夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜   作:桜桃 

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「お前の事が」

 次の授業は音楽。

 音楽室は自由席なため、星桜と翔月は余り目立たない窓側の一番後ろに座ろうとしたのだが──

 

「あれ」

 

 いつの間にか弥幸が音楽室におり、特等席である窓側の一番後ろの席で突っ伏していた。

 

 星桜は気になり足音を立てないように気を付けながら近づき、耳を傾けた。

 

「すぅ……すぅ……」

「…………寝ているようです」

「それを俺に報告してどうすんだよ」

 

 寝息が聞こえ、星桜は真面目な顔で翔月に報告する。

 

「──ん? なんだろう。この匂い」

 

 鼻に触れる甘い香り。それに気づき、彼女は弥幸に鼻を近づかせ、クンクンと嗅ぐ。その行為は傍から見ると変態行為なため、翔月は空を仰ぎ、右手で顔を抑えた。

 

「なんか、甘い花の匂いが──」

 

 そう零すと、続々とクラスメートが音楽室に入ってきたため、二人は窓側の後ろから二番目の椅子に並んで、座った。その時、翔月は横目で星桜を見る。

 

「お前は、俺より……」

 

 彼の不安げな声は、誰にも届かなかった。

 

 ☆

 

 教室の後ろ。ドア付近には、凛が教科書を抱きしめながら恨めしそうな表情を浮かべ立っている。

 俯き、手には力が入っているのか、握っている教科書に皺が寄っていた。

 

「────っ。星桜さえ──」

 

 凛の言葉は誰にも届かず、消えた。

 

 ☆

 

 放課後。

 星桜はまだ弥幸の観察を諦めていないようで、鞄に教科書を詰めながらも横目で見ていた。

 

 弥幸も同じく帰り準備をしており、顔を俯かせている。

 フードと、口には黒いマスクが付けられているため、完璧に表情が隠れてしまっていた。

 

 淡々と帰る準備を進めていた彼は、鞄のチャックを閉じ、右肩にかけ教室を出て行こうとする。

 

「必ず、声を聞くんだから」

 

 星桜は気合いを入れ直し、鞄を右手で持ち慌てて廊下に出た。

 

「────えっ?!」

 

 廊下に出た瞬間、星桜は驚きの声を上げ周りを忙しなく見回し始める。

 

「うそっ、どこ?!」

 

 先程廊下に出たはずの弥幸の姿が何処にも無く、忽然として姿を消した。だが、まだ諦めきれないらしく星桜は前、後ろと確認し、念の為近くの階段も見たが、影すら見つけることが出来なかった。

 

「や、やられたぁ!!」

 

 階段の上で叫びながらしゃがみこみ、肩を落とす。そんな星桜に、後ろから凛が足音を立てずにゆっくりと近付き、両手を前方に伸ばしていた。目を血走らせ、深く眉間に皺を寄せている。下唇を噛み、なにかに耐えるような表情を浮かべている。

 

 その手は星桜に向けられており、まるで突き落とそうとしているような行動だった。

 

「──ん? あ、凛!!」

「っ!! あ、えっと。こんな所でなんでしゃがんでるのさ星桜」

 

 いきなり振り返った星桜に驚き、言葉を詰めた凛だったが、すぐに作ったような笑みを浮かべ、伸ばした手を星桜の両肩に置いた。

 

「赤鬼君の謎を解こうと、今日は少し付いていこうと思ったんだけどさ。逃げられた……」

 

 ガクッと肩を落とし、星桜は床に落ちてしまった鞄を拾い上げながら立ち上がり、肩へとかけた。

 

「あははっ。ドンマイだね星桜。さぁ、帰ろう?」

「うん」

 

 その後二人は、くだらない会話をしながら学校を出て、帰宅した。

 

 ☆

 

 昇降口の近く。

 木に隠れるように、一人の男子生徒が立っていた。

 その生徒はフードを深々とかぶり、黒いマスクを付けている、赤鬼弥幸だ。

 

 弥幸は、フードから覗いている銀髪を風で靡かせながら、そこから覗く真紅の瞳を自身の教室に向け、言葉を漏らす。

 

「今回の()()は一気に二体かもしれない。このまま付き纏ってくれた方が情報が取れていいかもしれないな」

 

 そう呟いた弥幸は、そのまま何事も無かったかのように校門の方に歩き出した。




ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回も読んでいただけると嬉しいです!

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