夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
壊れてしまった釘の一部を拾い上げ、弥幸はジィっと見ている。何か考えているようで、顎に手を当て黙っていた。
その様子を星桜は顔を青くし、今も慌てながら釘の破片をかけ集めくっつけようとしているが、くっつくはずもなくばらばらと地面に落ちていったのだった。
「あ、あの……。ごめんなっ──」
「君、今までよく無事に生きてこれたね」
「──さい………って、え?」
思い切って謝罪を口にした星桜だったが、それを途中で遮り弥幸は口を開いた。
「まぁ、今まで君自身気付いていなかったというのも助かってた一つなんだろうね」
「えっと、どういうこと?」
弥幸の言葉が一つも理解出来ていない星桜は、困惑気味に質問する。
「そうだね。簡単に言うと、君は
「いや、全然簡単じゃない。今までみたいに噛み砕いて教えてよ」
「君はこちら側の人間ということ」
「詳しく話す気ある?」
「めんどくさいなぁ。君は【精神の核】を所持しているということだよ」
面倒くさそうにそう口にする彼だが、その言葉すら星桜にとっては聞き覚えがないため、首を傾げるばかりだ。
「精神の核というのは、僕達のように妖傀を相手にする奴らなら、喉から手が出るほど欲しいと言われている代物。それさえあれば、僕達が操る力を無限に使うことが出来るんだよ」
「えっと、つまりゲームで言うとMP回復みたいな感じ?」
「少し違うけど、まぁそんな感じだね。今まで自覚がなかった分問題無く過ごす事が出来ていたみたいだけど、今はそうもいかない。僕が暴いてしまったからね。いやぁ、僕みたいな天才がこういう時に出てしまうと厄介だね。すまないすまない」
謝罪を口にしているが、全く誠意を感じない。
星桜も苦笑いを浮かべるしかなく、ため気を吐く。
「でも、なんで私にそんな重要な物が与えられたの?」
「君は『なんで自分にこんな才能があるんだろう』とかって人に質問すんの?」
「何その嫌味な質問……」
「それと同じことを今、君は僕にしてきたんだけど」
「え、そうなの!? ごめんなさい!!」
「僕は欲しいとは思わないから別にいいよ」
「…………」
先程から弥幸に振り回されている星桜は、何度目かの溜息をつき頭を抱えてしまった。
「とりあえず、もう少しで夜になる。崖下で待つことにするか。その方がゆっくり出来るからね」
そう言うと、しゃがんでいた星桜の腰に、なんの断りもなく手を回した。
「へっ」
いきなり手を回されたことにより頬を赤く染めてしまった星桜だが、次の瞬間には顔を青くすることになってしまう。
「行くぞ」
そう一言口にすると、弥幸は立ち上がり、当たり前のように柵を飛び越え、崖の下へと向かってしまった。
「ひっ?! いやぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!」
星桜の叫び声は森の中に響き渡ったが、それは数秒で聞こえなくなり、いつもの静寂な道路に戻った。
地面にしっかりと着地した弥幸。だが、星桜の叫び声を近くで聞いていたため顔を顰め耳を抑えている。
「っるさ」
「仕方が無いと思うけどね!!」
星桜は地面に降ろされた瞬間、力が抜けたらしく、そのまま地面へと崩れ落ちてしまった。
「とりあえずここで時間を潰す。妖傀は、その対象者が眠らない限り行動できないから、それまで現れないんだよね」
「だから夜って事か……」
弥幸は崖近くに移動してその場に座った。星桜も隣に移動して座り直す。
「…………赤鬼君って、ずっとこんな危険なことしてきてたの?」
「危険かどうかは知らないけど、まぁそうだね」
「嫌だとか思わなかったの?」
星桜はちらっと確認するように横目で弥幸を見るが、彼自身は目を閉じており寝ているように見える。だが、彼女の質問はしっかりと聞こえていたらしく、目を閉じたまま答えた。
「別に。これが僕の日常で、当たり前な行動だから。苦にも感じたことないよ」
平然とそう口にする弥幸に、星桜は「そっか」と悲しげに返す。
弥幸にとって妖傀と戦うのは日常生活を送る上で当たり前な行動。だが、今までそんなことに触れてこなかった星桜からしてみれば命をかけた危険な仕事。
そんな仕事を『当たり前』と考えている弥幸に対し、彼女は少し考えるものがあった。
「危険なことを、しないで欲しいな」
星桜はボソッとそう呟いた。すると、先程まで目を閉じていた弥幸が瞼を開け、真紅の瞳を彼女の方に向ける。
「何言ってんの君」
「へっ?」
「言ったじゃん。君はこちら側の人間だって」
「えっと、それは精神の核を持っているって意味じゃ……」
「持っているからこそ、これからは色んな奴に目をつけられることになるよ。つまり、危険なことをしないのは、君自身不可能だってこと」
簡単にそう説明された星桜だったが、その言葉が理解出来なかったらしく、「ん?」と聞き返していた。
「だから、これから君は僕の下僕として働いてもらう。精神の核には興味無いけど、一応隣にいて貰えた方がこちらとしては楽に戦闘が出来るからね。君は僕を守るための下僕だ。ありがたく思ってよ」
星桜の肩をポンッと叩き、今まで見た事もないキメ顔でそう言う弥幸。
その言葉に星桜はやっと、自身の置かれている状況を理解でき、顔を真っ青にして、白目を向いてしまった。
「信じられない……。終わった、私の人生」
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