥幸は被っていたフードを取り、マスクも顎まで下げた。
隠れていたのは、その辺のモデルより遥かにかっこよく美しい。それでいて儚い顔立ちをしている青年だった。
銀髪に真紅の瞳、色白の肌。
整った顔立ちをしているため、星桜は思わず見惚れている。
その視線を鬱陶しく感じたのか、弥幸は眉をひそめ「きもちわる」と言って顔を背けてしまった。
「酷い!!」
「ケッ」
なんとか我を取り戻し、星桜は頬を膨らませ反論をする。
「……もう。えっと、赤鬼君ってやっぱり
「なにそのダサいネーミングセンス」
「噂になってるよ。夜闇を駆け回る狐、夜狐さん」
弥幸は再度、星桜の方を振り向く。
「ねぇ、夜狐さんって、赤鬼君だよね?」
「だったら?」
「え?」
弥幸が思っていた以上に早く認めてしまい、星桜は思わず変な声を出してしまう。
「えっ、じゃないよ。だったら何? つーか、そのダサい名前で呼ばないで。僕までダサくなる」
「いやいや、赤鬼君をダサくする魔法があるなら気になるよ。それより、『僕』?。『我』じゃなくて?」
「『我』と言う時は、仕事をしている時だけだよ。気持ちを切り替えるために一人称を変えてる。今は男子高校生だから、普通に僕だよ。それに、普段からその一人称だったら変に浮くじゃん。嫌だよ」
そう簡単に説明してくれている弥幸だが、星桜は「仕事?」と首を傾げた。
「僕達、赤鬼家は、代々特別な力を受け継いでいるんだ。その力は
「神力?」
「あぁ。その神力を使い、一昨日のような化け物、
淡々と説明をしてくれる弥幸。星桜もわかりやすい説明にうなずきながら聞いていた。
あまりに現実味のない話なのだが、星桜は1度その妖傀に襲われている。疑うなんて出来ないため、真剣に最後まで聞いた。
「妖傀とは、人の負の感情が具現化されたもの。恨みを持ち、その対象を殺しに徘徊する。
「それが、一昨日現れた腕が四本の化け物?」
「そうだよ。あれが僕達赤鬼家が代々受け継いできた、倒すべき敵なんだけど──」
弥幸はなんとも言えないような表情を浮かべ、顔を曇らせる。
「赤鬼君?」
「とりあえず、君は知らぬうちに恨みを買っているということだよ。僕が昨日斬ったのは
彼の言葉に、星桜は顔を青くし目を見開いた。
一昨日の恐怖が脳内を駆け回り、体を震わせる。
「────はぁ。仕方がないなぁ……」
「えっ」
弥幸は頭を掻きながらボソッと口にする。その意味がわからず、星桜は彼を不安げに見た。
「さすがにね。分かっているのに君をほっとくことも出来ないじゃん。仕方がないから守ってあげるよ」
眉間に皺を寄せ、彼は嫌そうな表情を浮かべながらもそう宣言した。
その言葉が信じられないのか、星桜は目を丸くし彼を見続けている。
「とりあえず、一昨日の人物に会いに行くぞ」
「一昨日……。もしかして凛?」
星桜は凛の名前を口にし、顔を沈ませる。
「いや、そいつじゃない」
「えっ。それじゃ誰?」
星桜が質問しようとした時、弥幸がゆっくりと近付く。そして、彼女の耳元でそっと囁いた。
「────だ」
弥幸の出した名前は星桜にとって聞き覚えがありすぎて、逆に信じられず驚愕していた。
☆
屋上の扉の影、一人の男子生徒が二人の様子を見ていた。
「星桜は、俺の──」
そう呟いた男子生徒は、下唇を噛み、拳を強く握る。
その目からは怒りの感情しか感じ取れず、黒く渦巻くオーラを身にまといながら、歯を食いしばりその場を後にした。
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