夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜   作:桜桃 

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「お前なら」

 弥幸が妖傀の左胸に手を入れてから数分が経過した。その間、星桜は精神力を送りすぎず、かと言って足りなくならないように気を付けながら祈るようにコントロールしている。

 その額には汗が滲み出ていた。まだ慣れていないため心身共に疲労が襲っている。

 

 翔月は心配そうに二人を見て、逢花も弥幸の方に目を向けていた。すると、弥幸が少しだけ動き出す。

 

 妖傀の左胸に入れていた手をゆっくりと抜き取った。その手には、輝く何かが握られている。

 

 星桜は、繋がっている光の微かな揺らぎに気づき目を開ける。そして、彼の姿を見て笑みを浮かべた。

 

「やった!」

 

 思わず喜びの声を上げその場で飛び跳ねる。弥幸は淡々と前回同様に、空の小瓶の中へと入れた。すると、輝く何かは黒い液体に切り替わる。

 

 その光景を見て、翔月は「なんだよアレ」と呟いていた。

 

「あれは人の負の感情の核よ。あれを回収できたのならもう安心」

 

 逢花の言葉に星桜と翔月は顔を見合せ、眉を下げ笑みを零した。

 弥幸は小瓶をポケットに入れて、三人に近づく。

 

「お疲れ様、赤鬼君」

「疲れてなどいない──嘘。めっちゃ疲れた」

 

 弥幸は近づきながら狐面を取り、頭をガシガシと掻く。

 

「でも、今回は倒れなかったね。弥幸お兄ちゃん」

 

 逢花も狐面を取り、笑顔で弥幸に言った。

 

「そうだね。まぁ、今回は僕だけじゃないし。君も、上手くできてたんじゃない?」

「本当に?! やった!!!」

 

 その場に何度もジャンプして星桜は喜んでいる。その光景を翔月は、優しい笑みを浮かべながら見ていた。

 

「なら、今日はもう帰ろうか。もう星桜さんに危険は無いはずだよ。二人の恨みは、弥幸お兄ちゃんがしっかりと取り除いたから」

 

 逢花が二人へと簡単に伝えた。そのことに対し、星桜は少し疑問があるらしく首を傾げ弥幸に質問する。

 

「そう言えば、今回は誰に憎まれてたの?」

「それを普通に聞くのすごいよね、星桜さん」

 

 逢花の呟きに、翔月も同意するように頷く。そんな二人の様子など気にせず、弥幸は端的に答えた。

 

「武永」

「え、武永って。もしかして凛?!」

「その人以外に武永って苗字の人居たの? 田中や山田とかじゃないんだから、そんなに数多く存在しないと思うけど」

「いや、そういうことで言った訳では……」

 

 星桜はそのまま顔を俯かせてしまった。

 確かに、凛は星桜を崖から突き落としている。恨まれているのは確実だ。だが、あそこまで恨んでいるのなら、なぜ最初に襲ってきたのは凛ではなく翔月だったのだろうか。

 最初に行動を始めたのは凛だったというのに。

 

「君の考えは手に取るようにわかるね」

「え、そんなに顔に出てたかな」

「丸わかり。まぁ、妖傀についてはまだ話していないことが沢山あるから。それはまた後日話すよ。今日はもう帰った方がいい。僕も眠い」

 

 そう言うと、弥幸はなんの躊躇いもなく翔月を米俵のように脇に抱えた。

 

「──えっ」

「僕は眠いの。さっさと寝る」

 

 そう言いながら、彼は何も知らせずひとっ飛びして崖の上に跳んだ。その際、心の準備をしていなかった翔月は、森の中に響き渡る程の叫び声を上げていた。

 

 逢花も星桜を上へと運び、そのまま家へと四人は帰宅して行った。

 

 ☆

 

 次の日、星桜と翔月は一緒に学校へと向かっていた。

 

「散々な目にあったな……」

「う、うん。昨日とかその前とかも。自分がよく生きてたなって思っちゃうもん」

「まぁ、あいつのおかげと言えばおかげなんだよなぁ」

「赤鬼君でしょ。なにか隠してるのかなとは思ってたけど、まさかこんな大事なことを隠していたなんて思わなかったよ」

「よく隠してこれたよなぁ」

「ほら、赤鬼君って学校では一切話さないでしょ? それに人とも関わろうともしないし。だからじゃないかな」

「なるほどな。だから、あいつは周りの人を避けてんのか。自分の正体を隠すために」

「それだけじゃないと思うけど……」

 

 顔をひきつらせ、呆れたように星桜は言う。

 二人がそのまま歩き続けていると、後ろから星桜を呼ぶ女性の声が聞こえ立ち止まった。

 

「あっ──」

 

 星桜の名前を呼んだのは凛だった。

 追いつくため走っていたらしく、息を切らし肩を上下に動かしている。

 

「し、星桜……」

「凛……」

 

 星桜は気まずそうに顔を逸らしてしまう。だが、凛はそれに対して何も言わず、いきなり勢いよく頭を下げた。

 

「星桜、本当にごめんなさい!!!!」

「んえっ!? どどどどうしたの凛?!」

 

 凛のいきなりの行動に、星桜は困惑してしまい戸惑っている。

 

「私、ずっと星桜が羨ましかったの」

「え、私が?」

「うん。周りから好かれてて、なんでも出来て。私はそんな星桜が羨ましくて、悔しかった。友達だったから仲良くしていたけど、内心はずっと憎んでしまっていたの」

 

 凛は頭を上げ、星桜に言った。悲しみや苦しみなど、そのような『苦しい』感情を感じさせる声に、星桜は思わず俯いてしまう。

 

「私、そんな凛の気持ちに気付かないで──」

「いいの。星桜は悪くない。私はなんの努力もしないで、人を陥れることしか考えてなくて。貴方に私と同じところに来て欲しくて……。でも、昨日夢の中で誰かが言ったの。陥れるのなら、まずは自分が努力しなさいって。相手の弱点などを見つけて、そこを超えればいいって」

 

 その言葉に、翔月と星桜はハッとなり顔を見合せる。

 なんのことかわかったらしく、呆れ顔を浮かべた。

 

「らしいな」

「らしいね」

 

 二人の言葉に凛は首を傾げるが、直ぐに切り替え手を差し出す。

 

「星桜、今度から私はあんなずるいことはしない。あんたと真正面からぶつかって、必ず何かで勝ってやる」

 

 凛の力強い声と真っ直ぐな目を向けられ、星桜も釣られるように見返して笑みを浮かべる。そして、差し出された手を握った。

 

「私も、絶対に負けないから!!!」

 

 二人は固く手を繋ぎ、その後は思いっきり笑いあった。

 

 それを翔月は、優しい目を向けながら隣でそのやり取りを見続けていた。すると、気配や足音なく弥幸が翔月の隣に立ち声をかける。

 

「はよっ」

「うぉい?!?!! お、はよ」

 

 いきなり現れた弥幸に驚きつつも、しっかりと挨拶を返す翔月。

 

「どうにかなったらしいね」

「まぁ、そうだな。これがお前の仕事なのか?」

「まぁね。親のを引き継いだに過ぎないよ。僕自身、辞められるならすぐにでも辞めたいくらいだし」

 

 弥幸が言うと、そのまま学校へと向かってしまう。その姿を翔月はなんとも言えない表情で見続けていた。

 

「お前なら、辞められる状況でもやめないと思うけどな」

 

 そう呟いたあと、楽しく話している星桜と凛へと駆け寄る。 

 時間を確認し、翔月達三人は学校へと向かった。




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

出来れば評価などよろしくお願いいたします(*´∇`*)
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