夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
「俺は何も悪くない!! 気づかないあいつが悪い!!」
「気付かせようとしていたのはわかった。でも、それは君が逃げ道を作っているからじゃないの? それだと本気の想いは伝わらない」
「黙れ!!!!」
先程より激しく否定し、比例するように強いオーラが放たれ、弥幸は後ろへと飛ばされそうになる。
顔を右腕で隠し、地面に踏ん張り何とか耐えていた。
「俺は、俺は悪くない!! おれは──おえはしおんを!!!!」
「────来た」
翔月の周りからどす黒いオーラが勢いよくではじめ、彼を徐々覆い尽くす。
口調も途中で代わり、今まで星桜を襲っていた
弥幸は目の前に現れた妖傀目にし、腰に付けていた狐面を手に手を伸ばす。
「忌まわしき想いの結晶よ。我ら赤鬼家あかぎけの名のもとに、今ここで奪い取る」
流れるように手にした狐面を顔につけ、御札をポケットから取り出す。
『おえのしおんを、かえせーーー!!!』
四本の腕を左右に広げ、地面を揺らしながら大きな音を立て、弥幸に襲いかかった。
☆
「な、に、あれ……」
星桜は橋の上から下を見下ろしていた。
草木が邪魔をして視界は悪いが、それでも、今翔月がどうなってしまったかは分かる。
声も聞き取りにくく、どのような会話をしていたのか星桜には分からない。だからこそ、困惑し、力なく柵に手を付きながら膝を折り、しゃがんでしまった。
「翔月、なんで……?」
信じられない星桜は顔を俯かせ、目には涙の膜が張る。
体が震えており、恐怖や困惑といった感情が今の彼女の心を締めていた。
「なんで、翔月は私を恨んでたの。理由が、分からない」
今まで喧嘩をしたことはあり、お互い文句を口にしたことだってある。だが、あそこまで恨みを持たされることはした覚えはない。
どうすればいいのか考えていると、弥幸の説明が頭の中を過った。
「確か、私は精神の核って言うものを持っているんだよね。それって、赤鬼君のような人達にとって喉から手が出るほど欲しいっていう代物。赤鬼君は妖傀を退治している。なら、精神の核は妖傀にとって嫌なものなんじゃ──」
星桜がそう考えを巡らせていると、隣から息を切らした逢花が走ってきていた。
肩を上下に動かし、服はセーラーのまま。今までの戦闘用では無い。普通の中学生の姿だ。
「逢花ちゃん?!」
「星桜さん、弥幸お兄ちゃんは?」
逢花は息を切らしながら、なんとか質問を問いかける。
その言葉に星桜は立ち上がり、崖の下に目を向け、場所を教えた。
「やっぱり、弥幸お兄ちゃんは妖傀を浄化しようとしているんだ」
逢花は崖の下に目を向け、木々の隙間から弥幸の姿を捉えた。
「浄化? どういうこと?」
「私達がやっているのは恨みの具現化である妖傀を退治すること。三回倒せば妖傀はもう現れない。まだそれは詳しくはわかっていないから本当かどうかは分からないけど。でも、現れないってだけで、恨みが消えるわけじゃないの。そのまま恨みを持ち続けてしまえば、その人は人の道を外してしまう可能性があるわ」
「人の道を外すって、犯罪に手を染めたりとか?」
「それだけならまだ可愛いよ。
下を覗きながら、逢花は抑揚のない口調で説明する。だが、柵を握っている手には力が込められており、指先が白くなっている。
「それで、浄化って?」
「浄化は、恨みの根源から浄化するってこと。それはつまり、相手の心に語り掛け、恨みを取り除く」
「そんなこと出来るの?」
「私には無理。というか、それが出来るのは弥幸お兄ちゃんだけだと思う。膨大な精神力を使うから、弥幸お兄ちゃんのように人より精神力が多い人でも一回が限度。それに加え、成功率は五分五分。やり方は知っていると思うけど、やろうとする人は居ないの」
