夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
弥幸はそのまま校舎を出て、住宅地を無言で歩き続ける。それを、星桜は後ろから静かについて行く。
すると、道の途中で弥幸はいきなり立ち止まり振り返る。そのことに星桜は少し驚いた表情を浮かべ、弥幸を見返す。
その顔は、なにか複雑そうに眉を顰め、神妙そうな顔つきだった。
「ど、どうしたの赤鬼君」
「僕は……てないからな」
「ん? ごめん、上手く聞き取れ──」
星桜は再度問いかけようとしたが、弥幸がいきなり近づいてきて、顔を寄せたため、言葉を繋げることが出来なかった。
今はマスクを顎まで下げており、いつもは隠れている綺麗な顔が半分見えている状態。
そんな弥幸がいきなり近付いてきたのだ。驚くのに無理はない。
意識的にでは無いが、星桜は顔を高揚させてしまい目を逸らした。だが、そのことを一切気にせず、彼は顔を近づかせたまま口を開く。
「僕は、君のこと狙って無いからね」
「────ん?」
予想外の言葉だったらしく、星桜ははてなマークを浮かべた。すると、満足したらしい弥幸は近付かせてた顔を離し、言い訳がましい言葉をつらつらと述べる。
「大体、僕は人と関わるのが何よりも嫌いなんだよ。めんどくさいし。だから、本来はこんなことだってしたくない。だが、今回は事前に事情を知ってしまったから仕方なくやっているだけ。決して僕が君に近付きたいとか、好きとかそう言うめんどくさい恋心とかではないからね。勘違いしないでねアバズレ女」
そう言い切る弥幸は、そのまま方向転換し、再度道を歩みを進める。
最初は何が起きたのか理解出来ていない星桜だったが、徐々に言葉の意味を理解できたため、顔を赤くし大きな声で怒鳴った。
「アバズレ女じゃないからぁぁぁああ!!」
☆
星桜は弥幸の後ろを静かに付いて行く。その表情はまだ怒っているようで頬を膨らませていた。
そんな顔を浮かべているが、弥幸は全く気にする様子を見せずにどんどん進んで行く。
すると、徐々に人通りがなくなり静かになっていった。
天気は良かったはずなのだが、今は大きな雲が太陽を隠してしまっているため少し暗い。
星桜はどんどん住宅地が離れていくのを確認し、恐る恐る弥幸に声をかけた。
「赤鬼君、どこに向かってるの?」
「家に向かってる」
「家って、赤鬼君の?」
「じゃなかったら誰の家に向かってるのさ。僕は君の家なんて知らないし、知ってたとしても今行く必要性はないよ」
一つの質問に倍の回答が返ってくる。
星桜は呆れと怒りで口を開こうとしたが、周りの景色を見て、文句ではなく質問した。
「この先って、確か紅城神社《あかぎじんじゃ》じゃないの? 家なんてあったっけ?」
紅城神社は、恋愛について詳しい神社だ。
一応合格祈願や交通安全なども扱っているが、参拝者がここを訪れるのに1番多い理由は恋愛関係だった。だが、それも昔の話。
今では参拝者などいなく、寂れた神社になっていた。
「ここ、もう誰も来てないのかなぁ」
赤いはずの鳥居は錆びており黒ずんでいる。
星桜はそんな黒く錆びてしまった鳥居の前で立ち止まり、悲しげな顔を浮かべた。
そんな彼女の隣を、弥幸は当たり前のように通り過ぎ神社へと入っていく。
「あ、ちょ、赤鬼君!! 勝手に入ったらダメなんじゃ。ここ、もう人いないでしょ?」
「自分の家に勝手に入ったらダメなのか君の家は。めんどくさい家庭だね」
「いや、私の家は至ってふつ──え?」
弥幸は淡々と星桜の言葉に返していたが、その言葉を彼女は聞き返した。
「えっと、ここ神社だよ? もしかして赤鬼君って野宿……」
「君は僕をなんだと思ってるの。普通に考えて、ここが僕の家だと思うでしょ」
鳥居の奥にある、瓦屋根の大きな御屋敷を指さしそう口にする。
見た目はとても大きく、立派に見える。だが、壁画や柱はボロボロで、蜘蛛の巣が張られていた。
所々黒ずんでいるため、人が住んでいるようには到底見えない。まるで、廃墟のようだった。
「────赤鬼君って幽霊?」
「とりあえず、君が失礼な事しか考えてないことはわかった」
中央に建てられている御屋敷の周りには、背の高い樹木が元気に風に揺られ、立っている。
そんな樹木は、屋敷を包こもうとしているように覆いかぶさり、瓦屋根の上にはたくさんの落ち葉が見える。
神隠しにでもあったような見た目なため、少し歴史を感じる。ただ、それは古いところを除いてだ。
弥幸が屋敷の中へと入るため、中央にある階段を上り、板で作られている廊下を踏む。すると、ギシギシという危ない音が聞こえた。
星桜は弥幸の後ろでおそるおそる音が鳴る板を踏む。
彼の肩越しから前を見ると、木製の扉はさすがに掃除されているため、汚くはない。
弥幸は右手をのばし、扉を横にスライドさせ開けた。そして、そのまま中へと入る。
星桜は戸惑いつつも弥幸について行こうと駆け足で中へと入った。
屋敷の中をみた瞬間、足を止めてしまい、周りを見回し始めた。
神社の中は畳だったり、奥の方に神棚などが置かれているイメージが強いが、今星桜の目の前に広がる光景は、そのようなイメージとは全く違った。
中はフローリングで、左右に廊下が続いている。
玄関の正面は壁で、押し花が飾られている。
すごく綺麗に整理整頓されている内装なため、外からの雰囲気では想像できない。
室内だけをみると、ただの豪邸と言ってもいい。
星桜が外と中の違いに惚けていると、突然弥幸の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。
「弥幸様、お帰りなさいませ」
「んっ」
弥幸は着物を着た若い女性に鞄を渡し、そのまま右奥の部屋へと行ってしまった。
残された星桜はどうすればいいのか分からずあたふたとしている。
「貴方は、弥幸様のご友人でしょうか?」
「へっ、は、はい」
女性は優しい笑みを浮かべながら星桜にそう問いかける。
「でしたら、もう赤鬼家についてはご存知で?」
「あ、はい。少しだけ聞いています。ですが、詳しくはまだ……」
「そうですか。これからも弥幸様をよろしくお願いします」
女性は深々と頭を下げる。その様子を見て、星桜は「いえいえ!! あ、あの、大丈夫なんで!!」と慌てた様子だった。
なんとか頭を上げさせようとしていると、一つの疑問が頭に浮かび、ハッと口元に手を当てた。
「そういえば、なんで赤鬼君はいきなり家に──」
そう呟くと、弥幸が去って行った方からぺたぺたと足音が聞こえた。
そちらに目を向けると、狐面はしていないが、一昨日の真夜中に見た人物。
夜狐の姿をした弥幸が姿を現した。
「それ、夜狐さんの衣装……」
「だから、そんなダサい呼び方はやめくれない? 僕までダサくなる」
そう言うと、弥幸は不機嫌丸出しで屋敷を出て行ってしまった。星桜も慌てて女性に一礼したあと「待ってよ〜」と情けない声を出しながらかけ出す。
残された女性は弥幸の鞄を大事そうに抱え、笑顔で手を振りながら送り出す。
「どうか、ご無事で」
そう呟き、女性は奥の部屋へと姿を消した。
ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです
出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)