夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
星桜達の前には、炎の竜巻が燃え上がりパチパチと音を鳴らしている。
緑が広がっている中で炎は揺らめき、黒煙を撒き散らす。だが、どの樹木にも火が燃え移ることは無かった。
「な、にあれ……」
「炎の、竜巻?」
星桜と翔月は唖然と見ているしかできない。その横で、逢花は簡単に説明を口にする。
「あれはお兄ちゃんが使役している式神、
彼女が説明を終わらせ、腕を組み弥幸を見る。
彼は竜巻から離れ、手には何も持たずに眺め続けていた。すると、まだ諦めていない妖傀は、喚き声を上げながら鎖を一本弥幸に向けて放つ。
炎から飛び出し、鎖は勢いよく彼へと向かう。だが、なぜか弥幸は避けようとはしない。
目だけ鎖に向け、何も持っていない右手を胸辺りまで上げ前へと出す。
「危ない!!」
星桜が咄嗟に叫ぶが、放たれた鎖はなぜか弥幸の手の平へと吸い込まれていく。
まるで、彼の手の平に小さなブラックホールでもあるかのように見える。
「な、んだよアレ。吸い取ってる?」
翔月は思わず口を開き、右手を口元に持っていき言葉を零した。
「見ていればわかるわ」
逢花の表情は一定で変化が無い。しかし、その声は少し弾んでおり自慢げに聞こえた。
全ての鎖を吸い込んだ弥幸は、手を1度握り自身の胸へと引き寄せた。
握られている手の平からは、赤く輝いている光が覗き見える。
「お返しだ」
狐面の中にある真紅の瞳が、炎の中に居る妖傀を見据える。そして、何かを投げるように鎖を吸い取った右手を広げ前へと突き出す。すると、そこから炎の鎖が現れ竜巻へと向かっていった。
竜巻の周りを鎖が囲うと、一瞬にして炎は消えた。それと同時に、周りを囲っていた鎖は勢いよく妖傀に巻き付き、動きを封じる。
鎖が巻き付かれたことにより身動きが取れなくなった妖傀に、弥幸は一切の迷いなく走り出した。その際に後ろを振り向き、ポケットに手を入れる。
ポケットからは、金属がぶつかっているような音が聞こえていた。
「っ、星桜さん準備を!!」
「へっ? は、はい!!」
弥幸の意図を瞬時に汲み取った逢花は、直ぐに星桜へ呼びかけた。
彼女はすぐに察し、一歩前に右足を踏み出す。
彼は釘を四本取り出しており、星桜に向けて放つ。
逢花が直ぐに結界を解除したため、釘はそのまま真っ直ぐ彼女の左胸に刺さった。
成功したことを確認すると、彼は何も口にせず星桜と繋がるのを今か今かと待っている。
釘が刺さってから数秒後、光の糸はしっかりと二人を繋いだ。
弥幸は繋がった光の糸を見たあと、星桜に顔向け小さく頷く。彼女もそれに応えるように、力強く頷いた。
そのまま、弥幸は散歩するような足取りで妖傀の正面まで向かった。
「あんたの想いは【嫉妬心】。好きな人が自分を見てくれず、他の人と長く一緒にいる。その思いが憎しみへと変わってしまった。そんなあんたの想いを覗かせてもらうぞ」
弥幸がそう言うと右手を前に伸ばし、妖傀の正面で立ち止まり左胸辺りに手を入れた。
☆
弥幸は、前回同様暗闇の空間に立っていた。壁や地面、天井などは存在しない。
慣れたように彼は周りを見回し、目当ての人物を探し出す。
すると、前方に淡く光る人影を見つけることが出来た。その人影に近づく為、警戒されないようにゆっくりとあゆみ始める。
人影は膝を抱え、顔を埋めながら静かに泣いていた。
『なんで私じゃないの。なんであいつばかり。私をみんな、見てくれない。あの人も──』
そう呟きながら泣いているのは、星桜の友人である武永凛だった。
凛の隣に片膝をつき、弥幸は彼女の肩に手を置く。
「みんな君を見ていたと思うよ。だが、それに君は気付かなかった。君がもう少し周りに目を向けていれば、また違ったかもしれない」
