夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
いつもの崖の下。
二人はもう慣れたらしく、降りる際にも叫ばなくなった。
「翔月は二回目なのによく叫ばなかったね」
「安全が保証されてるっぽいからな」
星桜と翔月は、弥幸の後ろに隠れるように立ち、彼は事前に出していた刀を腰に差し、柄頭に手を添え周りを見回っている。
逢花も弥幸と同じ服に着替え、腰に着けている狐面に手を添えていた。
今はもう夜中の一時だ。普通なら寝ている時間。
さすがに星桜と翔月は少ししか寝ていなかったため、眠たそうに欠伸をしている。
逢花と弥幸は慣れているようで、警戒しながら周りを見回し続けていた。
「一回目で倒さないといけないんだよな? そんなに危険なのか?」
「危険というか、めんどくさい。強ければ強いほど戦闘は長引くし、僕も考えないといけない。寝る時間が無くなるのが何よりも嫌なんだよ」
「授業中いつも寝てるだろ」
「君には分からない労働をしているんだ。仕方がないと思うけどね。毎日のように真夜中激しい戦闘を行ってみなよ。寝る時間はもう授業中しかないの分かるから」
「……遠慮させてもらうわ」
「なら余計なこと言わないで」
弥幸と翔月はお互い睨み合いながら淡々と言葉を交わしている。
星桜は「喧嘩はダメだよ」と止め、逢花は楽しげに笑っていた。
「ところで弥幸お兄ちゃん。めんどくさいということは、今回の相手は
「そうだよ。だから、一回目でどうにかするのは難しいけど、それでも今回で終わらせたい」
「女性型は戦い方が厄介だし、弥幸お兄ちゃんは苦手だもんね」
そんな二人の会話を聞いていた星桜は、首をかしげ質問する。
「女性型って何?」
「妖傀には男性型と女性型の二種類が存在する。男性型は以前会ったみたいな四本腕の巨体。そして女性型は──」
弥幸が説明をしていた時、どこからか鎖が飛んできてしまい、星桜を絡み取ろうとする。
「星桜!!!」
翔月が名前を呼び手を伸ばすが、届くはずがなく、遠慮なく鎖が彼女を捕まえようと囲う。
星桜はすぐに反応出来ず目をつぶり衝撃に備えたが、弥幸がいち早く動き出し彼女の腕を引っ張り自身へと引き寄せた。そのため、鎖は空を斬り地面へと落ちる。
「アイ」
「わかったわ」
弥幸は星桜を守るように引き寄せたあと、逢花を呼び狐面を顔に着けた。
「赤鬼君、ありがとう」
「問題ない。早くアイの所に行け」
自身の引き寄せた星桜の背中を押し、逢花の所へ行かせた。
「後はナナシに任せるわよ。私達がやることは一つだけ、邪魔をしないこと」
逢花はそう口にすると、髪の毛を一本抜き取り長方形の紙を作り出した。それを前に少しだけ飛ばす。
「『護れ』」
そう言うと、三人を囲うように透明な膜が張られた。
「これって──」
「結界よ。私のは少し弱いけれど、おそらく問題ないわ」
「なんか、口調とか変わりすぎだろ」
翔月は逢花の豹変ぶりに困惑している。
「気にしなくていいわ。私が好きで変えているだけだもの。それより、前を見た方がいいわよ。あれが女性型の妖傀だから」
そう言われ、星桜と翔月は前に目を向けた。
そこには細長い女性が笑みを浮かべ、鎖を両手に持ちながら立っている。
全体的に黒く染まっており、男性型とは違い腕は二本だけで普通だった。
「鎖?」
「女性型は男性型と違い、武器を使用してくるのよ。その武器のほとんどは鎖。これはナナシの考えだけれど、縛られている想いを解き放つ。そのような意味が込められているのかもしれない」
そのような説明をしながら、逢花は弥幸の方に目を向けていた。
弥幸はいつものように刀を引き抜き、腰あたりで両手で塚を握る。
刃を正面に向け、右足を前へと出す。
その様子を妖傀は笑みを浮かべながらみており、余裕を崩さない。
両手で持っている鎖を、右手で振り回し、タイミングを見て彼へと勢いよく放った。
弥幸は放たれた鎖をギリギリで横へと躱し、膝を折り、光の速さで妖傀へと突っ込む。
正面に立ち、妖傀の左の肩口から右脇腹へと、斜めに斬りつけようとした。だが、女性型はパワーが無い分、スピードがある。
弥幸が袈裟斬りしようと振り上げ、刀を振るおうとした時、細い体を横にし、スレスレで躱される。
『わだじ、わだじは、にんぎものに』
避けた妖傀は、顔を横に向け、ソプラノくらい高い声で言葉を呟きながら口角を上げる。
それを弥幸は気にせず一度後ろへと下がり、炎の狐、炎狐を出した。
────コーーーーン
炎狐は出されたのと同時に妖傀へと走り寄り、炎の渦を作り出す。それで妖傀を囲い込み焼こうとするが、鎖を無理やり前方に投げ炎狐を捕らえてしまった。
「ちっ、戻れ炎狐」
弥幸は炎狐を御札に戻し回避させる。
「やはり、女性型は厄介だ」
そう言うと、近付くのは諦め中距離攻撃に切替える。
人差し指と親指で円を作り、口元に当て炎を吹く。それを妖傀は上に跳び避けたが、それを読んでいた弥幸は、空中で身動きが取れないと考えた。
刀を右手に持ち替え、左側に寄せ妖傀へと切り込む。
妖傀は鎖を投げたが、それを弥幸は体を捻り躱す。
渦のように炎を纏わせ、横向きに目の前まで近づくと、左側から右へと刀を振り、妖傀の左腕を肩から切り飛ばした。
切り取られた腕は、炎により焼かれ灰となる。
そのまま地面へと落ちる際、もう一本の腕を切ろうとした弥幸だったが、妖傀は残っている腕を死守するように動き出す。
肩口から切られたはずの左側から、六本の鎖が勢いよく放たれた、弥幸の側面から狙う。
彼もこれには予想外だったらしく驚いていたが、体が自然と反応し、空中で体を小さくし捻る。それでも避けきれなかった鎖は、刀で弾き回避。
そのまま地面へと両足で着地した。
それと同時に妖傀も地面に着地し、それと同時に切り取った左腕を再生されてしまう。
「やはり、女性型を相手にするのは好きではないね。少しばかり本気を出そうか」
弥幸がそう呟くと、右手に刀。もう片方の手には何も持っていなかったはずなのだが、いきなり炎が現れ、その中から赤く光る拳銃が現れた。
「武器には武器を。こちらも飛び道具を使わせてもらう」
弥幸は左手に握られた拳銃を顔近くまで上げ、前へと伸ばす。
銃口を妖傀へと向けたのと同時に、容赦なく引き金を引いた。
破裂音と共に銃口からは、
妖傀は顔だけを少しだけ右に傾け避ける。だが、少し頬を掠ってしまったらしく、そこから炎が燃え上がり、妖傀を燃やし尽くそうと広がった。
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