夜を灯し駆け回る狐面の男〜内に秘める妖傀を想いの炎で焼き尽くす〜 作:桜桃
電車が目的地に着いたため、弥幸と星桜は日差しが降り注ぐ外へと足を踏み出した。
外の気温三十度越え。夏なので仕方がないのだが、ものすごく暑い。
汗が流れ、服が肌へと張り付く。ジメジメとした暑さが二人を襲っていた。
駅には屋根が着いているため、直射日光が当たる訳では無いのだが風も全くない。
星桜は手で風を送りながら「暑いねぇ」と弥幸に話しかける。
「夏なんだから暑いのは仕方がないでしょ」
「そうなんだけどさぁ。早く駅の中に入っちゃおうか」
星桜と弥幸はそのまま駅内に入り、改札口を出て外へ向かう。
「駅の中涼しいなぁ。ずっとここに居たい」
「確かにクーラーもしっかり付いているし、食べ物もある。硬いけど椅子もあるから寝るところには困らない。案外いい所かもね」
「冗談だからね。それに、食べ物って売店でしょ? 盗みはダメだよ」
そんな会話をしながら外に出ると、真夏の日差しが二人を照らし出す。
屋根がないため、日差しを遮ってくれるものが何も無い。
星桜は手で影を作り上を少し見上げると、雲一つない青空に鳥が沢山飛んでいるのが見えた。
「それにしても、ここは何もないね。水光の港ってどこなの赤鬼君………………赤鬼君?」
またしても返答がない。
不思議に思った星桜は後ろを振り向いたのだがそこには弥幸の姿がなく、不思議に思い首を傾げる。すると、ちょうど駅の中から人が出てくるところを見て、まだ駅の中にいる弥幸の姿を確認することが出来た。
「ちょっと赤鬼君。行かないの?」
弥幸はなぜかスマホを操作しており、その場から動こうとしない。
星桜は再度弥幸に声をかけるが先程と全く同じで返答なし。
仕方なく、星桜は駅の中に入り弥幸のスマホを覗き見る。そこにはメールの本文が書かれており、文字が沢山打たれていた。
「誰に送るメールなの?」
「僕」
「…………ん?」
「これは僕に送られてきたメール」
「あ、なるほど」
星桜は納得したらしく、再度スマホに目を向けた。全てを読むのは疲れそうなほどびっしりと何語か分からない文字が書かれており、星桜は眉間に皺を寄せその場から静かに離れた。
周りを見回し、近くにあったベンチに座り彼が動き出すのを待つことにした。
それから数分後、弥幸はスマホを閉じて周りを見回す。
「なにか探してるのぉー?」
星桜の質問に弥幸が小さく頷く。すると、探し物を見つけたらしく、星桜に手招きして歩き出した。
その後ろを付いていくと、前方に少し派手な着物を袖の途中まで通した、高身長の男性二人が立っている。そして、こちらに気付いたのか、手元に持っていた紙を確認したあと一人の男性が優しい笑みを浮かべ、こちらに手を振ってきた。
「もしかしてだけど、待ち合わせしてたの?」
「じゃなかったら目的地なんて分からないでしょ。地図を見るのもめんどくさいし。地元民に案内してもらうのが一番効率的だよ」
「まぁ、そっか」
そう言いながら星桜と弥幸は男性に近づく。
「初めまして。お手紙のお返事をありがとうございます。私がお手紙を出させていただきました
自己紹介してくれた魅涼は、優しい笑みを浮かべ見た目だけだと優男のような出で立ちだった。隣に立つ弟、碧輝は普段から怒っているような表情なのか。今も眉間に皺を寄せ鋭い目付きで弥幸を観察するように見ている。だが、彼はそんな目線など一切気にせず、じぃっと魅涼を見ていた。
星桜は自分に目線を向けられている訳では無いのだが、見た目が不良のような感じなので身体を震わせ弥幸の後ろに隠れてしまう。
「おや、後ろの女性は少し怖がってしまっていますかね。申し訳ありません。碧輝は普段からこのような表情なので、別に怒っていませんよ? 安心してください」
「は、はぁ……。すいません」
高身長なため、身長が155の星桜に合わせるように腰を曲げ顔を近付かせている。そのことに困惑しながらも、星桜は曖昧に返答した。そのあと、また腰を真っ直ぐにして魅涼は振り向き歩き出す。
「立ち話も疲れるでしょう。私の屋敷へどうぞ。近くに馬車を止まらせてあります」
「ば、馬車? あの、車とかバスとかは……」
「おや、そちらの方が良かったですか? 馬車の方が楽しみながら移動できるかと思ったのですが……。でしたら今すぐにでも馬車を返し、車の手配を──」
「いえいえいえ!! ば、馬車に乗りたいです!! ぜひ乗らせてください!」
「そうですか? なんだか変に気を使わせてしまいすいません。では、こちらです」
魅涼が再度案内を始めようと歩き出す。その際、なぜか口には笑みを浮かべ、何かを考えるような含みのある瞳を横目で星桜に向けた。
弥幸は魅涼の後ろを付いていくがその目は鋭く、睨んでいるようにも見える。
星桜も怪しんでいるのか、弥幸から離れずくっつきながら歩いていた。
☆
馬車は広く、座り心地も良かった。だが、初めてあった人と密室というのもあり、あまり会話が弾まない。
星桜にとって唯一の知り合いの弥幸は目を閉じ何も話さなかったため、星桜も何も発することが出来ず気まずいまま馬車は目的地へと進む。
「早く帰りたい……」
窓の外を眺めながら、青い顔で彼女は静かに呟いていた。
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