「それだけ危険なことよ」と付け足す。
星桜はその説明を耳にし、目を見開き崖の下に目を向けた。その目は一直線に弥幸に注がれている。
「もしかして、私を呼んだ理由って──」
星桜がそう呟くと、逢花は不思議そうにそちらに目を向けた。それと同時に星桜は必死な顔でお願いした。
「お願い
☆
崖の下では、今までの戦闘とは比べ物にならない攻防が繰り広げられていた。
弥幸は刀と共に炎狐も出し、炎を纏わせ妖傀から繰り出される腕を斬ったり、弾いたりしている。
今では四本の腕は、何故か十本近くまで増えており、切っても切ってもすぐに再生してしまう。
炎で燃やそうと炎狐も口から炎を吐くが、それは腕で防がれてしまい燃やすことが出来ない。その隙に弥幸が後ろへと周り、右手に持っている刀を左側へと寄せ、薙ぎ払うよう斬る。だが、それも残りの腕で防がれてしまった。
関節が外れているかのような動きをする妖傀は、腰をギギギッと振り向かせ弥幸の方へと向く。
口角が上がり、黒い歯を見せながら二本の腕を上へと挙げ、手を組む。そのまま、勢いよく弥幸の頭目掛けて振り下ろした。
「っ」
それを弥幸は、右足で後ろへと跳び、間一髪避けた。
地面に足が着く前に、彼は右手の親指と人差し指で丸を作り、自身の口元へと持っていく。
弥幸が思いっきり息を吸い込み、そのまま円の中へと吹く。すると、それはただの息ではなく、赤く燃え上がる炎に切り替わり妖傀を包こもうとした。だが、口を大きく広げ、超音波のような高音を妖傀は放ち、それにより炎は消えてしまう。
地面に足をつける前に超音波が弥幸を襲ってしまい、抗うことが出来ず後ろへと吹っ飛ばされ、背中を木にぶつけてしまった。
「がっ!!」
背中をぶつけてしまったことにより、すぐに体勢を整えることが出来ず、地面にうつ伏せになって落ちる。
何とか立ち上がろうと両手に力を込めるが、妖傀が弥幸の体勢が整うのを待ってくれるはずはなく、四本の腕を伸ばした。
それを横目、弥幸は炎狐を引き寄せ自身の服を噛ませ、その場から回避した。
『おえのしおんだぁぁぁぁああああ!!!』
口を大きく広げ、先程の超音波を繰り出そうとした。
弥幸は、避けたあとすぐに地面へと足をつけ炎狐の背中へと飛び乗る。
空中を駆け回りながら、彼も先程と同じように口から炎を吹き出した。
お互いの技がぶつかり合い、大きな爆発が起き、周囲に爆風が広がる。
「っと。くそっ、これ以上神力を使わせないでよ。精神力が無くなるじゃん……」
炎狐が空へと駆け上がったため、弥幸に直接爆風が当たることは無かった。だが、どの攻撃も打ち返されてしまい、面倒くさそうに舌打ちをし、苦虫を潰したような顔を浮かべる。
煙が晴れてきて妖傀の姿を確認することが出来たが、その姿を見て眉間に皺を寄せる。
「やっぱり無傷みたいだね。体も硬いらしい」
妖傀には一切傷がついておらず、無傷で立っていた。
『おえの、おえのしおん』
妖傀の近くには、力なく倒れている翔月の姿があった。 顔が青く、うつ伏せで倒れている。
弥幸は彼を見たあと、深紅の瞳を上へと向けた。
「準備、出来たらしいね」
何をしても、全て返されてしまっているこの状況にも関わらず、彼は薄く笑みを浮かべた。
セーラー服のスカートをめくれないように気をつけながら抑えている逢花。そんな彼女の両肩を掴み、後ろに一つで結んでいる髪を翻しながら、眉を上げ決意を固めた星桜。
そんな二人が彼の上から降りてきた。
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