優しく、弥幸は諭すようにそう話し出す。その声に、凛は何も反応を見せない。
聞こえていない訳では無い。彼か話し出した時、図星をつかれたように凛は肩を震わせていた。
「自分ばかりという前に、まずは周りを見ることをするべきだった。そして、自ら動けばよかった。君は、自ら動いたの?」
彼の問いかけに、凛はゆっくりと顔を横に振った。
「なら、今から君がやることは分かるかな」
その問いに、凛は答えなかった。いや、答えられなかった。
『私は、分からない。あんな酷いことをしておいて、何をすればいいのか。どう謝ればいいのか、分からない』
「そうか。それなら本人に聞いてみるといいよ」
弥幸が言うと、凛はゆっくりと顔を上げた。肌は黒く、表情が分かりにくい。だが、涙がとめどなく流れており、何も無いはずの床へと落ちる。
彼の言葉を理解した凛は、分かりにくい表情を変え、ムッと怒り出す。
『聞くって、ふざけたこと言わないでよ。どうせ、聞く耳を持ってくれない。もう、私の事なんて嫌いに決まってる』
「そうかもしれないね。少なからず、僕なら嫌いになるよ」
『っ。ならそんな事言わないで』
凛は涙を流し続け、弥幸に掴まれていた肩を大きく振り離させる。その後すぐ、両手を伸ばし肩を強く掴み叫び散らした。
『私にはどうせできない、あの子だから上手くできるの。私は努力したところで意味なんてない。だから──』
「だから、自分から追いつくのではなく、人を自分の方に堕とそうとした。それは本当に哀れな行動だね」
『うるさい!!! あんたには何も分からないのよ!!』
凛は右手を振りあげ、弥幸を思いっきり叩こうとした。だが、それを彼は簡単に右手で受け止め、悲しげな口調で言葉を続けた。
「できないからこそ、人間は支え合うんだと思ってた。でも、それは妬みに変わってしまう時もあるんだね。その感情を、僕は知ってるよ」
弥幸の言葉に、凛は思わず手の力を抜き彼を見つめる。
「別に、天才とか人気者だからとか。そんなんで君がここまで気にする必要は無いと思う。それぞれ得意不得意があるんだ。君にも、必ず勝っている部分は存在している。それを君自身で無くしているんだよ」
説得するように声に力を込め、弥幸は凛の目を真っ直ぐに見る。
「人間は天才だからと言ってなんでも出来るわけじゃない。必ず出来ないところも、苦手なところもある。君は勝ちたいんだよね。負けたくない、人気者になりたい。好きな人に見てもらいたい。そんな想いがあるのなら尚のこと、弱点を見つけ出し、その人より自分の方が出来ると周りに伝えればいい。どうせもう恨まれるようなことはしているんだから、これぐらい朝飯前でしょ?」
『なっ、なにそれ。結局人を陥れてるのと一緒じゃん』
「そうだね。でも、やり方が違う」
『そりゃ、違うけど……』
「このやり方と君のやり方。大きな違いがあるとすれば、それは君が努力するかしないかだよ。これは、大きな違いだと思う」
弥幸の言葉に、凛は目を大きく開く。涙はいつの間にか止まっていた。
「君の気持ちは僕にはどうすることも出来ない。あとは本人と話し合って、今後の付き合い方は決めて。僕が出来るのは、ここまでだよ」
そう口にすると、彼は凛の右手を離しその場から立ち上がる。そして、まだ座っている凛を見下ろした。
「これから君がやることは、もう分かっているか?」
『────うん』
「それなら良かった。なら、これから会うか分からないけど、頑張って」
弥幸が口にすると周りの光景が急に崩れ去り、白い空間へと切り替わる。そして、凛は眩しさのあまり思わず目を閉じ、そのまま光の中へと姿を消した。
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