夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
翔月が着替えをし、ウエストポーチを腰につけ、ドアから出てきた。
薄い長袖のシャツに、七分くらいの上着。下はストレッチパンツに足元はスニーカー。動きやすい服装だった。
「用意周到ですね」
「勝手だろ」
二人はお互い睨み合いながらそう言葉を交わす。
星桜はそんな二人の雰囲気になど気付かず「行かないの?」と問いかけ、やっと歩き出した。
☆
歩いている途中、三人とも言葉を交わさず、静かに歩いている。何となく重い空気感だが、星桜はそんなの気にしないというように翔月に声をかけた。
「翔月、今日本当に用事無かった? 大丈夫?」
「あ、あぁ。普通にゲームしてたわ」
「そっか。何やってたの?」
「スマホゲーム」
「それってもしかして、今流行ってるゾンビをバンバン撃ちまくるやつ?!」
「まぁな。でも、始めたばかりだから武器とか揃ってねぇんだよ」
「そっかぁ。私もそれやろうか悩んでるの。面白い?」
そんな会話を交わししながら、弥幸に付いて行く。
彼は後ろの会話など気にせず、前だけを見て歩き進めていた。すると、星桜はどんどん顔を曇らせていく。
「あの、あかっ──ナナシさん。ここって……」
翔月を待っている間、弥幸は星桜に「絶対に僕を名前で呼ばないで」とすごい剣幕で言われていた。そのため、言いかけそうになった今、慌てて口を押え言い直す。
「はい、貴方が事故に合ってしまった現場ですね」
弥幸からの丁寧語に、星桜は気持ち悪さを感じているのか、笑みを張りつけたまま顔を青くする。
「ですよね……」
これ以上会話をするのは耐えられないのか、星桜は早急に会話を切り上げ黙り込む。その様子を翔月は不思議そうに首を傾げながら、二人を交互に見た。
気になった彼は、項垂れている星桜に問いかけようとすると、弥幸がそれより先に声をかけた。
「ここら辺でなら、お話出来るでしょう」
辿り着いたのは、星桜達にとって三回目となる崖近くの道路だ。
今は昼過ぎというのもあり、車の通りは今までと比べると少しだけある。だが、それでもほかの道路と比べると少ない。
翔月はなぜこんな所に呼ばれたのかわからず、周りを見回しながら弥幸を警戒している。
星桜は「また……」と呟きながら彼を見ていた。
弥幸は崖を背中に、二人に目線を送り口を開く。
「さて、ここで話しましょうか。と言っても、口で話して信じていただけるような内容ではないことは分かっています。なので、少し強引な手を使わせていただきます」
「強引な手だと?」
「はい」
そう言うと、弥幸は翔月にゆっくりと近付く。
翔月は近付かれることに何となく嫌な予感を走らせているのか、少し後ずさっていた。
その様子を見て、埒が明かないと瞬時に悟った弥幸は、一歩で翔月の横に移動し腰に抱え、当たり前のように振り向き崖へと向かい、そのままの勢いで柵を飛び降りた。
「うぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
「あぁー。ナム」
翔月の叫び声がこの崖に響き渡る。星桜は何度も経験しているため、哀れみの目を下に向け、手を合わせ見送った。
☆
「………っるさ」
弥幸は地面にしっかりと着地をし、翔月を乱暴に地面に下ろした。
腰に回していた手をそのまま話したため、翔月はうつ伏せに落ちる。
「いってて……。おい、お前何をするんだ!!」
地面に落とされた翔月は、ゆっくりと起き上がり振り返る。そして、後ろに立っていた弥幸を、怒りの込められた瞳で見上げた。
今二人がいる場所は、大きな樹木がいくつも立ち並び、二人を覆い隠している。そのため、陽光が降り注ぐことはなく、薄暗く不気味な空気が漂っている。
まだ昼間なため、周りがすごく暗いという訳では無いが、それでもこんなところには長く痛くないだろう。翔月は立ち上がり、弥幸へと怒りをぶつけようと顔を赤くし、大きく口を開いた。だが、そこからは言葉が放たれず、沈黙が続いた。
翔月は、弥幸の真紅に染っている瞳を目にし、魅入ってしまっている。
まるで、金縛りにでもあってしまったかのように動かない。そんな彼に、弥幸は今までの口調とは異なり、普段の話し方へと戻った。
「君、翡翠に恋心抱いてるだろ」
「──はぁ? な、何を突然言ってやがる……」
彼の質問に、翔月は震えた声で何とかそう言い返した。
「前に言ったはずだよ。取り返しがつかなくなる──とね。それなのに、君は一向に想いを出そうとしなかった。そしてこのザマ。君は自分の身勝手な嫉妬心で、好いている人を殺そうと拳を振るおうとしているんだよ」
突然の説明に、翔月は顔を青くし、顔を引きつらせながら慌てて反論する。
「い、意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇよ。俺が星桜に恋心? 馬鹿も休み休み言いやがれ。それに、俺が星桜を傷つけてるだって? いつ俺がそうやった。証拠はあるのかよ!!!」
翔月は自身の胸に右手押し当て、つば撒き散らす勢いで弥幸へと怒りをぶつける。
「適当なことばかりいいやがって。根拠もくそもねぇのに、こんな所に連れてくるとか、どんな神経してやがんだよ!!!」
黒い感情が徐々に溢れ出てきており、このままでは翔月自身、自我を保てなくなってしまう。
そのことに気づかず口調を荒くし、体全体で弥幸へと全ての負の感情をぶつけ続ける。
そのようにし弥幸は眉間に皺を寄せ、腰に着けていた狐の面に手を伸ばす。
「このままでは、君は君でいられない。なぜ感情を我慢する必要がある。伝えたい想いがあるなら、それを口に出せばいい。伝える前から諦めていたら一生後悔することになるぞ!!!」
「黙れ!!! 俺は何も我慢なんてしていない。思ったことは口に出している。伝えている。それでも、あいつは気付いてくれない。全く気付かない!! 俺は何度も伝えようとした!!!」
凄まじいオーラが放たれている。
まだ夜ではない。だが、恨みが強くなればなるほど、妖傀の力は強くなり、薄暗い所なら昼間でも出現してしまう。
「────早く、もっと恨みを」
弥幸はそう呟き、翔月を見返す。
あともう少しで妖傀が現れてしまいそうな雰囲気に、薄く笑みを浮かべた──
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